★イラク:失業、政権の腐敗、公共サービスの欠乏に怒りのデモ
110人が死亡、6千人が負傷
10月1日から首都バグダッドをはじめ各地で反政府デモが始まり、治安部隊による発砲などで110人が死亡(治安部隊の2人を含む)、6千人以上が負傷している。これは03年以来最大のデモである。
10月1日にバグダッドで数千人の若者が同市中心部のタハリール広場に向けてデモを行った。若者たち(大半が男性)は政権の腐敗への怒りや、失業、水道・電気などのサービスの欠乏への不満などさまざまな動機で立ち上がった。その多くは21世紀に生まれ、宗教的な歌をラップ調で歌う世代だ。
イラクでは政治家の腐敗は泥沼であり、石油収入や海外からの支援にもかかわらず水道・電気などの基本的なサービスの復興が進んでおらず、若者の失業率も25%に達している(世界銀行の統計)。そのため多くの通行人は若者たちの要求を支持している。
アブドゥル・マフディー首相は当初、デモを強権的に抑止するために治安部隊を動員した。治安部隊の発砲により多数の犠牲が出て、怒りが高まる中、腐敗した政党の本部や政府機関への破壊行動も拡大した。
同首相はSNSの規制や外出禁止令によってデモの鎮静をはかる一方で、若者たちの要求を受け入れると約束し、発砲の責任者の処罰と犠牲者への追悼と補償、若者の就労支援措置の導入、貧困層への住宅補助金など13項目の改革案を発表した。
しかし、イスラム教シーア派の急進派リーダーであるムクタダー・アッ・サドルをはじめデモを支持する野党リーダーたちは首相の辞任と国会解散・総選挙を要求している。
反政府デモの拡大を憂慮する米国政府も、マフディー首相に対して慎重な対応を要求している。サーリフ大統領も治安部隊による暴力的弾圧を非難した。
アムネスティー・インターナショナルなどの人権団体やITUC(国際労働組合総連合)はデモへの弾圧に抗議し、民主主義的権利や労働者の権利を擁護する声明を発表している。
今回のデモは、従来のサドル支持者や共産党によって動員された反政府デモと異なり、リーダーのいない新しい世代の運動であり、03年以降の政治体制から利益を得ていた既成政党に対する強い反発を表現している。
(「アルジャジーラ」電子版10月11日付、「Zネット」同7日付より)
★エクアドル:ガソリン補助金廃止に抗議の無期限スト
10月9日、首都キトで先住民族を中心とする燃料補助金廃止に反対するデモが行われ、国会付近で警官隊と激しく衝突した。
コレア大統領の後任として17年5月に就任したモレノ大統領は、コレア政権の初期の進歩的政策を次々と転換し、昨年末にはIMF(国際通貨基金)との間で42億ドルの融資をめぐる交渉の中で緊縮財政政策に合意した。
この合意に基づいて10月初めに、石油・ディーゼルへの補助金を廃止した。この措置によって石油価格は3分の1の値上がりとなり、ディーゼル価格は2倍以上になる。
先住民団体と労働組合は同日から、モレノ政権が補助金廃止の決定を撤回するまで無期限ストに入ることを宣言した。
先住民団体の数千人が国会の周囲の草地にキャンプを設営した。
労働組合の共闘組織「労働者統一戦線」のメシアス・タタムエスさんは「政府がやってきたことは大銀行や資本家に利益を与え、貧しい人々を処罰することだ」と非難した。
エクアドルでは先住民族の抗議運動によって1997年、2000年および2OO5年にそれぞれ当時の政権が崩壊している。
モレノ大統領は同7日に首都から逃げ出し、国会をバリケードで封鎖し、港湾都市グアヤキルに政府を移転した。
若者たちは国会前で警官隊の催涙弾に対抗して、タイヤを燃やし、バリケードを壊そうと試みたが成功しなかった。
先住民団体CONAIEのリーダーのハイメ・バルガスさんは「政府が補助金廃止を撤回しない限り対話の余地はない。撤回しても、対話できるかどうかは人々が決める。われわれは怒っている。多くの人が負傷し、拘留されており、死者も出ている」と言う。
全国で2人が死亡、数十人が負傷し、570人が逮捕されている(政府の発表)。
デモのリーダーで元国会議員のロウルデス・ティバンさんは「暴力的衝突は先住民族の活動家が犯罪者であると見せかける目的でデモに潜入していた者が引き起こしたものです。実際にはデモ参加者の大部分は、燃料代の値上がりが食料価格や交通料金に影響を及ぼすからデモに参加したのです。最も大きな影響を受けるのが先住民族です」と語っている。
彼女はまた、「コレア前大統領はこのデモを称賛する道義的資格はありません。なぜなら彼は私たちの社会的な抗議運動を犯罪扱いしてきたからです」と付け加えた。
モレノは17年にコレアの中道左派政党の候補者として立候補し当選したが、その後、右寄りに転換した。彼は企業経営者や軍の支持を得ているが、支持率は17年に70%だったが今では30%に下がっている。
(英国「ガーディアン」10月9日付より)
★米国:移民局が食品加工工場を強制捜査、移住労働者など680人を拘束
8月7日早朝、米国移民税関捜査局(ICE)はミシシッピ州の7つの食品加工工場を強制捜査し、約680人を拘束した。拘束された人のほとんどは中米などからのヒスパニック系移民である。
以下は「レイバーノーツ」誌ウェブ版に掲載されたレポート(10月7日付)の抜粋である。
8月7日、ミシシッピ州中部の鶏肉加工の町で、労働現場に対する06年以来最大の強制捜査が行われた。
7つの工場の約680人の鶏肉加工労働者がICEによって拘束され、拘留された。
同州モートンでは人口の10%が拘留または解雇された。子どもの初登校を見送った同じ日に拘留された親たちもいる。
この強制捜査は同州の家禽工場だけでなく全国の移民たちの間に恐怖を植え付けた。
その波及効果について「ジョブ・ウィズ・ジャスティス」(JwJ)のナタリー・バトリック・ノックスさんは「労働者たちは賃金のピンハネや危険な作業、その他の虐待について通報するのが怖いと感じています」と述べている。
移住者の支援者たちによると、ICEがこれらの工場を標的にしたのは労働者が労働条件改善のために組合を組織しようとしていたからである。多くの労働者はすでに食品・商業労働者(UFCW)に加盟していた。
知らせを受けた労働者や移住者の権利グループが支援に駆け付けた。食品チェーン労働者連合(34万人)は数千ドルのカンパを集めてUFCWに送った。JwJの全国連合はUFCWや2つの地域グループ「南東部移住者の権利ネットワーク」および「ミシシッピ・レジスト」の要請を受けて、バイリンガルの活動家を派遣した。
マサチューセッツ州西部の「パイオニアバレi・ワーカー・センター」から派遣されたボランティアのセシリア・プラドさん(JwJで電話相談を担当している)は「私たち(ボランティア)のほとんどはラテン系なので、移民制度に関わるストレスをよく知っています。だから私たちはコミュニティの中に入って、信頼を得ることができました」と語っている。
彼女たちは早朝から深夜まで、教会や地域でチラシを配り、人々に情報を伝えた。教会の中では無料法律相談所が設けられ、人道援助の分配も行われた。
「ミシシッピ・レジスト」のチームは3週間の間に468人の家族と面談し、拘束された人々の消息を突き止めた。移民手続き中の人や過去に刑事告発を受けたことがない人たちの多くはすでに釈放されているが、依然として9つの刑務所に200人が拘留されている。
捜査を受けた工場のーつであるコーク・フーズ社は昨年、賃金のピンハネ、ラテン系アメリカ人に対する差別、セクシュアルハラスメントに関する集団訴訟で、労働者に375万ドルを支払って和解したばかりである。
ICEが組合のある職場をターゲットにしていることは明らかである。
鶏肉加工は国内で最も危険な産業のーつである。農場、ファーストフード店、レストラン、スーパーマーケット、精肉工場、鶏肉工場で働く労働者を含む食品産業は、米国経済で最大の産業セクターであるが、食品労働者の時給の中央値はわずか10ドルであり、賃金のピンハネが横行している。
食品チェーン労働者連合は政府のデータに基づいて、食品労働者の約20%が移住者であると指摘しているが、実際には移住者の割合はもっと高い。
今回のような強制捜査は今後も続くだろう。JwJとAFL・C10はそれをはね返すための組織的準備を呼びかけている。
労働現場に対する強制捜査の復活は、移住者および移住労働者の権利を擁護する多くの団体が恐れていたことがトランプ大統領の強権的政治の新しい顔になるかもしれないことを示している。