★英国
研修医のストライキに市民の共感
英国イングランド地方のNHS(国民健康サービス)のジュニア・ドクター(研修医)が労働時間延長や年次昇給制度の廃止等に反対して、1月12日、24時間ストに入った。
BMA(英国医師組合)のジュニア・ドクター委員会(JDC、3万8千人)は昨年11月に98%の賛成でストライキ権を確立し、1月4日にACAS(助言・斡旋・仲裁局)による調停の決裂を受けて、同日、12日からのストライキを宣言した。
昨年12月29日付の「ガーディアン」紙によると、交渉の行き詰まりの主要な原因の1つは、政府が研修医に対して毎年自動的に賃金が上がる現行の昇給制度を廃止しようとしていることである。政府は全ての公務員について、この昇給制度を順次廃止しようとしている。
また、政府は2020年までにNHSの緊急医療サービスについて年中無休体制を導入することを計画しており、これは研修医に賃上げなしの労働時間延長を意味している。
JDCのリーダーのジョハン・マラワナは次のように述べている。
「政府は現在および将来の世代の医師をNHSから、さらには英国から去るように仕向けている。医師の社会的評価を下げ、人格を傷つけ、その結果英国では医療が奨励される職業でなくなるというのは受け入れられない。……交渉の経過は、新しい協約が患者にとって安全で、医師にとって公正であるべきであるというBMAの基本的な要求を満たしていない」
1月6日付の同紙で、NHSの歴史を研究しているワーウィック大学のジャック・サウンダー氏は次のように述べている。
「ジュニア・ドクターのストライキをめぐる報道の多くは、その物珍しさを話題にしている。中間階級の専門職者が労働組合の闘士のように振る舞っているというわけである。……過去にも医師たちによる労働争議はあった。しかし過去の3つの闘争(1947年と1975年の2つの闘争)では医師たちは基本的には自分たちの権利の擁護に集中していた。……今回の闘争では研修医の代表たちは、医療サービスと公共セクターを守ることを前面に出している。今後数カ月における事態の発展は将来に非常に大きな影響を残すだろう」
サウンダー氏はまた、研修医たちがNHSの中のベテランの医師や他の職種の労働者からの支持を得ているだけでなく、消防士や教員の組合もこの闘いに連帯を表明していることを指摘している。
1月12日付の「BBC」によると、スコットランドとウェールズでは現行の制度を変えないことが合意されているが、北アイルランドではまだ最終的な結論が出ておらず、研修医たちは新制度を導入しないことを労働協約に明記することを要求している。
12日のストライキについて、BMAのブログには次のような記事が掲載されている。
◎同日朝にイプソス・モリ(大手の世論調査会社)が発表した世論調査では、回答者の66%がストライキを支持し、反対は26%だった。実際には支持はもっと多かったと思われる。
◎ピケットラインでは、子や孫を連れた患者たちがコーヒーや食べ物を差し入れする風景が各地でみられた。
◎市民たちは研修医の状況や要求について直接に聞くことができ、研修医も市民の反応に直接に接すことができた。
◎市や町の中心部で、研修医たちがブースを設けてリーフレットを配布したり、市民と交流した。
◎ある研修医は「(市民たちは)私たちが理由なしに患者を離れることはないことを知っています。彼ら・彼女らは、私たちがたった一つの目的、つまり患者の安全と私たちのNHSを守るという目的のために立ち上がったことを理解しています」と語っている。
NHSイングランドは研修医の38%がストライキに加わらなかったと発表しているが、これは緊急対応のためにJDCが職場に残るよう指示した研修医を含んでいる。ピケットは約100の職場で行われた。
1月26日と2月10日にもストライキが予定されている。
★米国
ウーバーの運転手の団交権を支持
ウーバー(タクシー)、エアビーアンドビー(ホテル)などの業界で「シェアリング・エコノミー」と呼ばれる新しいビジネス形態が急成長している。スマホでアプリを使ったサービスに登録した事業者と消費者の間で取引を行うことによって柔軟なサービスを低価格で提供できるというのが特徴とされている。
「日経ビジネス」15年12月21日号は「シェアリング・エコノミー」の特集を組んで、日本でも世界の流れに遅れないように規制緩和を進めるべきであると煽っている。
しかしこのビジネスには問題が多い。タクシー業界では無認可のサービス提供が横行し、タクシー運転手の収入を圧迫していることから、規制強化を求める運動が広がっている(本誌915号に関連記事)。また、タクシーの運転手は自営業者とみなされ、労働者としての権利が認められていない。
その中で昨年12月14日にシアトル市議会は、ウーバー、リフトなどのアプリ・ベースのサービスで働く労働者に組合結成と団交権を認める法案を満場一致で採択した。米国で初めてである。
同市の「ザ・ストレンジャー」紙によると、この法律の下で、シアトル市はアプリ・ベースのサービスで働く労働者の名簿を、組織化に関心を示しているNPOまたは労働組合に渡し、対象の労働者の過半数が組合結成を支持する場合、会社側は団体交渉に応じなければならない。
法案を提出したマイク・オブライエン議員は、この配車サービスの現状を「底辺に向けた競走」であると非難し、この法案が「われわれの社会のすべての人々にとって公正なシステム」を作るためのものだと述べている。
クシャマ・サワント議員(社会主義を掲げる議員)は、シェアリング・エコノミーを非難し、次のように述べた。
「私たちは権力を持っている。なぜなら運転する者がいなければウーバーは1ペニーも稼げないからだ。この法案に反対する議員は、シアトルの労働者の権利よりも数十億ドルの利益を上げている企業の利益が大事だと宣言しているのだ」。
実際には反対した議員はおらず、法案は8対0で可決された(欠席1)。エド・ムレイ市長は、実施コストや市職員の負担を理由に法律への署名を躊躇(ちゅうちょ)しているが、拒否権を行使することはないと言明している。
「ブルームバーグ・ビジネス」の同18日付のレポートは、シアトル市のこの動きがもたらす影響について、次のように述べている。
「シアトルは米国で団体交渉に関する法律を制定した最初の都市となった。労働組合はウーバーやリフトのビジネスに対する新たな脅威となった。……両社は全米各地で、運転手を従業員と規定し、各種の手当を支給するよう求める訴訟に直面しているが、シアトル市の法律はそのような訴訟を跳び越えて、労働組合の結成を認め、運転手側の交渉力を強化することに焦点を当てている」
同紙によると、ウーバーは過去には、頑張れば高収入が得られるという勧誘や、契約時のボーナスによって労働者を引きつけてきたが、褒(ほう)賞やボーナスは徐々に引き下げられている。需要・供給の関係などに応じて運賃が柔軟に変化するため、運転手の間では収入の不安定さへの不満が大きい。
アプリ・ベース運転手連盟の役員であるサシル・テカさんは、「会社は最初、運転席に座っているだけで30ドルを払うと約束していたが、契約している車が増えるにつれて、労働者からもっと大きな利益を得ようとしている」と語っている。
同連盟はチームスター労組のシアトルの支部と連携して運転手の組合を組織しようとしている。
★パキスタン
国際連帯で不当逮捕者釈放かちとる
以下はIUF(国際食品労連)のウェブに掲載された報告と呼びかけである。
1月6日に、パキスタン北西部のマルダン市で、フィリップ・モリス(タバコ製造)の子会社における141人の労働者の不当解雇に抗議して平和的なデモを行っていた35人の労働者が逮捕された。
解雇された労働者たちは昨年11月21日に、いつものように出勤した時に、解雇通知が自宅に郵送されたことを知らされた。経営者が解雇について話し合うことを拒否し、労働者に解雇を受け入れるよう圧力をかけ始めたため、地域の組合が工場前で継続的な抗議行動を行った。
1月6日に労働者たちは組合の役員たちと共に、権利憲章を経営者に手渡すために集まった。この時、警察は組合のアブラル・ウラー委員長を始めとする35人を治安維持法違反の容疑(起訴なしに最高90日の拘留が可能)で逮捕した。
この大量逮捕の後、IUF傘下のパキスタン食品労働者連盟(PFWF)の代表団が警察署の前でデモを行っている労働者たちに連帯するために派遣された。その後、逮捕された労働者たちはマルダン市から約250キロ離れたバンヌ刑務所へ移送された。この刑務所はタリバンの活動家を投獄するための刑務所として悪名をはせている。
IUFを始めとする国際的署名などの運動によって、1月10日に逮捕された労働者たちは全員釈放された。労働者たちは、さらに闘いを続ける決意である。PFWFとIUFは引き続き支援を呼びかける。