アジア@世界
789号

●米国
トヨタと品質の神話

 米国の「レイバーノーツ」誌は「トヨタ方式」に代表される自動車産業における合理化、「ストレスによる管理」を1980年代初め以降一貫して批判してきた。今回のトヨタのリコール問題と工場閉鎖問題に関連して、同誌のブログに掲載されたマイク・パーカーさんの論考(3月23日付)を紹介する。
 トヨタが世界の自動車産業の覇者として台頭したことをめぐって2つの神話がある。
(1)トヨタは、顧客にとっては高品質を意味している
(2)トヨタの品質と生産性は、労働者への配慮の上に実現されてきた。
 このような神話はあまりにも強力であるため、太陽の光輪のような効果を引き起こしている。博識者たちは、最近問題になっているトヨタのアクセルの問題を、この神話を反証するものではなく、この神話の一部とみなしている。問題の広がりや、数年にわたるその隠蔽にも関わらず、それらは中核的な価値からのちょっとした逸脱であり、あまりにも急激な成長のために起こったことだとみなされている。米国の学会でトヨタ方式の生産システムを称揚してきた第一人者であるジェームズ・ウォマックMIT(マサチューセッツ工科大学)教授は、「品質がすべてだったとすれば、どんなミスでも大きな問題となる」と述べている。
 トヨタ方式の生産システムは「リーン(あらゆるムダを削る)生産方式」とも呼ばれ、あらゆる職場において労働組合の存在条件を破壊するモデルとして、また、鉄鎚として活用されてきた。長年にわたって品質の教祖たちやトヨタの広報担当者たちは品質という概念について、いかがわしい宣伝をしてきた。彼らは人々に、品質とは、より良い、より安全な自動車を作ることと信じさせようとしてきた。
 しかしそれはトヨタの生産システムにおける「品質」の定義とは異なっている。トヨタでは、品質は設計の問題をチェックすることや自動車を改良することとは無関係だった。トヨタ方式において、品質とは「仕様を遵守すること」と定義されている。それは製造工程における「バラツキ」を減らすことだった。労働者は何もかも、たとえば部品を右手でつかんで、キャップを左手で回すというような詳細に至るまで指示された通りにしなければならない。
 トヨタやその他のリーン生産を誇る企業において、品質とは、トップダウン方式の意志決定をより厳格に管理できるよう保証することである。下位レベルの役割は上位レベルに提案を行うことと(それは上位レベルで適切とみなされた場合に採用される)、同じ量の製品をより少ない人員とより少ないコストで生産できる方法を見つけることだけである。
 「品質のためには生産ラインを止めることもできる」と喧伝されているが、労働者が設計上の問題を見つけたからといって生産ラインが止まることは決してない。それは作業が詳細な、プログラミングされたワークシートの通りに行われなかったことを労働者が見つけた場合にのみ行われる。
 問題の隠蔽はトヨタでのみの話ではない。あらゆるトップダウン式の組織で、設計ミスが隠蔽されることは起こりうることであり、現に起こっている。フォード・ピントの工場でのガス・タンクの爆発を思い出してもらいたい。
 ニュースで大々的に取り上げられたアクセルの問題は設計の問題である。それは製造工程では見つからなかったし、対策が取られることもなかった。そのような欠陥の発見には膨大な量のデータの処理と分析が必要だろう。そのためにはエンジニアやアナリストが自分の直感に基づいて行動する一定の自由が必要だろう。
 しかし、トヨタ方式の生産システムの文化は、おそらくいくつかの問題とその隠蔽を助長してきた。隠ぺいは組織に忠実な人たちにとっては自然な行動様式である。ある時点でトヨタが、自動車本体ではなくフロアー・マットのリコールだけで済ますことで規制当局を納得させたとき、トヨタの社内向けレポートではそれによる費用の削減を喜んでいた。安全に関心をもっている誠実なエンジニアであれば(たとえフロアー・マットが問題であると確信していたとしても)、少なくともフロアー・マットが正しく取り付けられていることを確認するために自動車本体をリコールすることなしには安心しなかっただろう。
 トヨタのやり方は、会社への強い忠誠心に報奨で報い、権威に挑戦しようとする人たちを処罰し、追い出すというものだ。トヨタでは労働組合が弱いために、警告の笛を吹く立場にいる人たちを後押しするような環境がない。しかも、トヨタはその政治力によって、日本国内だけではなく米国内でも、外部の規制当局から守られている。トヨタは米国では、大規模かつ効果的なロビー活動を展開するだけでなく、工場を全米のいくつかの州に分散することによって、ワシントンの中に政治的擁護者を獲得してきた。
 トヨタはリーン生産の原理を活用して、製造工程の労働者だけでなく、エンジニアや設計技術者をも終わりのない生産性向上に駆り立ててきた。その結果は驚くべきレベルの生産性向上だった。このシステムのコストは計測が難しい。それらのコストにはミスや隠ぺい、事故による人的な損失が含まれる。「レイバーノーツ」がこのシステムを批判するために刊行した「スマートに働く」では、このシステムを「ストレスによる管理」と呼んでいる。なぜなら、このシステムの相互に入り組んださまざまな側面が労働者を常にストレスの下に置いており、上司による継続的な支援が得られず、ストレスが絶え間ない生産性向上を強制する手段となっているからである。
 日本の労働者がこの過酷なシステムの代償に得ているものは終身雇用の保証であると考えられ、それが会社への忠誠心となってきていた。しかし、このような約束の多くは虚構だった。ケガをしたり、心身が消耗してしまった労働者たちは放逐される。「過労による突然の死」は、「カロウシ(過労死)」という言葉が定着するほど一般化した。日本のトヨタの労働者は、高齢になると、下請け業者の下で低賃金で働くことを余儀なくされる。
 しかしトヨタは今や、そのような虚構を維持する必要すら感じていない。トヨタは3月31日をもってカリフォルニア州フレモントのNUMMI工場を閉鎖し、4千500人の労働者を失業率が12%に達している労働市場へ投げ出そうとしている。
 トヨタがNUMMIを閉鎖しようとしているのは、キャッシュが緊急に必要だからでもなく、工場の経営が不振でもなく、生産が落ちたり労働者の質が悪いからでもない。組合に組織された労働者たちは、組合のないケンタッキー、テキサス、アラバマ、ミシシッピー、インディアナ、ウェストバージニアの労働者たちと同等かもっと安い賃金で働いている。その気になればコロナ・セダンの生産のもっと多くの部分をカリフォルニアの工場へ移転したり、同工場を新しいハイブリッド車の生産ラインに転換することは容易だった。
 トヨタがこの工場を閉鎖したのは、この工場が米国において組合に組織された労働者を相手にする実験として使われ、その実験が終わったからである。労使のパートナーシップについてのあらゆる宣伝にもかかわらず、トヨタはUAW抜きで労働者を管理することを選んだのである。こうして労働者に対する尊重や約束は、工場の労働者と共に捨て去られた。もちろん終身雇用が実際に労働協約に明記されたことはない。トヨタは、同工場がトヨタの自動車を生産し、トヨタによって運営されているが、技術的には別の企業である(NUMMIがGMとの合弁事業であった時から)という主張の背後に隠れようとしている。
 UAWは、長年にわたってビッグスリー(GM、フォード、クライスラー)の中でトヨタ方式の生産システムの福音を布教するのを支援してきた末に、今回の工場閉鎖に対してはほとんど何の抵抗も組織していない。同労組は、1人平均約5万5千ドルの退職金と引き換えに、工場閉鎖に反対する組合支部の闘争を早々と集結してしまった。その交換条件として、UAWは組合の本部および支部のリーダーがトヨタやこの取引について批判するのを抑制することに同意した。

●フランス&スペイン
2つの製紙工場で工場占拠により賃上げを獲得

 フランス南西部のドルドーニュのパペトリー・デ・コンダ社(パルプと印刷用コート紙を製造)の700人の労働者が3月3日から賃上げを要求して無期限ストライキに入り、工場を占拠した。同社では5年間にわたって賃上げが行われておらず、組合は3%賃上げを要求したが、会社側の回答は1%だった。ストライキの6日目に、組合の交渉委員会は経営側の交渉チームを封鎖されている工場内に閉じ込めた。会社側は2日後に、2010年1月にさかのぼって1%、7月以降さらに1%の賃上げという妥協案を提示し、さらに24人の臨時雇用労働者のうち10人の正規雇用化に同意した。
 組合の支部書記次長のタハール・メサウディ氏は、「たしかにすべての正当な要求を勝ち取ったわけではないが、われわれは満足しており、胸を張って仕事に戻ることができる」と語っている。

 スペイン中北部のカンタブリア州トレラベガのパペレラ・デ・バサヤ社(コートなしの印刷用紙を製造)の110人の労働者も、3月6日から9日まで、操業継続を要求して工場を占拠した。
 この工場は1月19日に、スペインのスナイス社(化学会社)が買収することに同意したが、その後同社が、負債額が予想の2倍だったことを理由に買収を取り消すと発表していた。この会社の元の所有者が破産手続きを申請しようとしていることを知った労働者評議会のメンバーはただちに工場内で座り込みを開始した。この闘いはトレラベガの市民や政治家の支持を得た。労働者の家族たちも毎日2回工場へ駆けつけ、労働者たちを激励した。
 最終的にはカンタブリア州政府が別の買い手を見つけること、買い手が見つかるまでの間はスナイス社が工場を運営することが合意された(この同工場は昨年10月以降操業を停止している)。
 この工場の労働者を組織しているCCOOのホアキナ・ロドリゲスさんによると、スペインでは07〜09年の間に16の製紙工場が閉鎖されている。パペレラ・デ・バサヤ社の労働者の果敢な闘いは、工場再開のチャンスを切り開いた(国際化学エネルギー鉱山一般労連〈ICEM〉のウェブより)

●フランス
雇用と年金を要求して60万人がデモ

 3月23日、雇用と賃金、年金の保証を要求して公共部門の労働者がストに入り、全国180ヵ所でのデモに合計約60万人が参加した。
 同21日に第2回投票が行われた地方選挙でサルコジ政権与党が大敗しており、主要労組は政権の危機を利用して要求を獲得しようとしている。サルコジ大統領は、選挙の敗北を受けて、年金改革をめぐる組合との交渉を担当していた労相を解任した。
 この日のストライキによって高速鉄道の3分の2、地域の鉄道の約半分が止まった。教員の50%が職場放棄してデモに参加した。

●アフガニスタン
インド人へのテロ、SEWA活動家が奇跡的に難を逃れる

 2月26日にカブール中心部の3つのホテル、ゲストハウスでの爆弾テロで19人が死亡、うち11人がインド人である。インド政府関係者や企業家をターゲットにしたテロはこの20ヵ月間で3回目。
 インド政府の資金で建設された戦争で生活手段を奪われたアフガニスタンの女性たちのための職業訓練センターで活動しているSEWA(女性自営者協会)の3人も、爆弾テロが起きたホテルに滞在していたが、ホテルの物置に身を隠して奇跡的に難を逃れた。
 このセンターは06年にインドのシン首相がアフガニスタン訪問しの際に建設支援を要請され、SEWAが07年に設立。活動家たちはインド政府の勧告に従い退去するが、プニタ・パテルさんは「また戻ってきたい」と語っている(「DNA」ニュース、2月27日付)。

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