アジア@世界
喜多幡 佳秀 訳(APWSL日本)
937号

★フランス
  「雇用改革」めぐり政権と全面対決へ

 「雇用改革」をめぐる闘争は、政府と労働組合の全面対決の局面に入っている。
 法案は5月中旬に下院で採決の予定だったが、政府の修正案に財界が反発、与党内でも反対票が出ることが予想され、成立の見通しが立たない中で、5月10日にヴァルス首相が憲法49条3項(首相の権限で下院での採決なしで法案を成立させることができる)を使って下院を通過させた。上院での審議は約1カ月と想定されている。

 ヴァルス首相は法案の修正を受け入れると発言する一方で、改革そのものはフランスの国際競争力を回復し、雇用を改善するために不可欠で、労働組合が反対しても断固として進めると繰り返している。

 
 4〜5月に数度にわたってパリ、ナントをはじめ全国の100以上の都市で百万人を越える労働者・学生がデモに参加した。一方では「ニュイ・ドゥブ(夜、決起しよう)」の運動が全国で展開された。この2カ月間で逮捕者は千人を超えている。


 5月上旬に行われた世論調査では、回答者の75%が法案に反対と答えた。オランド大統領の支持率は13〜20%である(17年の大統領選挙に立候補しても第1回投票で落選することが確実視されている)。政府は「状況は改善されている」と繰り返しているが、70%の人々がそうは考えていない。
 社会党系のCFDTは法案に賛成している。共産党系のCGTは法案には反対だが、当初、闘いの拡大に消極的だった。しかし、オランド政権が強硬な対決姿勢を続け、若者を中心とする闘いが高揚する中で、オランド政権との全面対決に転換した。有力週刊誌は「CGTが階級闘争を復活させた」という大見出しを掲げた。


 石油労働者が最初にストライキを開始した。港湾、鉄道のストライキとの相乗効果で、国内の石油供給が不足し、5月26日の時点で全国でガソリンスタンドの4分の1が休業している。政府は備蓄用の石油の放出を検討している。

 24、25日の両日、マルセイユ等で警官隊がスト中の労働者のピケットを攻撃した。
 5月26日にCGTが呼びかけたストライキとデモは、各地で警官隊と衝突し、数十人が逮捕された。一部では覆面をした集団が破壊活動を行ったが、全体としては非暴力のデモであり、警官隊の過剰警備への批判が高まっている。

 ノルマンディーのカーンでは警察官が倒れているデモ参加者を何度も蹴りつけている映像がインターネット上で公開されている。
 この日、国内の8つの製油所のうち稼動したのは2つだけである。石油の輸送に使われている2つの主要な港湾も労働者によって封鎖された。


 ノルマンディー橋では200〜300人の組合員と支援者たちが交通を完全に遮断した。組合員たちはその後、港湾都市ル・アーブルの市役所前で、港湾労働者を中心とする約1万人の集会に合流した。警官隊の介入を牽制するため、発煙筒や花火が打ち上げられた。
 ストライキの影響でガソリンの不足や値上がり、交通渋滞が起こっているが、同日付の「AP」は次のように報じている。

 「・・・封鎖されたノルマンディー橋で、少なくとも一組の旅行者は『気にしない』と言っている。塗装工のジャン・ルーク・ジェラートさん(55歳)は、運転してきた車が動けなくなったが、『彼らがこんなことをしているのは、われわれのためなのだ。政府がすぐに法案を撤回しなければ状況はもっと悪くなる』と語った。


 全国19の原子力発電所のうち16の発電所もストライキに入ることを決定しており、一度停止すれば再開までに3〜5日が必要となる。ストライキが長期化すれば全国の電力供給に大きな影響がもたらされる。 26日のストライキでは、ノジャンシュルセーヌの原子力発電所が25日午後9時から24時間のストに入った。
 CGTのストライキのため、この日は左派系の「ユマニテ」紙以外の主要紙は印刷や配送ができなかった(CGTは各紙に労働改革法に反対するマルティネス書記長の投稿の掲載を要求し、「ユマニテ」紙だけがそれに同意した)。
 フランスでは6月10日からサッカーのユーロ2016選手権が開催され、約200万人の観光客が予想されているが、パリ地下鉄の組合は同日から波状ストに入ることを決定している。

(「AP」5月25日、26日付、「コモンドリーム」同25日付等より)

 

★ブラジル:
   クーデターに立ち向かう時

 以下はMST(土地なき農業労働者運動)代表のジョアオ・ペドロ・ステディレ氏とのインタビュー(MSTのウェブに掲載、5月15日付)の抜粋である。

 

 −−ディルマ大統領が職務停止になりました。何が起こるでしょうか?
 今はクーデターに対して起ち上がる時です。戦車は登場していないが、同じぐらい混乱をもたらしています。2012年のパラグアイのフェルナンド・ルゴに対するクーデターと似ています。大統領はいかなる犯罪も犯していないのに、違法な方法で政権を追われたのです。
 テメル政権にはいかなる正統性もありません。この政権は腐敗にまみれており、新自由主義への逆戻りを目指しています。私たちは上院議長と連邦最高裁長官に、この弾劾手続きに反対する大量の署名を提出しました。
 私たちは可能な限りのエネルギーを結集しなければなりません。なぜなら、闘争と、政治的、社会的危機、環境の危機の時代が来ているからです。

 

 −−テメル政権はアルゼンチンのマクリ政権のコピーのようです。企業経営者や銀行家がいっぱいです。
 テメル政権と彼の党、PMDB(ブラジル民主運動党)はエリート階級の集まりで、自分たちの特権を取り戻すことを決意しています。実際、テメルはマクリのブラジル版です。彼は虚栄心の強い男で、自分の政治的キャリアを大統領で締めくくりたいと考えていますが、彼の本拠はワシントンです。ワシントンから矢が放たれたのです。

 

 −−あなたは1992年にコロール・デ・メロ大統領(当時)の弾劾書を起草した弁護士のラベネレ氏を通じてフランシス・ローマ法王に手紙を送りましたが、法王に何ができるのですか?
 フランシス法王が人民の運動に送ったメッセージの中の言葉と、ブラジル弁護士会の前会長であり、ブラジル司教会議の正義と平和委員会のメンバーであるマルセロ・ラベネレの言葉は重要でした。ラベネレはディルマに対する弾劾が法律上、あるいは憲法上、いかなる正統性もないことを適切に説明しました。検察官は大統領を2つの故意でない行政手続き上の違反で告発しましたが、それは「犯罪に対する責任」の根拠とはなりません。・・・ 
 誰でも自分たちの優先的課題があります。私たちは住宅、土地、仕事のための闘いを重視しており、フランシス法王も二つの人民の運動との会見の中でこれらの目標を共有していました。そしてそれらはディルマ政権の目標でもありました。限界はあったし、強い者たちと手を組むという誤りはあったけれどもです。・・・
 腐敗は公共の資源を自分や自分のビジネスのために最大限に簒奪しようとする強欲なブルジョワジーには付き物です。腐敗はシステムの危機の兆候であって、原因ではありません。私たちが必要としているのは、この種の政治のすべての不正を解決するための制憲議会です。

 

 −−前回の選挙の前に右派政党の議員団がワシントンを訪問していますね?
 テメルは米国が米国企業を通じてブラジルの経済を支配できるように政府を編成するでしょう。すでにシェブロンは、BSDP(ブラジル社会民主党)のホセ・セラを通じて、超深海の資源の私有化のために圧力をかけています。

 ブラジルはBRICsに属していますが、彼らのもう一つの目標は政府が南の諸国間の連携を拒否するようにすることです。その狙いはベネズエラを同じやり方で追い詰めて、「ボリバール社会主義」という言葉を最終的に終焉させることです。

 ラテンアメリカで達成されてきた成果を覆すための共同の戦略が進められています。私たちの抵抗も共同しなければなりません。ブラジルにおけるクーデターと闘いましょう。

 

 

★ベルギー
   労働市場改革反対で6万人がデモ

 労働時間延長、退職年齢引き上げ等の「労働市場改革」に対する闘争が広がっている。


 5月24日、ブリュッセルで6万人余の労働者がデモに参加した。警官隊との衝突で20人が負傷(警察発表)、23人が逮捕された。
 同31日には公共部門の労働者が一斉にストライキに入り、鉄道、バス、学校、刑務所、郵便などの業務が止まった。南部(フランス語圏)の国内鉄道は6日連続でストライキに入っており、北部(オランダ語圏)では6割の鉄道が運休している。

 政府の計画は、定年の67歳への引き上げ、労働時間の週38時間から45時間への延長、電気料金への付加価値税の引き上げなどを含んでいる。
 6月24日にもストライキが計画されており、現在の中道右派政権の成立の2周年にあたる10月7日には全国的なデモが計画されている。

 

 

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