アジア@世界
喜多幡 佳秀 ・訳(APWSL日本)
896号

★米国:ファストフード店の労働者が時給15ドルを要求して全国でスト

 9月4日、マクドナルド、バーガーキングなどファストフード店の労働者が時給15ドルと団結権を要求して、全国の約150の都市でストライキに入り、支援の活動家や市民と共に座り込みなどの行動を展開した。ニューヨーク、シカゴ、デトロイトなど30数都市で合計500人以上が逮捕された。


 この行動は12年11月にニューヨークで、ファストフード店労働者のグループ、「ファストフード・フォーワード」がSEIU(国際サービス従業員組合)の支援の下で開始したもので、今回は7回目の行動である。
 SEIUはこの産業の労働者の組織化を支援するためにすでに1千万ドル以上の資金を投入している。今回の行動では、運動を拡大するための新しい試みとして、いくつかの都市で在宅ケア支援労働者にも参加を呼びかけた。


 SEIUが今回の行動に先立って7月にシカゴ郊外で開催した集会にはファストフード産業の労働者1300人が参加し、市民的不服従の行動を展開することが満場一致で確認された。
 経営団体は、ストライキは少数の従業員が参加しているだけであり、影響はないと言っている。しかし、一連の行動を通じて低賃金の問題への社会的関心が高まり、その影響もあってシアトル市、サンフランシスコ市をはじめ多くの地区で最低賃金の大幅な引き上げが決定あるいは検討されている。オバマ大統領もレイバーデー(9月1日)のミルウォーキーでの集会でファストフード労働者の運動に言及し、「私がサービス産業で雇用されていて、まともな労働時間とまともな賃金を望むのなら、私も組合に入るだろう」と語った。


 マクドナルドはストライキ当日の朝、平常通り営業する旨の声明を発表し、「市場の競争が許す範囲で従業員に公正な賃金を払うことは支持するが、加盟店の大半を占める中小の事業者がコスト増に耐えられるように、賃金の引き上げは時間をかけて行うべきである」と述べている。
 米国ではマクドナルドで76万1千人の労働者が働いており、直営店を除いて、大部分の労働者は個別の加盟店に雇用されている(加盟店は約3千店)。個別の加盟店はメニューから材料の仕入れ元に至るまで、マクドナルドのガイドラインに従わなければならない。賃金は加盟店ごとに決めることになっているが、賃金以外のすべての収支項目は指示されているため、実質的な裁量権はない。マクドナルドは利益を吸い上げ、リスクと雇用者責任を加盟店に押し付けてきた。

 しかし、7月29日にNLRB(全国労働関係局)の法務局は、マクドナルドは加盟店と「共同の雇用主」であるとする労働者側の主張を支持した。これによって労働者たちは最低賃金や組合結成についてマクドナルドと直接に交渉することが可能になる。


 9月4日のデモではグエン・ムーア下院議員(ウィスコンシン州選出、民主党)も逮捕された。彼女は西ミルウォーキーの街頭での座り込みに参加し、警察官の指示に従わなかったとして逮捕された。

 彼女は秘書を通じて声明を発表し「私は家族の明るい明日のために逮捕覚悟で闘ったミルウォーキーの労働者を支持していることを誇りに思う」と述べた。


 (「USAツデー」9月4日付、「ニューヨークタイムズ」同1日および4日付、「レイバーノーツ」8月18日付等より)

 

 

★バングラデシュ:賃金未払いに抗議するハンストを暴徒が襲撃

 イード[祝祭]の休暇(7月末から8月初)を前に、大部分の衣料労働者は賃金とボーナスを受け取ったが、ダッカのバッダ地区にあるTubaファッションズ社の工場の1600人の労働者は、賃金未払いに抗議して3ヵ月にわたって工場を占拠し、数百人がハンストに入った。


 同社を含む5つの工場を経営するTubaグループの所有者のデルワー・ホサインは、12年11月のタズリーン工場の火災(112人の労働者が死亡)の責任者として今年2月に逮捕され、8月に保釈された。

 彼の拘留中は彼の妻と友人が同グループの5つの工場を経営していたが、5月から同社の労働者の賃金が支払われていない。衣料労働者の人権を擁護する団体の活動家によると、デルワー・ホサインが獄中から、労働者の賃金を差し止めるよう指示した。彼の釈放の嘆願書を書かせるためである。当時、この工場ではFIFAのロゴが入ったサッカー用のジャージを製造していた。


 労働者たちは7月9日に工場前や街頭、BGMEA(バングラデシュ衣料製造輸出協会)のオフィスの前で抗議行動を開始したが、警察の催涙ガス、放水、ガス弾による攻撃を受けた。この中で1人の労働者が流産した。
 イードが近づく中で、賃金がもらえず困窮した労働者たちは同28日から工場に泊まり込み、ハンストを始めた。
 ハンスト中の労働者たちに対して、経営側に雇われたと推測される暴徒集団が白昼に工場前で暴力をふるい、8月5日には警察が「衣料労働者の統一フォーラム」のムシュレファ・ミシュ委員長を逮捕した。抗議のデモに対しても警察は暴力的に弾圧した。


 その後、会社側は2ヵ月分の給料を支払ったがボーナスは支払われていない。
 デルワー・ホサインは8月5日に保釈された直後から、タズリーン工場の火災について証言した労働者を脅迫し、また、同20日にはTubaグループの5つの工場の全部に「閉鎖」という通告を貼り出した。
 ハンスト11日目の8月11日に、会社側は未払いの賃金を支払った。


 その後も、同グループの5つの工場の閉鎖に伴う労働債権の算出と支払いをめぐって闘争が継続中であり、また、労働者側はデルワー・ホサインの保釈取り消しを要求している。

 

 

★中国:昆山での工場爆発(75人が死亡)は人災だ

 8月2日に江蘇省昆山市の自動車部品工場で爆発事故が起こり、75人の労働者が死亡、185人が負傷した。
 この工場はGMをはじめとする多国籍自動車メーカーに部品を供給している。
 以下は米国の「ザ・ネーション」誌ウェブ版に掲載されたミッシェル・チャン記者のレポート(同6日付)の抄訳である。

 

 爆発の原因は、ホイールキャップの製造工程で発生する可燃性の粉塵が堆積し、発火したことである。
 この工場には粉塵除去のための装置が装備されていたが、難を逃れた労働者によると、製造ライン上は常に金属性の粉塵が充満し、周りがよく見えないほどだった。労働者には安全研修も行われておらず、安全用の装備もゴーグルと布製の手袋だけだった。


 「Caixin」によると、労働者たちは、火薬のような物質が充満していることを知らされていなかっただけでなく、労働条件そのものも過酷で、労働時間は最大で1日12時間である。

 当局は徹底的な調査を約束しているが、活動家たちは今回の災害が、政府の規制と職場における安全文化の両面における恥ずべき欠陥を改めて明らかにしたと考えている。


 労働問題の研究者の王江松氏は「チャイナ・レイバー・ブレティン」のウェブで、次のように述べている。

 「(この災害は)労働安全の巨大なブラックホールを暴露した。安全査察官は職務怠慢であり、労働組合も知らぬふりをしていた」。
 中国の新自由主義的な急成長の下で、このような原始的労働条件の工場から自動車を輸入することが可能になって いるのである。


 カリフォルニアの労災職業病の専門家のガレット・ブラウン氏によると、「GMなどの主要メーカーはアルミの粉塵に爆発性があることを熟知しているし、その防止策(換気、閉じ込め、安全の訓練)も確立されている。(報告されている事実から判断して)75人の死亡と185人の負傷は、あってはならないことだった。GMから工場のラインまでのすべての雇用者は、危険をよく知っていたし、簡単に回避することができたはずだ。この災害は産業による殺人であり、関係するすべての雇用者が責任を負わなければならない」。


 習近平国家主席は責任者を処罰すると約束し、数人の会社幹部が逮捕された。しかし、規制機関と会社幹部の腐敗と不透明性から考えると、そのような努力はほとんど効果がないかもしれない。

 GMは調査結果が出るまで、別の供給元を探すと発表した。安全に関する改善策には全く触れていない。製品の安全性をめぐるリコールの際の対応と対照的である。

 香港のSACOM(企業の不正行為に反対する学生・研究者の会)は、GMと提携している中信ダイカスタルや、BMW、メルセデスベンツ、ホンダを含むすべての関係企業に、犠牲者への補償を拠出することを求める公開状を発表した。この公開状は、「グローバルに複雑化した供給チェーンの中で、安全に対する責任が発展途上国に丸投げされている」と指摘している。


 昆山の災害は規制の制度的欠陥に根差しており、責任のある企業が真に責任を負わされることはないかも知れない。

 しかし、今回の災害をめぐって、ソーシャル・メディアの役割、そして労働者の安全についての市民の関心の高まりが注目される。

 今回の事故の直後に、労働問題の研究者や活動家によって労働関係における根本的転換、労働者の発言権の強化、より民主主義的な職場環境を求める書簡が発表され、インターネット上で共感が広がっている。

 

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