アジア@世界
812号

●チュニジア
  旧独裁体制の一掃へ、暫定政府首相が辞任

 2月27日、チュニスで暫定政権からの旧政権関係者の一掃を要求するデモが治安部隊と衝突。同日、ガンヌーン首相が辞任し、前外相のベジ・カイド・セブシが後任に任命された。同28日には産業相と国際協力相も辞任。ガンヌーンはベン・アリの下の首相であり、7月中旬までの選挙実施を約束していたが、反政府運動の活動家たちは即時辞任を要求していた。弁護士で人権活動家のジアド・チャルニ氏は、「ガンヌーン辞任と新首相任命では不十分だ。民衆の望みは指導者交代ではなく体制変革だ」と述べている。
 2月末から反政府運動が再び拡大しており、同25日には若者を中心とするデモに治安部隊が戦車を動員、催涙ガス等で攻撃。ベン・アリ派による武装襲撃も起こっており、同25〜26日の衝突で5人が死亡、百数十人が逮捕されている。
 チュニジア労働総連合(UGTT)は、旧政権の全閣僚の辞任を要求している。UGTTのアディット・ブリキ書記長はラジオのインタビューで、直接投票による憲法制定議会の選出を提案した。

●エジプト
  3.8国際女性デーの集会が妨害される

 ムバラク打倒の闘いに参加した女性たちは、3・8国際女性デーにタフリール広場で「100万人の女性の行進」を呼びかけた。
 オルガナイザーのアアラム・ワセフさんは「この行進は18日間の革命で示された女性と男性の驚くべき団結の上に計画された」と語る。彼女によると、運動はシャフィックの任命と憲法制定委員会(全員が男性)の設立を境に勢いを失った。3・8のデモの主な目的は新憲法への女性の要求反映と完全な男女平等保障の法改正である。
 当日、タフリール広場には数百人の女性が集まったが、彼女たちはデモに反対するグループ(主に男性)に包囲され、威嚇された。このグループは特に、女性が大統領になることを可能にするような法律に反対した(「ガーディアン」3月8日付等より)。

●米国
  ウィスコンシン州、公務員組合への攻撃に10万人抗議集会

 3月9日夜、ウィスコンシン州上院で、ウォーカー知事(共和党)提案の公務員労組の団体交渉権を否認する法律が、共和党議員(19人)のみ出席の本会議で30分の審議で採決、可決された(反対1人)。  この法案は財政削減に関連する法案であり、予算に関連する法案の審議には20人の出席が必要という規定が適用される。法案が提出された時点で民主党議員(14人)が審議を拒否し、州外へ逃避していたため、審議は開かれていなかった。ところが、共和党議員たちは、法案から予算に関連する部分を切り離すことによって定足数条項をクリアするという不意討ち作戦によって強行突破した。
 このことで共和党は、州財政危機は口実で、本当の狙いは組合攻撃にあったことを公然と認めた。
 採択された法案によって、警察官と消防士を除く公務員は、団体交渉の対象がインフレ率を超えない範囲での賃上げに限定される。また、年金・健康保険の自己負担が拡大され、実質的に8%の賃下げとなる。また、組合費の代理徴収が廃止され、毎年、組合の正統性を証明するための組合員投票を実施することが義務付けられる。

 州上院の民主党議員は、逃避先のイリノイ州で、共和党による暴挙を糾弾し、デモ参加者たちと共に闘い続けるという声明を発表。
 労働組合員と支持者8千人余が法案の採択に抗議して結集し、州庁舎全フロアを占拠。中高生千人も授業放棄してデモに参加した。
 しかし、『レイバーノーツ』誌同10日付のミスチャ・ガウス氏のレポートによると、教員組合(WEAT)とAFSCME(州郡自治体職員組合)は、組合員に通常通りの勤務をするよう指示した。今回の法律には、スト、座り込み、集団の病欠など「州政府の業務を妨げる行為」に参加した労働者を解雇することができるという規定がある。そのため、一連の行動の先頭に立ってきたミルウォーキーとマジソンの教員組合も、緊急会議の結果、職場放棄を呼びかけないことを決定した。
 現場組合員たちは自主的に休暇を取ってデモに参加。ある労働者は上司に忌引届を出し、「民主主義の葬式のためにマジソンに行く」というメモを渡した。これまで組合の集会に参加しなかった労働者たちも、ステッカーとプラカードを手に、州庁舎へ向かった。
 同12日には最大規模の集会が計画されている(中西部の各州から10万人以上が参加と伝えられている)。州の労働組合は共和党議員のリコール運動を呼びかけている。また、ウィスコンシンの選挙運動を支援した企業に対するデモやボイコット運動も始まっている。
 マジソンの建築労働組合リーダーのコッブ氏は、「州議会の議員たちがわれわれの団体交渉権を取り上げたとしても、労働者の力は一片の法律で奪えるものではない。われわれが団結して闘えば、法律はわれわれの権利を妨げることはできない」と述べている。
 4月4日にはウィスコンシン州のゼネストが呼びかけれており、AFL・CIOはマルチン・ルーザー・キング師の命日にあたるこに日に、ウィスコンシンに連帯する行動デーを呼びかけている。

●中国
  総工会が派遣労働の報告書で法改正を提案

 以下は「網易サイト」に2月26日付で掲載されたレポートの抜粋で、「経済観察報」紙の報道をもとにしている。(翻訳 APWSL日本委員会・稲垣豊)。
 先週、中華全国総工会は「国内派遣労働調査報告書」を全人代常務委員会法制工作委員会に提出し、「労働契約法」の「派遣労働」に関連する内容の改定を提言した。
 この報告書によると、全国の派遣労働者数は6千万人を超え(全労働者の20%)、これまでの人力資源・社会保障部(日本の厚生労働省にあたる)発表数2千700万人余の倍以上である。主要には公有企業、行政機関、公営事業体などに集中している。一部の中央政府直轄の大型国有企業では3分の2以上の従業員が派遣労働者だという。
 中国では08年1月1日に「労働契約法」が実施された後、短期間に労使関係は空前の緊張をみせた。当時、多くの企業などで違法なリストラが行われた。労働者は解雇された後、派遣会社に雇用され、以前と同じ職場に派遣され同じ仕事に従事させられた。賃金、社会保障などの条件は切り下げられた。
 人力資源・社会保障部では、全国実態調査をふまえて派遣労働に関する「条例」改正を検討したが、大きな国有企業や派遣会社(派遣会社の経営は地方政府労働保障部門の役人の家族や知人が経営)の抵抗により具体化されていない。
 現在の典型的な派遣労働は、企業が労働者を募集した後に派遣会社と契約させる方法で、「派遣労働の意味が完全に変わった」と全国総工会の担当者は語る。
 「労働契約法」では、「労務派遣は一般に臨時的、補助的もしくは代替的な業務の職場で実施されるべきである。」と規定されている。政府はこの法律を通じて派遣会社の設置基準を厳しくし、派遣労働者の導入基準を限定することで、派遣労働の総量を制限し、派遣元と派遣先による脱法行為を防止し、最終的に「同一労働同一賃金」を実現することを目指すとしていた。
しかし、「労働契約法」の実施以降も、派遣労働の数は激増している。
 派遣先企業は、労働者と直接契約ではないので「労働契約法」にある義務を回避している。自由に賃金や福利厚生を引き下げたり、自由に解雇したり雇い止めをする。その一方で派遣労働者の企業への貢献は一切ないものとされ、就業年数は永遠にゼロ年のままだ。
 報告書によると、派遣労働は石油、化学工業、電信、金融、銀行、航空、鉄道などでより深刻である。

●ベトナム
  ヤマハのバイク工場で3千人が賃上げ要求スト

 3月8日、ハノイのヤマハ・モーター工場の労働者3千人が賃金と手当の引き上げを要求してストに入った。9日にも、新たに2千人が出勤しなかった。労働者たちは基本給を月165万ドンから203万ドンに引き上げ、住宅手当や他の社会保障手当を引き上げることを要求している(1万ドン=約40円)。
 会社側はすでに一部の労働者に対する賃上げに同意しているが、それは2月末に政府が石油価格を18%引き上げる前のことだった。石油価格値上げに伴って3月から電気料金が15%上がっている。2月の物価は前年同期と比べて12・31%上昇している。

●ビルマ
  靴工場で千500人が賃上げを要求してスト

 ラングーンのラインターヤー工業地区のタイイ製靴工場の労働者1千500人が賃上げを要求して3月8日からストに入った。
 工場では1日12時間労働で、時給が約60円である。経営側は同10日に時給15キャット(約7円)の引き上げを提案したが、労働者はストを継続している。午前7時の始業後も労働者たちは工場の外で座り込んでいる。4台の警察車両が動員されており、一般車両は工場への進入を阻止されている。
 2月にはラングーンの2つの衣料工場で約700人の労働者がストによって賃上げを勝ち取っている。
 ビルマでは昨年、ラングーンでストが続いたことを契機に新しい労働法の制定が進められているが、依然として労働組合の活動への規制は厳しく、ビルマ労働組合連盟(FTUB)の活動家30人以上が拘留されている。

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