アジア@世界
喜多幡 佳秀 ・訳(APWSL日本)
884号

★バングラデシュ:ビル倒壊被害者・犠牲者への補償を! 国際キャンペーン

 昨年4月24日にバングラデシュ・ダッカのラナプラザ(8階建ての商業ビル)の倒壊で、このビルに入居していた衣料工場の労働者3千人以上が生き埋めになり、1230人以上が死亡した(多数の労働者が行方不明のままになっており、死傷者の正確な数は不明)。
 クリーン・クローズ・キャンペーン、インダストリオール、UNIなどの市民団体・労働組合は「衣料ブランドは補償を払え!」と要求する共同声明を発表した。
 すでに、これらの団体の働きかけによって昨年末に、ラナプラザの負傷者と犠牲者家族に対する補償のための包括的な枠組みとして「ラナプラザ協定」が締結された。(本誌2月1日号を参照)


 同協定はILOの労災補償の基準に準拠した補償請求の手続きや補償基準を規定しており、広範な国内および国際的な専門家たちがその効果的な実施に協力する。
 今年1月には信託基金が設立され、企業や団体・個人からの献金を募っている。共同声明は、ビル倒壊1周年にあたる4月24日までに4千万ドルが必要だと訴えている。特に、ラナプラザで操業していた工場から輸入していたブランドをはじめ、バングラデシュから輸入している全てのブランド、および国内の全ての衣料工場の所有者に補償金の支払いを促している。

 

*生存者と犠牲者家族の困窮

 

 インダストリオールのウェブによると、ラナプラザの工場と取引関係があった28社中、2月20日時点でラナプラザ協定に署名した企業は、プライマーク(アイルランド)、ロブロウ(カナダ)、エルコルテ・イングレス(スペイン)、ボンマルシェ(フランス)の4社。(後に、スペインのザラ、デンマークのマスコットも署名)、ウォルマート、チルドレンズプレイス、マンゴ、カルフールなどの有力企業は補償を拒否している。これらの企業からの補償金がなければ必要な4千万ドルの確保は困難であり、また、すでに支払いを確約しているプライマークも動揺しはじめている。


 ラナプラザ倒壊の生存者と犠牲者家族はこれまで、補償としてプライマークやロブロウが自主的に支払った救援金とバングラデシュ政府からの見舞金(犠牲者中777人に対し総額225万ドル)しか補償を受け取っておらず、困窮している。

 ラナプラザ協定の補償額は個別事情とニーズを基に算出され、例えば重い身体障害を負った人には、生涯にわたり現行賃金の60%、3人以上の扶養家族(国内法で定義されている)がいる犠牲者には現行賃金の60%が支払われる。
 協定は行方不明者についても言及していることは重要である。というのは、まだ遺体のDNA鑑定の結果を待っている家族が多数存在し、また、政府が犠牲者数を少なく見せるために遺体を遺棄してしまった疑いもあるからである。
 補償金の支払いが開始されるには、当面1千万ドルの基金が必要だが、バングラデシュの衣料産業の年間売上げ220億ドルを考えれば、ごく小額である。

(カナダのウェブ紙ラブル、2月27日付より)

 

*ビル倒壊の生存者が米国でスピーキングツアー

 

 2月上旬に、バングラデシュの衣料労働者のレバ・シクデルさんと、バングラデシュ労働者連帯センターのカルポナ・アクテルさんが、スウェットショップ(搾取工場)に反対する学生連合主催のスピーキングツアーに参加した。同連合は大学への衣料品納入企業に対してバングラデシュ工場安全協定への署名を要求している。


 レバさん(18際)は、ラナプラザ倒壊で生き埋めになり、3日目に救出された。彼女は米国上院外交委員会のバングラデシュの労働者の権利に関する公聴会と、ジョージ・ミラー下院議員主催の集会で証言し、「(工場の経営者が)私たちをこのように扱うのは許されない。私たちは人間だ」と訴えた。
 ビル倒壊の当日、前日にビルに大きな亀裂が発見され、退去命令が出ていたことから、労働者たちはビルに入るのをためらったが、給料を払わない、仕事がなくなるという管理者の脅しによって就労を強制された。
 レバさんは親が貧しく、5人の子どもの末っ子だったこともあり7歳から住み込みの家事労働者になり、14歳の時にダッカへ出て衣料工場で働くようになった。
 ビルが倒壊したとき、レバさんは機械に挟まれ動けなくなった。近くに倒れていた仲間は大量の血を流していた。二人で言葉を交わしているうちに、仲間の声が途絶えた。彼女はその後、痛みをこらえて移動し、救助を待った。


 事故後、レバさんが受け取ったのは519ドル(賃金の約7ヵ月分)だけで、すでに食費や医療費で使い果たしてしまった。彼女の夢はミシンを買い、故郷に帰り店を出すことだ。

(エコ・ファッションを提唱するオンライン誌「ecouterre」より)


 米国のレイバーライツは4月24日を「グローバル・アクションデー」とすることを呼びかけ、米国では賠償を拒否するチルドレンズプレイスとウォルマートに向けたデモや、全国の大学での行動を計画している。

 

*工場安全調査の第一次報告書が公表される

 

 昨年5月に締結された工場安全協定(本誌13年8月1日号および同15日・9月1日合併号を参照)は、その後、国際的に拡大し、現時点で150の企業が署名している。
 同協定に基づいて、独立的な専門家による対象工場の安全調査が実施されており、調査結果の第1次報告書が3月10日に同協定のウェブに公開された。


 第1次報告書は昨年12月に実施された10の工場の調査結果の詳細である。それによるとラナプラザ規模の欠陥は見つからなかったが、天井への過剰な負荷、電線の露出、非常口のロックなど改善を要する点が見つかっている。このうち2つの工場は改修工事のため一時的に操業を停止した。
 このあと、今年2〜9月に、14の国際的調査チームが国内の技術者と協力して、合計約1500の工場の検査を実施する。

(インダストリオールのウェブ等より)

 

*相次ぐ労組リーダーの解雇

 

 国際的圧力により、衣料工場を巡る状況が変わりつつある一方、経営者による労働組合活動への攻撃や不当労働行為が続いている。
 政府は昨年7月に、米国政府による特恵措置停止等の圧力に対応して、衣料産業の労働者の団結権を全面的に認めるよう労働法を改定したが、組合結成にあたっては職場の30%の労働者の署名が必要等の規定が含まれており、インダストリオールによると、特に小規模の工場において依然として組織化は困難である。バングラデシュの衣料労働者の組織率は5%で、組合リーダーへの解雇や組合結成の妨害が頻繁に起こっている。


 ダッカの米国大使館は、衣料産業に関する政府委員会に対して、最近における労働組合リーダーへの解雇や退職強要の増加について警告。2月13日には米、英、EU、カナダ、オランダの大使が、この問題で同委員会と会合を持った。

 米国の人権団体、ヒューマンライツウォッチは同6日に、ダッカの21の工場の労働者47人の聞き取りに基づく報告書を発表し、労働組合活動に対する妨害の多くの具体例を示している。

 米国大使館は米国AFL・CIOが明らかにした16工場での不当労働行為についても独自に調査を行い、警告している。

 

 

★中国:深センのIBM工場で山猫スト

 広東省深センのIBM工場で3月3日から、千人以上の労働者が山猫ストに入っている。
 同9日付のロイターは、「IBM工場の山猫ストは、この国の労働市場で進行している構造変化に伴って労働者が大胆になり、問題を自分たちの手で解決しようとするようになり、多国籍企業にとってのリスクが高まっていることを示している」と報じている。


 この工場はIBMの低価格サーバーを製造しているが、今年1月にレノボ(中国のパソコン・メーカー)が23億ドルで買収することが合意された。経営陣は3月3日に、新しい経営体制への移行の条件を発表したが、山猫ストはこの直後から始まっている。


 7日付eコマース・タイムズ紙によると、同3日のIBM側の提案は、退職希望者には退職金プラス6千元(1元は約16.5円)が支払われ、継続雇用希望者は自動的にレノボに雇用されるが、6千元は支払われないというものである。労働者は同12日までにどちらを選択するかを回答するよう求められている。


 労働者たちはIBM側の提案が退職金に関する国内法の規定に違反していると主張し、会社側に異議申立書を提出した。労働者たちはまた、労働時間の規制の順守、定期的な健康診断の実施、妊娠中および出産後の女性労働者への特別の手当等を要求している。


 中国では昨年8月にアポロタイヤ、11月にノキアと、外資企業での争議が相次いでおり、ロイターによると、IBMの労働者はこれらの争議についてインターネット等で情報収集、分析して自分たちの要求や戦術に生かしている。
 「このストライキは中国経済が失速する中での労使紛争の新しいパターンに符合している。労働力不足の深刻化は労使間の力関係を転換させているし、スマートフォンやソーシャルメディアは労働者の組織化を助け、知識を向上させている」。(ロイター)


 3月12日付のサウスチャイナ・モーニングポスト紙によると、IBMは10日、ストライキに参加していた労働者19人を職務命令違反だとして解雇した。同紙によると、多くの労働者はレノボでの雇用を望んでおらず、退職金の増額を求めて依然として工場敷地内で行動を継続している。

 

 

 

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