アジア@世界
喜多幡 佳秀 ・訳(APWSL日本)
897号

★香港:占拠運動に連帯して工盟がゼネスト

 香港では2017年の次期行政長官選挙(初めての直接選挙となる)をめぐって、中国全人代常務委員会が8月31日に、民主的選挙を否定する新制度(「指名委員会」の指名がなければ立候補できない)を発表したことを契機に、香港学生連合会を先頭とする授業ボイコット、金融街(中環地区)占拠などの抵抗運動が拡大している。警官隊による弾圧にも関わらず、9月末から10月初めにかけて、連日数万人がデモや街頭占拠などの行動に参加している。
 香港の独立的労働組合センター、職工会連盟(工盟)は、学生・市民の闘いに連帯し、9月29日にゼネストを呼びかけた。
 以下は工盟の「ストライキ宣言」(同28日付)である。
 
 香港職工会連盟は、非武装の学生・市民に対して警察が暴力を用いたこと、政府が香港の言論の自由と集会の自由を強権的に弾圧したことに対して、強く非難する。
 われわれは中国全人代による結論および香港政府が平和的請願者に対しての粗暴な弾圧に抗議するために、香港のすべての労働者が明日ストライキに立ち上がることを呼びかける。労働者と学生は団結し、独裁政権から政治を民衆の側に取り戻さなければならない。


 9月26日から政府庁舎前で平和的集会が始まり、何千人もの市民が連日駆け付けてきた。参加者が多数であるにもかかわらず秩序があった。しかし警察は何度もペッパーガス、警棒でデモ参加者に襲いかかり、ヘルメットと盾で完全武装した機動隊に対して学生と市民は毛布や傘で自分たちを守るしかなかった。たび重なる弾圧に対し、デモ参加者は両腕を掲げて非暴力の意思を示した。しかし9月28日夕方、警察は催涙弾でデモ参加者を襲撃し、多くが負傷した。


 この不正義の政権による暴力的弾圧に対して、労働者は前面に立たなければならない。香港のすべての労働者が立ち上がれば、独裁政府はその膝を屈するしかない。民主主義と正義を防衛し、強権的弾圧に対抗するために、われわれは学生を孤立無援のまま闘わせるわけにはいかない。工盟は香港のすべての労働者が明日(9月29日)、ストライキに突入し、政府庁舎前に駆け付けて学生・市民を支援することを呼びかける。 


 ストライキ要求は次の通りである。
 1.警察は逮捕したデモ参加者を即時釈放し、拘留期間中の人々の基本的人権を保障すること
 2.政府と警察は平和的集会に対する暴力的弾圧を停止し、謝罪すること
 3.全人代常務委員会は偽りの普通選挙案を撤回し、香港政府は政治改革諮問を再度行うこと。労働者は公平で制限のない選挙制度の実現で、ビジネス界に偏重した香港政府の姿勢をただすことを一貫して要求してきた。しかし全人代常務委員会の偽りの普通選挙案は、古い酒を新しいボトルに入れ替えたに過ぎない。 
 4.梁振英(リョウシンエイ)香港行政長官は暴力的弾圧の責任を取って即時辞任すること

 

*親中国派労働組合は学生を非難

 

 一方、香港の親中国派ナショナルセンター、工会連合会は同27日、学生たちの行動を非難する声明を発表した。
 以下は工会連合会の声明の抜粋である。
 「昨晩(同26日)、一部の学生が呼びかけた政府総部への突入行為について、工聯会は強く非難する。このような暴力行為は、香港の安定的繁栄と2017年の行政長官普通選挙への道にとって、なんら得るところがない。工聯会は社会各界に対して理性的に共同で香港の政治制度の発展を進めるよう呼びかける。
 「……学生の突入事件は多数の負傷者を出したが、これは学生および集会参加者を危険にさらしたうえに、法律を守らない行為であり、社会的に歓迎されないものである。
 「……いわゆる『全人代の決定』や『梁行政長官は対話を拒否している』というのは口実にすぎず、実際には香港が安寧であることを望まず、香港の普通選挙を望まない活動家による計画的な行動であった。工聯会は香港の破壊を画策した者とその行為を厳しく非難する」。

……翻訳・稲垣豊

 

*労働者の闘いと香港財界の動き

 

 小中学校の教員の80%が加盟している香港職業教員組合は民主化運動への支持を表明し、通常の授業の代わりに、香港の政治と社会運動についての授業を行った。
 コカコーラ工場では配送労働者200人がストに参加。社会福祉部門の労働者2千人も集会に参加。先に労働条件をめぐって40日間のストを闘った港湾労働者も、今回はこのストを支援した学生・市民に連帯するためのストに入った。
 また、20の大学の520人の学者・研究者・管理者が民主化運動と学生の授業ボイコットを支持するという共同声明を発表している。


 香港出身で、ロンドン・スクールオブ・エコノミクスに在学中のミン・チュンタン氏は、中環占拠は民主主義のための闘いというよりも、社会的公正を求める闘いであり、新自由主義の下での低賃金、格差の拡大に対する不満の爆発であると指摘している。

 同氏によると、香港市民の間で中国の影響の増大(中国本土からの移住、報道の自由への圧迫、愛国教育の強要など)への反発や危機意識が拡大しているのは事実だが、市民にとってもっと直接的な問題は日常生活における困難の増大である。5人に1人が貧困ライン以下の状態にあり、所得格差は世界で最大レベルである。最低賃金(2010年に初めて導入された)は1時間28香港ドル(1香港ドルは約14円)であり、団体交渉権も、失業保険も、年金もない。平均的な週労働時間は49時間である。住宅費は世界最高レベルである。


 同氏は、「梁振英行政長官の問題は、彼が民主的に選出されたのでないことにあるのではなく、彼が北京政府と香港のエリートという2つのグループにのみ奉仕していることにある」と指摘している。だから香港の大富豪たちは中環占拠の行動に脅威を感じている。


 世界8位の富豪の李嘉誠(リカシン)(長江実業グループ会長)や香港上海銀行(HSBC)をはじめ大資本家たちは中環占拠行動を強く非難している。彼らの関心は、この運動が世界の金融センターとしての香港の地位に及ぼす影響であって、香港市民の民主主義的権利は重要な問題ではないのである。 (「カウンターパンチ」紙同30日付)


 また、董建華(トウケンカ)を団長とする香港経済界の代表団は、9月22日に北京で、習近平国家主席と会見している。この会見の中で習氏は、香港に対する中央の基本方針と政策に変化はないし、今後も変化することはないことを強調している。 (「人民網・人民日報」同23日付)

 

*国際的連帯の拡大

 

 工盟の呼びかけに応えて、ITUC(国際労働組合総連合)、米国AFL・CIO、韓国民主労総をはじめ各国の労働組合が香港の労働者・市民の民主化運動に連帯を表明し、香港警察による弾圧に抗議の行動を起こしている。

 

 

★カンボジア:衣料ブランドが賃上げへの協力を約束

 H&M、ZARA、プライマークなど8つの国際的衣料ブランドが9月18日付で、衣料労働者の賃上げ要求を支持し、賃上げを考慮した価格設定を行う旨の書簡をキート副首相と衣料産業の経営団体に送った。
 この前日の同17日、プノンペンをはじめ各地で、数千人の衣料労働者が最低賃金の引き上げ(現行の月100ドルから177ドルへ)を要求して集会を開いている。重装備の警官隊が配備されたが、1月に起こったような暴力的な衝突は起きていない。


 国際的衣料ブランドの書簡は「生産国のすべての労働者は生活賃金を受け取る権利を持っており、賃金の引き上げ分は製品価格に反映されるようにする」、また、「ILOの専門家の意見を取り入れた公正な団体交渉の実施を支援する」と述べている。
 これはインダストリオールを始めとする国際的労働組合の運動の成果である。同労組のジルキ・ライナ書記長は次のように述べている。

 「ブランドは、賃上げを組み込んで衣料製品の仕入れ価格を引き上げることを約束した。これで工場経営者は賃上げを拒否する言い訳ができなくなった。また、カンボジア政府は最低賃金を大幅に引き上げなければならない。この書簡はまた、労働者の権利の向上や公正な生活賃金、安定した市場の確保のために労働組合が重要な役割を担うことを認めた」。


 一方、カンボジア国内の労働組合や支援団体からは不十分な点も指摘されている。地域の法律教育センターの労働者向けプログラム責任者のモエウン・トラ氏によると、この書簡は最低賃金額について具体的な言及がなく、政府の裁量に委ねている。また、政府への働きかけが中心で、工場の現場や労働組合の声を聞いていない。
 CUMW(労働運動合同組合)のパブ・シナ委員長は、この書簡にはこれらのブランドが現在カンボジアの工場に支払っている金額を引き上げるという具体的な約束は含まれていないと指摘する。
 FTU(自由労働組合)も、この書簡はそれぞれのブランドがCoC(企業倫理規定)で掲げている内容以上ではないと指摘している。


 労働省の広報官のヘン・ソウ氏は、「ブランドからの書簡とは関係なく、最低賃金をめぐる交渉は進められており(10月に完了予定)、国際基準に従っている。最低賃金は国際的ブランドが決めるのではなく、労働省の労働諮問委員会が決める」と述べている。

(英国「ガーディアン」紙9月21日付、「プノンペンポスト」紙9月26日付等より)

 

 

 

 

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