アジア@世界
喜多幡 佳秀 ・訳(APWSL日本)
912号

★エジプト:清掃労働者への差別発言で司法省が辞任

 5月11日、エジプトのマフフーズ・サベール司法相は、同10日のテレビ・インタビューでの「ごみ収集労働者の子どもは判事になるには卑しすぎる」という発言への非難の高まりを受け、辞任した。サベール司法相の発言はソーシャル・メディア上で、以前から反政府派への厳しい判決で批判されてきたエジプトの司法関係者たちのエリート主義と傲(ごう)慢さへの激しい非難を呼び起こした。


 サベール司法相はインタビューの中で、判事の任命における縁故主義という批判についての質問を受けた。質問者は「じゃあ清掃労働者の息子でも判事になれるのですね」と尋ねた。それに対して司法相は「清掃労働者やもっと上または下の人たちに十分な敬意を払った上でですが、判事というものはそれにふさわしい環境の出身でなければなりません。……子どもたちを育て、教育を与えている清掃労働者には感謝しますが、その子どもたちにはほかの仕事があります」と述べた。
 さらに彼は、ごみ収集作業員の子どもが判事になっても、問題に直面し、ストレスに苦しみ、去っていくだろうと述べた。


 同11日、カイロ清掃作業員組合の代表のシャハタ・ムクディス氏は「ヨウム・アル・サベア」紙の取材に応えて「ごみ収集作業員の息子はあなたの息子より賢くなるかもしれない。それに、ごみ収集作業員の息子は自分の父親を恥じることはない」と述べている。
 サベール司法相の辞任を求める声が広がった。弁護士のグループ、ハカニヤフは検察庁に、憎悪を煽り憲法に違反した刑事犯罪の容疑で司法相を取り調べることを要求した。

 
 サベール司法相の発言は、シシ大統領が自らを貧困層と周辺化された人々を代表するリーダーとして売り込もうとしているイメージと正反対であることから、一層困った問題となった。
 ムバラク政権を打倒した11年の大衆蜂起の主要な目的のひとつは社会的公正だった。しかし、9千万人の人口のうち約半数が貧困ライン以下で生活しているエジプトの、階級格差が組み込まれたシステムに変革をもたらすためには、ほとんど何もなされていない。

 エジプトの1952年の「革命」は、より平等な社会を実現しようとする最初の試みだった。この政変は数世紀に及ぶ封建制を終わらせ、社会主義的政策を導入した。その後のエジプトの大統領は比較的低い階層の出身だった。たとえば50,60年代に大統領だったナセルの父は郵便配達人だった。
 しかし、エジプトが平等と能力主義の実現に近づいたことはなかった。今日まで裁判官、外交官、軍や警察の上位階層は大部分が貧困層には縁のない存在だった。
 ムバラクの29年間の支配の間、不平等は急拡大し、政府高官と富裕な企業家が同盟を組み、貧困層のニーズを無視してきた。


 「問題があるのは清掃労働者ではなく、われわれの階級社会だ」とラドワ・アボウル・アズムさんはフェイスブックに投稿している。

 彼女は大きなメディア企業のコンテンツ・マネージャーであり、人気のブロガーでもある。

 「大臣は間違っていない。彼は本当のことを言ったにすぎない。それによって私たちを平手打ちしたのである」と彼女は言う。

(「アルジャジーラ」5月12日付)

 

 

★インド:看護師の劣悪な労働条件と感染の危険

 国際ナース・デーの今日、私たちはこの高貴な職業に従事している人たちが経験している危険と辛苦に目を向ける。
 バニ・ビラス病院のスタッフ・ナースが医師の緊急手術の補助をしている時に誤って自分に針を刺してしまい、その結果生命にかかわる病気に感染した。
 これは孤立した出来事ではない。州全体で、特に公立病院で働く多数の看護師が患者の世話をしている時に重大な感染にさらされる危険を冒している。しかも看護師たちには危険手当もないし、医療費手当もわずか月100ルピーである(1ルピーは約2円)。


 公立病院の看護師は長時間勤務で、しかも低賃金である。さらに公立病院では看護師の定員が1万1500人だが、5千人以上が充足されていない。そのため看護師1人当たり4人の患者というインド看護協会の基準が満たされていない。


 カルナタカ州看護師協会の書記長のビジャイ・ナイクさんによると、州全体の平均の看護師・患者比率は1対140である。「看護師は契約に基づいて雇用されていますが、賃金が非常に低いため状況は劣悪です。最後の採用は2010年に行われました」と彼は言う。

 国際ナース・デーの5月12日、全州の公立病院の看護師たちは賃上げ、労働条件改善のほかに危険手当、休日出勤手当、待機手当を要求している。

 彼ら・彼女らはまた、80年以降見直しが行われていない昇進・採用規則の改定を要求している。


 カルナタカ州看護師協会の前会長のカマラ・フガーさんによると「1989年までは、SSLC(中等教育修了証明書)を持っている志望者が看護学の学位コースの受講資格を認められていましたが、89年以降、PUC(大学就学前課程)を修了した者だけが受講資格を認められるようになりました。しかし、採用の際にSSLCの成績は考慮されますが、PUCの成績は考慮されません。これは変える必要があります」。 

(「ザ・ヒンドゥー」紙5月12日号)

 

★ギリシャ:緊縮政策で解雇された4千人の公務員を再雇用

 5月7日、ギリシャ国会は緊縮政策の下で解雇された(または解雇予告された)学校警備員、清掃労働者、公務員4千人を再雇用する法案を採択した。
 これはギリシャ政府が同11日に予定されているEU財務相会合を前に追加融資を求めている真っ只中に、国際債権団からの執拗な圧力にもかかわらず行われたものである。


 ギリシャは5月12日に返済期限となる7億5千万ユーロの返済資金が不足している(その後の報道では、期日通りに返済)。
 国際債権団は融資継続の条件として、公務員削減、国有財産の民営化を含む歳出削減策を要求してきた。
 昨年、財務省によって解雇された女性清掃労働者32人がフランス・ストラスブールの欧州議会を訪れて、窮状を訴えた。清掃労働者たち(より低賃金の労働者によって代替された)の抵抗はギリシャ全国でよく知られている。


 5月7日に採択された法は、EUおよびIMFの融資条件(5人の離職者に付き1人の雇用を認めている)には抵触していない。しかし、この動きは公共放送局ERTの再開と相まってユーロ圏の交渉相手からの批判を受けるだろう。

 ギリシャ側の交渉代表を務めるツァカロトス副外相はBBCの質問に答えて、「EUとIMFはギリシャが少し異なることをやろうとしていることに支持を示すべき時だ」と述べている。

 

 同外相によると、「われわれは当初から、われわれには越えられない線があること、そしてわれわれが柔軟性を必要としていることを言ってきた。われわれが支持しなければならないことがあるし、われわれはそれを異なる論理で議題に乗せている。なぜなら、異なる論理が全くないのなら、われわれは最初から旧体制を支持しておけばよかったのだから」。

(「BBCニュース」ウェブ版5月7日付より)

 

★メキシコ:セクハラに抗議した労働者20人をマツダが解雇

 メキシコ中央部、サラマンカのマツダの新工場で、上司によるセクシャル・ハラスメントを受けていた労働者を支援した労働者20人が解雇された。
 労働者たちによると、この上司は頬にキスをする習慣を利用して性的関係を求めようとした。彼は仕事時間中に被害者の女性(複数)をつけ回し、彼女たちの上に覆いかぶさろうとした。


 従来、メキシコの自動車労働者の大部分は男性だったが、サラマンカ工場があるグアナフアト州では女性が自動車労働者の半数を占めている。
 事件当初の昨年5月、1人の労働者が会社の苦情処理手続きに従って会社と組合に苦情を提出したが、状況は変わらなかった。次に労働者たちは証言を添えて政府機関に訴えたが、やはり状況は変わらなかった。
 そこで「私たちは抗議することを決めた」と解雇された20人の1人であるタデオ・ベラケスさんは言う。

 「私たちはみな、この上司から嫌がらせを受けていた。あまりにひどかったので、よい環境で働くのは非常に難しかった。その後、仲間の女性がこの上司からセクシャル・ハラスメントを受けていることを知った」。


 3月に労働者たちは順法ストを組織した。この行動の後、労使会談が行われ、会社と組合がこの問題に対処することが合意された。

 もう一人の被解雇者、エドガー・カペティリョさんによると、「今回の行動に対する懲罰処分はないと聞いていたし、組合との合意でもそのように確認されていた。しかし、15日後に私たちは業務から外された」。何の説明もなかった。解雇された20人は全員、男性である。

(米国「レイバーノーツ」誌5月12日付より)

 

 

 

 

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