★スペイン:「広場占拠運動」の活動家がバルセロナ市長に
5月24日にスペインで一斉地方選挙が実施され、左派政党「ポデモス」と、ポデモスの支持を受けた地域政党が躍進した。
二大政党の人民党と社会党は得票率をそれぞれ、前回(11年)の37%、27%から27%、25%へと減らした。初めて一斉地方選挙に参加したポデモスは(単独ではなく他の左派政党との連合で)、約14%を得た。
前回の地方選挙では、経済不振と社会党への不満の高まりの中で人民党が圧勝した。今回の選挙で人民党のラホイ首相は経済回復の予想を強調し、未知数の左派政党に経済運営を任せることはできないと訴えた。しかし、人民党は議席数を大幅に減らし、多くの州や都市でポデモスや市民党が議会においてキャスティングボートを握ることとなった。
カタロニア州の州都バルセロナ(人口160万人)では、11年の広場占拠運動や住宅占拠運動の活動家のアダ・コラウさん(41歳)が市長に選出された。コラウさんは地域政党「バルセロナ・エン・コム(みんなのバルセロナ)」の代表で、住宅強制退去をやめる、公営住宅を増やす、富を再分配する等の公約を掲げた。
首都マドリードでは人民党が第一党を維持したが、僅差で第二党となった「アオラ・マドリード(今日のマドリード)」のマヌエラ・カルメナさん(71歳)が6月の市議会で市長に選出される可能性がある。同党も広場占拠運動の活動家によって結成された地域政党でポデモスの支持を受けている。
第三の都市バレンシアでも左派政党の連合が成立すれば左派の市長が誕生する。
英国「ガーディアン」紙は次のように報じている。
「マドリードとバルセロナでの左派連合の躍進が示唆(しさ)することは、今後スペインの二大都市における政策課題がスペインの『怒れる者たち』の運動をルーツとする反既成勢力の政党の優先課題によってけん引されるということである。
年末に実施される総選挙を前に、今回の選挙は有権者たちのムードをテストするチャンスだった。示されたメッセージは明確だった。スペインの人々は、フランコ独裁体制の終焉(えん)以降のスペインの政治を特徴づけてきた二大政党による支配を終わらせることを支持した」 (同紙5月25日付)。
米国の公共ラジオ放送NPRによると、「この数日、スペインでもっとも頻繁(ひんぱん)にツイッターで転送されている画像は、13年6月に警官隊がアダ・コラウさんを逮捕している写真である。コラウさんをはじめとする反貧困デモの参加者が、住宅からの退去強制に反対してバルセロナの銀行を占拠しようとしていた時の写真で、『歓迎、新市長』というメッセージが添えられていた」 (同25日付)。
コラウさんは住宅強制退去に反対する直接行動で数十回警察に拘束されている。2年前には国会の公聴会で住宅強制退去の問題について証言し、同席した金融産業の代表を激しく非難し、議会による懲罰を受けた。この証言によって彼女は緊縮政策と失業に苦しむ多くの人々の共感を得た。彼女は広場占拠運動に先立つ09年から、住宅強制退去に直面している人たちを支援するグループ、PAHを結成して活動を始めてきた。
今回の市長選挙に向けて、「バルセロナ・エン・コム」のほか、「ポデモス」、「カタロニア緑の党のためのイニシアチブ」、「統一オルタナティブ左翼」などの政治グループや市民団体が力を合わせた。
同24日夜、コラウさんは選挙本部前で支持者たちを前に、「ダビデがゴリアテに勝ったのだ」と語った。また、オーストラリアの「リンクス」誌のインタビューに答えて、「……選挙運動はこのような『民主主義革命』の流れの中で形成された。私たちは誇るべきである。他の国だったら反応は全く違っていただろう。しかし市の政治は歴史的に、下から上へ、人々に近い所から破裂が起こる場所なのだ」と述べている。
★フィリピン:サンダル工場の火災で72人が死亡
5月13日午前11時すぎに、マニラ首都圏北部のバレンスエラ市のサンダル工場で火災が発生し、労働者72人が死亡した。
火災が発生したケムテックス・マニュファクチュアリングの工場は2階建て工場が2棟隣接しており、1つの工場の1階部分から出火し、2棟とも全焼した。警察によると、出火の原因は1階出入口付近で行われていた溶接作業の火花が化学薬品に引火し、大きな爆発を起こしたことである。
「インクワイヤラー」紙同15日付によると、2階部分に取り残された労働者たちは必死で助けを求めたが、窓に鉄格子が嵌(は)められており脱出できなかった。消火後、工場の2階部分で69人の遺体が折り重なるように残されていた。
消火を担当したレーガン消防隊長(当時)によると、2階の階段近くの非常出口に鍵がかかっていた可能性について調査している。また、人員の数や溶接の許可に関して、違反があった可能性がある。
また、50人以上の作業場にはスプリンクラーの設置が義務付けられているが、この規則が守られていなかった。
ガチャリアン市長は、工場の建設許可は1996年に発行されており、当時の担当者の判断は適正だったと述べている。
この工場は二百数十人の労働者を雇用していた。この地域では同様のサンダル・スリッパ工場が集まっており、国内向けの安い製品を製造している。
近くの合板工場で働くロドリゴ・ナボールさん(31歳)は、姉のベルナーディタさん(32歳)と妹のジェニリンさん(26歳)が犠牲になった。
彼はAFPのインタビューに答えて、「もう姉と妹が生きているという望みはないだろう。家族は、起こったことに怒るしかない。決して忘れない」と語る。彼によると、彼女たちはよく、工場の中での悪臭(化学薬品の刺激臭)について不満を言っていた。賃金は出来高によって決まり、少ない日は1日300ペソだった(1ペソは約3円)。
リサンドロ・メンドーサさん(23歳)は反対側の出入口から逃げ出して難を逃れた。彼はこの工場で働き始めて5カ月になるが、安全についての講習や訓練を一度も受けていないと語っている。どこへ逃げたらよいかも知らされていなかった。彼は化学薬品の混合の作業に1日12時間、週7日従事して、賃金が3千5百ペソ(週)だと言う。
ジャネット・ビクトリアノさんは偶然、正面出入口の近くにいたため脱出できた。彼女も安全基準が無視されてきたと言う。
「ブラトラット」紙、同16日付によると「職業上の健康と安全の増進のための研究所」(IOHSAD)などのNGOとKMU(「5月1日運動」)などの労働組合は独自の調査をもとにケムテックスの安全法規への違反を告発し、市長や労働雇用省の監督責任を追及している。
★カタール:FIFAは労働者の権利を犠牲に
以下はITUC(国際労働組合総連合)の5月27日付の声明である。
ITUCは米国司法省によるFIFA(国際サッカー連盟)の9人の役員と5人の会社役員に対する汚職容疑での起訴とスイス検察庁による捜査開始に関するジョセフ・ブラッターFIFA会長の立場を容認できない。
ITUCのシャラン・バロー委員長は次のように述べている。
「FIFA会長としての17年間にFIFAをめぐる腐敗の腐臭が拡大している中で、ブラッター氏はただちに辞任し、スイス当局はFIFAを司法監督の下に置くべきである。
今日、汚職の容疑に注目が集中しているが、世界はカタールで2022年ワールドカップのためにインフラ建設工事の工期短縮が求められ、そのために今も移住労働者たちが死亡していることを忘れてはならない。FIFAは労働者の権利の尊重をカタールでのワールドカップ開催の条件としなかった。そのために困窮化した労働者が犠牲を払い続けている」。
BWI(国際建設・大工労働組合)はカタールにおける労働改革を求める運動を積極的に進め、多国籍の建設会社に対して労働者の権利のための11項目のプランを約束させてきた。BWIのアムベット・ユソン書記長は次のように述べている。
「FIFAが人間らしい待遇よりも金が大事だと考えている中で、労働者は自分たちの生命をその犠牲にしている。FIFAの現執行部は、腐敗の問題でも、労働条件や人権の問題でも自分たちが国際法よりも上にあると考えている。今こそ変革とFIFAの刷新の時だ。われわれはFIFAを新しい道へ向かわせ、労働者の権利や人権に関する国際的な原則を導入するための十分な大胆さを持ったリーダーを必要としている」
FIFAの新たなスキャンダルが明らかになったこの日、「ビジネスおよび人権リソースセンター」がカタールにおける多国籍建設企業の行動(あるいは無行動)に関するレポートを発表した。このレポートによると、一部の企業だけが真剣な努力を行っている。ユソン書記長はこう指摘している。
「カタールの労働者は雇用斡旋人に騙され、下請け業者に搾取されているが、現場の労働条件に最終的な責任を負っているのは大手建設企業である。これらの企業は自分たちの労働者の権利を守るために何をしているのかという問いに答えなければならない」。
ロシアの国内でも議論が起こっている。ITUC加盟のFNPRとKTRは、2018年のワールドカップのインフラ建設工事を請け負う民間企業が受刑者を使役することを許可するという提案を非難している。