アジア@世界
喜多幡 佳秀 ・訳(APWSL日本)
889号

★タイ:軍によるクーデターと言論弾圧に抵抗が拡大

 5月22日にクーデターにより政権を掌握したプラユット陸軍司令官と「国家平和秩序維持評議会」はクーデターに反対する活動家、知識人を次々と逮捕。5人以上の集合や、軍批判の報道を禁止、フェースブックやユーチューブなどのソーシャルメディアにもサイトの閉鎖などの規制を進めている(すでに数百のサイトが閉鎖中)。


 5月7日の憲法裁判所の決定により失職したインラック前首相と政権与党のプアタイ党(タイ貢献党)は、軍との対決を避け、抵抗を呼びかけていないが、市民・学生や左派活動家を中心にクーデターに対する抵抗が拡大している。
 軍政批判を続けているウェブ紙、「プラチャタイ」によると、同25日に北部のチェンライとチェンマイでクーデターに抗議していた活動家や市民9人が逮捕された。前日にもチェンマイで7人が逮捕されている。この日チェンマイの各所で30〜50人の人たちが厳戒態勢の中でクーデターに抗議した。午後7時前には、ショッピングセンターでプラカードを掲げ、「沈黙」を象徴する赤のバツ印が書かれたマスク姿で15分間、不服従を訴えた。チェンライでは、バンコクでの抗議行動を真似て、マクドナルド店の前で集会が行われた。軍と警察が30分後に駆けつけて、集会を解散させた。
 同22日夜から翌日にかけ、「赤シャツ」派のコミュニティー・ラジオ局が次々と軍によって閉鎖され、9人のリーダーが逮捕された。
 「赤シャツ」派のリーダーで、労働運動活動家のソムヨットさん(「不敬罪」で服役中)の自宅も強制捜索を受け、妻と息子が拘束された(翌日には釈放)。
 「赤シャツ」派の法律顧問の弁護士事務所が24日に発表した声明によると、150人以上の市民(「ネイション」紙の記者を含む)が逮捕されているが、弁護士接見が拒否され、拘留先も不明である。


 このような弾圧にもかかわらずクーデターへの抗議行動は拡大しており、フェースブック等を通じて全世界に共感が広がっている。
 昨年末以来の反政府デモと今回のクーデターの背景について、「フォーカス・オン・ザ・グローバルサウス」のワルデン・ベリョさんは次のように指摘している。


 軍は対立する両派の調停失敗をクーデターの理由としているが、このクーデターは「保守的な王党派の有力者たちが、01年以来の選挙ですべて勝利してきたポピュリスト的政治ブロックの統治権妨害のために巧妙に用意した台本の最後のステップ」にほかならない。
腐敗への批判によって中間階級をデモに駆り立ててきた主要勢力は当初から「ある種の不安定を作り、軍の介入を引き出し、新しい政治秩序の力とする」ことだった。
 タイの中産階級は、1992年に軍政を退陣させた主役だったが「最近では、エリート主義的で、露骨に反民主主義的な主張の支持者に変身してしまった」。


 バンコクの中産階級は民主主義を要求したが、民主主義体制が確立されるや、自分たちが少数派だと気付いた。台頭する農村の中産階級が社会・政治への全面的な参加を求め、平等の権利と公共財への権利を求めるようになったが、都市の中産階級はそれを「貧困層が強欲になっている」と考えるようになった。彼らは、腐敗した政治家が税金を使って、「強欲な貧困層」の票を買っていると感じている。彼らは少数エリートによる支配を永続化できるように憲法を改定しようとしている。しかし、「タイは政治的対立が基本的にはエリート間の対立で、大部分の下層階級が傍観者、あるいはどちらかの支配者の支持者であった20年前のタイではない」。


 「……タクシンは、腐敗していたとしても、ポピュリズムと恩寵(おんちょう)と巧みなバラマキ政策で、選挙では圧倒的多数派を形成してきた。タクシンの目的はエリートの権力独占だったが、動員された社会階層にとっては、エリートから大衆への富と権力の再分配が目的であり、これまで蔑まされてきた人々が尊重されるようになることだった。……タクシン派の赤シャツ運動が腐敗した政治家と貧困層の連合としていかに嘲笑されようが、この運動はタイの周辺化されてきた人々が完全な市民権を勝ち取るための手段となったのである」。

(「フォリン・ポリシー・イン・フォーカス」5月27日付)

 

 

★ウクライナ:鉱山労働者が国際的連帯を呼びかけ

 ウクライナ東部ドネツィク州のクリビイリフ鉱山労働者たちが、ウクライナとロシアのオリガーキー(「寡頭(かとう)制支配階級」、新興財閥を指す)に反対して労働者の国際的連帯を呼びかけている。
 この鉱山を所有するエブラズ・グループはロシアの新興財閥で、その所有者であるアブラモフの資産は75億ドルである。
 以下は、ウクライナ独立鉱山労組・エブラズ支部のオレクサンドル・ボンダル委員長と、ウクライナ自由労働組合連合クリビイリフ地区委員会のユリ・サモイロフ書記による「ヨーロッパの労働者へのアピール」の抄訳である。


 今、世界の関心はウクライナにおける政府支持派と反政府派の対立に集中している。この対立はますます膠着(こうちゃく)し、流血が拡大している。対立が民族間対立に変化する中で、異なる民族の労働者の相互の憎悪が煽られている。
 人々の関心から外れていることは、戦闘が起こっている地域だけでなくすべての地域において、社会的・経済的問題が深刻化していることである。通貨グリブナの暴落、物価上昇、多くの企業における減産によって労働者の実質賃金は30〜50%下がっている。……
そのため、われわれはこの国の社会的安定維持のため、実質賃金の2倍引き上げを要求するほかない。ウクライナとロシアのオリガーキーは、労働者にわずかな賃金しか払わず、すべての利益を海外に移転し、国内では税金を払わないことで、この国を危機に陥れた。
クリビイリフ鉱山(鉄)を保有するエブラズ・スクハ・バルカ(本社ロンドン)で労働争議が起きている。今日、鉱山労働者たちはクリビイリフの町まで行進し、同社のオフィスに小銭を投げつけた。同社が4月に発表した見せかけの賃上げへの怒りのためである。


 われわれはまた、政府当局に正式な鉱山労働者の自衛と武装の承認を要求している。組織された労働者と労働者の自衛は、ウクライナにおける暴力拡大の防止上効果的である。組織された労働者が状況をコントロールできている地区では、大衆行動が大量殺戮に変質することはない。クリビイリフで労働者はマイダン(民主化を要求するデモ)を防衛した。クラスノドン市でゼネストが起こった時も、暴力的衝突を防止した。……
 われわれは、[本社がある]英国の労働者に連帯を呼びかける。情報面での支援や人道的支援に感謝する。しかし、われわれが今もっとも必要と感じているのは、自衛部隊のメンバーのための防護服と無線通信機器である。
 労働者の国際的連帯万歳!
 ウクライナの平和を維持することによって、われわれはヨーロッパの平和を維持するだろう!

 

★トルコ:人命無視の鉱山会社に『人殺し!』の怒声

 5月13日、トルコ西部ソマの亜炭鉱で爆発事故が発生、労働者300人以上が死亡した。イスタンブールでは、鉱山の保有者ソマ・ホールディングズの本社前に多くの人々が集まり、「人殺し!」と叫んだ。事故現場では同僚や家族、住民が生存者を救出しようと必死の作業を続けている時に、警察は同社の本社を守るために、押し寄せる人々に放水を続けていた。


 同社の声明は、「この悲劇的な事故は非常に不運な出来事だった」と述べている。
 最大野党の共和民主党(CHP)は、議会で鉱山の安全点検の要求を拒否した与党・公正発展党(AKP)の責任を追及した。AKPはこの鉱山が安全基準を満たしていたと反論し、エルドガン首相は鉱山の事故はどの国でも起こっていることだと居直った。しかし、民営化された産業と、新自由主義政策を進める政府との結び付きの強化が、労働者の安全に悪影響をもたらしてきたことは間違いない。


 ソマは人口10万人の市で、重要な亜炭の産地であり、亜炭を使った火力発電所もある。エネルギー省は5月初めに、国内のエネルギー需要増大に対応するため、大規模な投資計画を発表している。
 AKP政権は鉱山の民営化、規制緩和、賃金引き下げ政策を進め、安全基準を緩め、「柔軟な」労働時間を導入し、研修の要件を引き下げ、未熟練や規定年齢以下の労働者の就労を許容してきた。今回の事故の犠牲者の一人でケマル・イルディスさんは15歳だった。
鉱山労働者の平均賃金は米ドル換算でわずか500ドルである。事故も頻発している。ソマ鉱山のオーナーは、この鉱山が民営化の後、いかにコスト削減に成果を上げてきたかを自慢している。

 この中で、労働者たちの犠牲はグローバル経済の中でのトルコの地位を高めるという高次の目的のために避けられない「自然災害」として扱われている(「Znet」5月16日付より)。


 現地で救出活動が続く中、5月16日には黒海沿岸地域の鉱山労働者1万人がストに入り、全国でデモが行われた。学生や、労災が多発している造船産業の労働者もデモに加わった。同25日にはイスタンブールで、労働組合が呼びかけたデモに数千人が参加した。
政府は同17日、この事故による死者は301人と発表した。自力で避難した、または救出された労働者は485人である。
 当局は鉱山の所有者を含む8人を「過失によって多数の死亡を引き起こした」という暫定的な容疑で拘束している。

 

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