アジア@世界
喜多幡 佳秀 訳(APWSL日本)
931号

★エジプト
  医師組合が警察暴力に「尊厳のための抗議デモ」

 2月12日、カイロをはじめ全国で数千人の医師が、警察の暴力に抗議するデモに参加した。
 発端となったのは、1月28日にカイロのマタリア教育病院の医師、アフメド・アブダラーさんと彼の同僚が、診察にやってきた警察官とその仲間たちから暴行を受けたことだった。


 この日アブダラーさんは負傷した警察官を診察し、軽症で縫合の必要はないと説明したが、この警察官は納得せず、アブダラーさんを引きずり回し、手錠をかけた。その後駆けつけた警察官がアブダラーさんと彼の同僚を警察署へ連行した。
 アブダラーさんは一部始終をビデオに録画し、インターネットを通じて配信した。この動画はたちまち全国で話題になった。


 2月11日に検察庁は暴行に関与した9人の警察官を釈放した。同12日、医師組合は臨時総会を開き、暴行に関与した警察官の訴追、保健相の解任と彼が医師たちを保護するための措置を取らなかったことに対する調査等を求める決議を採択した。
 医師組合はまた、国会に対して医療施設や医療従事者に対する暴力を処罰する法律の制定を要求すること、病院の警備を除いて軍人の病院への立ち入りを禁止することを決議した。

 12日のデモは、この総会の決議を実現するための最初の行動であり、次には公立病院での無償医療(診療はするが、医療費を受け取らない)を実施することを宣言している。

 

 医師組合の組合員、カイリー・アブデル・ダエムさんは、「今こそ警察の国民に対する暴力を終わらせる時だ。医師や看護師に対する軍や警察官による攻撃が横行している。一部の警察官は自分たちが他の国民よりも上にいると思っており、何をしても罰せられないと思っている。人々の反応は好意的だ。誰もが軍や警察のさまざまな機関への介入に苛立っている」と述べている。

 別の組合員、アフマド・フセインさんは、運動は政治的なものではないと主張し、ムスリム同胞団によって支持されているという疑いを否定した。

 同27日、組合は12日の総会での決定に基づき、全国の11の病院で無償医療を開始した。保健相は無償医療は違法であると警告している。

 

 (「アルアラビア」紙2月14日付、「アスワット・マスリア」紙同20日付、「エジプト・デイリー・ニューズ」同28日付より)


 

★ブラジル
  日産はオリンピック公式スポンサーに不適格

 2月18日、リオデジャネイロで開催中の2016年オリンピック・パラリンピック組織委員会の会合に対して、ブラジルのCUT(中央統一労働組合)、FS(労働組合の力)、UGT(一般労働組合)の3大ナショナルセンターと、UAW(全米自動車労組)、インダストリオールなどの数百人の組合員が、2016年オリンピックの公式スポンサーである日産の不当労働行為に抗議するデモを行った。
 日産は自動車産業では唯一の公式スポンサーであり、提携しているルノーと共同で約6500台の自動車を供給する。


 同組織委員会がスポンサーおよび納入業者の条件としている「持続可能な供給チェーンの基準」には「結社の自由の尊重」が明記されている。現在、日産のカントン工場(米国ミシシッピー州)で労働組合結成の動きを会社側が執拗に妨害していることから、組合員たちは日産がこの基準を満たしていないと指摘している。
 日産は他の工場では労働組合を認めているにもかかわらず、北米の日産の従業員手帳には組合の勧誘を拒否せよと書かれている。

 

 カントン工場で働いているモリス・モックさんは「私たちは世界の日産やルノーの工場の組織されている仲間たちと同様の扱いを求めているだけです」と語っている。
 15年12月にNLRB(全国労働関係局)は、6ヵ月間にわたる調査に基づいて、日産が組合活動を理由に解雇の脅しを行ったこと、組合承認の投票を行えば工場を閉鎖すると脅したこと、労働者が組合を支持するTシャツを着用しはじめた後で制服に関する規則を強要したことは違法であるとして正式の告発を行った。
 モックさんによると、労働者たちはカントン工場における健康と安全の問題や、製造ラインの労働力の40%を構成する臨時雇用労働者の権利の向上について組合が声を上げることを望んでいる。


 デモに参加した労働者たちは日産の不当労働行為を非難し、企業の社会的責任を果たすことを求めるプラカードを掲げた。約20人の代表団が組織委員会のサンクトス代表に、日産に改善を求めることを要請する申し入れ書を手渡した。同代表は日産の経営者と会って、回答を求めることに同意した。


 インダストリオールのラテンアメリカ・カリブ地域本部のマリノ・バニ書記補佐は次のように述べた。

 「私たちはオリンピックや組織委員会に抗議しているのではない。……オリンピックの聖火が反労働組合的な行為を続ける企業によって作られた自動車で運ばれるのは許せないと言っているのである。私たちはオリンピックが開幕するまでに、米国で日産と労働者の間の和解に向けた交渉が始まることを希望している」。(インダストリオールのウェブより)

 

(インダストリオールのウェブより)

 

 

 

★米 国
  タイソン・フーズ社の食肉工場で手指切断事故

 タイソン・フーズ社は全米に400以上の工場を擁し、11万人余を雇用し、週に12万頭の牛と、40万頭の豚と、3500万羽の鶏を処理する(2015年の平均)食肉生産企業である。
 同社における劣悪な労働条件と労災の多発に対する批判が高まっている。


 米国産牛肉の低価格の背景の1つとして、ラテンアメリカからの移住労働者の劣悪な労働条件が指摘されているが、業界最大手で、「安全な食品」を売り物にする同社において手の指の切断事故が頻発しているという事実は、米国食肉産業の実態の一端を示している。

 以下は「ザ・ネーション」誌のミシェレ・チェン記者のレポート(2月24日付)の抄訳である。

 

 ジョージ・ワシントン大学ミルケン公衆衛生大学院のセレステ・モンフォートン教授は、タイソン・フーズ社における労災について、15年1〜9月の間にOSHA(労働安全衛生局)に提出された報告書を情報公開法に基づき入手・分析した結果をブログに公開した。
 このブログによると、「タイソンは34件の手指切断または入院を報告しており、そのうちの17件は手指切断である。平均すると毎月1件以上である」。
 報告書によれば、事故は大部分は牛肉の生産に関わっており、機械の操作中に起こっている。ミキサーの洗浄中に両手の指を切断した例もある。肉の切断の作業手順が守られていないケースが多い。


 同教授によると、タイソンのような一流ブランドでこのような事故が多発しているのは憂慮すべきことである。手指切断のような事故は小さな企業で起こることだと考えがちだからである。
 労働者の権利を擁護する人たちは労災・職業病を「マライン・ネグレクト(悪意のある無視)の副産物であると考えている。たとえば、貧困に立ち向かう世界的NGOオックスファムが最近発表した食肉生産労働者に関するレポートによると、この部門の労働者がトラウマに陥ったり、負傷事故を繰り返す割合が極端に多い。

 約4分の3の労働者が大きな職業関連の病気や負傷を経験している。医療データによると、食肉生産労働者は細かい作業に伴う反復的な緊張を感じる割合が他の職種の10倍である。絶えずベルトコンベアから流れてくる死骸を処理しつづけるためである。


 この部門は困窮したラテンアメリカからの移住労働者が主力であり、この労働者たちはまた、賃金のピンハネや差別、組織化に対する弾圧にさらされている。
 北西アーカンソー労働者公正センター(NAWJC)等のグループは最近、アーカンソー州の食肉生産労働者に関するレポートを発表した。そこでは賃金のピンハネやトイレ休憩の禁止などの非人間的な扱いが報告されている。健康や安全のための基本的な装備もなく、安全研修もなく、労災に関する報告もなされていない。


 NAWJCの代表のマガリ・リコリ氏は、手指の切断ほど衝撃的ではないが、裂傷や化学薬品による炎症などの日常的な外傷が、長期的に労働者の健康に大きな影響を及ぼしていることも多いと指摘する。
 OSHAは労災に関する報告義務を強化しているが、食品産業を取り巻く不透明性と、健康・安全に関するデータの「秘密性」のために、この部門の労働者が日々直面している危険は依然として隠されている。

 

 

★トルコ
  ルノー工場で解雇に抗議のストライキ

 2月28日、ブルサのオヤク・ルノー社(ルノーとトルコ軍年金基金の合弁事業)の工場で労働者たちが15人の仲間の解雇に抗議してストライキに入った。3月1日には警官隊が介入した。
 この工場では昨年5月にも労働者が賃上げと労働条件改善を要求してストライキに入り、この闘いは近くのフォードやフィアット・クライスラーの工場にも拡大した。
 統一金属労働組合によると、15人は夜中に携帯電話のショートメールで解雇の通知を受けた。また、3月1日の警官隊の介入の際、抗議した15人の労働者が逮捕された。

(「トゥデイズ・ザマン」紙3月1日付)

 

 

アジア@世界 バックナンバー
協同センター・労働情報 〒112-0005 東京都文京区水道2-11-7三浦ビル2階 Tel:03-6912-0544 Fax:03-6912-0744