アジア@世界
喜多幡 佳秀 訳(APWSL日本)
948号

★米 国
   政治革命は続く―サンダース議員

 以下は大統領選挙の結果についてのバーニー・サンダース議員の論評(「ニューヨークタイムズ」紙ウェブ版、11月11日付)の抜粋である。

 

 11月8日、何百万人ものアメリカ人が抗議の票を投じ、金持ちや企業の利益を優先する経済・政治システムへの猛烈な反対を表明した。私はヒラリー・クリントンを強く支持し、彼女の勝利のために精力的に運動を展開したし、クリントンに投票することが正しい選択だったと確信している。しかし、結果はドナルド・トランプがホワイトハウスを手に入れることになった。それは彼の選挙運動でのレトリックが人々の心底からの、正当な怒りに浸み込んでいったからであり、そのような怒りは多くの伝統的な民主党支持者も感じているものだった。


 私はこの結果を悲しいことだと思うが、驚きはしない。何百万人もの人々が既存の経済・政治・メディアにうんざりし、我慢できなくなってトランプに投票したということは驚くことではない。
 労働者家族は政治家たちが億万長者や企業ロビーから選挙資金を得ていて、一般市民のニーズを無視してきたのを見てきた。この30年余の間にアメリカのあまりにも多くの人々が企業経営者によって見捨てられてきた。
 アメリカの働く人たちは子どもたちのためにまともな、良質の保育を確保できない。子どもたちを大学に進学させることもできない。定年を前にして貯金もない。多くの地域では安い住宅が見つからない。健康保険は高すぎる。多くの家族は絶望の中で生活しており、ますます多くの人々がドラッグやアルコールや自死によって命を縮めている。


 トランプが「アメリカ人は変化を望んでいる」と言うのは正しい。しかし彼はどんな変化を提供できるのだろうか?

 彼は多くの労働者家族が感じている経済的苦痛を作り出してきた強大な勢力に立ち向かう勇気があるだろうか?

 それとも彼は多数の人々の怒りをマイノリティーや移住者や貧困者に向けさせるのだろうか?
 彼はウォール街に立ち向かい、「巨大すぎて潰せない」金融機関を解体し、大銀行に小企業への投資や農村、インナーシティーでの雇用創出を要求する勇気があるだろうか?

 それとも彼は別のウォール街の銀行家を財務長官に据え、これまで通りのやり方を継続するのだろうか?
 彼は本当に、選挙中に公約していたように医薬品産業に闘いを挑み、薬価を引き下げるだろうか?


 トランプ氏の当選の後、多くのアメリカ人が迫害されたり嫌がらせを受けているという報告を聞いて、私は深い苦痛を感じている。家族が引き裂かれるという恐怖の中で生活している人たちの叫びが聞こえる。

 われわれは差別との闘いでは大きな前進を遂げてきたし、後戻りはしないだろう。安心してほしい。レイシズム、偏見、排外主義、セクシズムへの一切の妥協はあり得ない。それがいつ、どこで、どのような形で復活しようとも、われわれはそれに対して闘う。


 私はトランプ氏がどのようなアイデアを示すのか、われわれがどこでどのように協力できるかについては心を開いている。しかし、彼は全国の得票数では負けているのだから、進歩的な意見にも留意するべきだ。彼が本気で労働者家族の生活を改善するような政策を追求するつもりなら、私は彼が私の支持を獲得するチャンスを提供するだろう。


 近日中に私は民主党を再生するための一連の改革を提案するつもりだ。私は民主党が企業エスタブリッシュメント(既成勢力)の束縛を断ち切り、再び働く人々や高齢者、貧困層の草の根の政党になるべきだと強く確信している。われわれは党の門戸を開き、若者の理想主義とエネルギー、そして経済、社会、人種、環境における公正のために闘っているすべてのアメリカ人を迎え入れるべきである。われわれはウォール街、製薬会社、保険企業、化石燃料企業の強欲と権力に立ち向かう勇気を持たなければならない。

 私の予備選挙でのキャンペーンが終わった時、私は私の支持者たちに「政治革命は続く」と約束した。

 今こそ、これまで以上に、そのことが必要である。われわれは世界の歴史の中でもっとも豊かな国である。われわれが団結して、デマゴーグたちが人種やジェンダーや出身国によって人々を分断するのを阻止できれば、われわれに不可能なことはないだろう。われわれは退行するのでなく、前進しなければならない。

 

 

★米 国
   住民投票でチャーター校の拡大が否決

 マサチューセッツ州で大統領選挙と同時に実施された住民投票でチャータースクール(公設民営校)の拡大案が大差で否決された。


 同州ではチャーター校の数が120校に制限されており、学校区ごとに上限が定められている(学力テストの成績が低い学校区に、より多くの数が割り当てられている)。

 州全体の認可数はまだ制限に達していないが、ボストン、スプリングフィールドなどの都市部では上限に近付いている。今回の導入の住民投票では、「質問2」として、チャーター校を毎年12校まで増やすことができるようにするという提案への賛否が問われた。


 チャーター校の推進勢力はこの住民投票に2400万ドルを投入した。ウォルトン一族(ウォルマートの所有者)、ブルームバーグ前ニューヨーク市長や、「卓越した教育を求める家族たち」という市民団体のほか、州内の金融機関、ヘッジファンドの投資家などが巨額の資金を提供した。
 これに対して州の教員組合(MTA、11万人)は、「民主的組合を求める教員(EDU)」の主導の下で、5月の年次大会で草の根の運動で阻止する方針を決定した。チャーター校の拡大は公立学校の予算削減をもたらし、教育に対する民主的コントロールを弱めることを電話作戦や戸別訪問で訴えた。親たちのグループや地域の種々のグループが結集した「公教育を守ろう」連合が組織された。


 同州では12年に「子どもたちのために立ち上がれ」という市民団体が州議会に対して教員の団体交渉権の制限を求める運動を起こし、州議会議員と組合の間で、この問題での住民投票を回避するために、組合が業績を基準とするレイオフを認めるという妥協が行われた。EDUはこの妥協を批判し、MTAの委員長選挙に勝利した後、妥協ではなく草の根の力で攻撃をはね返すという方針を打ち出した。
 MTAを中心とする運動は民主党の有力者からの支持も受けた。チャーター校の推進に賛成してきたボストン市長も、今回の拡大案には反対した。上院議員のバーニー・サンダースやエリザベス・ワレンの応援もこの運動の士気を高めた。10月6日にはボストン市内の115校で、教員と親、生徒たちが公立学校の予算確保を求めるデモを行い、住民投票への関心を高めた。 
 2月時点での調査では賛成が50%以上だったが、8日の投票結果は反対が62%、賛成が38%だった。


 「巨大な企業を相手にして私たちは勝ちました。古いやり方でしたが、組織し、人々との関係を作り上げることによってです」とMTAコンコード支部のメリー・ナジミー委員長は語っている(「レイバーノーツ」誌、11月12日付より)。


 このほかに、アリゾナ、コロラド。メイン、ワシントンの各州で州最低賃金引き上げの住民投票が行われ、ワシントンでは2020年までに13.5ドル、他3州で12ドルへの引き上げが可決された。

 

 

★トルコ
   シリア難民の搾取労働を報道

 衣料産業における搾取労働を告発してきたクリーン・クローズ・キャンペーン(CCC)は、13年以降、トルコにおけるシリア難民の搾取について調査してきた。


 最近、英国BBCの「パノラマ」(ドキュメンタリー番組)が、ヨーロッパの大手衣料品販売店の供給チェーンにおけるシリア難民(子どもを含む)の搾取についての調査報告を放映した。
 トルコはEUへの衣料製品輸出では第3位であり、トルコの衣料産業は正規の工場と下請けを組み合わせることで低コストの生産を続けてきた。

 欧米のブランドから受注した正規の工場は労働基準や安全基準の遵守を約束しているが、多くの作業は小さな工場での下請けや家内労働に委ねられ、そこでは労働基準は無視され、極度の低賃金での搾取(児童労働を含む)が一般的である。


 シリアの内戦を逃れてきた難民たちはトルコ国内での就労を許可されていないため、その多くがこれらの下請けの工場に雇用され、全くの無権利状態で働かされる。多くの子どもたちは学校へ通うこともできず、働いている。


 1月にトルコ政府は、EUとの間でのシリア難民受け入れに関する協定に従って、雇用主がシリア難民の就労許可を申請することを可能にする法律を施行した。この法律では労働基準の遵守が明記されているが、トルコでは国内の労働者にさえ労働基準の適用が不十分であり、多くの経営者は労働法を知らないのが実態である。
 CCCトルコはトルコ政府に対して難民の労働権を保護するための法律を制定し、その実施を監視するための機構を導入することを要求している。
 またトルコの企業と輸入元のブランドは、いかに法的規制が不十分であっても、最低賃金などの最低限の基準を遵守すべきであり、輸入元ブランドは違反企業を公表すべきである。

 

 

(CCCのウェブ、11月3日付より)

 

 

 

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