★バングラデシュ:相次ぐ組合活動家への暴力事件に、取引先企業が是正を要求
12年11月のタズリーン工場火災と13年4月のラナプラザ・ビル倒壊の後、バングラデシュの衣料工場の安全と労働者の権利への国際的関心が高まる中で、工場の点検と改修、最低賃金の引き上げ、労働組合結成の自由の拡大などが進んできた。しかし、依然として労働組合の活動に対する経営側の暴力的な攻撃と脅迫が繰り返されている。
以下は14年8月から11月にかけて、アジム・グループの工場で起こった労働組合活動家への暴力事件に関する「ニューヨークタイムズ」紙12月22日付の報道の抄訳である。
衣料工場の監視カメラが異様な光景をとらえていた。手前の方で女性の組合リーダーが警官たちに取り囲まれ、地面に押し付けられ、殴られている。その間に、男性の組合活動家が追い払われ、殴られている。別の女性リーダーが工場に入ってきたが、数秒後に外へ追い出され、カメラの視界から消えた。
ワシントンの労働者人権グループと米国の有力アパレル企業がそれぞれこのビデオに記録された事件を調査し、この工場の経営者が襲撃を指示したという結論に至った。11月10日、アジム・グループ傘下のグローバル・ガーメント社(チッタゴン)の工場で起こった事件である。同グループは24の工場を保有し、2万7千人を雇用している。
労働者人権グループによると、事件の3カ月前に同じグループの別の工場の横で、女性の組合委員長が会社側に雇われた暴徒に鉄棒で頭を殴られ、20針を縫う重傷を負った(会社側は関与を否定している)。
組合リーダーへの相次ぐ襲撃に対応して、2つの有力アパレル企業が同グループへの発注を中止または一時停止することを発表した。
ノースフェイス、ナウティカ、ラングラー、ティンバーランドなどのブランドの製品を生産しているVFコーポレーションは、独自の調査(香港の著名な人権問題専門家に委託)をもとに、12月13日にアジム・グループに対して、同グループが12月31日までに労働者の権利を保証するための強力で、明白な措置を講じ、組合リーダーに対する攻撃の再発がないことを保証しない限り、取引関係を打ち切ると通告した。VFコーポレーションへの販売は同グループの生産の10%を占めている。
また、国際的な供給チェーンを展開し、コールズで販売されている製品のバングラデシュでの生産に関与している香港のリー・アンド・ファン(利豊)グループは、独自の調査を実施した結果、「多くの組合代表が工場の管理者によって不当な扱いを受け、脅迫されている。これは当社および当社の顧客の企業行動基準への重大な違反である。そのため、われわれは今後、アジム・グループが所有または管理する工場への発注を停止する。これはアジムがすべての工場における労働者の権利を尊重し、組合リーダーが嫌がらせを受けなくなっているとわれわれが確信できるまで継続される」と発表した。
「労働者の権利コンソーシアム」(全米180以上の大学が参加しているモニター・グループ)は2つの襲撃事件について調査し、その結果をVFやその他のアパレル企業に知らせた。このグループがアジムの顧客企業に送った12月18日付の報告書によると、「多くの証言や証拠のビデオは、アジム・グループが11月10日のグローバル・ガーメントの労働組合リーダーへの一連の攻撃を実行したことを証明しており、これは暴力と脅迫の多くの意図的な行為を含んでいる」。
このコンソーシアムの代表のスコット・ノバ氏は、「(これは)自分たちの権利と安全を守るために組織しようとしている労働者に対する暴力事件の高まる波の一環であり、もしこの暴力が始まったばかりの労働運動の成長を抑止することに成功するなら、バングラデシュの真の変革の展望は大きく後退するだろう」と語っている。
トミー・ヒルフィガー、カルバン・クラインなどのブランドの製品を生産しているPVHも2つの工場での事件を調査しており、その結果とアジム・グループの対応によっては、これらの工場への発注を中止すると発表している。
VFはアジム・グループとの取引を停止した場合、バングラデシュ国内の別の工場に発注し、同国に対する制裁とならないようにすると明言している。
ワーカーズ・ユナイテッド(米国の衣料産業の労働組合)のグローバル戦略部長のジェフ・ハーマンソン氏はVFによる現地調査への協力を要請された。
同氏によると、現地での聞き取り調査とビデオから、11月10日当日は何人かの管理者と組合に反対している労働者たちが早くから集まって、労働者たちのバスの到着を待ちかまえていたことが明らかになった。この工場は3カ月間閉鎖されていて、同日に再開された。「労働組合員に対する暴力があり、それが経営側によって計画されていたことは明白である」と彼は語っている。
★チリ:軍事政権下の労働法の改定へ
14年3月に大統領に就任した中道左派のミシェル・バチェレは12月29日に、労働法を改定し、労働組合の力を強め、貧富の格差を縮小することを目指す新しい法律を提案した。
同大統領はサンチャゴの大統領官邸での演説で次のように述べた。
「本日、私たちは私たちが望む国を作り上げるための新しい画期的な一歩を踏み出している。私たちはチリの労働者に対して負ってきた負債を清算しようとしている。民主主義の社会では、(経済)成長と平等は並行して進まなければならない。繁栄した未来を確実にするために、また、正統性と社会的一体性を確実にするためにである」。
新しい法律は労働組合の強化、団体交渉の拡大、ストライキに対抗するための代替要員(スト破り)の雇用の禁止など、労働者の力を強化する種々の規定が含まれる。バチェレはまた、公正な報酬、雇用の安定、職業研修、失業に対する保護、公正な労使関係、団交手続きの簡素化について言及した。
提案が承認されれば、ピノチェト政権(1973〜90年)以降最初の重要な労働法改定となる。
労働組合センターのバーバラ・フェイゲロア委員長は同日、ラジオ・コーペラティバとのインタビューで、大統領の提案について、「社会的平等に向けた巨大なステップである。私たちはこの小さな一歩を20年以上も待っていた。私たちは軍事政権の労働制度の解体を開始したのだ」と語った。
「ウォールストリート・ジャーナル」は、「バチェレの支持者は議会の多数を占めているが、保守派の議員たちは政府が提案を薄めるよう強制することができるだろう」と報じている。
財界リーダーたちもバチェレの提案に反対している(「コモン・ドリーム」紙12月30日付)。
12月30日付の「ブルームバーグ」は、「バチェレ大統領は、チリをラテンアメリカで最も豊かな国にしてきた銅による富を再分配するために労働組合の力を強化しようとしている」と報じている。
同紙によると財界のリーダーたちはこの提案が、チリの経済成長を促進してきた低支出と低税率、規制撤廃、高貯蓄のモデルを終わらせるためのキャンペーンの一環であると考えており、最近における銅価格の低落とコスト上昇の中で、この産業に重大な打撃となると警戒している。
★ドイツ:初めての最低賃金(8.5ユーロ)が導入される
ドイツでは昨年4月に、連立政権を構成するキリスト教民主党と社会民主党の間の合意により、15年1月から最低賃金を8.5ユーロとする法案が採択された。
ドイツをはじめEUのいくつかの国では、賃金は産業別・地域別の労使間交渉に委ねられており、全国一律の最低賃金は定められていなかった。しかし、低賃金雇用の増加(03年に社会民主党のシュレーダー首相の下で労働法の規制が緩和されて以降に急増)と、労働組合の組織率低下によって、従来方式では賃金低下に歯止めが利かなくなることから、社会民主党が最低賃金の導入を、連立政権への参加条件として、強く要求した。
両党間の妥協によって一部の部門では最低賃金の導入が2年間猶予されることになった。
14年末現在、ドイツ西部では14.6%、東部では26.5%の労働者が8.5ユーロ未満の賃金で働いている(賃金がわずか2ユーロというケースも頻繁に報道されている)。したがって最低賃金導入の影響は東部で顕著になるだろう。
1月1日以降、18歳以上の、研修生を除くすべての労働者に最低賃金が適用される。これによって約370万人の労働者の賃金が引き上げられる。最低賃金委員会は17年に最低賃金額を改定する。
ドイツ雇用者協会(BDA)は最低賃金制を「賃金交渉システムの独立性への最も重大な干渉」であると考えている。彼らは最低賃金制は雇用を破壊し、低技能の労働者の就職や再就職を一層困難にすると主張している。
最賃制の導入に伴い、いくつかの地域では、ホテル等の人件費が20%上がることが予想される。
Ifo(調査会社)が6千3百の企業を対象として実施したアンケートによると、最低賃金導入に伴う賃金の上昇に対応するために、26%の企業が価格の引き上げ、23%が従業員のボーナスの減額、22%が人員削減を計画している。投資の削減や就業時間の削減を検討している企業もある。
(「ロイター」12月23日付、「AFP」同29日付、「DW」同30日付より)