労働情報No.858


アジア@世界
喜多幡 佳秀・訳(APWSL日本)
858号

チュニジア:ショクリ・ベライド氏暗殺に抗議のゼネスト

 2月6日午前8時前、野党・民主愛国党のリーダーのショクリ・ベライド氏が自宅を出たところを何者かに銃で殺害された。
 チュニジアでは連立与党のアンナハダ党を支持するイスラム派武装グループによる労働組合や野党リーダーへの脅迫や襲撃が続いており(本誌1月1・15日合併号の特集を参照)、ベライド氏も脅迫を受けていた。
 ベライド氏は人権派弁護士として、ベン・アリ独裁政権との闘いで弾圧された人々を支援し、ベン・アリ打倒後、選挙実施までの期間は政治改革と民主主義への移行のための委員会に参加していた。ベライド氏の民主愛国党は合法政党となった2011年3月以降、アンナハダ党政権の非民主主義的政策を一貫して批判してきた。彼は暗殺される前日にもテレビで、「国家を解体し、私兵集団を使って市民を脅し、この国を暴力の連鎖に引き込む試み」を強く批判していた。
 彼は昨年10月の、イスラム教政権に反対する左派とアラブ民族主義者の広範な連合である人民戦線の結成にも大きな役割を果たした。
 ベライド氏の暗殺に対し、広範な人々が怒りの行動に立ち上がった。同日にチュニスでは千人余が内務省へ押しかけ、アンナハダ党主導の政権の退陣を要求。ハビブ・ブルギバ通りでは、若者たちがバリケードを築き、警官隊と対峙した。このほか、多くの都市で、アンナハダ党の事務所に対する抗議行動が行われた。シディ・ブジッドでは約200人のデモ隊が警察署を攻撃し、警官隊は催涙弾を発射した。
 マルズーキ大統領は訪問中のフランスから、エジプト訪問を中止して直ちに帰国した。
 ジェバリ首相(アンナハダ党)は、犯人はまだわかっていないと述べ、「この事件は政治的暗殺であり、チュニジア革命への暗殺である」と非難した。アンナハダ党は事件への関与を否定しているが、アンナハダ党に主導される政府が、私兵グループによる一連の暴力事件と脅迫にもかかわらず今回の事件を予防するための措置を取らなかったことへの批判が高まっている。
 野党四党は、憲法制定議会からの離脱を発表し、ベライド氏の葬儀の日にゼネストに入ることを呼びかけた。
 UGTT(チュニジア労働総同盟)は同7日に執行委員会を開催し、ベライド氏の葬儀が行われる同8日を「国民服喪の日」とし、ゼネストに入ることを呼びかけた。
 UGTTのハッシン・アバッシ書記長は記者会見で「政府はこの政治的暴力が頻繁する決定的な段階において、自らの力で民主主義への移行を保証し、経済的繁栄を実現することができなかった。この国は暴力の連鎖に陥る危機にある。8日のゼネストの成功が重要だ」と述べ、市民社会の活動家だけでなく、警察、軍隊にも平和的なゼネストの成功を保証することを呼びかけた。アバッシ書記長自身も暗殺の脅迫を繰り返し受けている。
 同8日、全国でストライキとデモが行われ、数万人がデモに参加。政府も葬儀デモへの支持を表明。多くの都市で、官庁や学校が休業となり、病院、港湾等の一部を除き経済活動がほぼ停止した。各地で「模擬葬儀」が行われ、労働組合、政党などの活動家が参加した。
 ジェバリ首相は内閣を解散し、実務者による内閣を任命し、総選挙の繰り上げ実施を示唆したが、アンナハダ党内で、旧ベン・アリ派勢力を中心に、これに抵抗する動きがある。同9日にはチュニスで政府支持派のデモが行われ、6千人が参加した。(2月6、7、8日付の「アフラムオンライン」、「ガーディアン」等より)

ギリシャ:建材工場の労働者が自主管理・自主生産を開始

 2月12日、ギリシャ第2の都市、テッサロニキのVioMe社(建材の製造)の労働者が工場の自主管理・自主生産を開始した。
 VioMe社では2011年5月に賃金の支払いが停止され、所有者と経営者が工場を放棄して逃亡。労働者たちは何度も総会を開き、自分たちでの工場運営を決定。工場を占拠し、生産設備を保全して、同年10月には労働者管理の下で労働者協同組合の設立を決定。法律上の承認と生産開始の資金確保のために地域や全国、さらには国際的な支援を呼びかけてきた。
 2月12日からこの工場は、労働者の民主主義的な総会で決定される計画に基づいて運営され、賃金は集団的な討論を通じて公正かつ公平な方法で配分される。また、環境への悪影響が少ない製品および製造方法への移行をめざす。
 デービッド・ハーヴェイ、ナオミ・クラインなどの知識人や、同様の運動を進めてきたアルゼンチンの労働組合などによって国際的な支援のネットワーク、「連帯イニシアチブ」が設立されている。
 VioMeの労働者と「連帯イニシアチブ」が共同で発表した声明は、次のように述べている。
 「失業率が30%に上がっている中、大言壮語や口約束や増税にうんざりして、11年5月以降賃金を支払われていないVioMeの労働者たちは、労働組合の総会において、永続的な失業の犠牲になることを拒否し、工場を自分たちの管理の下で運営することを宣言した。
 工場が次から次へと閉鎖され、失業者が200万人に近づいており、大多数の人々が貧困と悲惨な生活に追い込まれている時、労働者管理の下で工場を運営するという要求は、われわれが日々直面している災禍に対処するための唯一の合理的な回答である。だからこそ、VioMeの闘争はすべての人々の闘争である」。(「Zネット」のウェブ、2月12日付等より。VioMe連帯のウェブはhttp://www.viome.org/

ニュージーランド:ファストフードチェーンの組織化の成果と教訓

 以下は、米国の「レイバーノーツ」誌ウェブ版に掲載されたエリック・フォーマンさんのレポート(2月8日付)の抄訳である。エリックさんはIWW(世界産業労働組合)でスターバックスなどの労働者の組織化に関わり、現在は食品・小売産業における組織化戦略のレポートを執筆中である。そこで言及されている「給料もスーパーサイズにして!」キャンペーンについては、本誌2005年12月15日号でも紹介している。
 ニュージーランドの小さいけれど快活な労働組合が、ファストフード店の組織化において世界で最も大きな成功を収めてきた労働組合の一つとなっている。KFC、ピザハット、マクドナルド、スターバックスなどの4千人以上の労働者を組織している(組織率は平均で約30%)。
 米国では、最近のニューヨーク市におけるウォルマートとファストフードチェーンのストライキが労働組合運動の新たな地平を切り開いた。この二つの運動は、NLRB(全米労働関係委員会)の組合承認手続きに拘束されることなく、いくつかの店舗に対して集中的に苦情を申し立てることによって成果を上げた。メディアの注目度が下がってきた今、私たちの多くは「次は何か?」を問うている。
 派手な行動で注目を引くことは重要だが、低賃金で定評があるサービス産業において労働者の持続的な組織を確立していくことは、それとは別のことである。ニュージーランドの労働組合の経験は、ファストフードチェーンにおける持続的な組織化の一つの例を提供している。
 独立的な労働組合であるユナイトは05年に、「給料もスーパーサイズにして!」キャンペーンを開始。
 ユナイトのオルグは、ファストフード店に出向いて、労働者を一人ひとり呼び出して組合に勧誘した。オルグたちは最低賃金の引き上げや、若年最低賃金(最低賃金を20%下回る賃金が許容されている)の廃止、安定した労働時間の保証などの基本的要求について説明した。当時の最低賃金は1時間9.5ドルだったが、ユナイトは12ドルに引き上げることを要求した(1ニュージーランドドルは約80円)。
 当時ユナイトのオルグだったサイモン・オースターマンさんによると「組合オルグが労働組合のない職場の労働者と接触することが(法律によって)保証されていたので、労働者を順番に呼び出して勧誘した。約20%の労働者が組合に加入した」。
 このキャンペーンは最初の半年で、10人足らずのオルグが2千人以上の組合員を獲得するという大きな成果を収めた。
 しかし、多数の組合員を獲得したにもかかわらず、店外での組合の会議に出席し、方針討論に参加する労働者はごく少数だった。そのため、ほとんどの決定は組合役員やオルグによって行われた。
 キャンペーン第二段階として、ユナイトは組合の要求を反映した団体協約を締結するために一連のストライキを組織した。組合がバスを出して、ターゲットとなっている店舗に次々と押しかけた。支持者たちはその店舗に一斉に電話をかけた。多くの高校生も支援し、「ラディカル・ユース」という組織を作った(約千人が参加)。
 さまざまな圧力の結果、数日後には多くの企業は団体協約を締結し、最低賃金を12ドルに引き上げ、若年最低賃金の段階的廃止に向けて、成人の90%に引き上げた(若年最低賃金は最終的には08年に労働党政権によって廃止された)。
 05年以降、延べ3万人がユナイトに加盟。雇用が不安定なので組合員の入れ替わりも激しいが、多くの元組合員が、転職先でも労働組合に加入しており、ユナイトは若者の労働組合運動への入口としても重要な役割を果たしている。
 ユナイトはまた、2009年から10年にかけて最低賃金の15ドルへの引き上げを求める国民投票を提唱し、7ヵ月の間に20万人の署名を集めた(必要な署名は30万人)。
 ユナイトの経験は、そのまま真似できないが、店舗に出向いての組織化や若者の連帯行動、効果的な戦術など教訓に満ちている。

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