アジア@世界              喜多幡 佳秀 訳(APWSL日本)
977号

★中 国:拘留中の深センの工場労働者

 広東省深セン市坪山区の佳士科技(JASIC、従業員数約千人)における組合結成をめぐる争議で、組合員や支援の学生の逮捕・拘留や労働者リーダーの行方不明に対する国際的な抗議が広がっている(本誌18年10月号参照)。

 以下はJASIC労働者を支援するプログに掲載されている労働者たちの証言で、華南地方で農民工を支援しているNGOのボランティアとして活動している「HZ」が投稿したもの。
 米国「レイバーノーツ」誌電子版より訳出した(一部抄訳)。

 

 リュウ・ペンハ(刘鵬)はミ・ジュピン(米久平)と共にJASIC溶接機工場で組合結成を呼びかけた3人の労働者の一人で、7月16日に会社側からの最初の報復を受け、会社に雇われた暴徒による暴行を受けた労働者の一人である。

 彼は現在、他の3人の労働者と共に、組合組織化に参加したことで裁判にかけられている。

 

 リュウ・ペンハは山西省白水県の貧しい山村に生まれた。彼の村は水が乏しく、人々は水を節約して大事に使っており、入浴は贅沢だった。運命を変えるような幸運なチャンスに恵まれる者が少ないこの村で、ペンハはそのような幸運を手にした一人だった。彼は町の工業系の普通大学の入試に合格したのだ。それは同郷の多くの人から見れば困窮した生活から抜け出すーつの道だった。

 ペンハが大学に入るために村を出る日、村の友人たちは最も大事な資源である水をバケツに1杯ずつ持ち寄って彼を祝福した。彼が大学へ行く前に入浴して身を整えるためである。

 

 ペンハはよく、次のように言っていた。

 「子どもの時に、物質的な条件が貧しい人々を打ちのめすことはない、なぜなら貧しい人々は助け合うことの大事さを他の誰よりも良く知っているからだということを学んだ」。

 彼はその教訓を、のちに農民工の洪水に加わって都市へ出ていくときにも胸に刻んでいた。

 

 しかし、彼は卒業後すぐに都市に向かうのではなく、農村で数学の教師になることを選んだ。自分が受けた教育を自分が育った地方のために役立てたかったからである。

 しかし、しばらく農村で小学校の教員として働いた後、貧困な状況と農村の教員の低賃金が彼を農村からの脱出へと追いやった。

 高い学歴と志にもかかわらず、彼はよりよい将来を求めて農村を脱出し都市へ向かう貧しい農民工の大群に加わったのである。

 

 貧しい環境で育ち、同じような環境で育つだろう子どもたちを教える中で彼は早い時期から不平等について、そして貧しい人たちの生きる力について学んできた。

 

 労働組合の意味

 

 ペンハはJASICに入社する前にも経営者との闘争を経験している。

 ペンハの平等意識と周りの人たちへの連帯感は彼を闘士にした。以前に勤めていた職場でも彼は残業手当や住宅手当の改善のための闘争を率いて、一定の勝利を収めた。しかし、この経験の中で彼は法律で定められた最低限の労働基準を守るために闘うだけでは十分でないことを学び、また、労働組合が重要な役割を果たし得ることを知った。

 

 現在のJASICでの闘いとは違って、この時の闘いでは彼も仲間の労働者たちも自分たちが騙されていたこと、そして自分たちの権利を守らなければならないことを知っていただけだった。

 残業手当と住宅手当が法定基準より少なく、その結果、所得が月に500~600元(1元は約16円)騙し取られていたことになる。そこで労働局へ出向いて苦情を申し立て、調停を申請した。労働者からの強力な圧力に屈して、会社側は残業手当と住宅手当の改善と、過去に遡った未払い分の支払いに同意した。

 

 この勝利からまもなく、ペンハと他のリーダーたちが解雇された。さらに、ペンハたちの解雇のすぐ後に、工場に残っていた彼の友人がプレス機械に手を挟まれて重傷を負った。会社はすぐにこの友人を解雇して、労災補償の法的責任を逃れようとした。

 労働者はーつの闘争には勝利したが、結局は追い出され、不当労働行為や搾取に対する闘争は完結していない。

 

 解雇された労働者たちは退職金を要求して闘い続けることができるかもしれないが、労働者のリーダーたちへの理不尽な処罰からペンハは、一時的な勝利が儚いものであることを知った。

 勇気を持って闘ったすべてのリーダーが解雇された後、残った労働者はどうすればよいのだろうか?
 ペンハはこの闘争の経験から、労働者が権利を守るためには、散発的な闘争だけでなくもっと持続的なものが必要だという考えに到ったのだろう。それはおそらく労働組合だった。

 

 JASICの労働者の不満

 

 ペンハは16年10月にJASICに入社した。この会社は地域では有名な企業だったが、工場の労働条件は近隣の搾取工場と大して変わらなかった。

 最初にペンハの怒りに火をつけたのは罰金制度だった。会社が決めた「18の禁止事項」のいずれかに違反した場合(多くの場合、何が違反なのかも知らされないまま)、2OO~300元の罰金が課され、その累計が給料から差し引かれる。これは労働法違反である。
 会社のハイキングへの参加義務も労働者の不満のもうーつの原因である。夜勤明けの労働者も不参加は認められない。「企業文化」を確立するための行事だろうが、労働者にとっては迷惑である。

 

 しかしペンハは、これらの会社の違法なあるいは理不尽な行為と闘うだけでは、嫌がらせを受け、中傷され、解雇される可能性が高いことを知っていた。別の会社で、ハイキングに不満を言った労働者がそのような目に遭っている。ペンハは労働組合という概念を知っていた。労働組合というものは労働者によって管理され、集団として行動し、労働者が自分たちの利益を守るために闘う手段として法律で保護されているということを彼は知っていた。

 

 もし前の会社で解雇された時、その会社に労働組合があったなら、労働者たちはリーダーたちが解雇された後でも、どこに支援を求めればいいかを知っていただろう。

 

 5月10日にペンハは同僚のミ・ジュピン、チャン・バオシンと3人で坪山地区総工会と坪山人材局に赴き、28人が署名した嘆願書を提出した。嘆願書には違法な罰金や労働者への暴行、中傷、脅迫に対する苦情のほかに組合結成の要求も含まれていた。

 この要求は総工会坪山地区連合で承認された。

 

 組合結成への道

 

 このあとペンハとミ・ジュピンは地区総工会に正式の組合結成申請書を提出したが、申請の承認には会社の印鑑が必要だと言われた。そこで2人は会社に戻って、会社の承認印を申請したが、会社はそれを拒否した。

 地区総工会に戻って相談したところ、まず100人の組合員を集めて組合員総会を開催し、結成準備委員会を選出するよう指示された。

 

 当時労働者たちは毎日午後9時半まで残業していたのでペンハとジュピンはその後の時間を使って署名を集めるほかなかった。2日間徹夜で、社員寮を1部屋ずつ回り、89人の署名を集めた。

 3日目に会社側が2人に対する中傷を広め、署名した労働者たちを脅迫したため、それ以上の署名を集めることはできなかった。

 

 ペンハとジュピンが予想していなかったのは、地区総工会が当初の協力的な態度を翻し、2人の組合結成への関与を拒否したことだった。

 最初の方針転換は会社側がジュピンに配置転換に応じなければ解雇すると脅した時だった。彼が地区総工会にこの問題を相談した時、総工会は彼に、総工会がすでに会社側との交渉のチャンネルを確立しているので、今後このような問題で組合にコンタクトを取らないようにと伝えた。

 

 のちにジュピンが会社側の中傷に反論するために公開状を発表し、その件で会社側に呼び出された時、総工会の副会長が同席したが、会社役員がジュピンを激しく叱責するのを黙って見ているだけであり、その後彼に、彼の組合結成のための活動は違法であると通知した。総工会の指示に従って行っていたにもかかわらずである。

 

 地区総工会の方針転換と共に、ペンハとジュピンに対する報復が激しくなった。ジュピンは配置転換を拒否しつづけたが、ペンハは工場の片隅の臨時の作業場に隔離された。

 彼は7月16日にここで突然2人の見慣れぬ男に襲われ、殴打された。この男たちは護衛され、車で逃走した。

 ペンハが事件を警察官に報告した時、警察へ連行され、翌朝まで拘留された。

 彼はこの事件をソーシャル・ネットワークで知らせたが、翌日にはジュピンも同じ目に遭い、その後解雇されたことを知らされた。

 

 同27日にペンハは他の労働者たちと一緒にJASICに入ろうとして他の28人の労働者および1人の学生と共に逮捕された。彼は現在、他の3人の労働者と共にシンセン第2拘置所に拘留され、裁判を待っている。弁護士との面会の権利は奪われたままである。

 

★英 国:ユナイトが病院建設の遅延でカリリオン社の刑事訴追を要求

 昨年1月に倒産した大手建設会社、カリリオンは病院を始めとする多くの公共サービス事業を受注し、膨大な支払いを受けてきた(本誌18年3月号を参照)。

 倒産によって建設中のミッドランド・メトロポリタン病院の完成が大幅に遅れ、費用も増大している。

 

 サッチャー政権以来の公共サービスの民営化や民間委託の破綻を象徴するこの問題をめぐって、英国最大の労働組合であるユナイトはカリリオンの犯罪に関する調査を直ちに開始することを要求している。

 

 12月4日にサンドウィルおよびウェスト・バーミンガム病院NHSトラストの取締役会に提出された資料によると、同病院の完成と、現存の市立病院を同病院が完成する22年まで維持するために4億ポンドが必要になる。
 同病院は今年中に完成する予定だったが、当初の遅れと、カリリオンの倒産に伴う中断による劣化のため3年以上遅れる見込みである。

 

 当初の予算は3億5千万ポンドで、このうち2億500万ドルはすでに倒産前にカリリオンに支払われている。
 今後必要な4億ポンドはNHSトラストが負担するが、財源は税金である。

 

 ユナイトのハワード・ベケット書記次長は「われわれは9月にカリリオンの倒産に責任を負う取締役や上級管理者の刑事訴追を要求した。同社がもたらした損害がますます拡大している時、われわれは再度このことを要求する」と述べている。

 

 ユナイトは11月にNHSトラストのトニー・ルイス最高経営責任者への書簡で、工事再開にあたって建設労働者を搾取しないことを保証するよう求め、賃金・労働条件に関する産業別協定の遵守、地元の労働者および供給業者の採用、直接雇用、搾取的な下請けの禁止、労働組合の承認と組合オルグの現場へのアクセスの保証などの措置を要求した。

 

(ユナイトのプログ、18年12月5日付より)

 

★ドイツ:バイエルの1万2千人削減発表に抗議のデモ

 2018年12月3日、ドイツ西部のブッパータール(ノルトライン・ヴェストファーレン州)で製薬大手バイエル社の労働者千人余が同社の大規模な人員削減計画に抗議するデモを行った。

 

 同社は18年初めに農薬大手のモンサントを6300億ドルで買収したことに対する相次ぐ訴訟の後、投資家を宥めるために、25年までに世界で1万2千人の人員削減を実施する計画を発表した。この中にはブッパータールの同社のバイオテクノロジー・ハブの350人が含まれる。

 同社はすでに完成間近の血液凝固タンパク質(第皿因子)工場の計画を中止した。

 同社は25年まで国内では人員削減は行わないと約束しているが、1万2千人の中にはドイツのかなりの数の労働者も含まれると推測される。

 

 モンサント買収後にバイエルの株価は急落した。モンサントは多くの訴訟を抱えており、最近でもカリフォルニアで同社の除草剤ラウンドアップが癌の原因となったとする消費者からの訴訟で敗訴し、巨額の賠償を命じられた。

 

 バイエルのウェブサイトによると、同社は17年末現在、世界で9万9820人を雇用。そのうち3万1620人(31.7%)がドイツ国内である。

 

 

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