★米国:ウォルマートが最低時給を9ドルに引き上げ
米国の低賃金の象徴とされてきたウォルマートは2月19日、4月から正規雇用および非正規雇用のすべての従業員の賃金を時給9ドル以上とし、16年2月までに10ドル以上にすると発表した。
同日付の「ハフィントンポスト」紙は次にように報じている。
最低賃金をめぐる論争を一変させ、世界最大の小売りチェーンの企業イメージを改善するかも知れない動きとして、ウォルマートは現在の店舗従業員の最低賃金を1時間10ドルに引き上げると発表した。これによって約50万人の労働者の賃金が引き上げられる。
この決定は、GAPやイケアなどの同様の動きに続くものだが、米国最大の民間企業で、約140万人を雇用するウォルマートの動向は、小売業全体に影響を及ぼすと考えられる。
……ウォルマートは長年にわたり低賃金という評判と、全米食品商業労働組合などの労働組合との闘争を背負い込んできた。近年では、労働団体が同社のブラック・フライデー(11月の感謝祭の翌日の金曜日)のセールスをターゲットとするストライキ行動を組織してきた。
同社の労働者で組織する『私たちのウォルマート』のメンバーであるエミリー・ウェルズさんは、このグループの声明の中で、『これは私たちが何十万人もの支持者と共に起ち上って、全米最大の経営者と闘うことなしには実現しなかっただろう』と述べている。
時間給10ドルでは依然として多くの労働者は貧困ライン以下のままであるが、連邦最低賃金の7.25ドルを大きく上回っている。ウォルマートの賃上げは連邦議会における最低賃金(09年以降据え置き)の引き上げをめぐる議論を促進する可能性がある。
民主党は10.1ドルへの引き上げとインフレとの連動を提案しているが、共和党は反対している。
連邦議会が立ち止っている中で、多くの州は独自に州最低賃金を引き上げてきた。その結果、現在では半分以上の州が連邦よりも高い最低賃金を設定している。これは歴史上はじめてのことである。
同20日付の「ファイナンシャルタイムズ」は次のように報じている。
……(ウォルマートの)この動きは、企業が最低賃金や、より一般的には所得の停滞をめぐる激しい論争の真っ只中にある時に行われた。最低賃金は実質ベースでは1960年代後半の水準であり、民主党や労働組合からの大幅賃上げの要求が強まっている。
経済政策研究所(中道左派のシンクタンク)のダビッド・クーパー氏によると、ウォルマートの労働者は、4人家族なら、時間給10ドルでも連邦の貧困ラインに達するためには公的な扶助を必要とする。
同研究所は2020年までに連邦最低賃金を12.5ドルに引き上げることを提案している。
ウォルマートは、時給10ドルは初任給であり、迅速な昇給を目指すと発表している。同社の従業員の平均賃金は13ドルである。
この賃上げに必要な10億ドルが注目されている。しかし、年間収益の4860億ドルと比べればわずかな額である。それでも投資家は反発し、同社の株価が3%以上も下がった。
小売りチェーンではウォルマートだけでなく、イケア、コストコ、GAPなども最低賃金を連邦最低賃金以上のレベルへ引き上げている。一方、マクドナルド、ピザハットをはじめとするファストフード業界は賃上げに抵抗している。ピザハットや同系列のタコベルでは不当な低賃金に対して労働者から集団訴訟が提起されている。
必要なのは時給15ドル、安定した労働時間と、労働者への敬意
「ザ・ネーション」誌のミシェレ・チェーン記者は、ウォルマートが賃上げの決定で称賛を受けているが、賃金をあるべき水準に少し近づけただけだと指摘している。
「……この賃上げによっても、ウォルマートは依然として労働者の価値を生活賃金以下につなぎとめている。低賃金の従業員は公的な給付(フードスタンプ等)によって辛うじて家計を維持しており、公的給付の総額は毎年数十億ドルに達している。
ウォルマートの従業員の半数はパートタイマーであり、年間1千時間働くとしても、数ドルの時給引き上げだけでは経済的自立は困難であり、ましてや家族を扶養することはできない。
同社のCEO(最高経営責任者)と労働者の所得格差はこの数年間で2倍になり、今では300倍となっている。07年以降、賃金はインフレ率程度しか上がっていないが、労働者1人あたりの収益は22%増えている。
労働者たちは時給15ドルと、安定した労働時間を要求してきた。あるシンクタンクの分析によると、ウォルマートは自社株購入(株価を人為的に引き上げるための手段となっている)をやめて、そのために充てている66億ドルを賃金に回すだけで、この水準を実現できる。それにより82万5千人の低賃金労働者の賃金を5.13ドル引き上げられる。そうすれば生産性や売り上げが上がるかも知れない。
全体の最低賃金が引き上げられなければ、別の会社がウォルマートがこれまで果たしてきた役割を引き継ぐだけだろう。
賃金を引き上げる圧力は、貧困賃金を拒否して労働条件の改善を求める労働者たちからもたらされるかも知れない。
『私たちのウォルマート』は、今回の最初の賃上げが本来払うべき賃金の頭金であるとして、次のように要求している。
『ウォルマートの従業員は、生活を維持し、屋根の下で生活するために十分な労働時間を必要としている。必要なのは時間給15ドルと、フルタイムの安定した労働時間と、私たちのハードワークへの敬意だ』」。 (同誌2月25日付)
★ミャンマー(ビルマ):衣料工場の賃上げ要求スト、リーダー2人が逮捕
ヤンゴン(ラングーン)のシュエ・ピ・ター工業団地のCOSTEC・Eランド、フォード・グローリー・ガーメントの3つの衣料工場(中国および韓国資本)の労働者約2千人が2月2日から賃上げを要求してストライキに入っている。
労働者たちは賃金を3万チャット引き上げて8万チャットにすることを要求しているが(1チャットは約0.1円)、経営側の回答は1万2千チャットで、しかも精勤手当の削減を伴うというものである。
このストライキ中に、衣料工場労働者組織(GFWO)の2人のリーダーが行方不明になった。数日後の同22日に、GFWOと労働雇用社会保障省との交渉の中で、2人がインセイン刑務所に拘留中であることが判明した。2人はGFWOのシュエ・ピ・ター地区委員長でEランドに勤務するミオ・ミン・ミンさんと、フォード・グローリーに勤務するナイン・タイ・ルウィンさんで、容疑は公共の秩序の妨害(最高刑は懲役2年)である。
2月20日にはEランド工場前に集まっていた労働者と警官隊の間で衝突があり負傷者が出たと報じられており、労働雇用社会保障省は同23日、労働者に対して、抗議行動には厳重に対処すると警告した。
これに対して労働者たちは同24日、賃上げと2人のリーダーの釈放の要求が満たされるまでストライキを継続すると宣言した。
衣料産業の経営者団体MGMAによるとミャンマーの衣料工場では約20万人の労働者を雇用しており、労働者支援団体によると平均的な労働者は女性で、24歳、週6日・1日13時間の労働で賃金は米ドル換算で月80ドルである。衣料産業はヤンゴンの工業生産の約44%を占めている。この産業では12年から14年の間に全国で447件のストライキが起こっている。
政府はまだ最低賃金を設定しておらず、紛争中の工場では労使交渉が継続している。
(「アジア・ブレティン」紙、同25日付)
★韓国・台湾:韓国の労働者が台湾の本社前で工場閉鎖の反対集会
台湾のEインク・ホールディング社(EIH)は韓国の2つの工場の閉鎖を決定した。活動家たちによると、これは利潤目的であり、約800人が雇用を奪われる。
2月12日に韓国のハイディス・テクノロジーズ社(液晶パネル製造)の労働者たちは、台北のYFYグループ(EIHの親会社)の本社前で、韓国の工場の閉鎖に反対する行動を行った。
ハイディス労働組合からの代表団の6人は、伝統の衣装を着てYFYグループの本社へ向かい、支援にかけつけた台湾の150人余の組合活動家が後に続いた。
6人は怒りと絶望を表現するために、ひざまずき、地面に頭を付ける動作を繰り返しながら進んだ。
ハイディスは01年に、経営難に陥っていた現代エレクトロニクスから分離されて独立企業として設立され、03年に中国のBOEテクノロジー社に買収された。06年にBOEの役員たちによる中国へ技術漏えいで、会社は裁判所の管理下に置かれることとなった。
YFYは08年のハイディス買収時に、韓国での事業継続を約束していたのに、この数年間、600人余の労働者を解雇してきた。
組合は、EIHがBOEと同じように、ハイディスの技術を盗んで逃げるつもりであると非難している。
EIHは液晶の分野での重要な技術であるFFS技術を取得した後、生産ラインへの投資を中止している。ハイディスは昨年約9千万米ドルの利益を上げている。
韓国の法律では、利益を上げている企業が大量の解雇を行うことは禁止されている。
(「台北タイムズ」紙2月13日付)