★米 国
トランプ大統領の難民排斥に全米でストを含む反対運動
タクシー運転手が中東からの入国者に連帯するスト
トランプ大統領は1月27日に中東・アフリカの7ヶ国からの入国の停止(90日間)と難民受け入れの停止(180日間)の大統領令に署名し、国内の空港での対象者の入国拒否・拘束を開始した。
同28日、ニューヨークのケネディ空港をはじめ全国の空港で数千人の人々がこの大統領令に抗議し、中東から入国・再入国する人々や難民との連帯を行動で示した。
ニューヨークではタクシー運転手組合(NYTWA)が組合員に対して、同日午前6〜7時の1時間、ケネディ空港での営業を拒否する連帯ストを呼びかけた。この呼びかけはすばやく組合員に伝わり、午前6時には同空港の第4ターミナルのタクシー乗り場には1台のタクシーもなかった。
ウーバー(スマホ・アプリを使った配車サービス)はピーク時の空港送迎の料金を下げることによってタクシー運転手のストを妨害しようとした。ウーバーのCEOはトランプを支持し、産業政策委員会に参加している。
ウーバーによるスト破りに対抗して、ソーシャルメディア上ではウーバーの登録削除の呼びかけが拡散された。
NYTWAによると同市のタクシー運転手の95%が移民であり(出身国の数は100以上)、組合員の60〜70%はイスラム教徒である。
以下は同日付のNYTWAの声明である。
職業運転手は仕事中に殺される確率が他の労働者の20倍以上である。トランプ大統領は7つの国からのイスラム教徒の難民の入国を禁止するという憲法違反の、非人道的な行政命令によって不寛容を容認し、そのことによって職業運転手を、移民への憎悪犯罪が激増するきっかけとなった9.11以来おかれてきた状況よりもさらに危険な状況に陥れようとしている。
1万9千人の組合員を代表するわれわれの組合は、トランプ大統領によるイスラム教徒の入国禁止に断固反対する。構成員の多くがイスラム教徒であり、その大部分が移民である組織として、また、抑圧された人々の防衛を基盤とする労働者階級の運動として、われわ
れはこの非人道的で憲法違反の禁止令に「ノー」の声を上げる。
われわれは政府の計画がイスラム教徒へのあからさまな憎悪を容認し、憎悪の言動が迫害者の演壇から吐き出される時、憎悪犯罪が広がり、運転手たちが深刻な被害を受けることをあまりにもよく知っている。われわれのシーク教徒やその他の非イスラム教徒の組合員も、反イスラムの暴力の被害を受けている。
今日、運転手たちはケネディ空港での抗議行動に参加する。
トランプの憲法違反の行政命令のために現在空港で拘束されているすべての人々を支援するためにである。
運転手たちは平和と安全を求めてアメリカにやってくる難民や、単に外国から戻ってきた人たちと連帯して起ち上がる。
われわれは全くの不寛容な者たちの非人道的で残忍で憲法違反の行為に反対して、われわれの平和を愛する隣人たちと連帯して起ち上がる。
移住者を守る「聖域都市」
トランプ大統領はまた、これまで連邦政府による移民規制に抵抗し、地域ぐるみで移民を保護してきた「サンクチュアリ・シティ(聖域都市)」に対し連邦資金の交付を打ち切る大統領令に署名した。
現在米国には200以上の聖域都市がある。聖域都市運動が始まったのは1979年にカリフォルニア市で警察官が被疑者に在留資格について尋問するのを禁止したことがきっかけである。
1980年代には多くの州や教会がホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラでの米国に支援された民間武装勢力の暴力から逃れてきた人々に避難の場所と安全な移動手段を提供した。
聖域都市への攻撃が予想される中で、移民の人々を中心とする地域レベルの支援の組織化が進む。
フィラデルフィア市の「新聖域都市運動」のリーダーのピーター・ペデモンティ氏は次のように語っている。
「…この数ヶ月間の不安や予想の後、トランプが実際に大統領に就任した今、私たちはトランプ政権とわたり合えると私は感じています。たしかに不安や恐怖があります。彼が何をするか、それが私たちのコミユニティーにどんな影響を及ぼすかについてです。しかし、その反面、これまでよりももっと多くの人たちが集まってきています。反撃する準備ができて
います」。
新聖域都市運動はトランプの就任式と同じ日にフィラデルフィアで「人民の就任式」を企画
した。地域の約20の団体が集まり、カトリック教会、トランスジェンダー、元セックスワーカーなどがそれぞれの立場から発言した。
新聖域都市運動は07年に始まり、国外追放に直面している人たちに信頼できる弁護士の派遣、裁判所への同行、収容所での面会などの支援を行ってきた。
移民局と警察の連携はブッシュ政権下で緊密化し、オバマ政権下でさらに強化された。市長は移民の人々に同情的だったが、それを行動で示そうとしなかった。「良い移民と悪い
移民」を区別するという考え方に囚われ、小手先の改良に終始した。
オバマ政権の下で、中米出身者のコミュニティーの摘発が厳しくなった時、強制家宅捜索ホットラインを組織し、登録しているメンバーがいつでも現場に駆けつけ、人々を励まし、情報を拡散した。
トランプの勝利後、登録会員が急増し、今では千人を超えている。
今はこの人たちに非暴力抵抗のトレーニングを実施している。
(ウェブ紙「レッドペーパー」、1月28日付より)
「ヘイト・フリー・ゾーン」を目指して
ニューヨーク市ブルックリン区では1月25日に、多くの民族の移民が居住するケンジントンをはじめ各地区で大統領令に反対する集会が開かれ、「ヘイト・フリー・ゾーン」(憎悪による迫害から解放された地区)と住民を守るためのネットワークづくりが宣言された。
集会を呼びかけた「デシス・ライジングアップ・アンド・ムービング」(DRUM)はブルックリン
区とクイーンズ区の南アジア出身労働者の草の根の組織である(デシスはヒンディー語で、「国外居住者」)。
DRUMのメンバーのイスラット・アウドリーさんは、「私たちのコミュニティーは長年にわたって暴力と抑圧に直面してきましたが、今、私たちは歴史の決定的な瞬間にいます」と語る。彼女は在留許可証を持たないが、米国で16年間、家族と共に生活してきた。
アウドリーさんは未成年者として入国し、オバマ政権によるDACAプログラム(若年の許可証のない移民を対象とする在留合法化措置)の適用を受けた約80万人の若者の一人である。彼女は合法的に就労できるため、低賃金だが家族の生活を支えている。彼女はま
もなくトランプによって国外追放の対象にされるかも知れない。
「私たちはヘイト・フリー・ゾーンを宣言することによって、私たちのコミュニティーを警察の強制捜索、国外追放、犯罪人扱い、暴力や、私たちの権利と尊厳の侵害から守るコミュニティー防衛システムの確立を決意しています」と彼女は聴衆に訴えた。
同じ時間帯にマンハッタンのワシントンスクエア公園で緊急集会が開かれ、数千人が参加していたが、ケンジントンの集会にも400人ほどの住民が参加した。
ニューヨーク移民連合の広報担当のタヌ・ヤクピティヤゲさんは、「DRUMの運動の注目すべき点は、運動がアジア人とイスラム教徒と在留許可証のない移民たちのコミュニティーによって率いられていることです。このようなヘイト・フリー・ゾーンは人民と企業と地域社会が安全なコミュニティーづくりを誓約する具体的な方法です」と語る。
ニューヨーク市の会計監査官事務所が最近発表した報告書によると、現在同市に居住する移民者は330万人で、全人口の40%を占めている。移民者たちが州と市に納付する所得税は合計で年80億ドルに達している。
また、市内の企業の51%は移民者が所有しており、市の雇用に大きく貢献している。
スコット・ストリンガー会計監査官は声明を発表し、その中で「われわれの価値観に従って行動し、移民排斥の政策に抵抗することはモラル上の義務であるだけではなく、経済的にも義務である。なぜなら移民者は市の経済に巨大な貢献をしているからである」と述べ
ている。
建設労働者で、15年8月にバングラデシュから移住したソヘル・マフムドさんは、ニューヨーク市の雇用者が移住労働者に依存している事実を指摘し、許可証のない移住労働者を追い出したら、代わりの労働者をどこから連れて来るのか」と語った。
会計監査官事務所の報告書によると市の労働者の46%が移民者であり、建設産業では労働者の64%が米国外で生まれている。
集会の後のデモは「リトル・バングラデシュ」と呼ばれる地区を通り、地元の企業経営者も参加した。
(「ザ・ネーション」紙、1月26日付より)