アジア@世界
喜多幡 佳秀・訳(APWSL日本)
852号

タイ
トリンプ社の被解雇労働者の協同組合が設立3周年

 トリンプ社(女性用下着メーカー)に解雇された労働者たちが設立した協同組合が、設立3年を経過した今、事業の成功だけでなく、他の労働者支援にも成功している。  解雇により失職した12人は、09年10月に「トライアーム」のブランドで、下着製造の小さな「社会的企業」を設立。現在ではこの協同組合は収益の10%を労働組合の権利や政治活動の支援に充てている。
 コーディネーターのジトラ・コチャデジュさんによると、この協同組合は、政治的な側面を持つビジネス企業である。サムットプラカーン県のサムロン地区の4階建て商業ビルにあるこの協同組合のすべての共同所有者は、現在の法定最低賃金の1日300バーツよりも20バーツ多い賃金を受け取っている(1バーツは約2.6円)。
 ジトラさんと他の共同所有者は全員、熱心な「赤シャツ」(反独裁民主戦線)の活動家で、ジトラさんは「映画館での国歌演奏に起立しない権利」支持のTシャツでのテレビ出演を理由に解雇された。
 「トライアーム」製品への需要は拡大しており、現在では40台のミシンを保有し、さらに数台の中古ミシン(1台3〜4万バーツ)の購入を予定している。製品の価格は女性用下着が79〜120バーツ、男性用下着が69〜220バーツである。
 ジトラさんは消費者に対し、ファッション性や価格だけでなくフェアトレードについても関心を持つよう訴えている。「流行ばかり考えて買わずに、商品をつくっている人たちの生活のことも考え、その人たちが人間らしい生活をしているかどうかに関心を持ってください」と彼女は言う。
 「トライアーム」の労働者は全員が共同所有者であり、自分が使うミシンを所有しており、残業には50%増の賃金が支払われ、生活の質は満足できると彼女は言う。
 赤シャツの集会やデモではブースを出す。対立する黄シャツ(市民民主連合)の活動家が買うこともある。「トライアーム」が団体交渉権を擁護しているのを知っているからである。「黄シャツの人たちは、これをある種の社会的活動であると思っている」と彼女は言う。
 売上の大部分は電話での注文や工場での直販によるものである。(「ザ・ネーション」11月1日)

タイ
家事労働者の休暇などの権利が法制化される

 彼女たちがいなければ、多くの働く女性たちは家庭での責任と職業上の要求を両立できなかったかも知れない。しかし、タイでは女性の社会的地位向上への家事労働者の貢献が認められたことはなかった。それどころか、多くの住み込みの家事労働者は未だに無権利で、24時間、低賃金で、ほとんど休みもなく、社会保障もなしに働いている。
 最近の労働省の政策上の動きにより、状況が変わろうとしている。新しい省令では、家事労働者への週1日以上の休暇が義務付けられる。また、休日や祝祭日の超勤手当や、病休中の賃金、退職手当の支払いも義務付けられる。
 これまでも多くの家事労働者は適正な賃金や手当、休暇を得ていたが、それは雇用主の好意によるもので、法律上の権利ではなかった。省令が正式に勅令として発効すれば、家事労働者たちは雇用主に左右されることなく、まともな労働条件を保障されることになる。
 新しい省令が移住労働者に適用されることを労働省は明確にする必要がある。家事労働者の法的権利に関わっているNGO「ホームネット」によると、家事労働者の最大90%が移住労働者である。
 省令は、労働時間や出産休暇が規定されていないし、出産を理由とした解雇や、妊娠中の夜間労働の禁止、最低賃金法の適用についても規定されるべきである。また、省令遵守のためには、労働省は家事労働者の権利の周知と違反への処罰に責任を負う必要がある。
 家事労働者の苦境は女性の苦境である。家事労働は経済的に無価値という考え方に根本原因があるからだ。このような文化が残存する限り、働く女性は家庭と職業の二重負担と格闘し続けなければならないし、家事労働者は、依然として労働階層の最底辺に置かれ続けるだろう。(「バンコクポスト」11月9日)

米国
労働組合が多くの住民投票で勝利

 11月6日の大統領選挙と同時に実施された一連の住民投票において、労働組合は、ミシガン州の提案第2号を除いて、重要な勝利を収めた。以下は「レイバーノーツ」ウェブ版11月7日付のレポートの抄訳である。

カリフォルニア
 カリフォルニア州では十数件の提案が住民投票にかけられたが、その中で提案第30号と第32号が労働組合、とくに公務員組合の死活にかかわる提案だった。
 提案第30号は最上位所得層の所得税率と、州の売上税の0・25%引き上げにより税収を確保、教育予算の60億削減計画の回避という内容である。ブラウン知事が提案し、「カリフォルニアを取り戻そう」運動(民主党と労働組合の連合組織)によって支持された。この提案は54%の賛成で採択された。
 提案第32号は給与から天引きされた金銭の政治的使用を禁止する内容である。「政治と金の切り離し」が謳い文句だが、労働組合をターゲットにしていることは明白だった。この提案は56%の反対で否決された。労働組合の政治活動資金を規制する試みは、この14年間で3回目であり、カリフォルニアで成功すれば他の州にも波及することが予想されていた。

ニューメキシコなど
 ニューメキシコ州アルブケルケ、カリフォルニア州サンノゼ、同州ロングビーチの3市で、最低賃金引き上げの条例案が採択された。
 アルブケルケでは、「オレ・ニューメキシコ」という地域住民組織(移住者の権利や医療、幼児教育などの運動にも関わっている)が、同州のサンタフェの経験をヒントにして条例を提案。サンタフェでは03年に最低賃金を物価上昇率とリンクさせる条例制定の結果、全国で最も最低賃金が高く、州内で失業率が最も低くなっている。条例案は、商業会議所やホテル・レストラン協会などの反対に打ち勝ち、3分の2の賛成で採択された。
 サンノゼでは最低賃金が8から10に引き上げられた結果、約4万人の労働者の賃金が引き上げられる。サンノゼ州立大学の学生たちが条例制定の運動の先頭に立ち、59%の賛成で採択された。
 ロングビーチでは、UNITE・HERE(ホテル・レストラン従業員などが加盟する組合)が、ホテル・レストラン産業労働者の最低賃金引き上げ等の条例を提案し、63%の賛成で採択された。最低賃金引き上げはロングビーチ経済活性化に寄与するという議論が、小事業者や地域住民に支持された。

ミシガン
 ミシガン州では、各州で進められてきた「雇用促進法」(実際は、解雇規制の撤廃と労働組合活動制限の内容)の導入封じのために、労働者の団体交渉権を州憲法修正条項として確立する提案(提案第2号)が提出された。この提案は58%対42%で否決された。  投票後の世論調査では、ミシガン州の有権者の70%が団体交渉権を支持、提案第2号に反対の55%が団体交渉権は支持している。
 2010年の中間選挙の際にオハイオ州では、団体交渉権制限の民法案が住民投票により否決されている。しかし、ミシガン州ではまだ法案提出がされておらず、提案第2号は「予防的」性格だった。憲法の修正への抵抗が強かったことや、この提案への猛烈な反対キャンペーンに対抗できなかったこと、組合員の中でさえ提案への支持が3分の2にとどまっていた(事前の世論調査による)こと等が敗北の原因として指摘されている。  一方、州知事が財政状態に問題がある市や学校区の公選された公職者解任を認めた2011年の「非常時管理権限法」の継続を目的として提案第1号が、幾つかの市で、草の根の署名運動を通じて提出された。この州法によってすでに8人の非常時管理者が任命され(主にアフリカ系米国人の居住地域)、予算の削減や組合との協約の破棄、高有資産の売却等の権限を付与されている。提案第1号は52%対48%で否決された。

イリノイ
 イリノイ州では、公務員の年金給付引き上げには議会で4分の3の承認を必要とする(給付引き下げは単純過半数)という憲法修正条項が提案された。この提案は有効投票数の55%に支持されたが、投票総数の50%または有効投票数の60%という要件を満たせず否決された(多くの棄権票があった)。

フェニックス
 アリゾナ州フェニックスでは、UNITE・HEREのホテル労働者とラテンアメリカ系高校生が、モリコパ郡の保安官の選挙で、移民に対し抑圧的な現職に対抗候補を立て、ラテンアメリカ系住民の投票率を州の平均レベルまで引き上げるために精力的に活動した。この結果、ラテンアメリカ系住民の投票率は30〜40%に上がった。
 選挙結果は、「暫定投票」分を除く開票結果では現職が優位となっている。郡の選挙システムが投票直前に変更されたため、多くのラテンアメリカ出身の住民が「暫定投票」(有権者資格確認までカウントされない)を行うことを余儀なくされたため、最終結果の発表が遅れている。
 ラスベガスでも調理人組合の活動によって、ラテン系住民の投票率が18%上昇。UNITE・HEREのスタッフは、ラテン系住民の選挙への参加は将来の勝利につながると考えている。実際、アリゾナ州では昨年、移民規制法を提案した州上院議員のリコール運動が成功している。

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