アジア@世界
喜多幡 佳秀 訳(APWSL日本)
960号

★ハイチ
  衣料労働者が賃上げ求めスト

 ハイチのマキラドーラ(輸出加工区)の衣料労働者が最低賃金の大幅引き上げと通勤手当、医療手当などの給付、労働時間短縮、生産割り当ての削減等を要求して5月19日から波状的にストライキに入っている。
 ストは首都ボルトープランスをはじめ4つの都市に拡大している。


 現行の最低賃金は1日300グールド(ーグールドは約1・8円)である。労働者たちはこれを800グールドに上げることを要求している。
 ハイチの輸出向け衣料工場は合計で約4万人を雇用し、米国のリーバイスやフルーツオブザルームなどのブランドに製品を納入している。賃金は西半球で最低であり、標準的な労働時間は1日12〜16時間である。
 経営者は労働者の権利を主張する活動家に暴力を振るい、組合と接触していることがわかった労働者を解雇する。


 労働者たちは独立組合の連合であるSOTA−BOとPLASITlBOの支援を受けている。
 組合役員のヤニック・エティーヌさんは、「1日300グールドの賃金で、150グルードの食費と75グルードの交通費を引いたら、いくら残るのか?」と言う。衣料労働者のエスペランシア・メルナビルさんは、「もう息子の面倒を見ることができない所まで来てしまった。これでは将来が全く見えない」と語っている。

 5月19日のストでは労働者たちは十数工場を封鎖し、空港へ通じる高速道路の一部を封鎖し、その後大統領官邸へ向かった。警察機動隊が催涙ガスで労働者たちを阻止した。


 ハイチでは最初の最低賃金が1980年代に設定され、95年に引き上げられたが、それ以降は改定がインフレに追いついていない。11年にウィキリークスが暴露した大使館の機密通信文書によると、米国政府と企業が最賃引上げを阻止するために結託していた。
 14年には米国からの圧力にもかかわらず、ハイチ国会は最賃の引き上げと8時間労働制の導入を決定したが、それが守られていないケースもある。

 

(「イン・ジーズ・タイムズ」6月22日付、「ジャスト・スタイル」7月7日付等)

 

 

★イスラエル
  分断超える新しい組合運動

 ムサ・アラビッドさん(41歳)は組合に加盟した。彼はイスラエルに住む約20万人のべドウィン(アラブ人の遊牧民)の1人で、同国南部・ラハト近郊のソーダストリーム(炭酸水生成機)の工場で働いている。

 

 ソーダストリームはヨルダン川西岸の不法入植地の工場で製造されていたことから国際的なイスラエルBDS運動(ボイコット、投資引き上げ、経済制裁)のターゲットとなり、その後、工場が入植地からイスラエル国内へ移転された。
 昨年、アラビッドさんをはじめソーダストリームの労働者たちは賃上げと労働条件の改善を要求し、ヒスタドルート(ユダヤ労働総同盟)に支援を求めた。ヒスタドルートは今年6月にソーダストリームの経営者に対して組合結成の妨害を理由に訴訟を起こした。

 イスラエルの労働法は経営者による組合活動への加入や妨害を厳しく規制している。

 

 ヒスタドルートは1920年にシオニストの労働者の組合として結成され、イスラエル建国以降はシオニスト国家と協調して、主にユダヤ人労働者の福祉向上に関わってきた。組合組織率はピーク時には80%を超えていたが、80年代から90年代にかけて民営化と新自由主義的政策(福祉切り下げなど)の下で影響力を失い、現在では組織率は30%以下になっている。

 この組合は従来、アラビッドさんのようなアラブ人労働者の加入を認めていなかった。ヒスタドルートがアラビッドさんたちを支援することは、これまでは考えられないことだった。
 イスラエルでは11年の大規模な反政府デモ以降、労働運動がふたたび活性化しており、新しい労働団体が、賃金引き下げやアウトソーシング(外注化)などに反対する運動を組織している。


 イスラエルの労働者はユダヤ人、パレスチナ人、ロシア系移民、西岸入植者等のグループに分断されているが、07年に結成されたコーチ・ラ・オビディム(民主労働機構)のヤニブ・バー・ハン代表は「組合の組織化はイスラエル内のさまざまなグループに橋を架ける手段となる。本当に統一できるのは職場の中だけだ」と語っている。

 しかし、組合運動の政治的影響は限られている。選挙になると、有権者は経済的問題よりも安全保障関連の問題に関心を示し、右派・極右派の政治家が圧勝する。経済政策については右派から左派に到るまで、同じような民営化と新自由主義的政策を掲げている。
 このような政治的現実と、一方における経済条件への幻滅の拡大の問の緊張関係が、ソーダストリームの工場から約80キロ離れた港湾都市、アシュドットでも見られる。ここでは金属工場の労働者のグループがヒスタドルートと決別して、小さな独立労働組合、労働者相談センター(WAC−MAAN)と提携することを決定した。ヒスタドルートがあまりにも経営者寄りだからである。一方、ここはネタニヤフ首相の支持基盤であり、多くの労働者がネタニヤフを強く支持している。

 MAANはイスラエル国内でパレスチナ人労働者を組織しようとしている唯一の労働組合である。MAANは公然と占領反対を掲げており、西岸地区からイスラエル入植地に働きに来ているパレスチナ人労働者も組織している。


 イスラエルの労働組合の研究者のジョナサン・プレミンガー氏によると、イスラエルの中心的な問題の一つで、延べ40万人が参加した11年の反政府デモがふれなかったのはパレスチナの占領とイスラエル国内のパレスチナ人への体系的なレイシズム(人種差別主義)の問題である。これはデモの組織者がイスラエルの多数派を敵に回さないように行った意図的な選択である。しかし、それはイスラエルの経済的問題の背景にある政治に取り組む時にすべての労働運動が直面する深い分断を明らかにした。

 「抗議運動の中心にいた人たちは過去にユダヤ人中心のシオニスト的福祉国家の恩恵を受けた人たちであり、なぜかそのような恩恵を取り戻そうとしていた。……しかしそのようなイメージの中にはパレスチナ人のためのスペースは想定されていない」と彼は言う。
 しかし抗議運動が始まった時、コーチ・ラ・オビディムなどの組合活動家たちはそこに参加し、運動を牽引した。


 コーチ・ラ・オビディムのマーチン・ビラールさんは東エルサレムのシルワンおよびシェイフヤラのイスラエル入植地で警備員をしている労働者の組織化を試みた。しかし、警備会社の誰かが入植地に対するコーチ・ラ・オビディムの立場を警備員たちに知らせたことでこの試みは頓挫した。

 シェイフヤラではユダヤ人とパレスチナ人が協力して入植地に反対する運動を続けており、シルワンでは人権団体が警備員の暴力を非難している。この警備会社にはヒスタドルートの組合も存在する。

 ヒスタドルートのオルグのロイ・パールマン氏は、「ここはイスラエル社会のすべての緊張が重なる場所だ。アカデミックな議論やイデオロギー上の議論からは理想的な場所ではない。……
 (労働者たちは)われわれを互いに競争させようとするこのシステムと闘うために互いに協力する必要があると感じるから組合を組織するのだ」と述べている。

 

(米国「ザ・ネーション」紙7月7日号より要約)

 

 

★インド
  初のIT産業労働組合に注目

 米国のトランプ政権の登場と共に、グローバルなITバブルの破裂が加速化している。インドのIT産業でこの間、人員削減、賃金・手当の引き下げが続き、また、この間インドにアウトソーシングしてきた外国企業がインドから撤退を始めている。


 米国ではインドからの大量の技術者やプログラマーの流入を促進してきたHlBビザ(専門職ビザ)について、基準の厳格化が検討されている。
 一部のIT企業はトランプ政権の意向に沿って米国人の雇用を増やし、アウトソーシングを減らしている。これに伴うインド人労働者の解雇が来年度には15〜20万人に加速すると予想されている。


 この動きの中で、インドのカルナタカ、テランガナ、マハラシュトラ、西ベンガルの各州でIT産業労働者が公正な労働協約と労働条件改善のための組織化を進めてきた。1月にはタミールナドゥ州で新民主主義労働戦線(NDLF)がIT労働組合(ITE)を設立した。まだ組合員は200人程度だが、同州には約20万人のIT労働者がいる。
 ITEは雇用の安定のほか、業績評価制度の透明化、労働時間の短縮などを要求している。


 IT産業では不規則な労働時間や恣意的な評価制度などへの不満が、比較的高い賃金や海外での就業の機会などの魅力によって相殺され、労働者は組合を作って経営者から睨まれるリスクを避けてきた。しかし、現在では大量の若年の技術者が供給されるようになり、評価制度は恣意的な解雇の口実として利用されている。
 インドではこれまでIT技術者が労働組合に加入する資格の有無が争われてきたが、NDLFがタミールナドゥ州マドラスの裁判所に提起した訴訟で、組合結成の適格性が確認された。

 

(米国「ザ・ネーション」紙6月29日号)

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