アジア@世界
810号

●エジプト
労働運動の指導をめぐり分岐

 1月25日〜2月11日の「世界を揺るがした18日間」の闘いにより、30年に及ぶムバラク大統領の軍事独裁体制が打倒された。権力を掌握した軍最高評議会の下で新憲法制定と選挙の準備が始まっている。
 この間の闘いの中で大きな役割を担った労働者の活動は、暫定政権下でも持続、拡大している。
 2月14日付の「BBCニュース」は「エジプト・ストが軍事政権をテストしている」という見出しで、次のように報じている。
 カイロ中心部のテレビ・ラジオ局のビルの外で、数百人の公共交通労働者が賃上げと労働条件改善を求めてデモをしている。機械工のアフメド・サアドさんは「私の賃金は月600エジプトポンドで(1エジプトポンドは約14円)、家賃が350ポンド。これで食べ物を買えますか」と訴える。ファララ・ハアト・イブラヒムさんは「横領がひどすぎるので賃金が安い」と付け加える。
 タハリール広場の近くでは、国立青年・スポーツ機構の職員数百人が、同様の要求を掲げ集会を開催。最大の国営銀行・ナショナルバンクの労働者がストに入り、中央銀行はすべての銀行に業務を停止するよう指示した。この数日、医療、石油、観光、衣料部門でも労働者のストが続いている。
 「労働組合および労働者サービス・センター」(CTUWS)の代表のカマル・アッバス氏によると、「今は誰がストをやっているかを聞くより、誰がやっていないかを聞く方が早い」。カマル氏は、ストの拡大の背景として、労働者たちが革命の勝利によって自信をつけたことと、横領のスケールの大きさが明らかにされつつあることを指摘する。

 同日付の「アルマスリ・アルヨウム」紙(英語版)によると、同日、ムバラク政権下での唯一の合法的労働組合・エジプト労働組合連盟(ETUF)本部前で500人の労働者が、ETUFの解散と幹部の資産凍結と訴追、ストの合法化、独立労組の合法化を要求した。中心となったのは独立労組の不動産税務職員組合(RETA労組)である。労働者たちとETUF本部の警備員間で暴力的衝突が起こり、軍が介入。軍は銃で威嚇して両者を引き離しETUF職員3人を連行して尋問した。
 同日付の「CTVニュース」によると、軍評議会は秩序回復のためにストやデモの中止を要求する声明を発表。「…そのようなデモはエジプトの安全と繁栄を脅かし、無責任な集団に違法行為を行う機会を与えるものだ」と非難している。
 同15日付の「インタープレス・サービス」紙は、05年以来の労働者の闘い、特に08年4月6日のエル・マハッラの地域ゼネスト(「4月6日運動」のきっかけとなった)が独裁体制の打倒につながったことを指摘し、2月11日以降の発展について次のように述べている。
 ……ムバラク後のスト拡大の中で、労働運動のリーダーの間での分岐が明確になっている。熱気が冷めないうちに当面の要求獲得を目指す人たちと、暫定政権に労働者の要求を受け入れるための時間を与えるべきだとの分岐である。
 エル・マハッラの活動家で鉄道労働者のモハメド・モウラッドさんは、「新しい支配者に時間を与えるべきだ。しかし権利のための闘いは続ける」と言う。彼はムバラクの下での国営企業の民営化、組合選挙の不正、警察の介入も一掃されるべきだと語っている。
 「労働者の自由と権利のための調整委員会」のハムディ・フセインさんは、最近の労働者の闘いの主な要求は、(1)一部の企業最高経営責任者の腐敗一掃、(2)最低賃金の引き上げ(少なくとも1千500エジプトポンドに)、(3)自由選挙での組合役員の選出であり、「革命が自分たちにとって本当に変化をもたらすまで闘い続けるだろう」と語った。

●ニュージーランド
CTU(労働組合評議会)がTPPA反対のキャンペーン

 以下はニュージーランド(NZ)労働組合評議会(CTU)などよって結成された「TPPウォッチ」の2月10日付の声明(抄訳)である。
 ジョン・ケイ首相に対してTPPA(環太平洋パートナーシップ協定)の内容の公開を求める公開状に、さまざまな全国組織と800人余の個人が署名した。この公開状は2月14日からチリ・サンチャゴで開催される交渉に先立って、TPPAのテキストと、NZ政府のポジションペーパーの公開を求めている。署名者にはNZ労働組合評議会(CTU)、作家協会、オクスファムや教会のリーダー、社会運動団体、政党などが含まれる。  「開かれた情報技術と開かれた政府」を提唱しているダニエル・スペクター氏は、「秘密のベールの下で100年間の貿易協定を締結するというのは、私たちの民主主義への挑戦だ」と述べている。  全国流通労組のロバート・リード書記長は、「貿易協定の交渉が秘密の下で行われることには、うんざりしている。交渉で話されている問題は、商品の貿易のことではなくNZの経済的主権に関わることであり、民主主義的選挙で選ばれた政府が多国籍企業や外国投資家の活動を規制する権限を持つかどうかである」と述べている。
 彼はまた、「この数日、ジョン・ケイ首相の一連の発表が米国通商交渉担当者に否定されている。今こそ、闇の中での交渉に光を当てるべきだ」と述べた。
 以下は、ジョン・ケイ首相宛の公開状(2月10日付)の要約である。
 あなたの政府はTPPAが「21世紀の通商協定」であると言っています。
 私たちにとって、「21世紀の通商協定」は、今後90年間の私たちの生活、コミュニティー、地球が直面する課題、つまり気候変動、金融の不安定性、先住民族の権利、食糧主権、エネルギーの枯渇、伝染病、不安定、不平等、貧困、そして企業の強欲への規制などの課題に取り組むものでなければなりません。
 提案されているTPPAは、国境内に深く侵入し、私たちの金融規制を制限し外国投資家に新しい権利を付与するだけでなく、医療やエネルギー、天然資源、文化に関わる規制すら制限するものです。税金の使い方から、食糧の安全基準や表示の方法、医薬品の価格に至るまで制限しようとしています。
 提案内容だけでなく、交渉方法も非民主主義的で、偽善的です。
 第1に、TPPAは今後何十年にもわたって私たちの国内政策や国内法を拘束します。
 第2に、この協定下でのNZ政府の義務は、国内の裁判所ではなく国際裁判所により強制されます。外国投資家が非公開の国際裁判所に新しい権利を求めてNZ政府を提訴した場合、政府はこの裁判所の決定に従わなければ通商上の制裁を受けることになります。
 第3に、NZ政府はワイタンギ条約に基づいてマオリの人々に認められている権利を否認する一方で、外国投資家には同様の権利を保障しようとしています。
 第4に、交渉が完全に秘密にされています。
 交渉プロセスの透明化は交渉を妨げるという口実は、あなたの提案が白日の下での精査に耐えられないことを前提としています。
 私たちは、少なくともNZ政府が、交渉テーブルに出されたすべての文書のウェブ上で同時公開、さらに、他の政府に対してもTPPA交渉に関する情報の開示を提案することを要求します。

●サウジアラビア
外国人家事労働者に対する虐待・性犯罪が頻発

 フィリピン下院の海外労働者問題委員会の調査チームは、サウジアラビアに家事労働者として渡った女性たちに対する雇い主による虐待や性犯罪について、労働者から事情を聴取してきた。主要都市のジェッダ、リヤド、アルコバールにはフィリピン政府が管理するシェルターがあり、雇い主から逃げてきた、または救出された女性たちが生活している。
 「フォーカス・オン・ザ・グローバルサウス」のワルデン・ベリョ氏(下院議員)はZネットに掲載されたレポート(2月2日付)で、「サウジアラビアでは1962年に国王の布告によって奴隷制が廃止されたが、慣習はなかなか変わらない」と指摘している。王室や貴族の家庭では、今でも家事労働者は奴隷扱いであり、その慣習が下層の社会でも再生産されている。
 また、レイプ事件はそれらの家庭の中だけでなく、街頭でも起こっている。サウジアラビアでは若者の男女交際が厳格に禁止されており、顔を覆っていない外国人家事労働者が性犯罪の被害に遭うことが多い。外国人労働者によるレイプ事件も多い。
 ミンダナオ出身のロレーナさん(仮名)はシングルマザーで、他の多くの家事労働者と同じように、貧困からの脱出を夢見て、昨年6月にダンマン国際空港に到着。雇い主は海軍の将官で、ジュバイル基地に勤続している。彼は空港でロレーナさんを出迎えた後、自宅に向かう車中でキスを強要。1週間後、彼は妻の留守中にロレーナさんをレイプした。7月にも二度にわたってレイプが行われたが、ロレーナさんは知り合いもなく、怖くて逃げられなかった。
 彼女はある日、ショッピングモールで雇い主とその妻を待っているときに、数人のフィリピン人看護師と出会い、助けを求めた。彼女たちはロレーナさんの訴えを聞き、彼女のために携帯電話を買った。  その後も雇い主による暴力や虐待は続き、10月には雇い主の妻の弟によるレイプと、雇い主による4度目のレイプが起こった。
 ある日、ロレーナさんが洗濯中に倒れて怪我をしたので、雇い主の妻に病院に電話をするよう依頼したが、拒否された。雇い主は「死ねばいいのだ」と暴言を吐いた。彼女は自分で裁縫用の糸で傷を縫い、フィリピンから持参していた薬で痛みに耐えた。
 ロレーナさんはアルコバールにあるフィリピン海外労働者事務所(POLO)に救援を求め、12月30日に救出員と警察官によって救出され、雇い主は逮捕された。

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