アジア@世界
喜多幡 佳秀 訳(APWSL日本)
936号

★ブラジル
  大統領弾劾に反対、労働団体が声明

 5月12日にブラジル国会でルセフ大統領への弾劾裁判の開始が可決され、同大統領は180日間職務停止となった。
 南北アメリカ労働組合会議(TUCA)、ICTU(国際労働組合総連合)をはじめ多くの労働組合が、右派勢力による大統領弾劾の動きに反対してきた。
 以下はTUCAの4月20日付の声明の抄訳である。

 

 ブラジルの民主主義への攻撃に対する国際的連帯の呼びかけ

 南北アメリカ地域の6千万人の労働者を代表するTUCAは、4月17日のブラジル下院によるディルマ・ルセフ大統領に対する弾劾手続きの承認以降、危機にさらされている法に基づく民主主義的統治を断固として支持する。

 4月17日の議決中に明らかになったように、弾劾を支持した議員たちは大統領が何らかの法律に違反しているといういかなる証拠も示すことはできなかった。一方、大統領の弾劾を支持した議員の多くは、横領、マネーロンダリング、不正選挙などさまざまな犯罪によって司法機関からの訴追を受けている。腐敗の一掃についてすべての言説は虚偽であり、偽善であり、ブラジル社会にショックを与え、クーデターを正当化するためのものである。


 この動きの背後にあるのは、この13年間のルラ前大統領とルセフ大統領の政権による社会的・政治的な進歩のための政策に反対する最も保守的、反動的な政治グループと、国際的・国内的な経済的利権、そしてそれを擁護する大手のメディア企業である。……


 弾劾を支持する議員たちは、グロテスクな男優位主義的、人種差別的、ファシスト的な演説の中で、クーデターが成功した後に成立する政権の下での労働組合や社会運動や左派組織に対する攻撃を予告した。彼らにとっての真の敵は労働組合や社会運動なのである。
 すでにこの議員たちの間では、自分たちの犯罪の免責、社会的な抵抗運動の抑止と処罰、新自由主義的政策の採用、米国の地政学的利益に従属する方向への転換、ブラジルが推進してきたメルコスール(南米共同市場)、UNASUR(南米諸国連合)、BRICsなどのイニシアチブの解体が公然と話されている。


 南北アメリカの労働組合は、上院に対してこの議会クーデターの中止を求めているブラジルの労働組合や社会運動団体の呼びかけを支持する。
 ……われわれは国際社会がこのブラジルの民主主義に対する攻撃の正体を知り、暴露すること、OAS(米州機構)、ECLAC(ラテンアメリカ・カリブ経済委員会)、UNASUR、メルコスールなどの国際機関や国連機関がブラジルの議会制民主主義と法による統治を引き続き支持することを要請する。

 

★アルゼンチン
  5大労組が解雇規制法求めて共闘

 昨年12月のマクリ大統領の就任以来、公務員の人員削減が進められている。民間でも大量の解雇が行われており、野党のシンクタンクの調査によると昨年12月から今年3月の間に14万人以上が解雇されている(大部分は民間)。特に南部の油田地域と建設産業で解雇が急増している。


 野党が多数を占める上院で4月29日に、正当な理由のない解雇の禁止(100日間)、解雇の場合に2倍の退職金支払いなどの措置を含む解雇規制法を採択した。
 これに対してマクリ大統領は、経済を破滅させる法案であり、外国からの投資を妨げるとして、下院で可決した場合でも拒否権を使って阻止すると言明している。


 アルゼンチンの5大労組―CGT(労働者総連合)とそこから分裂した2つの組合、およびCTA(アルゼンチン労働者センター)の2つのグループは4月29日、解雇に抗議し、解雇規制法の成立を要求するデモを呼びかけ、数千人が参加し、首都の交通をマヒさせた。
 CGT傘下のトラック労働者の組合のウーゴ・マジャノ委員長は「これは歴史的な集まりだ。……労働者の利益は組合リーダーの利益よりも優先されることをわれわれは理解している」と述べた。


 マクリ政権の下で、公務員の解雇のほかに、補助金の削減に伴うバス料金や電気料金の値上がりで労働者の不安が増大している。

 

(「ブエノスアイレスヘラルド」紙4月29日および5月16日付、「AP」4月29日付より)

 

★メキシコ
  中米からの移住を阻む巨大な壁

 以下はウェブ誌「カウンターパンチ」に掲載されたジャーナリストのタマラ・ピアソンさんの「メキシコにはすでに巨大な壁がある?  鉱山会社がその建設に加担している」と題するレポート(5月8日付)の抜粋である。

 

 いくつかの壁はコンクリートと鉄条網でできている。そのほかに、兵士、暴力、お役所仕事、虚偽の情報でできている壁がある。
 グルポ・メヒコ(メキシコの非鉄金属企業)は長距離列車「ザ・ビースト」に移住者が乗降するのを阻止するための長大な壁を建設した。メキシコ政府は「南部国境計画」として、中米からの移住者の入国を一層困難にする計画を進めている。


 ……移住者たちは猛暑の中、疲れ果てて、メキシコ中部・トラスカラの避難所にたどり着いた。15日間の徒歩での移動で目は虚ろ、足は裂けている。小さな袋をボランティアに預け、寄付された服に着替える。「グアテマラを通過するのはいつも通りだが、メキシコへ入ると急に厳しくなる」と移住者のエリックは言う。


 14年7月に新しい計画が導入された後は、メキシコを通過するのに1ヵ月かかるようになった。これまでは9日だった。メキシコ南部の国境や列車の経路に沿って警備隊が増員され、本国送還されるケースや移住者への犯罪が増えている。強盗、性暴力、殺人、人身売買などである。
 支援活動家によると、最近ではほとんどの移住者が犯罪の被害に遭っているか、犯罪を目撃している。犯罪集団だけでなく、入管当局者が電気銃を使ったり、賄賂を要求し拒否すると暴行するというケースもある。


 グルポ・メヒコはメキシコの歴史上最悪の環境汚染を引き起こした鉱山企業であり、移住者の多くが利用する長距離列車も経営しているが、政府の計画の一環として列車の線路沿いに壁を建設した。
 壁の建設は13年にベラクルスで始まった。壁はこの町を2つに切り裂いた。厚いコンクリートは高さ5メートルで、上には鉄条網が張られている。そのため、疲弊し、傷ついた移住者たちが近くの避難所に駆け込むことは難しい。


 トラスカラの避難所にやって来たホンジュラスからの移住者たちは、ほかに方法がないから歩いて来たと言う。人々に食べ物をもらったが、時には1日あるいはそれ以上、何も食べるものがなかった日もある。移動の途中で、別の移住者が列車から転落して死んだのを見たこともある。


 スカラブリニ宣教会の移住・難民ミッションの代表のレティシア・グチエレスさんは、そのようなことは日常的に起こっていると言う。
 彼女によると、警備隊は列車の台車の上で動くものはすべて叩き落とせと命じられている。あたかもメキシコの役割は、過酷な労働に耐える強靭な体力があり、1時間10ドルで働く者を選別することであるかのようだ。


 エリックは食べ物を買うのに十分なお金を持っていたことが人生の中で一度もなかった。彼に何か趣味はないのかと聞いたとき、彼は働くこと以外にしたいことはないと答えた。
 おそらくエリックより4〜5歳若いもう一人の男性は米国に戻る途中だった。彼は米国で朝から晩まで、週末も働いていたが、入管当局が職場にやってきて、彼を国外退去にした。彼は米国の収容所で音楽を学び、今ではバンドに入りたいと思っている。


 この日避難所にいた人の大部分は若い男性だった。彼らによると、女性の移住のためには費用が3倍かかる。彼らの移動ルート上で女性を見かけることは少ない。コヨーテ(密入国の斡旋人)たちは標準的に6千ドルを要求する。


 米国大統領に立候補しているトランプはメキシコとの国境に壁を建設すると言っているがどう思うかという質問に、若い方の男性は、疲れた様子で、あまり関心がなさそうに、「状況はもっと厳しくなるだろう。今でも厳しいが、さらに」と答えた。そして、「先に書類を壁の向こう側に投げて、その後で壁を乗り越えるというのはどうだ?」と笑った。……


 米国エルパソの国境地域農業労働者センターのカルロス・マレンテス所長は、「彼らが何をするかは関係ない。人々の移動を止める壁など存在しない。なぜなら、いつでも誰かが道を見つけ出すからだ」と語る。
 しかし、国境を超えて米国にやってくる移住者の数は年々減っている一方で、米国・メキシコ国境上で殺される人の数は年に300〜500人で年々増えている。国境を超えようとした未成年者の数は増えており、今年だけですでに2万人以上が収容されている。


 トランプや多くの人が理解していないのは、メキシコがその南部国境計画の下で収容している中米からの移住者の数が米国を上回っているということである。
 最近のWOLA(南北アメリカ人権アドボカシー)による調査では、14年10月から15年4月までに米国が収容した移住者は約7万人で、メキシコが収容および国外追放した移住者は約9万人である。
 WOLAの調査員のマウリーン・メイヤーさんは、「米国は問題をメキシコに移転し、メキシコは国外追放の役割を引き受けている」と指摘する。

 

 

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