★ミャンマー
総選挙後に労働運動も大攻勢図る
ミャンマーで11月8日に総選挙が実施され、国民民主連盟(NLD)が勝利した。以下は、ITUC(国際労働組合総連合)が後援するウェブ誌「イコールタイムズ」に11月9日付で掲載されたレポートの抄訳である。
ミャンマーは1988年の軍事クーデター以降、国際的な経済制裁の圧力を受け、中国だけが政治的支持と投資を提供してきた。軍とその取り巻きがヒスイ、麻薬、木材の取引で莫大な富と特権を享受する一方、困窮化した数百万人の人々がタイやマレーシアへの移住を余儀なくされた。
12年に連帯団結発展党(USDP)政権は慎重な経済社会改革プログラムに着手し、外国人投資法と外国人投資規則を制定した。その後の経済制裁の解除に伴って、有力多国籍企業がミャンマーの豊富な資源と労働力を求めて殺到するようになった。
1988年から2012年までの間にミャンマーに投資した外国企業はわずか477社で、外国企業の投資総額は41億ドルだった。それに対して、ITUCのレポートによると、14年度には、38カ国、895の企業が総額80億ドルを投資している。ヤンゴンのダウンタウンの不動産価格は今ではマンハッタンと張り合うほどだ。
アジア開発銀行はミャンマーが今後10年間、年7〜8%というこの地域で最高の成長率を実現すると期待している。
90年代初め以降、石油・エネルギー関連多国籍企業のトタル、シェブロンとそのタイおよびミャンマーのパートナー企業は強制労働、土地強奪、レイプ、拷問、殺人などのスキャンダルにまみれてきた。ほかにも強制労働あるいは奴隷労働で国際的非難を浴び、特に英国や米国にマグロやエビを輸出しているタイの水産業におけるビルマ人移住漁民に対する過酷な搾取や殺人が知られている。
軍が道路・インフラの建設や軍事物資の輸送にしばしば利用してきた強制労働は、最近では減っていると伝えられている。しかし、15年末までに強制労働をなくすというILOに対する約束は守られていない。
強制労働は特にラカイン州のような民族紛争が起こっている地域で深刻な問題となっている。同州ではイスラム系の少数民族であるロヒンジャが迫害され、土地を追われ、ほとんどが8日の選挙から排除されている。
外国からの投資に伴うさまざまな問題に関連して、ミャンマー労働組合連盟(CTUM)のマウン・マウン委員長(63歳)は次のように述べている。
「ある国が門戸を開く時はいつも、投資家がやってきて、どういう有利な条件があるかを調べる。しかし、私たちはずっとブラックホールの中にいたので、外国からの投資が必要だし、技術的な専門知識が必要だ。私たちはタイやインドから10年以上遅れている。だから私たちは投資を必要としている。しかし、同時に私たちはまともな賃金を議題に上らせる必要がある。投資家は国際法を守る必要がある」
CTUMとそのリーダーのマウン・マウン氏はかつて「テロリスト」、「共産主義の扇動者」という間違ったラベルを貼られ、同氏は24年間の亡命の後に12年9月にミャンマーに戻った。CTUMは今年7月23日に正式に登録され、最大の労働組合となった。現在では組合員数が4万9千人に近づき、そのうち1万6千人が女性である。加盟組合の数は約640である。
マウン・マウン氏は、「外国直接投資とそれが労働組合や労働者の権利に及ぼす影響はこの国の未来に関わる基本的な問題である。われわれが直面する最大の課題は国際的な多国籍企業とグローバリゼーション、そしてASEANの経済統合に関連するものである。われわれは団体交渉に関して新しいレベルへ進む必要がある」と語る。
米国AFL・CIOのソリダリティー・センターのミャンマー・プログラム担当者のジェーミー・デービス氏は次のように述べている。
「現在、ミャンマーでビジネスをすることへの関心が高まっているが、ミャンマーにはこの50年以上にわたって良好な労使関係という考え方は実践されたことがない。本当の問題は、投資家たちが労働力が安く、法の支配が弱いので何でも好きなようにできるという理由でやってくるのか、それとも公正な方法で労働者と利益を分け合おうとするのかだ。健康や安全については、バングラデシュやカンボジアなどの近隣国でも工場火災やビル倒壊などが大きな問題となっており、ミャンマーでもそのような問題を注視しなければならない」
昨年11月に国民民主連盟(NLD)のリーダーのアウンサン・スーチ―さんは改革プロセスに対する過度の楽天主義について警告した。
ITUCの法務担当責任者のジェフ・ボグト氏は「ミャンマーの自然資源や労働力が国内の特権層や外国企業にのみ利益をもたらし、弱い立場に置かれている地域社会がビジネス活動への規制の貧弱さの否定的な影響を受けるという深刻なリスクがある」と警告している。
しかし、選挙の結果がどうなろうとも、CTUMはその存在をはっきりと示している。ILOのミャンマー事務所のチーフ・テクニカル・アドバイザーのクリス・ランド・カズラウスカス氏は、「時計を元に戻すことはできないだろう。労働組合は強力な基盤を確立してきたし、さらに組織を強化するために活動している。当分はそれが止まることはないだろう」と述べている。
★ブラジル
石油民営化に反対して無期限スト
ブラジルの国営石油会社ペトロブラスの労働者が11月2日から無期限ストライキに入っている。
ベネズエラの海外向けテレビ放送局「テレスール」11月2日付によると、 ブラジル最大の石油労働組合は2日、ブラジルの国営石油会社であり世界で最も重要な石油会社の1つであるペトロブラスの民営化に反対して全国的なストライキに入った。
右派の政治家たちは投資の引き上げ、外注化、海底油田の民間企業による採掘に向けて圧力を強めており、労働者たちは100日間に及ぶ交渉の中でこの計画を撤回できなかった。
石油労働組合連盟(FUP)は声明で、カンポス沖油田の半分および他の沖合油田における操業を停止したと発表している。
ペトロブラスは建設工事の水増しと賄賂をめぐるスキャンダル(04年から14年にかけて同社幹部と建設業者、約50人の政治家が関与)で、議会委員会による調査を受けている。利権集団が国営企業から約20億ドルの資金を吸い上げたのである。
同社は近年の原油価格の値下がりで経営状態が悪化し、最近では信用の格付けも「ジャンク」まで下がっている。
議会委員会による調査は10月19日に完了し、その結果を受けてペトロブラスは支出と投資の大幅な削減を実施し、パイプライン事業への投資の引き上げを開始した。
今回のストライキの争点となっている計画は、巨額の債務を返済するために同社の資産の内151億ドル分を直ちに売却し、19年までにさらに580億ドル分を売却するというものである。
「ロイター」11月10日付によると、ペトロブラスは同10日に予定されていた組合側との交渉を中止すると発表した。FUPは闘争をさらに強化すると宣言した。同社の原油生産への影響は、1995年の32日間のストライキ以来最大規模となっている。
当初は賃上げをめぐる交渉であり、組合側の18%賃上げ要求に対して経営側は8%を提示していた。しかし、組合側は賃金はストライキの主要な問題ではないと言っている。
経営側はストライキによって生産が約5.5%減少しているが、10日間程度の生産減少には耐えられると発表している。
組合側は「会社はストライキの影響を過小評価している。すでに約200万バレルの生産が失われ、損失は4億レアルに達している」と発表している(1レアルは約30円)。
★カンボジア
衣料工場で20人以上が意識不明
11月5日朝、プレイベン州東部にあるオル・サンバス・トレーディング社(中国人が経営する衣料企業)の工場で、21歳の女性労働者が目まいを訴え、呼吸困難に陥(おちい)り、意識不明となり病院で死亡した。同日午後と翌日には、さらに21人が同様の症状を訴えて病院へ搬送された。
州当局の発表によると、医師と労働監督官と州当局が原因を調査中である。調査が完了するまで、この工場(従業員数1200人余)は操業中止を命じられている。
カンボジアでは労働者が集団的に意識不明になることが頻繁(ひんぱん)に起こっている。
8月中旬に全国の4つの工場で約400人が意識不明になった。7月2日には首都プノンペンのクイント・メジャー・インターナショナル(QMI)社の工場で38人が意識不明になった。
この現象は2011年にピークに達したが、その後も続いており、いまだに原因が判明していない。ILOの専門家たちは最近、さまざまな原因の複合によるものだとする調査結果を発表した。栄養不良、不適切な換気、集団的な心因性の疾患等である。
QMI工場で集団的な意識不明を経験したソファナさん(35歳)は、「私は少しプレッシャーを感じていました。新しい目標の達成を求められたからです。1日に400着の衣料品を生産しなければなりません。1時間に40着です」と語っている。彼女によると、以前はノルマは1日200着だった。
(「ストレイト・タイムズ」紙11月6日付、「ファッション・タイムズ」紙8月17日付より)