アジア@世界
喜多幡 佳秀 ・訳(APWSL日本)
882号

南アフリカ:金属労組がANCの新自由主義的政策との決別を宣言

 COSATU(南アフリカ労働組合会議)傘下の最大労組、NUMSA(南アフリカ全国金属労働組合、約34万人)は、昨年12月16〜20日に特別大会を開催。ANC(アフリカ民族会議)、SACP(南アフリカ共産党)との連合から脱退することを提案する決議を採択した。


 この決議は、この三者の連合が選挙におけるANCの集票のため以外には機能しておらず、労働者の日常的な闘いとは無縁で、最小限綱領であった「自由憲章」は完全に放棄され、NDP(全国開発計画)のような新自由主義的政策を進め、右翼勢力に取り込まれてしまっていると指摘している。

 さらに、もはや三者の連合を当初の目的に戻すことも、SACPを労働者階級の闘争の道に戻すことも不可能であると判断し、新しい統一戦線の確立と、労働者のための政治組織、「社会主義のための運動」の設立を呼びかけている。
 NUMSAのイルヴィン・ジム書記長は2月11日にケープタウンのプレスセンターで行われた記者会見で次のように語っている。


 「……われわれは金属労働者として、雇用をもたらす政策や戦略のために闘ってきた。われわれは地域の中で水や住宅や安全のために闘ってきた。住民の抗議行動を弾圧する警察と闘ってきた。
 われわれはANCとSACPに率いられた解放闘争に参加してきた。それにもかかわらず、われわれが労働者や貧困層を守るために発言しようとすると、ANCやSACPの政策を拒否するのは日和見主義だと攻撃される。われわれは労働者階級の利益を裏切ることを拒否したために極左主義、左翼小児病だと攻撃される。
 ANCとSACPのリーダーたちは、はっきりと国際資本の側に立っており、労働者階級と対立している。そう考えるしかない。多くの例がある。マリカナ鉱山で12年8月に、国際的な鉱山会社、ロンミンに対して、生活できる賃金を要求してストライキに入っていた労働者に警官隊が発砲した(34人の鉱山労働者が死亡)。西ケープの農業労働者のストライキでも同様の事件が起こった。同じことが現在、モツツランの住民の水をめぐる要求や、セボケンにおける住宅立退きに対する抗議行動への弾圧など、全国で起こっている。


 ……これらのことは、南アフリカが根本的には変わっていないという厳しい現実を示している。アパルトヘイト時代と同じ構造が残っている。鉱物資源の輸出への依存と、鉱山・エネルギー・金融複合体への従属である。
 工業部門での雇用の増加は実現せず、逆に脱工業化が急激に進んでいる。04年に370万人(23%)だった失業者が、昨年には410万人(24.7%)となっている。これはわれわれが基本的な方向を転換するまで止まらないだろう。
 ……南アフリカが必要としている雇用創出方法はただ一つ。鉱山や金融からの利益を、製造業の確立のために役立てることである。だからわれわれは、鉱山および金融部門の国有化を提案している。これは古い教条主義ではない。国を救うための緊急の要請である。
 リーダーたちの主要な関心は、グローバル資本の利益に向けられており、そのために彼らは国家が必要としているリーダー、つまりベネズエラのウーゴ・チャベスやボリビアのエボ・モラレスのようなリーダーとなることができない。


 ……以上のような背景の中で、NUMSAの特別大会は次のような画期的な決議を採択した。
◎ マリカナ鉱山の虐殺の責任を追及する(担当大臣、警察の責任者を含む)
◎ ANCの選挙に協力しない
◎ 新しい統一戦線の結成の中心的な役割を担う
◎ 関連産業の労働者との連携
◎ 独立的な労働者階級の政党の可能性を検討する
◎ COSATUのリーダーに、規約に基づく特別大会の招集および三者連合からの離脱を求める
◎ 2月26日に『雇用促進税法』廃止要求の全国的なストライキと地域における行動を呼びかける。


 『雇用促進税法』(14年1月施行)は、若者を雇用した企業への補助金拠出により雇用を促進するとしている。しかし、この制度は実際に雇用を創出するものではなく、ディーセントワーク(まともな労働条件)を阻害し、補助金対象外の労働者の失業をもたらす。われわれは製造業の確立と産業構造の根本的転換による雇用創出を提案している。若者の雇用については、高等教育の無償化、高等教育と産業の連携の強化、学校での就職支援、企業における職業訓練への投資とインターンの採用を要求する」。

(NUMSAのウェブより)


 COSATUの中央執行委員会は2月10日、NUMSAをはじめ9組合(COSATUの組合員の過半数を代表している)からの特別大会開催要求の拒否を決定した。
 この9組合は、昨年8月にCOSATU中央執行委員会がズウェリンジマ・バビ書記長に対する停職処分に抗議し、3月までに処分が撤回されない場合、裁判闘争も辞さないと表明している。バビ書記長はANCの新自由主義的政策を批判する発言を繰り返してきたが、彼への処分は個人的なスキャンダルを理由としている。
 COSATUのベキ・ンツァリンツァ書記次長は、5月の選挙キャンペーンに向けて混乱を回避するためにはNUMSAの除名が唯一の方法だろうと述べている。
 NUMSAのジム書記長は、COSATUがNUMSAを除名したとしても、NUMSAは独立的で強力な労働組合を確立する力を持っていると述べている。

 

 

ブラジル:ワールドカップ会場建設での相次ぐ事故に怒り

 ブラジル北部のマナウスで、サッカー・ワールドカップの会場建設工事に携わっている労働者たちは3件目の重大事故の後、労働条件の改善を求めてストライキも辞さないと警告している。
 組合リーダーのシセロ・クストディオ氏は「私たちは労働者の権利と安全を守らなければならない。月曜日(2月10日)には誰も仕事をしないだろう」と述べた。
 組合は当初は2月10日にストライキを予定していたが、準備が整っていないので中止した。
 このスタジアムでは、2月7日にポルトガル人の労働者が、屋根の工事に使ったクレーンの解体作業中に起きた事故で死亡した。マナウスの会場の工事では昨年3月に、労働者が足場から転落して死亡し、同12月にもスタジアムの屋根の上で作業をしていた労働者が35メートル転落して死亡している。
 6月12日開幕に向けて、ブラジルは昨年末までに12会場の完成を公約していたが、現時点で7つが完成しているだけである。
 組織委員会によるとマナウスの会場(アリーナ・デ・アマゾニア)はほぼ完成しており、2月14日に州知事が視察して、完成記念式典の日程発表の予定だったが、この事故のため視察は中止された。
 当局は事故原因を調査中で、安全基準が守られていない場合は工事を中止すると表明している。
 これまでにワールドカップ会場の建設関連の事故での死者は7人となっている。

(「AP」2月9日付より)

 

英国:ロンドン地下鉄960人削減反対で48時間スト

 ロンドン鉄道会社は昨年11月に、260ヵ所の有人切符売場の廃止等の合理化と960人の人員削減の計画を発表した。
 この計画に反対してRMT(全国鉄道・海運・交通労組)と運輸事務職労働組合(TSSA)は2月4日午後9時から48時間のストライキに入った。


 毎日約300万人が利用する地下鉄は、この両日で約7割が運休した。多くの人々はバスや自転車、徒歩やジョギングで通勤した。
 キャメロン首相はこのストライキを「恥ずべき行為」だと激しく非難した。政府はロンドンの地下鉄を「不可欠のサービス」に指定することによって将来のストライキを制限することを検討している。保守党はストライキに対する制限の拡大を15年の選挙のマニフェストに掲げると公言している。


 ロンドン鉄道会社を管理しているロンドン交通局(TfL)によると、この合理化によって年間5千万ポンドの経費が削減される。しかし、RMTは、この人員削減が乗客にもたらす影響について、犯罪行為の増加(それに伴って、特に女性が遅い時間に利用しなくなることが考えられる)や、障がい者、高齢者、英語を理解できない人々へのサービスの低下等の問題を指摘し、この闘争が雇用と乗客サービスの両方に関わっていることを強調した。
 4〜5日に続いて12日から第2波の48時間ストが計画されていたが、10日に組合と会社側の交渉で、問題の合理化計画について今後2ヵ月間に両者で協議することが合意され、両労組はストライキの中止を発表した。
 RMTのクロウ委員長によると、この合意によって、切符売場の廃止については売場ごとに検討することとなり、検討の結果によってはいくつかの売り場が存続する可能性が残された。また、4月4日に組合との再度の協議が行われるまで、会社側は計画の実施を控える。


 クロウ委員長は、「この合意は、まさにわれわれが提案していたこと。……会社側が再び新たな変更を一方的に導入しようとすれば、ストライキを再開する」と述べた。
 同委員長はまた、2日間のストライキについて、「彼らは、われわれがストライキ行動に入らなかったら、真剣に話し合おうとしなかった。ストライキを背景にすることによって、より大きな成果を得ることができた。2日間のストライキは絶対に不可欠だった」と述べている。

(「BBCニュース」2月5日および11日付、「ロイター」同5日付、RMTのウェブ等より)

 

 

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