米国
ウィスコンシン州知事リコール選挙、民主党の敗北の原因と教訓
6月5日、ウィスコンシン州で知事・副知事と4人の州上院議員のリコールに伴う再選挙が行われ、知事には現職のスコット・ウォーカーが再選された。
民主党から立候補したトム・バレット・前ミルウォーキー市長は、前回(2010年11月)を15万票上回る116万票(46・3%)を獲得したが、ウォーカーは前回を20万票上回る133万票(53・1%)を獲得した。
同州ではウォーカー知事の公務員労働組合への攻撃や一連の反動的政策に対して、昨年2〜3月にかけての州庁舎(議事堂)占拠の闘いや、100万人を超えるリコール署名などの反撃が展開されてきた。
ウォーカーは、ティーパーティーの最大のスポンサーとして知られる大富豪のコック兄弟と親密な関係にあり、また、右派の州議会議員の全国的な集まりであるALEC(全米議員交流評議会)が全国的に進めようとしている一連の「改革」の先頭に立ってきた。また、リコールを阻止するために、全国から2〜3千万ドルの選挙資金を集め(7割は他州から)、連日、テレビで「実績」を訴え、公務員攻撃を繰り返した。同州を含む中西部は大統領選挙の「激戦区」とされており、共和党は今回の選挙を大統領選挙の前哨戦として位置付け全力でウォーカーを支持した。
一方、民主党は5月8日に行われた予備選挙で、知事が進める「改革」との全面対決を避ける「穏健派」のバレットを選出。全国指導部も敗北した場合の打撃を回避するため、バレット候補への支援を控えた。選挙資金の支援を拒否し、クリントン前大統領以外の有力者の応援もなかった。こうした不利な条件下で、リコール運動を推進してきた労働組合や市民たちによる草の根選挙展開により、州を二分する熱い戦いとなった。
今回の選挙結果をめぐり、「レイバーノーツ」、「Zネット」等で活発な議論が行われている。
マディソン市の大学職員組合のデビット・ナックさんは次のように指摘している。
「……なぜ、労働組合員とその家族の38%がウォーカーに投票したのか? ウォーカーの選挙資金、彼の就任以降に州の雇用が2万3千人増えたという宣伝(連邦の統計では雇用が前年より悪化しているにもかかわらず!)、公務員を敵視して民間労働者や他の市民と分断するポピュリスト的なデマにバレットは真っ向から対決しようとしなかった。彼は公務員攻撃への反論を避け、ウォーカーがミルウォーキー郡の郡長当時の不正行為問題(現在、捜査中)に焦点を絞った。彼の部下が勤務時間中に政治活動を行ったという、どうでもいい問題である。
*公務員の労働基本権問題をなぜか回避
民主党も労働組合も、闘いの出発点だった公務員の団体交渉権の問題を強調しなかったし、労働者の権利は基本的人権であるという議論は、一部でしか聞かれなかった。バレットは富裕層や企業への課税の強化や教育、社会サービス、公共事業への支出に言及することさえなかった。中間層や無党派層の票を失うことを心配したのだろうが、その結果、ウォーカーへの批判はわかるが、何のためにバレットに投票するかがわからないということになった。
別の戦略、つまりウォーカーやコックに対抗する私たちの構想を示すという戦略が試されるべきだったのではないだろうか」。
チームスター第722支部・元委員長のマーク・セラフィンさんは次のように述べている。
「公務員労働組合発祥の地・ウィスコンシンでの、この選挙結果は、労働運動にとって非常に深刻である。……民主党とオバマの無策はウィスコンシンだけでなく全国の労働運動を50年前に戻してしまったし、共和党はウォーカーの指南書に従おうとするだろう。これは避けられた災禍だった」。
教員助手組合(AFT)政治教育委員長のマイク・アマトさんは、次のように述べている。
「昨年の州庁舎占拠の闘い以来、ウォーカーの政策に反対する闘いに組合や『ウイ・アー・ウィスコンシン』連合を通じて参加してきた。選挙は手痛い敗北だったが、私はまた立ち上がるだろう。
私たちはこの経験から何を学んだだろうか? 人々は自分が信じる大義のためには、とてつもない自己犠牲を払う。私は戸別訪問と電話作戦の手配をしていたが、毎日何千人ものボランティアがかけつけた。私は、私たちがすべての人々に語りかけなければならないということを学んだ。
戸別訪問と電話作戦は、洗練された分析手法に基づき、投票しそうな人たちに重点を置いている。しかし、投票しそうにない人たち、特に都市貧困層に語りかけることは、選挙のためだけでなく、社会的公正のための運動にとっても重要である。この点について、ウィスコンシンの労働組合はこの1年間、かなりの努力を行ってきた。
また、私たちに友好的でない人たちに語りかけ、私たちの側に引き寄せることも必要だ。たとえば、ウォーカーはテキサス州での狩猟場の民営化・払い下げで儲けた起業家を陣営に引き入れたが、狩りが好きな組合員に対し、民営化で狩猟場の利用料金の値上がりを話題にするのは効果的だった」。
*急進右翼の巧みなプロパガンダ戦術
「レイバーノーツ」誌のジム・カバノーさんは、次のように指摘している。
「今回の結果は前回(2010年)同様で、共和党の過激な右翼的政策でも有権者は逃げなかった。
なぜそれが可能だったのか? ウォーカーの金権選挙、民主党や組合の後ろ向きな姿勢について多々語られたが、世論調査によると、大多数の有権者は本格的選挙キャンペーンよりずっと前に態度を決めていたという。
急進右翼は巧みなプロパガンダを展開した。人種や文化的な問題で自分たちの基盤を固めつつ、経済的な希望や不満について政府批判のレトリックで支持基盤を拡大した。特にバレット市長の下でのミルウォーキー市政に対する批判(高い失業率、資産税の引き上げ、貧困と犯罪など)に力を入れた。また、州都マディソンの〈特権的官僚〉に対する批判は、従来からあったマディソン以外の地域住民による、マディソン市政への反感に迎合するものだった。
深刻な問題は、労働者とその家族の多くが、ウォーカーに投票したことである。低い賃金の中から所得税や売上税を払わされる多くの労働者が、〈小さい政府〉、〈減税〉という共和党のメッセージに共鳴したのである」。
チュニジア
100万人の刑務所労働が低賃金労働力の供給源に
イスラム原理主義グループが組合事務所を火炎瓶で襲撃
6月12日、チュニジア北西部のボウサレムで、UGTT(チュニジア労働総同盟)の地方事務所が火炎瓶による攻撃で焼失した。ほかにも2ヵ所で同様の襲撃が行われた。襲撃を実行したとされるイスラム原理主義のサラフィスト運動は昨年の「アラブの春」により始まった民主化に反対しており、「UGTTは神の敵」と宣言している。
UGTTのシャラン・ブロー書記長は「現在チュニジアでは民主主義が攻撃にさらされており、サラフィストは組合運動を主敵としている。組合リーダーや、人々の民主主義的権利と法に基づく統治のために立ち上がっている人たちの安全が深刻な脅威の下にある」と述べている。
このほかに東部海岸地域のベンガルデンと北西部のジェンドウバのUGTTの事務所にも火炎瓶が投げ込まれた。
UGTTを支持する政党(進歩的民主主義党、共和党、「フォーラム」、アルワタッド運動など)や裁判所、郵便局、画廊、警察署等も攻撃を受けた。
アリ・ラアラエダ内務相によると、一連の事件に関連して162人が逮捕され、65人の警察官が負傷した。内務相は、前政権の支持者が背後で暗躍していると非難した。
英国
バス運転手がオリンピック開催中のストを決定
公務員の賃金引き下げと年金削減に反対して、主要な公務員組合がストを含む闘いを続けている。
5月10日には公共・商業サービス労組(PCS、25万人)、ユナイト(150万人)加盟の医療労働者(10万人)、大学職員組合などが24時間ストに入った。これはこの1年間で3回目のストである。
ロンドンのデモには非番の警察官2万人も参加し、人員削減に反対した。
6月10日、ユナイトに加盟するバス労働者2万人は、オリンピック開催期間中の超過労働に対する特別手当500ポンドを要求し、それが支払われない場合はオリンピック開催期間中にストを行うことを組合員投票で決定した。
ユナイトの役員のピーター・カバナーによると、組合はこの問題で1年間にわたり交渉を続けてきた。「組合員は1日17ポンドの割り増しを要求しているだけ。オリンピック会場でのビール一杯か、フィッシュ・アンド・チップ一盛りの値段だ。組合員はオリンピックの成功を願っているが、われわれの我慢には限界がある。ロンドンの交通労働者は、バス運転手以外はすべて、オリンピックの成功のための努力に対する報酬を受け取ることになっている」と語っている。
TUCは10月20日にロンドンで政府の緊縮政策に反対する大規模なデモを計画している。これは昨年3月26日のデモ(50万人が参加)に続くものである。
また、公共セクターと民間セクターのそれぞれ最大労組であるPCSとユナイトの組織統一に向けた協議が進んでいる。