アジア@世界
訳:喜多幡佳秀(APWSL日本)
818号

●ギリシャ
「緊縮財政政策に抗議して首都の広場を占拠」スペイン

 パパンドレウ(社会党)政権は、財政危機が悪化する中で、EU、IMF、欧州中央銀行に緊急支援を要請し、その条件として一層の歳出削減、増税、国有企業の民間への売却などの追加措置を発表した。  これに反対する労働者や若者数千人が5月25日以降、アテネなどの主要都市で広場を占拠、6月15日には全国で大規模なストライキとデモが行われた。
 選挙公約に反する一連の政策に対し与党内からも批判が強まっており、パパンドレウ首相は野党の新民主主義党に政策協議を呼びかけてきた。しかし、抗議運動の高まりの中で政権運営は完全に行き詰っている。世論調査では政党支持率で新民主主義党が社会党を上回っており、与党内でも政府の提案に反対する動きがある。
 パパンドレウ政権は昨年5月に、EU・IMFからの1兆1千億ユーロの緊急融資条件として、公務員給与20%引き下げ、付加価値税23%引き上げなどを導入。これに反対するゼネストやデモは、5月5日のデモで放火された銀行で3人の従業員が焼死という事件の後、停滞。緊縮財政政策の下で民間企業での大量解雇、貧困が拡大。失業率は20%に達し、18〜25歳までの失業率は40%に達している。年金は20%削減され、最低賃金は月600ユーロに引き下げられた。
 この状況下で、スペインの各地での広場占拠の闘いが広範な共感を呼び、スペイン大使館前での連帯デモ参加者がそのまま国会前のシンタグマ広場を占拠。6月17日付のアルジャジーラは次のように伝えている。「……その後の数週間、全国の主要都市で、市の中心部の広場が占拠された。ギリシャの広範な社会階層の人々が、自分たちには何の責任もなく、どうすることもできない生活条件の悪化への怒りを噴出させている。毎日数千人の人々がシンタグマ広場に集まり、集会などの活動に参加している。それらの活動は、特に具体的な要求を掲げているわけではないが、これまでとは全く異なる、抑えがたい何かを表現している」。
 主要労組は新しい緊縮財政措置についての国会審議が始まる6月15日にゼネストを呼びかけ、「シンタグマの開かれた集会」もこの日に国会前での行動を呼びかけた。
 同日付の「ロイター」によると、国会に入ろうとする議員たちに、「ドロボー」、「裏切り者」、「金はどこへ行った」などの怒号が浴びせられた。マリア・ゲオルギラさん(45歳、公務員)は「すごく厳しい政策だけど、それで危機が終わらない。政府が何の対案も持っていないことは信じられない」と語った。

●スイス
「男女同一賃金を要求して全国アクションデー」

 6月14日、全国で男女同一賃金を要求する集会・デモが行われ、45団体、数千人が参加した。午後2時過ぎに全国一斉にホイッスルが鳴らされ、紫色の風船が上げられた。
 以下は「Zネット」に掲載されたダン・ラ・ボス氏のレポートの要約である(6月15日付)。

 スイス最大の労働組合であるUNIA(04年に建設・産業労組、産業・商業・サービス労組などが合併、20万人)は、女性の同一賃金と、全労働者に月4千スイスフランの最低賃金要求の全国アクションデーを呼びかけた。現行の最低賃金は3千スイスフランで、1980年に勝ち取られた(1スイスフランは約95円)。
 UNIAは全国アクションデーを「女性のスト」と呼んでいる。今年は1971年にスイスの女性が参政権を勝ち取って40年、81年に憲法に男女同権の条文が加えられて30年にあたる。しかし、UNIAによると、スイスでの女性の賃金は男性より19%低い、この格差の40%は差別以外に理由がない。
 UNIAは、生存賃金の権利は憲法に規定されており、連邦政府と州は労働者の賃金を守る措置を講じるべきと主張している。
 UNIAは08年12月から女性に対して同一賃金のための相談活動を行ってきた。また、この問題についての大衆教育のための全国的キャンペーンを展開し、女性たちに闘いを呼びかけてきた。
 スイス政府の男女平等局は雇用主に対し賃金の平等化を要求、男女の賃金が不平等か否かの単純な判断方法を提案している。また、男女の賃金格差の全国規模での実態調査を実施している。
 UNIAによると、女性の賃金が低い主な理由は、典型的な女性労働の価値が低く評価されていること、女性の労働が家計の補助とみなされていて、パートタイムの比率が高いこと(女性は57%、男性は12%)、そのことが昇進の機会にも影響を及ぼしていることである。管理職に就く比率が女性は23%で、男性は37%である。

●中国
「民工が賃金遅配抗議デモで9人が逮捕される」

 6月6日、広東省潮州市で賃金遅配に抗議する200人の民工(農村部から移住した労働者)のデモが暴力的衝突に拡大、自動車数台が破壊され、数人が負傷、9人の労働者が逮捕された。
 デモ参加者の大部分は四川省出身で、6月1日に賃金遅配に抗議した同郷の19歳の労働者が経営者による暴力で重傷を負ったことに抗議して町役場前に集まった。「中国日報」によると、その経営者他2人が同5日に逮捕された。
 暴力的衝突にも関わらず、世論は労働者に対して同情的であり、多くのコメンテーターは政府が民工の権利を擁護するための措置を強化するべきだと指摘している。
 5月に重慶の市当局は、同様の問題解決のためにSWAT(特別機動隊)を導入、喝采を浴びた。ここでは、ある建設会社の経営者が暴徒を雇って民工を脅していた。
 しかし、大多数の労働者はそのような状況にない。先週、中国のメディアはスン・リ・ピンさん(65歳)のケースを大きく取り上げた。彼女は夫の死後、残された借金返済のために建設現場で働いていた。3ヵ月で賃金が6千人民元の約束だったが、82日間の厳しい労働後、彼女と同僚たちが賃金の支払いを求めたとき、雇用者である人材派遣会社は支払いを拒否した。彼女たちは労働協約を交わしていなかったため、法律上の手続きに訴えるのが困難である。(「チャイナ・レーバー・ブレティン」より)

●パキスタン
「家内労働者連合が基本的権利を要求」

 4月11日にカラチで、家内労働者連合(HBWWF)と労働者教育財団(LEF)が初めて集会を開催し、会場は労働者たちであふれた。
 パキスタンの女性労働者の65%が家内労働に従事しており、労働法の適用を受けていない。最低賃金や労災も適用されない。仕事の多くは出来高払いで、注文は季節による変動が大きい。彼女たちは縫製のほか、線香の製造、エビの皮むきと梱包、ビーズ製造、カーペット織りなどに従事している。子どもたちが手伝うこともある。仲介人は彼女たちの、自由に移動できず、労働市場で仕事を見つけることが難しい不利な条件を利用して、低賃金で搾取し、しばしば危険な作業を押し付ける。
 HBWWFの書記長のゼフラ・カーンさんは家内労働を「後ろ向きの競争のようだ」と言う。工賃は線香を千本で9ルピー、ズボン1着が3ルピーだ(1ルピーは約1円)。家事労働者が団交権を持たない限りこの状況は変えられない。
 労働省は家内労働についての政策立案のための調査・諮問を開始している。ILOの家内労働に関する条約(第177号)に従って待遇改善や職業訓練、健康と安全に関する措置などの導入が検討されている。しかし、政府はそもそもこのような仕事、特に危険な仕事を家内で行わざるをえない状況、つまり、インフォーマル労働(正規の労働協約に基づかない労働)が、多くの場合スラムの中で行われている状況について問題視していない。  WADA(「女性と開発についてのアソシエーション」)などの団体は家内労働者のために地域に作業所を作ることを計画。HBWWFは女性向けの診療所を設立した。
 他のインフォーマルセクターの労働者(漁業労働者、家事労働者など)との連帯や、フォーマルセクターの労働者との連帯も重要な課題である。全国労働組合連合(NTUF)はHBWWFへの全面的支持を約束している。(「エキスプレス・トリビューン」のブログより)

ブラジル
「アマゾンの森林破壊反対の農業労働者が殺害される」

 5月24日、パラ州で環境活動家、ホセ・クラウディオ・リベイロ・ダ・シルバさんとマリア・ド・エスピリトゥ・サント・シルバさんが自宅から数キロの所で襲撃され、殺害された。
 ブラジルでは長年にわたり農業労働者への暴力が繰り返されており、農地委員会(CPT)のレポートによると昨年、土地紛争に関連する殺人事件が増えており、34人の農業労働者が殺害されている。
 クラウディオさんとエスピリトゥさんは、森林伐採業者とアグリビジネス(農業関連企業)による森林破壊―すでにこの地域の森林の60%近くを伐採―を非難し、農民や農業労働者と共にアマゾンの森林を守る運動を進め、殺害の脅しが繰り返されていた。
 パラ州はブラジルの主要なアグリビジネスと鉱山会社の拠点であり、ブラジルの国際収支の黒字に大きな貢献をしてきた。国際労連(ITUC)は、「この悲しい皮肉は、土地が少数の者に集中しており、州が農民を排除し、ブラジルの国民の食糧を供給している家族経営の農業を犠牲にして、大企業のための便宜を図るような経済モデルを選択していることの結果である」と指摘している。
 ITUCはディルマ・ルセフ大統領に対して、事件の調査と真相究明を求める書簡を送った(ITUCのウェブより)

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