●メキシコ
「警官隊による発電所接収に抗議して30万人がデモ」
10月10日、連邦警察がメキシコ中央電力会社発電所を接収、カルデノン大統領は同社解散と労働者4万3千人の解雇を発表(本誌前号参照)。同16日、メキシコシティーでの抗議デモに15〜30万人が参加。
同24日時点で、5千人の連邦警察官が同社の100余の発電所を占拠、発電所は管理者と、他の国営電力会社から派遣された労働者3千人と軍により派遣された技術者800人によって運転されている。
以下は、ダン・ラ・ボッツ氏のレポート(「Zネット」掲載、10月20日付)の抄訳である。
メキシコ電力労組(SME)はメキシコシティーと周辺の州の約4万3千人の労働者と2万2千人の退職者を組織しているが、メキシコ中央電力会社の解散はSMEの法律上の存在を消滅させる。
メキシコではサリナス政権(1988〜94年)の下で新自由主義的政策が進められ、通信、鉄道、カナネア(銅)鉱山会社などが民営化された。その後、政治的不安定や政権交代等で、エネルギー、石油、電力等は国営のまま維持されてきた。カルデノン政権は、中断されてきたこの政策を完成させようとしているのである。
カルデノンが攻撃対象としたSMEは、1910〜40年のメキシコ革命の中で生まれた最も古い独立労組で、最も戦闘的で民主主義的な労組の1つである。サリナス政権下で、政府寄りに転換したが組合の独立性を完全には放棄しなかった。その後、国民行動党のフォックス政権(01〜06年)の反動的政策に抗し電力などの民営化に反対する労組、農民連盟、都市貧困層の連合の中心的な役割を担ってきた。最近ではSMEが属しているメキシコ労働組合戦線(FSM)と全国労働組合連合(UNT)が統一、カルデノン政権の強力な反対勢力となった。
SMEは労働協約交渉において、他労組より高水準の賃金や条件を獲得、経営にも大きな発言権を持っている。
今年6月の役員選挙で、「組合民主主義コーカス」を代表するマルチン・エスパルサ書記長と「組合の透明性コーカス」を代表するアレハンドロ・ムニョス財務担当書記が互いに「組合の役職を利用し私腹を肥やした」と激しく非難。また、エスパルサはムニョスがカルデノンの側近で国民行動党リーダーのセサール・ナバと共謀していると非難、ムニョスは選挙手続きが不正だと非難した。エスパルサが選挙で勝利したが、ムニョスは連邦調停委員会に不正選挙を申立て、ハビエル・ロサノ労働相は選挙無効を宣言。エスパルサ書記長を承認しないと宣言した10月5日の5日後に発電所に警察が導入された。
発電所への警察導入はカルデノンの国民行動党政権により行われたが、PRI(制度的革命党)もこれを支持。この2党で、国会の両院とも3分の2以上の議席がある。PRIは国会だけでなく、労組にも強力な影響力がある。国民行動党も教員組合や社会保障労組などに影響力がある。
それにも関わらず、SMEは広範な支持を得ている。10月16日に労働組合や社会運動、左派政党が呼びかけたデモは15〜30万人が参加。午後4時に始まったデモ隊の最後尾が解散地点に到着したのが午後8時だった。大学職員、原子力産業の労働者、鉱山労働者、教員組合の反対派、通信労働者等が連帯の意志を表すために参加した。米国のUE(全米電気労組)やAFL・CIOなど、国際的な支援も広がっている。
政府は、メキシコ中央電力会社を解散し、その施設・設備を新会社に譲渡、その新会社ともう1つの国営企業、連邦電力委員会との統合を計画している。メキシコ中央電力会社の労働者のうち1万人を、新会社に新しい労働条件の下で雇用すると発表、組合員には、新会社への採用条件として、11月中旬までに退職金を受け取るよう通知している。
●プエルトリコ
「公務員大量解雇に抗議のゼネスト」
10月15日、州政府による公務員の大量解雇に抗議して、全島でゼネストが行われた。
昨年の選挙で選出されたルイス・フォルツニョ知事(新進歩党、「州昇格」派)は、今年すでに公務員を5千人削減、さらに11月に教育省などでの1万7千人の解雇を発表した。
産業がほとんどないこの島で、公共部門は全労働者の25%を雇用する重要な部門。現在、プエルトリコの失業率は16%、新たな解雇により一層の深刻さが予想される。
SEIU(サービス従業員組合)傘下のプエルトリコ労働組合(SPT)のロベルト・パガン委員長は、「フォルツニョ知事が計画を撤回しなければ、無期限ゼネストの準備に入る」と語っている。
より戦闘的な独立組合、FASyL(「連帯と闘争の広範な戦線のための組合連合」)のルイス・ペドラサ・レドゥク代表は、「ゼネストは首都サンファンを席巻する巨大なデモを伴うだろう」と語った。
フォルツニョ知事は、ストが港湾や島の商業をマヒさせた場合は、テロ行為として対処すると脅した。3月に可決された法律第7号は、州知事に公共部門労働者の一方的解雇権限を与えており、そのような解雇を禁止している労働法よりも優先される。
プエルトリコの労働組合運動は近年、AFL・CIOとCtW(「勝利のための変革」連合)の分裂の影響で、大きな困難に直面してきた。今年のメーデーには5つの独立労組がストを呼びかけたが、AFL・CIOおよびCtW傘下の組合は参加しなかった。それでも約1万5千人の労働者がデモに参加した。
しかし、フォルツニョによる攻撃が強まる中で、6月5日に「ピープルズ・アセンブリー(人民の議会)」が呼びかけたデモにはAFL・CIOおよびCtW傘下の組合も参加、プエルトリコの歴史で最大規模の10万人が参加した。
ゼネストの推進力になったのは独立労組や現場活動家、左派グループで、特に学生が大きな役割を果たした。10月6日にプエルトリコ大学で「公教育を擁護する学生評議会」が開いた集会には5千人が参加し、ゼネスト支持と学生独自ストを決議。学生たちは大学で野営した。警察が介入し、学生たちを排除、10月12〜16日はプエルトリコ大学のすべてのキャンパスが立ち入り禁止となった(「Zネット」掲載のレポートより)。
「ニューヨークタイムズ」10月16日付は、次のように報じている。
……ゼネストは午前6時に始まり、いつもはあわただしい街が、休日のような静けさに包まれた。人々は警察官が制止する中をショッピングセンターに集まってきた。いくつかの店や学校は休業したが暴力的な衝突の報告はない。
ストのオルガナイザーの1人で、メソジストの司教であるフアン・ベラさんは「今日、私たちはプエルトリコ人民の平和的な反乱を宣言しようとしている。私たちは抗議から抵抗へ、抵抗から市民的不服従へと進もうとしている」と語っている。……
高速道路・交通省に13年間勤続してきたマリア・ディアスさん(39歳)は、「行政府のやり方は思いやりがない。解雇された人の働き先を全く考えてない」と憤慨している。
「人員削減はやむを得ない」と語る広告会社のグラフィック・アーチストのペドロ・オルティスさん(35歳)でさえ、「解雇のやり方は、清掃作業員やスクールカウンセラーのような低賃金層を狙い撃ちにしている」と批判している。
●英国
「通信労組がスト」
ロイヤルメール社とCWU(通信労組)の間で、人員削減・賃金引下げや新規技術導入をめぐり交渉が決裂。労働者たちはロンドンを中心に数ヵ月にわたり1日ストを繰り返してきた。CWUは07年以来の全国的ストを決定し(組合員投票で4分の3が賛成)、10月22日(区分センター職員と運転手、5万人)と23日(集配、7万人)にそれぞれ24時間ストに突入。11月6日と9日にもストが予定されている。
導入が計画されている新規技術の1つは、翌日配達する郵便物を配達ルートに沿って並び替える機械である。経営側はこの機械を全国的に導入することにより配達業務の人員削減や非正規雇用化を進めようとしている。CWUは新規技術の導入にあたっては組合との交渉を要求している。
経営側は、手紙や小包などの中核的業務の収入が毎年大幅に減っているため、人員削減が不可欠であると主張しているが、同社は08年に3億2千100万ドルの利益を計上、CEO(最高経営責任者)のアダム・クロジエは年300万ポンドの報酬を得ている(郵便労働者の平均賃金は年1万8千ポンド)。
人員削減(この5年間で6万3千人削減)、労働時間の延長、作業量の増加、配達の広域化と迅速化、実質的な賃下げ、ハラスメント(嫌がらせ)の横行、年金受給の制限などの一連の攻撃に対して労働者の不満は拡大している。BBCの世論調査でも、CMUへの支持はロイヤルメールの経営者への支持の2倍となっている。長期にわたる闘争により郵便物の滞貨は5千万通に達しているが、その大部分はビジネス関係で、市民への直接の影響は限定されている。
CMUはACAS(調停仲裁委員会)を通じた解決を要求しているが、経営側は拒否。ストに対抗するため、人材派遣会社から労働者3万人を臨時に雇用しようとしている。これは違法で、CMUは裁判所への提訴を計画している。また、GMB(全国都市一般労組)はマンデルソン産業相(ロイヤルメールの法律上の所有者)に対し、人材派遣会社を通じたスト破り行為の実態についての調査を要求した。
CMUのビリー・ヘイエス書記長は次のように語った。
「…彼らは労組の力と職場での影響力を破壊しようとしているので騒ぎや混乱は数ヵ月続くだろう。郵便事業は数年間にわたり投資不足と民営化の脅威、競合企業に有利な規制により破滅させられてきた。不況やインターネットの普及で手紙量は減っているが、オンラインショップの普及で小包量増加が見込まれる」。実際、TNT(オランダを本拠とする物流企業)などが高収益部門への集中により有利な事業展開をしている。(「BBC」、「ガーディアン」等より)