★イタリア:「労働市場改革」に反対して100万人がデモ
10月25日、ローマでCGIL(労働総同盟)が呼びかけた「労働規制緩和」反対のデモに全国から100万人が参加した。
レンティ首相(民主党)は雇用促進政策の重要な一環として、労働者憲章法第18条修正を含む一連の「労働市場改革」を意図した「雇用法」の制定を進めようとしている。
労働者憲章法は1970年5月に、労働運動の高揚と争議多発に対応して制定された法律で、労働者の尊厳と権利を擁護する一連の規定を含んでいる。現在、焦点となっている第18条は、解雇が不当と認定された場合に当該労働者が復職できることを定めており、従業員15人以上の民間企業に適用される。
「改革」案では、新規採用の労働者にはこの規定が適用されず、企業は不当解雇と認定された場合でも再雇用を拒否でき、当該労働者に賠償金を支払えばよい。
EUとイタリア財界は、第18条のために経営者が新規雇用を躊躇し、外国企業もイタリアへの投資に消極的であり、雇用増加のためにはこの規定を撤廃するべきであると主張してきた。
イタリアでは、3年連続のマイナス成長(危機が始まった07年と比較するとマイナス9%)、失業率が13%(1970年以来の最悪水準)、若者の失業率は44・2%に達している。
2月に就任したレンティ首相は雇用問題を最重要の政策課題と位置付け、「雇用法」への合意の取り付けに腐心している。
レンティ首相の「労働市場改革」に対しては、民主党内でも強い批判があり、25日のデモにも多くの民主党活動家が参加している。
9月29日の党員集会では、5時間にわたる激しい議論の末に、首相の提案が130対20(棄権11)で承認された。党員集会に提案された案は、失業給付の拡張、短期契約雇用の削減、雇用機関の役割の拡大、解雇規制緩和という一般的な方向性を示したものだった。
同首相は批判に対して、「戦後の好況が続いていた1970年に制定された法律を変えることをタブーにしてはならない」、「時代遅れの法律で利益を得ているのは大企業の労働者だけで、他の人々は置き去りにされている」と反論している。
民主党内の反対派は、レンティ首相はイタリアの失業者を助けるのではなく、欧州委員会の機嫌を取ろうとしていると非難している。
マッシモ・ダレマ元首相(98〜00年)は、「第18条はモンティ首相の時代(11〜13年)に実質的に廃止されている。新しい改革を始める前に、その改革がもたらした結果をきちんと評価するべきだ。……レンティはスローガンと広告によって政策を進めようとしているが、そのような手法は成果をもたらさないだろう」と批判している。
ピエル・ルイジ・ベルサー二下院議員(元民主党書記長)も、「改革は不安定な雇用状況に新たな不安定を付け加えるだけである。新規雇用の労働者も、勤続年数が長い労働者と同じ権利を与えられるべきだ」、「資本と労働者間のバランスを取ることが改良主義の真髄であり、レンティはサッチャー・モデルに偏りすぎだ」と批判している。
10月8日に上院はレンティ首相の労働市場改革を支持、詳細について検討する権限を内閣に与えることを承認した。レンティ首相は翌週に予定されていたEU首脳会談に間に合わせるために、承認を急いだのである。このあと下院での承認と、具体的な内容検討(6ヵ月以内に議会に法案提出)が必要とされるため、法案が議会に提出されるのは15年になる。
イタリア最大の労組CGILのスザンナ・カムッソ委員長は同13日に、上院の決定を非難。同25日のデモ出発時に、ゼネストを含む連続的な闘いを進めることを宣言した。
彼女はレンティ首相を「サッチャー主義者」だと非難している。
UIL(イタリア労働同盟)とCISL(イタリア労働組合連盟)は、CGILに同調せず、レンティ首相の提案を支持している。
CGIL傘下の金属労組、FIOMの書記マウリジオ・ランディニ氏は、組合がストライキを準備していること、改革が解雇や権利侵害を伴う場合には工場占拠も辞さないことを宣言した。
25日のデモに先立つ10月24日、USB(国家公務員や交通労働者の組合)が政府の労働市場改革に反対して、全国でデモとストライキを組織した。航空会社イージージエツトは多くの国際便をキャンセルし。ローマ、ミラノ、ベニス、ナポリなどでは学校、病院、官庁が休業した。アリタリアとイージージエットの労働者たちは11月14日にもストライキを計画している。
レンティ政権はまた、15年度も300万人の公務員の賃上げを凍結すると発表した。これで6年連続となる。これに対してはCGIL、UIL、CISLも共闘し、11月8日にローマで大きなデモを予定している。
(「ロイター」9月29日付、10月25日付、「ビジネスウィーク」同24日付、「ガゼッタ・デル・スッド」9月18日付等より)
★インドネシア:鉱山労働者が1ヵ月間のストに突入
米国のフリーポート・マクモラン社が保有する金・銅鉱の労働者1万人が、一連の死亡事故に抗議して11月6日から1ヵ月間のストライキに入る。
9月27日に東パプアのグラスバーグ鉱山で、大型の牽引用トラックが乗用車と衝突、乗用車は踏みつぶされて4人が死亡した。
10月初めに数百人の労働者が抗議のために鉱山の入り口を2日間にわたり封鎖、操業を停止させた。
組合リーダーのアルバー・サバンさんは、「フリーポートでの相次ぐ死亡事故により労働者の怒りはピークに達している」と語った。
グラスバーグ鉱山の物流と電力供給を請け負う2つの子会社の労働者もストライキに合流する。
労働者たちは、一連の事故が経営者の責任だと指摘し、54人の管理スタッフを解任して新しい管理者の任命を要求している。
グラスバーグ鉱山は世界最大の金・銅鉱のーつであるが、近年、事故や生産上での問題が相次いでいる。昨年5月には研修用トンネルが崩落、研修生28人が死亡した。これはインドネシア鉱山産業史上最悪の災害だった。同12月には、落石によって1人の労働者が死亡。また、11年には労働者が賃上げを要求して3ヵ月間のストライキに入り、会社側が賃上げに応じた。
インドネシア鉱業省は9月の事故の調査を基に、会社側に対して操業再開の前に安全に関する手順や方法を変更することを求めている。
(「AFP」10月27日および28日付より)
★英国:賃上げ要求で8万人がデモ
10月18日、ロンドン、グラスゴー、ベルファーストなど各地で、賃上げと緊縮政策中止を求めて数万人の労働者がデモに参加した。
このデモはTUC(労働組合会議)が「英国は賃上げを必要としている」キャンペーンの一環として呼びかけた。
これに先立って同13日には公務員労働者がストライキに入った。
同17日にイングランド銀行の主任エコノミスト、アンディー・ハルデーンは、ウォーリックシャー州の商工会議所で次のようにスピーチした。
「経済危機の始まり(07年)以降、実質賃金は10%近く下がっているのに、上位10%の者の実質賃金は20%上がっている。下位20%の実質賃金は20%近く下がっており、97年の水準に戻っている」。
TUCのフランセス・オグラディ書記長は、「イングランド銀行の主任エコノミストが、労働者は19世紀半ば以降もっとも長期にわたり大幅な賃下げに直面していることを認めている。英国の労働者は怒るのに十分な権利がある。労働者が経済回復の分け前から排除され、減税を通じて経営者や金持ちに独占されている状況ではなおさらだ」と述べている。(「TUC」のウェブより)
5月13日のストライキでは、NHS(国民保健サービス)の看護師、助産師、スタッフたちも4時間の時限ストに入った。NHSの職員のストライキは32年ぶりである。
このストライキに対してハント保健相が、「NHSの職員に1%の賃上げを認めれば1万人の看護師を削減しなければならない」と警告し、メディアも患者の不安を煽ったが、英国最大の労組、ユナイトの医療部門の代表のレイチェル・マスケル氏は次のように述べている。
「全国の病院で100のピケットラインを組織したが、この行動は多くの人々に支持された。ハント保健相は、職員への公正な賃金について組合と話し合うべきだ。職員たちは、本当は自分たちの困窮を訴えるために闘うよりも、患者の世話をしたいと思っているのだ。保健相は公正な賃金が人員削減を意味するかのように言っているが、その前に、役員たちの法外な賃金や、無用な組織再編のために支出される30億ポンドもの予算に手を付けるべきだ」。(ユナイトのウェブ、同13日付より)
10月18日の「BBCニュース」オンライン版は、同日のデモ参加者のインタビューを収録している。
ブレント特別区でケアマネージャーをしているクリス・マクシーさん(31歳)は、5ヵ月前に昇給と賃上げがあり、「金銭的には困ってないが、親と一緒に暮らしていて、今の賃金ではとうてい家を買うことはできない。公務員の多くは30代でも親と一緒に生活するか、民間の住宅を借りている」と言う。
イレーヌ・ホランドさん(65歳)は、退職後、交通指導員をしている。娘のフィオナさん(42歳)はランカシャー郡の役所の職員である。13人の職場が今では3人になっている。2人とも東ランカシャーのネルソンに住んでいるが、緊縮政策がこの地域の人々に及ぼしている影響は明らかだと言う。
公共部門の労働者たちが困窮して、フードバンクの行列に並んでいる。