アジア@世界
喜多幡 佳秀 ・訳(APWSL日本)
880号

カンボジア:衣料労働者のストに警官隊が発砲、5人死亡

 カンボジアの衣料労働者数万人が2013年12月24日から、産業最低賃金引き上げを要求してストに入り、同国の500余工場の大部分が操業を停止した。


 労働省下にある労働諮問委員会は2014年度(4月から)の最低賃金を現行の月80ドルから95ドルへの引き上げを発表。これは労働者の要求(160ドル)を大幅に下回っている。
 1月2日、プノンペンのポルセンチェイ地区にあるヤクジン社の工場前に労働者と支援者たちが集まり、工場警備の軍兵士と対峙していたが、午前9時頃に兵士が瓶や石を投げるなどの挑発を始め、労働者たちも応戦した。その後兵士たちは警棒で無差別に襲いかかり、数十人を負傷させた。5人の僧侶を含む少なくとも15人が逮捕され、軍の基地へ連行された。

 ヤクジン社はベトナムとインドネシアでも工場を運営しており、GAP、ウォルマートなどに製品を納入している。
 労働者たちはその後、工場近くの国道を約1時間にわたって封鎖して集会を開催し、逮捕者釈放を求め基地の近くまでデモを行った。
 同3日、プノンペン郊外のスタンミエンチャイ近くの工場で、スト中の労働者に警官隊が発砲、5人が死亡した。500人以上の労働者が工場近くの道路を封鎖し、タイヤを燃やし、警官隊に投石をしていた。警察は暴徒を鎮圧するためとして、発砲を正当化している。
 警察はその後も、工業団地に集まっていた衣料労働者や反政府デモ参加者たち(住民を含む)を暴力的に排除し当分の間、10人以上の集会を禁止すると宣告した。
 地元の人権団体は、警察による弾圧を「この15年間で最悪の、国家による市民への暴力である」と非難声明を発表した。


 カンボジアではインフレによる生活の困難を背景にストが増加しており、自由労働組合(FTU)の調査によると13年には381件のストが発生している(12年は101件)。
 「アジア最低賃金連盟」(労働組合と支援活動家のグループ)の調査によると、カンボジアでの生活のために必要な賃金は月283ドルである。コミュニティー法律教育センター(CLEC)トラ・メウンさんによると、労働者は最低賃金(1日8時間労働を前提)では生活できないため、10時間働いている。それでも多くの場合、毎月50ドルほど借金をしている。
 政府は年末に、懐柔策として、最賃引き上げ額を5ドル加算する(100ドルに引き上げる)ことを発表し、ストの中止を呼びかけた。政府系のカンボジア労働連盟(CUF)は、7月の選挙の無効を主張している野党の救国党(CNRP)が労働者たちを扇動していると非難している。


 カンボジアでは衣料産業は輸出の80%を占め、50万人の労働者を雇用している。その大部分は若い女性労働者である。

 (「プノンペンポスト」1月3、4、6日付、「インタープレスサービス」1月9日付等より)

 

 

バングラデシュ:工場倒壊の犠牲者への補償基金設立で合意

 1190人以上の衣料工場労働者が犠牲になったラナプラザ・ビルの倒壊から8ヵ月を経て、犠牲者に総額4千万ドルの補償金を支給する協定が合意された。
 この協定は英国の小売チェーンのプライマークとボンマルシェ、デパート・チェーンのエルコルテイングレス、カナダのスーパーマーケット・チェーンのロブロウによって支持されている。


 詳細についての協議は継続中であるが、補償額の算出と支給の方法、ブランドや小売店が自発的に献金する国際基金などの枠組みが合意された。
 バングラデシュ労働省、バングラデシュ雇用者連盟、バングラデシュ衣料製造輸出連盟、インダストリオール・バングラデシュ全国評議会、バングラデシュ労働問題研究所、インダストリオール・グローバルユニオン、クリーン・クローズ・キャンペーンなども協定に署名した。
 ILOの支援も得て、この協定に基づき負傷した労働者と犠牲者の家族の両方に補償金が配分される。
 全ての対象者について、所得の補償と医療費が支払われる。バングラデシュの最新の最低賃金が算出基準として用いられる。
 死亡した労働者の家族は平均で約2万5千ドルを受け取ることになる。安定した収入となるように、支払いは分割で行われる。
 負傷者に対する支払いは、傷害のレベルに関する診断を基礎に、個別に決定される。
 補償のための資金を確保するために、国際的なブランドや小売店が国際信託基金に自発的に献金し、この基金は国際的な銀行によって管理され、他の献金者にも開かれる。
国内の献金は国内の銀行に預託され、対象者の口座に直接払い込まれる。
 1月中旬までに十分な献金の確約が確保されることを前提として、2月から支給が開始される。


 北米の労働者支援団体は、ラナプラザの工場から受注していたウォルマート、チルドレンズプレイスなどの企業に対して、この協定に加わるよう働きかけを強めている。JCペニー、CATOファッションなど25のブランドが、ラナプラザ・ビルの倒壊時またはその直近に同ビル内の工場から購入している。

(「ジャストスタイル」1月2日付)

 

 

フランス:グッドイヤーの工場閉鎖に職場占拠で対抗

 米国のタイヤ・メーカー、グッドイヤーは昨年1月に、フランス北部・アミアンの工場を14年末までに閉鎖と1250人の解雇計画を発表。同社では数年前から、人件費の安い中国移転を計画していた。
 同3月7日には、同工場労働者がフランス本社に向けデモ、タイヤを燃やし、警官隊と対峙した。


 フランス政府は米国等の企業にこの工場の買収を働きかけたが、不調に終わった。買収を打診された米国の大手タイヤ・メーカー、タイタンのモーリス・テーラーは「フランスの労働者は怠け者だ」と言い放って物議を醸(かも)した。
 同社は今年1月中に従業員に対する解雇通知を発行する予定である。


 1月6日朝、同社の生産部長と人事部長が組合代表との交渉に向かったところ、労働者約200人が会議室のドアにタイヤを積んで封鎖し、2人を閉じ込めた。
 組合(CGTに加盟)は、「われわれは自主退職計画と、工場の買収先を探すことについて会社側との交渉再開を希望している。買収先が見つからない場合は、全従業員を対象とし相当額の退職金を条件とする退職計画を要求する」と主張している。
 労働者の行動について、商業メディアは悪意に満ちた報道を流しているが、組合リーダーは「ごく平穏な雰囲気であり、経営側の2人は自由に携帯電話も使っているし、水も飲んでいる。……3〜4日かかることになっても、ここにマットレスを取り寄せて、ここで睡眠をとる」と説明している。
 この戦術は09年にもソニー、キャタピラ等の企業に対して用いられ、「ボス・ナッピング(社長誘拐)」と呼ばれていた。
 同7日に警官隊が介入し、経営者たちは解放された。会社側は同8日、組合を監禁と工場の占拠で告訴した。
 これに対してCGTは、グッドイヤーの侮蔑的な態度を非難し、また、フランス政府が利益を上げている企業による人員整理の禁止法を制定しようとしていないことを非難する声明を発表した。

 

 

ドイツ:アマゾンでスト クリスマス商戦を直撃

 アマゾン社での世界初のストが昨年春に、ヴェルディ(公務員労組)によって組織された。その後も、最大の売り上げが期待されるクリスマスに向けて波状的にストが組織された。


 アマゾンは全国で9千人を雇用しているが、繁忙期には1万4千人を臨時雇用する。12月に、全国で千人が最大1週間のストに入った。ヴェルディによると、ピーク時には1800人がストに参加。ストは9つの物流センター中、2〜3つに影響を及ぼした。


 要求は主に賃金をめぐるもので、アマゾンでは「物流」と「販売」に労働者が区分され、「物流」の方が賃金が低い。スト参加者たちは区分を「販売」に変更して、それに伴い「販売」の賃金を支払い、団体交渉権を認めることを要求した。


 一方、約千人の労働者はヴェルディは労働者を代表していないと主張し、ストに反対した。
 一連のストについて、ヴェルディは声明で、「経営側は労働者の区分の問題でも団体交渉権の問題でも要求に応じなかったが、一定の賃上げを実施しただけでなく、一部の労働者にクリスマスのボーナスを支給した」と評価している。

(「ZDネット」1月13日付より)

 

 

フィージー:ホテル労働者のストに弾圧、組合リーダーを逮捕

 1月9日、フィージー労働組合会議(FTUC)のダニエル・ウライ委員長(全国ホテル・レストラン・観光産業労働組合の書記長兼任)をはじめ6人の組合リーダーが「違法スト」の容疑で逮捕された。昨年大晦日にナレワ・ビレッジのシェラトン・ホテルで、労働条件の改善、諸手当の支払いなどを要求したストに対する弾圧である。
 フィージーでは08年のクーデター後、軍政が続いており(14年に民政復帰が予定されている)、労働運動への厳しい弾圧が続いている。
 リーダーたちは保釈されたが、海外渡航禁止や、週1回の当局への出頭など制限が課されている。

(国際食品労連のウェブ等より)

 

 

アジア@世界 バックナンバー
協同センター・労働情報 東京都千代田区三崎町2-13-5 影山ビル501号 Tel.03-6675-9095 Fax.03-6675-9097