アジア@世界
喜多幡 佳秀 訳(APWSL日本)
968号

★米 国
  ウェストバージニア州の教員スト、歴史的勝利

 米国東部のウェストバージニア州で3万人の教員が13日間のストライキによって5%賃上げを勝ち取った。

 

 同州では一連の企業減税によって税収が減り、教員・公務員の人件費が抑制されてきた、そのため同州の教員の賃金は50州中48番目であり、しかも毎年引き上げられる保険料が生活を圧迫している。教員不足が深刻化し、詰め込み教室に臨時採用の代用教員が配置されている。
 全米教員組合ウェストバージニア(AFTlWV)とウェストバージニア教員組合(WVEA)の2つの教員組合は5%の賃上げを要求してきたが、州議会(両院とも共和党が多数)で可決された公務員の賃金に関する法案では今年度に2%、その後2年間に各1%の賃上げを認める一方、労働者の健康保険基金への州からの拠出を減らすことが目論まれていた。

 

 ストライキは2月22日に始まり、同州のすべての郡で公立学校は休校となり、教員たちは連日州都チャールストンの州庁舎に集まった。ストライキは当初、2日間の予定だったが現場からの圧力によって継続された。

 同州では教員・公務員の団体交渉権は制限され、ストライキは禁止されており、教員の全州規模のストライキは1990年以来である。
 学校区には裁判所にストライキ禁止命令を請求する権限が付与されているが、教員たちは生徒や地域の人々の広範な支持を得ていたため、学校区はストライキを容認した(ストライキ中の賃金も支払われる)。
 同27日にジム・ジャスティス州知事(共和党)との交渉で5%賃上げが合意され、組合は同28日を「冷却期間」とし、3月1日から組合員が職場に復帰すると発表した。

 

 しかし現場組合員の間では健康保険基金の問題や賃上げの財源問題をめぐって州知事や議会の対応への不信が強く、郡レベルで次々と実施された組合員投票でストライキの継続が決定された。すべての郡の学校区委員会は教員が確保できないため、休校を継続した。

 州下院は5%賃上げと健康保険基金問題についての検討委員会の設置のための法案を可決したが、上院は賃上げを含む法案の採択に強く抵抗した。
 3月6日、上院も5%賃上げを承認し、知事が健康保険基金問題については検討委員会を設置することを約束した。また、知事は賃上げの財源はメディケアへの支出の削減によってではなく、他の方法で確保すると確約した。

 

 5%賃上げは教員だけでなく州の全公務員に適用される。一連の組合攻撃(組合費の代理徴集の廃止など)とチャータースクールの拡大も撤回された。

 労働組合は勝利を宣言し、組合員に7日から職場に復帰することを呼びかけた。
 この闘争の中で郡・学校区レベルの下からのイニシアチブが組合リーダーの動揺と非民主主義的なスト収拾の動きを制し、有利な力関係を形成した。
 ウェストバージニア州はかつて炭鉱の町として栄え、強力な労働組合運動の伝統がある。組合員の中には親世代からそのような経験を継承している者も少なくない。

 

(「ニューヨークタイムズ」、「パフィントンポスト」などの報道、および「レイバーノーツ」誌電子版3月7日付等より)

 

★バングラデシュ
  ラナプラザ・ビル倒壊から5年

 2013年4月24日、ダッカ近郊のラナ.フラザ・ビルが倒壊し、衣料労働者1,134人が死亡した。この悲惨な災害を契機に衣料工場の安全と労働者の人権への関心が高まり、衣料ブランドや小売りチェーンの社会的責任、流行と低価格を追い求める消費パターンの見直しが叫ばれてきた。
 ラナプラザから5年、バングラデシュの工場は改善されたのか?PRI(パブリック・ラジオ・インターナショナル)は「この問いへの答は誰に尋ねるかによって異なる」として次のように報じている(17年12月6日付)


 「ミシンエだったアラティ・バラダスさん(20歳)はビルが倒壊した瞬間、逃げ出そうとしたがサンダルを履き直している間に逃げ遅れ、その後のことは覚えていない。気が付いた時には上に同僚の遺体が重なっていた。救急隊の声に目を覚ましたのは事故から3日後だった。同じ工場で働いていた彼女の母は死亡した。


 アドリアン・ロドリゲスさんはダッカで英国の小売店向けの衣料品を製造しているウェイマート社の営業部長である。彼によるとラナプラザ以降、小売店のやり方が変わった。まずコンプライアンス(法令順守)担当チームがやってきて、工場の安全や労働条件をチェックする。

 ラナプラザは衣料産業に2つのことを教えた。消費者は買い物を楽しむためには、血塗られた商品を望まないこと、そして労働者が幸福であれば、製品の品質も向上することである。


 …組合リーダーのカルポナ・アクテルさんは『この仕事は敬意を払われていないし、尊厳がない』と言う。アクテルさんは子どもの時から衣料工場で働いてきた、彼女は、アディダスやH&Mなどのヨーロッパ企業が工場安全協定を通じて改善に取り組んでおり、基準に適合しない工場とは取引をしないと約束していることを指摘した…彼女によると、13年まで毎年平均200人の労働者が火災やビル倒壊で死亡していたが、16年にはそのような災害による死者はゼロだった。


 アラティ・バラダスさんは工場の安全がラナプラザ以降改善されたとは考えていない。二度と工場には戻りたくないし、自分の子どもたちも工場には行かないだろうと言う。」


 工場安全協定の継続へ13年5月にインダストリオール、UNI、クリーン・クローズ・キャンペーンなどの国際的な労働団体・消費者団体と世界の有力な衣料ブランド・小売チェーンの問で締結された工場安全協定(「アコード」)は、18年5月の期限を前に、新たな「移行協定」として更新され、21年5月まで継続される。新たな協定には2月22日現在、109の企業が署名しており、監視対象となる工場の労働者の数は200万人以上となる。
 工場安全協定の下でこれまでに約1,800の工場の検査が実施され、11万8,500件の危険個所が報告されている。2月22日には150の工場における欠陥の是正のために、同協定を締結している企業が総額2,300万ドルを拠出することが合意された。17年12月にも同様の拠出が合意されているが金額および拠出企業については公表されていない。

 同協定は締結企業に、取引先の工場で発見された欠陥の是正を義務付けており、労働団体は企業側の義務不履行について16年10月にハーグの常設仲裁裁判所に仲裁を求めていた。

 

 企業側はさらに、労働団体の「供給チェーン労働者支援基金」に30万ドルを拠出する。
 労働条件に関しては、衣料工場の最低賃金は13年に月5,600タカ(約7,200円)に設定されたままであり、インダストリオール加盟労組は現在、これを月16,000タカ(約20,500円)
に引き上げることを要求している。

 

(英国「ザ・ガーディアン」1月22日付等より)

 

★米 国
  ウーバーによる労働規制破壊が地域社会に悪影響

 以下は「ザ・ネーション」誌に掲載されたミシェレ・チェン記者のレポート(2月26日付)の抜粋である。


 ライドシェアの大手企業、ウーバーは役員の不祥事、セクシャルハラスメントの訴え、全ヨーロッパにおけるタクシー運転手による抗議行動という逆風に直面している。また、ライドシェアの産業モデルに対する監視が強まっている。


 全米雇用法プロジェクトと勤労家族パートナーシップは共同で「ウーバーとリフトの分析」を発表した。それによると、これらの企業は2つの戦略を採用している。1つは議会へのロビー活動によって法制度を変えることであり、もうーつは「消費者の選択肢を増やす」、「(運転手は)独立自営業者になる」などの巧妙なPRである。いずれも団体交渉権や消費者・労働者の保護の機先を制す上で効果的だった。

 彼らは連邦および州議会にライドシェアの運転手を労働法の適用外とするよう働きかけ、それによって失業保険や最低賃金の適用を逃れてきた。自動車の修理代や保険も運転手の自己負担である。

 運転手はアプリのアカウントが無効にされても抵抗の手段がない。その結果、失職しても退職金も失業手当もない。雇用や昇給におけるジェンダーや人種による差別があっても法律上の保護がない。

 

 シアトルやニューヨーク市ではチームスター労組やタクシー運転手労組による組織化の試みが始まっている。

 ウーバーはこれに対抗してニューヨークでは社内で「運転手ギルド」を組織している。このビジネス・モデルはまた、都市における民主主義的な公共交通の整備を妨げている。アプリの運用会社は雇用者とみなされないため、法人税を回避でき、公共交通のための財源を奪う。車椅子での利用に関わる義務も適用されないため、車椅子利用者のタクシー利用が妨げられる。

 

 

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