★英 国
TUCがベーシック・インカム支持
ロボット化を始めとする産業構造の急激な変化に対応して、将来の雇用をめぐる議論の中で、英国最大の労働組合ユナイトは、7月11日にベーシック・インカム(政府による無条件の最低限所得保障)を支持する決議を採択した。
9月11〜14日に開催された労働組合会議(TUC)の年次大会では、ユナイトが提案したベーシック・インカムを支持する決議が採択された。
労働党の党首に再選されたコービン氏はベーシック・インカムと1日6時間労働を提唱している。
以下は、ユナイトのホームページに9月12日付で掲載された呼びかけの抄訳である。
急激なデジタル化と「細切れ雇用」化が数百万人の労働者を不安に叩き込んでいる時、英国最大の労働組合であるユナイトはすべての労働組合に対して、ベーシック・インカムを社会保障と労働への正当な報酬のための広範な改革の一環として検討することを呼びかけた。
フランス、オランダ、フィンランドでは現在、ベーシック・インカムの試験的導入が検討されている。今年5月に実施された世論調査によると、ヨーロッパでは回答者の65%はベーシック・インカムの考え方を支持している。
ユナイトの副書記長で、スポーツ・ダイレクトの不当労働行為に対する闘争を指揮してきたスティーブ・ターナーは大会で次のように発言した。
「保守派による緊縮政策は惨憺(さんたん)たる結果をもたらした。それは福祉を必要としている人々を孤立させ、攻撃にさらし、フードバンクを国民生活のありふれた光景にし、何百万人もの人々をペイデイ・レンダー(給料を担保に高利で短期融資を行う業者)の窓口へ向かわせている。憂鬱な真実として、ますます多くの労働者が貧困すれすれの状態に陥っている。
われわれはこのような非人道的な福利切り捨てと労働条件の劣悪化に対して起ち上がらなければならない。
しかし、われわれはまた、労働が変化しつつあることを認識しなければならない。数百万人の雇用がオートメーション化と技術革新によって失われようとしている。無人機を使った配送や事務職のデジタル化などである。
このような雇用の不安定化と細切れ化を前に、労働組合はディーセントワーク(まともな条件での仕事)のために闘うだけでなく、仕事から締め出される労働者のためのまともな所得のためにも闘わなければならない。
これは生活できる賃金を支払わない経営者を国家が補助するということではない。悪徳雇用者を免責するということではない。
労働運動は人々に生活できる所得を保証する方法に関する議論をリードしなければならない。保守党や緊縮政策の支持者たちに労働の世界に関する議論の主導権を与えてはならない。
姿を現しつつある新しい経済についての議論、そしてそこから誰も排除されないようにする方法についての議論が必要である。われわれはこの機会をとらえて、労働組合の価値観――公正、平等、人間としての扱い――を主張しなければならない。
急激に変化する世界の中で、われわれは伝統的な労働と所得の関係が攻撃にさらされているという現実に立ち向かわなければならない。われわれがディーセントワークと富の再分配のために闘う時、ベーシック・インカムをその中に位置付けることができるだろう。ビクトル・ユーゴが言うように、『機が熟した考えほど強いものはない』」
★米 国
AFL-CIO 石油施設建設に賛成
米国中西部の最北端、ノースダコタ州西部の油田からイリノイ州まで4州、1890キロにわたる石油パイプライン(ダコタ・アクセス・パイプライン)の建設計画をめぐって、スタンディングロック・スー(アメリカ先住民)の人々が工事強行に抗議する闘いを続けている。
このパイプラインはスタンディングロック・スーの聖地と居住区に近接しており、聖地を破壊し、環境汚染をもたらすことから全国の先住民や環境運動活動家が闘いの支援に駈けつけている。
今年4月から建設予定地にキャンプが設営され、数百人が連日、平和的な抗議行動を続けている。
州知事はこの地域に非常事態宣言を発し、警察は高速道路から現場へ通じる道にバリケードを築いている。
工事強行への批判が高まる中、オバマ大統領は建設計画のうち、スタンディングロック・スー居住区に近接する部分について工事の一時中止を命じ、ワシントンの連邦控訴裁判所も一部区域について工事差し止め請求を支持する決定を行った。
アメリカ通信労組(CWA)、全米看護師統一労組(NNU)など、気候変動問題に積極的に取り組んできた労働組合は、ダコタ・アクセス・パイプライン計画でも先住民との連帯を表明している。
一方、AFL・CIOは9月15日、トゥルムカ委員長がダコタ・アクセス・パイプライン建設を指示する声明を発表した。声明のタイトルは「ダコタ・アクセス・パイプラインは良質の雇用をもたらす」である。
「工事の果てしない遅延によって組合員とその家族の生活と収入の安定を犠牲にするのは不当である」と石油・エネルギー資本の宣伝を繰り返している。
NNUの「環境における健康と社会的公正」担当責任者のフェルナンド・ロサラさんはAFL・CIOの声明を次のように批判している。
「われわれはAFL・CIOが利潤のために土地、水、周辺住民の生活を危険にさらしている
人々を支持したことに失望している。ダコタ・パイプラインは地球の未来のためには容認できない化石燃料採掘を促進する。……AFL・CIOの一部の勢力は組合員の利益と称して、短期的な雇用のために偏狭な立場を押し付けた」。
CWAは最近の声明の中で次のように述べている。
「労働運動は尊厳と公正と尊重を求めるすべての闘争に連帯するという単純で力強い原理を根本としている。CWAは引き続き1%の金持ちたちの利益や企業の強欲に対して闘い、自分たちの地域の環境と文化の破壊に抗議して闘っているスタンディングロック・スーの兄弟姉妹たちと強く連帯する」。
(「Zネット」9月19日付等より)
★コロンビア
和平から組合活動の自由拡大へ
コロンビア政府とFARC(コロンビア武装革命軍)の間の和平合意は10月2日の国民投票で否決されたが、和平プロセスは継続される。以下は南アフリカのウィットウォーターズダンド大学が発行しているニュースレター「グローバル・レーバー・コラム」の9月号に掲載されたレポートの抜粋である。筆者のダニエル・ホーキンス氏はコロンビアのENS(全国労働組合学校、労働運動を支援するNGO)の代表である。
この数十年にわたる紛争の中で、コロンビアの労働運動は他の多くの社会運動と同様に、大きな打撃を受けた。ENSの調査によると、最大労組であるCUTが結成された1986年から和平交渉が終わった2016年8月25日までに労働組合に対する暴力事件は1万4千件以上が報告されており、3043人が殺害され、6872人が殺害予告を受け、1895人が行方不明になっている。
暴力事件の内訳はFARCによるものが3%、民間準軍事組織によるものが24%、軍・警察によるものが7%で、64%以上は不明のままである。いずれにせよ、紛争が労働組合に対する暴力事件や、政府・企業による労働組合への抑圧が背景となっていることは間違いない。
そのためコロンビアの労働組合は非常に弱体であり、分断されている。14年時点で組合組織率は4.55%であり、組合の80%以上は組合員が80%未満である。何らかの労働協約を書面で締結している企業は0.3%にすぎない。
和平合意はコロンビアの労働運動や社会運動全体にとって新たな出発点となる。この数十年間、職場における闘争や、より広範な社会・政治闘争、土地をめぐる闘争はFARCや他の武装グループに近いという決めつけをされてきた。
一部の政府機関は、政府にとって不都合な労働組合リーダーを脅迫し、殺害するために、極右の民間準軍事組織と直接に結託してきた。
たとえば11年に、国家諜報機関DASの元長官のホルヘ・ノルゲラ・コテスが少なくとも7人の組合リーダーの殺害に関与したとして懲役25年の判決を受けている。
10年に極右のウリベ政権が去った後は労働組合に対する暴力や脅迫は大幅に減ったが、それでも11〜15年の間に130人の組合活動家が殺害されている。サントス大統領とオバマ米国大統領の間で、労働組合への迫害をやめ、労働者の基本的権利の擁護におけるコロンビア政府の取り組みを改善するための「労働アクション・プラン」が合意されたにもかかわらずである。
……戦争が終われば、労働組合活動の自由が拡大し、平和的な社会運動への道が開かれる可能性が広がるだろう。
だからコロンビアの組合リーダーの大多数は和平プロセスを積極的に支持しており、和平合意に関する国民投票で「イエス」の投票を呼びかけている。
CUT、EFCODE(教員組合)、USO(石油労組)はENSなどのNGOと協力しながら、和平合意の内容と、和平が実現した場合に労働組合にとってどのような可能性が開けるのかについてのワークショップを全国で開催している。