たたかいの現場から

999号

郵政20条裁判〉「時代の扉、動いた」 最高裁勝訴に湧く

 判決を聞いて最高裁正門から出てきた棄一郎弁護士が両手で大きな丸を作る。
 原告たちは拳を天に突き上げる。
 全面勝利判決を受け、報道陣、支援者らでごった返す最高裁前では喜びが弾けた。

 

 郵政ユニオンに加入する日本郵便の契約社員ら11人が正社員との格差是正をもとめ東西で起こした裁判の上告審判決で、10月15日、最高裁第一小法廷(山口厚裁判長)は、扶養手当、年末年始勤務手当、祝日給、夏季・冬季休暇(有給)、病気休暇(有給)という審理対象となった5項目のすべてについて、労働者勝利の判決を言い渡した。

 

 原告らは、こうした格差が、労働契約法20条が禁じる「不合理な格差」だと訴え、郵政ユニオンをはじめ多くの労働組合が支援してきた。

 

 原告の一人、岡崎徹さんは「時代の扉が動く音が聞こえた。とてもうれしい」と語った。
 浅川喜義さんは「同じ職場で働いている正社員の証言が司法に届いた。正規・非正規一丸の闘いが勝利をもたらしたと思います」と言い、こう続けた。
 「みんな人間なんだから、同じように扱えよ。(それが)当然だ」

 

 原告たちが参加した記者会見と並行し、郵政ユニオンは国会内で開いた報告集会も熱気があふれた。

 

 家門和宏副委員長は「全国の非正規労働者に光を灯す判決でうれしい限り。原告に敬意を表したい。郵便局の職場を変えられれば非正規が働く環境を変えられる」と力を込めた。

 

 野党国会議員、全労連の小畑雅子議長、全労協の渡辺洋議長、和光大名誉教授の竹信三恵子さんらもマイクを握る。
 勝利を祝すとともに、最高裁が手を付けなかった「基本給、賞与、退職金という非正規差別の根幹」を正していこうという意見が相次いだ。

 

 郵政20条訴訟の少し前に提訴し、伴走しながら励まし合ってきたメトロコマース訴訟原告の後呂良子さんは「私も退職したが、コロナで仕事がない。差別のひどさは退職した時どーんと来る。今日の判決はみんなの集大成だが、差別の根幹を崩すのはこれから」と語った。

 

(編集部)

 

ARD〉外国特派員からパワハラ 日本人スタッフが提訴

 ドイツ公共放送連盟(ARD)東アジア支局の女性特派員から執拗なパワーハラスメントを受けた日本人女性スタッフが、損害賠償を求める民事訴訟を起こした。

 

 放送関連で働く人なら誰でも入れる民放労連放送スタッフユニオンは、組合員であるこの女性スタッフの裁判を支援している。

 

 女性スタッフは約20年にわたってARDでラジオ部門のプロデューサーとして国内外のニュースチェックや取材サポートなどを行ってきた。
 2018年に着任したこの女性特派員は、一方的な決めつけや事実をすり替えた言い分による叱責や非難を繰り返し、このため女性スタッフは体調を崩して一時的に休職療養を余儀なくされた。

 

 復職後もハラスメントは続き、「お前は言うことをききさえすればいいんだ!」などと暴力的な言い方で攻撃したり、嫌がらせのメールを何百通も送ったりした。
 このため女性スタッフは過呼吸症候群を引き起こして救急搬送されるなどした。

 

 女性スタッフの相談を受けたユニオンは、ARDに対して特派員によるハラスメントの防止をはじめ、賃金や労働時間などに関する要求を提出して団体交渉を行っているが、ARD側はハラスメントの事実を全面的に否定し、特派員を擁護する立場をとって誠意のない回答をユニオンに示している。

 

 女性スタッフは特派員個人を相手取って損害賠償請求訴訟を起こし、その第一回口頭弁論が9月18日に東京地方裁判所で開かれた。

 

 原告となった女性スタッフは意見陳述で「威嚇や攻撃をもって、相手を弱体化させ、その者の自尊心を木っ端微塵に叩き壊そうとする人格破壊行為は決して許されるべきものではありません」と、過酷なハラスメントの実態を訴えた。

 

 特派員側は、女性スタッフが訴えた数々のハラスメントの事実をことごとく否定し、全面的に争う姿勢を見せている。

 

 日本人差別の様相もあるこのハラスメント事件に、働く仲間の皆さんから共感と支援をいただければ幸いだ。

 

岩崎 貞明(放送スタッフユニオン書記長)

 

関生弾圧〉大阪府労委では9連勝 スト有罪判決で即日控訴

 組合活動を禁止する保釈条件の取り消しを求める団体署名1857通を、9月28日和歌山地裁、同月29日大津地裁に提出した。

 署名は今年7月、鎌田慧(ルポライター)、佐高信(評論家)、宮里邦雄(弁護士)らが共同代表の「関西生コンを支援する会」がよびかけた。

 

 「関西生コン事件」で逮捕、長期勾留を強いられた関生支部の武建一委員長ら組合役員の多くに、組合事務所に立ち入ってはならない、組合員と面談、電話、メールなど一切接触してはならないなどとする保釈指定条件が付けられていることから、この保釈条件は憲法違反であると同時にILO(国際労働機関)結社の自由委員会の先例法理にも違反していると批判。速やかに取り消すよう裁判所に要請するもの。

 

 自治労、日教組、全港湾をはじめ、平和フォーラム各地方組織が積極的にとりくんでくれた。

 

 署名を持参した藤本泰成さん(平和フォーラム共同代表)は、「ひと月でこれだけの署名が集まった。全国の労働組合や市民団体が強い危機感をもってこの問題を受け止めているからだ。
 その意味を真剣に受け止め、ただちに保釈条件を改めるよう担当裁判官に伝えてほしい」と申し入れた。

 

 一方、9月28日には、大阪府労働委員会がナニワ生コン事件で組合の全面勝利命令を出した。

 ストで逮捕されたことを理由とする七牟礼副委員長らの懲戒解雇取り消しを命じたもの。

 

 大阪広域協組が主導した一連の不当労働行為事件の救済命令はこれで9件目。
 他方、10月8日、大阪地裁が大阪ストライキ事件で西山執行委員ら2名に有罪判決。

 

 業界と警察・検察の組合弾圧に加担する司法の誤りを正すため即日控訴した。

 

小谷野 毅(全日本建設運輸連帯労働組合書記長)

 

武器輸出〉安倍政治「負の遺産」 市民が果敢なアクション

 安倍首相の辞任表明当日の8月28日、完成品の輸出としては初となる三菱電機製防空レーダー4基のフィリピンへの輸出契約成立が公表された。

 さらにこの間、武器輸出を本格化する新たな動きが相次いで浮上している。

 

 一つは、インド、インドネシア、マレーシア、ベトナムを対象に、防衛装備庁が軍需商社と契約し、各国の調達計画や安全保障上の懸念などに関する情報収集を委託するもの。

 

 輸出できそうな武器を選び、今年度中に輸出計画を具体化した「事業構想」を作成し、来年度以降に相手国に売り込むという計画だ。

 

 レーダーや輸送機、哨戒機などを想定する一方で、戦闘機や潜水艦などの共同開発にも応じるという。

 これは、今まで武器輸入に携わってきた国内軍需商社が、武器輸出に本格的に加担していくことを意味する。

 

 二つ目は、アラブ首長国連邦(UAE)への川崎重工製軍用輸送機C2の輸出に関して、10月中に岐阜基地の未舗装滑走路で離着陸試験を行うというもの。

 武器輸出商戦を勝ち抜くために、弱点の克服を目指そうとしている。

 

 UAEは、サウジアラビアと共に、5年以上にわたってイエメンへの無差別空爆を続け、民間人の殺傷に留まらず、飢餓や感染症の拡大をも引き起こし、国連が「世界最悪の人道危機」と警告する惨状をもたらしてきた。

 れっきとした紛争加害国であるUAEへの武器輸出自体があり得ないことだ。

 

 憲法9条を持つ日本が、「死の商人国家」へのど真ん中の道を進むことは許されないと、NAJATでは双方に対して緊急のアクションを取り組んだ。

 

 10月1日には「軍需商社めぐり」と題して、防衛装備庁との契約を検討している商社への申し入れとアピールを敢行。

 20人で丸紅エアロスペースと伊藤忠アビエーション、その親会社である伊藤忠商事を順に訪れ、「貴社に敵対するのでなく、そのブランドイメージを守るためにやってきた」と訴えた。

 

 とりわけ伊藤忠アビエーションは、「敵基地攻撃兵器」であるノルウェー製の長距離巡航ミサイル「JSM」の輸入代理店でもあり、その罪は重い。

 

 10月5日には「死の商人にならないで!」と14人で川崎重工東京本社へ申し入れ。

 同社に対しては、神戸本社のある神戸と中部支社のある名古屋でも、連携して地元市民が申し入れを取り組んだ。

 

 メディアの感度の鈍さもあって、武器輸出問題はまだまだ知られていない。

 市民と独立メディアの果たすべき役割が増している。

 

杉原 浩司(武器取引反対ネットワーク[NAJAT]代表)

 

美々卯「名誉殿損」〉解雇争議と連帯 スラップに反撃開始

 うどんすきの老舗名店「美々卯」(みみう、本社・大阪市)とその社長、薩摩和男氏が、本誌編集人でジャーナリストの北健一を名誉殿損で提訴し、9月16日、大阪地裁で第1回口頭弁論が開かれた。

 

 美々卯から「のれん分け」した関連会社・東京美々卯(本社・中央区)は、緊急事態宣言が解除される直前の5月20日、突然解散して6店全店を閉じ、従業員らを退職させ、応じなかった者を解雇した。

 

 東京美々卯にはもともと、全労連全国一般東京地本加盟の組合(分会)があり労働協約には事前同意条項もあったが、会社は協約を無視し解散を強行。組合は都労委に不当労働行為救済を申し立て、東京地裁に地位確認、未払い残業代請求等の裁判を起こしている。

 

 東京美々卯は無借金で手元資金もあり、雇用調整助成金は申請していなかった。

 同社取締役は解散のーヵ月前、「正直なところ役員3人とも納得いっていない」と述べている。

 

 取締役が納得していないのに、同社はなぜ解散したのか。

 背後には、同社の株式の43%を持つ美々卯、薩摩社長の意向があったと考えるのが自然だ。

 

 北がダイヤモンドオンライン(6月26日)にその旨の記事を書いたところ、美々卯と薩摩氏はダイヤモンド社、編集長、北を相手に1100万円の支払いと記事削除、謝罪広告を求め裁判を起こした。

 

 薩摩氏らは訴状で、「原告薩摩は……平気で従業員の生活の糧を奪い、その人生を踏みにじる人物である、という仮にこれが真実であれば会社経営者として万死に値する恥ずべき汚名を着せられた」としながら、都労委では、東京美々卯解散とそれに伴う退職・解雇には問題がなかったと主張している。

 

 問題がない会社解散に「関与した」と書かれると、なぜ「万死に値する汚名」になるのだろうか。
 今回の提訴は、解雇された労働者、労働組合の声が社会に届くことを妨げる点でも看過できない。

 

 第1回口頭弁論の傍聴席は報道の自由侵害を懸念する市民で埋まった。
 金地香枝裁判長は、被告側の意向を受け、次回以降の期日も公開法廷での口頭弁論とした。

 

 同日夕方には大阪市内で被告を支援する集会が開かれ、出版労連、関西MIC(日本マスコミ文化情報労組会議)を中心に支援者が結集。
 東京から駆け付けた美々卯店長(被解雇者)は「解散には納得いかない。国の助成を受け大阪(美々卯)の協力があればやっていけた」と話した(出版労連・美々
卯スラップ対策会議主催)。

 

 第2回口頭弁論は11月18日13時10分から、大阪地裁807号法廷。12月1日18時30分から、エルおおさかで支援集会が開かれる。

 

北 健一(ジャーナリスト)

 

 

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