アジア@世界
802号

●チリ
鉱山労働者の雇用の保証と安全対策の徹底を要求

 われわれはチリの鉱山に閉じ込められていた33人の労働者の救出を祝福すると同時に、チリ政府がILOの鉱山の安全に関する条約(第176号)を批准することを要求し、また、仕事を失った365人の鉱山労働者(救出された33人を含む)の将来に関する憂慮を表明する。
 10月13日、閉じ込められていた33人の労働者が全員、狭い脱出用シャトルで引き揚げられ、救出され、2カ月にわたる地中深くでの苦しい生活を終えた。
 サンノゼの鉱山での劇的な光景は鉱山の安全の問題に世界の関心を引きつけた。チリは鉱山の安全に関する主要な国際基準を批准しておらず、昨年約50人の鉱山労働者が労災で死亡している。
 IMFのラテンアメリカ・カリブ地域代表のホルヘ・アルメイダは9月末に、チリのIMF加盟組合の協力により現地を公式訪問した。アルメイダは、33人の労働者の仲間意識こそが労働者たちの生存にとって決定的だったと語っている。彼はチリ政府に対して事故原因の究明と責任者の特定、再発防止策の導入を要求した。  33人の救出が成功した今、IMFは依然として365人の鉱山労働者の再雇用について憂慮している。現在この労働者たちは職を失い、この鉱山の将来は明確でない。
 アルメイダは、IMFが支持しているICEM(国際化学・エネルギー・鉱山一般労組)の鉱山の安全を求めるキャンペーンに触れて、次のように述べている。「私はまた、チリ政府に対して、安全対策については労働者や労働組合の意見を聴くべきであり、チリがILO条約第176号を批准することが不可欠であることを強調した」。
(国際金属連盟(IMF)の10月15日付の声明より。)

●中国
当局が危険な1600の炭坑を閉鎖

 チリの鉱山労働者の救出のニュースは中国でも歓呼で迎えられたが、同時に国内の炭鉱の安全に対する懸念も強まっている。香港の「チャイナ・レイバー・ブレティン」によると、「中国日報」紙と西蒙周氏のブログの両方が、中国とチリの鉱山の決定的な違いとして、中国の鉱山には地下で事故が発生した際の避難場所がないことを指摘している。
 昨年、貴州の炭鉱で生き埋めになった3人の労働者が25日後に救出されたが、彼らは救出を待つ間、樹皮と湧水だけで生存した。大きな炭鉱では避難所があることもあるが、小さな民間の炭鉱では皆無である。  「中国日報」は10月15日付の社説で、鉱山経営者はチリの教訓に学ぶこと、政府は安全を無視する経営者を厳しく規制することを強く求めた。
 同日の「人民日報」は、当局が今年に入ってから、危険な1600の炭坑を閉鎖したと報じている。

●フランス
「年金改革」反対闘争が拡大、交通・石油精製所などでスト

 「年金改革」反対の闘争が拡大している。石油精製所労働者の波状ストによって12の製油所のうち10の製油所が操業停止になり、全国の230のガソリン・スタンドが休業を余儀なくされ、パリ市内や国際空港へのパイプラインを通じたガソリンの供給にも影響が拡大している。  いくつかの地域でゴミ収集もストップし、トラック労働者もストライキに合流している。  高校生も闘争に参加し、10月14日には全国各地でデモが行われ、警官隊の弾圧によって数人の高校生が重傷を負った。翌15日にもモントリオールをはじめ各地で弾圧に抗議するデモが行われた。このデモで高校生200人余が逮捕された。警察への批判の高まりの中で、内務相は警官隊に強圧的な規制を控えるよう指示した。  全国高校生連合の委員長は、政府がデモに参加する高校生たちを「未熟な若者」と呼んだことに抗議して、「こんな対応をする政府こそ未熟だ。私たちは羊ではない。大人や大人の組織に指導されなくても運動に参加できる。年金改革は若者を雇用から締め出すことになる」と語っている。  10月16日には第5波のゼネストが行われ、全国230カ所で350万人がデモに参加した(警察発表は123万人)。  同19日にも全国的なストライキとデモが呼びかけられている。

●米国
労働運動は「茶会」を凌駕できるのか?

 10月2日、ワシントンのリンカーン記念堂前で「ワン・ネーション・ワーキング・トゥギャザー」集会が開催され、民主党を支持する労働組合や市民運動団体の活動家など十数万人が参加した。一方、8月28日には同じ場所で、FOXテレビのキャスターのグレン・ベックが呼びかけた「アメリカの名誉を取り戻そう」集会には、共和党右派を支持する「ティーパーティー」運動の活動家・市民数万人が参加した。以下は「レイバーノーツ」ウェブ版掲載のジェーン・スローター、マーク・ブレンナー両氏のレポート(9月30日付)の抄訳である。
 10月2日、ワシントンに数万人の活動家が集まろうとしているが、すべての組合員が同じ考えを持っているわけではない。先月、グレン・ベックが呼びかけた「名誉を取り戻そう」集会にどれだけの組合員が参加したか、誰も知らない。確かにそのような組合員はごく少数だったが、国内の政治的環境は一部の人々を、「税金の取りすぎ」への不満、大統領バッシング、「外国人の脅威」を煽るメッセージに心を開くようにさせている。
 そもそも、ティーパーティーが登場する前から、組合員の30〜40%は一貫して共和党に投票してきたことが多くの世論調査によって示されている。今月のCBSの世論調査では、米国人の19%が自分をティーパーティーの支持者であると考えている。ティーパーティーの集会に参加したことも、ウェブを見たこともない者も含めてである。
 大部分の組合員はティーパーティーを敵だと見ているが、一部の人々はこの運動のいくつかの側面について、不承不承ながら称賛を表している。
 ロサンゼルスのチームスター労組の民主的改革派の活動家で、倉庫労働者のフランク・ハルステッドさんは、「解決策がない時は、それを説明するものを作り出そうとして、知ったかぶりで説明する者たちの餌食になる」と指摘する。
 「労働運動再生のためのセンター」のビル・フレッチャーさん(1990年代にAFL・CIOの教宣活動に従事していた)は、「労働運動がレイシズム(人種差別主義)と真剣に対決してこなかったために、一部の労働者は自分たちの問題についてのウソの説明を受け入れやすい状態にとどまっている」と語っている。  こうしてティーパーティーは、経済的不安と将来への希望の喪失を掘り出し、アメリカの誇り、名誉、繁栄という神話化された過去への回帰を約束する。
 しかも、一般の人々は、政治システムの中で自分たちは本当は大事な存在とはみなされていないことを知っている。結局のところ、銀行救済は二大政党間の合意によって行われたのであり、近い将来に社会保障のカットも同様に行われるだろう。
 ティーパーティーは自分たちが参加できて、発言できる場であると感じられる。
 そして、あらゆる不安の根本にはアメリカの長年の災いがある。こうしてレイシズムは常に、黒人や移住者やイスラム教徒を非難することによって世界を説明するために活用される……
 労働組合はティーパーティーのアピールに対してどのように対応するのか?
 USW(全米鉄鋼労組)のミッシェル・スカーバーさんは、「ほとんどの場合は、自分たちのメッセージを発して、事実について話し合う」ことを通じて対応すると述べている。
 彼は組合員に対して、税金から銃規制に至るまで、あらゆる問題について語りかけるが、多くの組合リーダーたちは一般組合員の間の保守主義に神経質になっており、組合員たちの考えを直接に引き出そうとはしない。  彼ら・彼女らは、団結というものが組合の中心的な使命、すなわち賃金や労働条件に集中することによって築かれると考えており、意見が異なる領域については議論を避けたがる傾向にある。
 フレッチャーさんは、ティーパーティーのような問題に対して不意討ちを食らったような対応が見られると指摘する。彼によると、ティーパーティーに対応する方法を知らないことと、オバマに圧力を加える方法を知らないことは表裏一体である。一部の例外を除いて、労働組合から政府や民主党に圧力をかけたことはほとんどない。
 AFL・CIOのリーダーたちはようやく、ティーパーティーを名指しで、反撃しはじめている。
 アーリーン・ホルト・ベイカー会計担当書記は、ウェブ上での組合員からの質問に答えて、「ティーパーティーは憎悪で希望を覆ってしまい、私たちに経済的な利益を忘れさせることによって私たちを分断しようとしている」と述べている。
 IUE・CWA(電気工・機械工組合)のマサチューセッツ州の支部委員長のジェフ・クロスビーさんは、「イスラム教徒やメキシコ人が敵なのか、企業の役員たちが敵なのかという選択なら、われわれはそのことをもっとはっきりと語るべきだ」と語っている。

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