★英 国
カリリオン社破産で全国の公共サービスが危機に
1月15日、英国第2の建設会社、カリリオンが約16億ポンドの負債を抱え、清算手続きを申請した。
カリリオンは有力な建設会社であるだけでなく、公共サービス事業でも最大の受注企業である。英国内で2万人、海外で2万人を直接に雇用するほか、3万社の下請け企業を通じて学校、病院、刑務所などの清掃員、守衛、保守作業員が間接的に雇用されおり、地域
社会への影響、金融機関や下請け会社への負債など、EU離脱を前にした英国経済に深刻な打撃が予想される。
一般労働組合(GMB、63万人)は1月12日付の声明で次のように述べている(要約)。
「民営化と外注化の失敗の悲劇的な事例は政府に対して、公共部門の事業と労働者保護のために介入することを求めている。GMBは政府に対して経営に失敗した民間企業の救済ではなく、カリリオンの労働者の雇用と年金を守るために介入することを要求する。
GMBはカリリオンが組合活動家や環境運動活動家のブラックリストを作成して、16年5月にGMBの提訴による裁判で5500万ドルの賠償金の支払いを命じられたとき以来、政府に対してカリリオンの事業に税金を使うことをやめるよう繰り返し求めてきた。
この会社は労働者の保護という点では最悪の実績を誇っている。これは民営化と外注化の失敗の新たな事例である。重要な公共事業をカリリオンの経営者の不適切な管理から救い出すために、労働組合を含む緊急対策チームを設立する必要がある。」
英国最大の労働組合であるユナイト(140万人)は1月30日付の声明で次のように述べている(要約)。
「カリリオンの倒産によって会社法・年金法の基本的な欠陥が明らかになった今、ユナイトは緊急にこれらの法の改定を提案している。法的な清算手続きのために必要とされる費用は約5千万ポンドだが、同社には現金が残っておらず、主に税金から支払われることになる。
債務超過局によると、カリリオンの労働者は別の契約業務に異動となる場合でも、いったん解雇されてから再契約となる。多数の労働者が解雇される可能性がある。同社の労働者は退職金局に退職金の支払いを申請できる。これも税金から支払われる。
英国の法的規制はあまりに弱いため、カリリオンの経営上の問題は10年前から始まっていたにもかかわらず、誰も倒産回避のために介入できなかった。これは小さな会社ではなく2万人の労働者を雇用する会社であり、その供給チェーンでも数千人の労働者が雇用されている。労働者が生存手段を失う危険に直面しており、巨額の税金が投入されるにもかかわらず、誰かが責任を取るのかどうかもわからない。同じことが繰り返されないために、政府は速やかに新しい法律の制定のために行動するべきだ。
カリリオンは基金不足を解消するための拠出金増額の要請を拒否し続けているどころか株主への配当の支払いのために年金基金からの借り入れを行っている。現時点でカリリオンの年金の不足額は9億9千万ポンド以上である。
また、カリリオンが受注していたリバプールの大学病院の建設は今年中に完成の予定だったが、めどが立たなくなっている。これはカリリオンの倒産が地域社会に厳しい現実をもたらしているーつの例である。
ユナイトは政府に対して、あらゆる法的手段を講じて資金を回収すること、および企業への規制のための強力な法律を制定することを要求する。政府が介入し、カリリオン労働者の賃金と労働条件を保全しなければならない」
公共サービスの民営化や民間委託はサッチャーの時代に本格的に開始され、民間に任せた方が効率的であるという議論が繰り返された。その後、業務を委託するプロセス自体を民間に委ねることが一般的となり、カリリオンのような公共サービス供給産業が生まれた。
1990年代にはメジャー政権の下で、病院や刑務所などの公共施設を民間企業が所有し、資金を調達することが可能になったが、民間の資金調達コストは非常に高かった。その後、労働党政権の下で、公共事業に民間からの資金を活用するPFI(民間金融イニシアチブ)が推進され、その分野が拡大された。
学校給食から病院の駐車場の管理や食堂の運営まで、公共施設における広範なサービスがカリリオンを始めとする民間企業に委託されてきた。
しかし、現在では公共サービスをめぐる不祥事が続く中で、民営化の行き過ぎへの批判が高まっている。世論調査では回答者の80%が公共サービスの再国有化を支持している。
ジェームズ・コービン労働党党首の「カリリオンの倒産は決定的瞬間だ」という発言に大きな共感が集まった。
(「ガーディアン」紙1月12、15、21日付等より)
★イラン
民営化された企業の賃金未払いに抗議のヒューマン・チェーン
2月5日、イラク中央部のアラク市のヘプコ社の数百人の労働者が未払い賃金の支払いを求めて市の中心部の広場でヒューマン・チェーンを組織した。
参加した労働者の一人は「この106日間、賃金をもらっていない。2016年の賃金がまだ全額支払われていない者もいる」と言う。
ヘプコ社はイスラム革命の前に設立された複合企業で、建設機械などを製造している。昨年民営化され、労働者の苦難が始まっている。新しい経営者が数千人の労働者を解雇し、健康保険や年金の拠出が中止された。8千人いた労働者が現在では千人になっている。昨年9月にはヘプコ社とアザラブ社(発電機、ボイラー、製糖機などの製造、最近民営化された)の労働者の抗議行動に警官隊が暴力的に襲いかかり、数人が逮捕された。
地域の多くの住民が労働者に同情し、連帯を表明するために抗議行動に参加している。
州知事はへプコ社の新しい株主の誰かに経営を引き継ぐことによって問題を解決すると約束したが、労働者たちは知事の約束を「引き延ばし戦術」であり、抗議運動に混乱を作り出すことを狙ったものだと批判している。
イランではこのほかにテヘランのバス運転手、ハフトタペ製糖会社の労働者、退職者組合などが最低賃金、年金の引き上げを要求している
(「ラジオ・ファルダ」2月6日付より)
★アイルランド
ラインエアー(格安航空)の労組敵視に国際連帯で反撃
ヨーロッパ最大の格安航空会社であるラインエァー(本社はダブリン)は1986年の創業以来、一度も労働組合が結成されたことがなく、ミシェル・オーリリ会長は「地獄が凍っても
ラインエアーに組合なんか作らせない」と豪語していた。
しかし、昨年の夏と秋にイタリア、スペイン、ドイツなどでパイロットや管制官、地上スタッフが波状的にストライキなどの行動を繰り返す中で、同社は12月に組合を承認すると発表した。
従来の方針を変更した理由についてオーリリ会長は、組合の力が強いからではなく、クリスマス・シーズンに運航中止になった場合の膨大な賠償金の支払を避けるためだと説明している。
その一方で、会社側は各国の組合を結集しているヨーロッパ従業員代表評議会(EERC)との交渉を拒否し、各国で組合を無視したやり方を続けている。
アイルランドではフォルサが団体交渉権を承認されたにもかかわらず、この組合を無視して従業員に個別に賃上げを提示し、協約への署名を求めてきた。イタリアでは特定の組合だけと協約交渉を行い、他の組合を排除しようとしている。これに抗議して3つの全国組合が2月10日午前10時から4時間のストを行う。
(「ユーロニューズ」2月9日付、「アイリッシュ・インディペンデント」2月12日付等より)
★ドイツ
金属労組が「週28時間労働オプション」を勝ち取る
IGメタル(金属労組)の協約交渉が妥結し、同労組が要求していた「週28時間労働オプション」の導入(本誌前号を参照)が合意された。
このオプションによって労働者は育児や介護のために2年間、週労働時間を28時間に減らすことができるようになる。
この協約はバーデン“ヴュルテンベルク州の約100万人の労働者に適用されるほか、同国の390万人の工業労働者に拡大される可能性もある。
しかし、このオプションを利用した場合にも同じ賃金を保証するという組合側の要求は経営側に拒否された。また、交換条件として、経営側は希望する労働者には週労働時間を40時間に延長できることになった。
賃上げについては4・3%で妥結し(組合の要求は6%)、それに加えて一時金が支払わ
れる。
IGメタルのリーダーのヨルク・ホフマン氏は「この合意は現代における自己決定的な労働の世界への道の里程標となるだろう」と語っている。一方、経営団体の代表は「これは耐えられるが、苦痛に満ちた妥協だ」と述べている。
(「BBCニュース」2月6日付)