アジア@世界 765号

●韓国
民主労総が新執行部を選出

 韓国民主労総は4月1日、リム・ソン・キュ氏を新委員長に選出し、新しい執行部を確立した。執行部選挙の後は祝福の言葉を贈るべきかも知れないが、民主労総は今、そのような贅沢を楽しむ状況にはない。前任者たちが組合リーダーの1人によるセクシャルハラスメントに関する調査の過程で執行部の責任を認めて辞任したという経緯から、新しい指導委員会の最優先かつ最大の任務は、残された10ヵ月の任期を完了することである。しかし、民主労総は同時に、存亡に関わる状況に直面している。
 民主労総は、労働者が組合への信頼を完全になくしているという内部的危機に直面している。外部的には、資本家や政府権力からの全面的な攻撃に直面している。彼らは市場の失敗の責任を労働者に負わせようとしている。相互の信頼と連帯を基礎として団結している組織ならば、もっとも過酷な攻撃にも打ち勝つことができる。現在の状況下で、民主労総が直面している危機は組織的危機である。
 実際、前執行部のスキャンダラスな振る舞いは、この組織の問題を診断する上では、氷山の一角にすぎない。かつて、上級副委員長が賄賂を受け取ったことがある。代議員たちが乱闘を起こしたこともあった。常に組織内の派閥間の抗争がある。組織は力の弱い労働者を無視してきたし、リーダーたちは貴族化してきた。体内の癌が深く、広く進行した。官僚化、倫理性の喪失、リーダーの現場に対する無関心などのすべての要因が、信頼と連帯を弱め、民主労総を「張り子の虎」に変質させ、ごく小さな攻撃に対してさえ適切に反撃できないようにしたのである。
 したがって、新しいリーダーは、癌を取り除き、民主主義の文化を復活させ、倫理的な決意を新たにする必要がある。また、すでにこの国の労働者の半数近くを占めている非正規雇用労働者の問題をより積極的に取り上げ、支援することによって、労働者の連帯と団結の中心としての位置を回復しなければならない。資本家や政府権力は常に、労働者の間の分裂と対立を助長してきた。民主労総はそのことをよく知っていたにも関わらず、明らかな兆候を無視した。雇用の分かち合いに関心を示さず、最初の就職も難しい状況に置かれている若者たちの失業問題を無視した。その結果、非正規雇用に転換される雇用の数が膨大になり、労働者仲間の間で対立と不和が広がり、団体交渉における労働者の力が低下の一途をたどった。「第3の組合」が民主労総に取って替わろうとしているというコメントさえ聞かれるようになった。
 大企業は経済危機を全面的なリストラ計画を始める口実として使っている。李明博大統領の政権は、より多くの雇用を非正規雇用に置き換えることによって、よりフレキシブルな労働市場を形成しようとしている。これらのことは座視できることではない。しかし、民主労総が自身の組織的危機を克服することができなければ、そのほかの問題を克服するのはむずかしいだろう。多くの人々はすでに、指導委員会が種々の派閥の連合であると憂慮している。しかし、違いを抱えた連合が、より強い団結を示すこともできる。私たちはこの新しいリーダーたちが、労働者の間の団結を追求する中で、新しい決意を実証することを期待している(「ハンギョレ」英語版4月2日付の論説。原題は「民主労総の復活のための最後のチャンス」)。

●英国
G20に抗議し3万5千人がデモ

【リード】  3月28日、ロンドンで「人々が第一!」デモに3万5千人が参加した。以下は同日付の「ガーディアン」紙のレポートの抄訳である。

 主催者は1万人の参加を期待していたが、その3倍以上の人々が今日、ロンドンの街頭に繰り出した。経済危機の開始以来最大の大衆的デモである。
 「人々が第一!」デモは、労働組合、教会グループや、アクションエイド、セーブ・ザ・チルドレン、「地球の友」などの慈善団体を含む150団体の「レインボー連合」によって組織された。そのテーマは「雇用、公正、気候」であり、そのメッセージは来週当地で開催されるG20首脳会談に集まる世界のリーダーたちに向けられていた。
 組織者の1人であるTUC(労働組合会議)のブレンダン・バーバー書記長によると、これほど広範な連合が形成されて世界のリーダーたちにメッセージを発したことはこれまでなかった。彼は、「規制のない自由な市場という古い考え方は機能せず、世界経済を崩壊寸前まで引き込み、貧困との闘いに失敗し、低炭素社会への移行にはほとんど貢献しなかった。もちろんG20は1日ですべてのことを解決しないだろうが、リーダーたちは世界経済を回復させ、よりよい方法で管理することを確約し、よりよい世界を作ろうとしていることを示さなければならない」と述べた。
 ブラスバンドやドラマーを従えたデモには3万5千人が参加し(警察による推定)、色とりどりの旗や横断幕が掲げてエンバンクメントからハイドパークまでの約6キロを行進した。ハイドパークでの集会ではコメディアンのマーク・トーマスさん、環境活動家のトニー・ジュニパーさんが演説し、ザ・クークスの音楽が、寒さにもかかわらずパーティーのような雰囲気を醸し出した。
 全国から多くの人々が抗議のために集まった。有機栽培農民のジョッティー・フェルナンデスさんは、4人の子どもと一緒に、サマセットからやってきた。彼女は、「私たちがここに来たのは、私たちは土地の世話をして、私たちの食料の世話をしなければならないことを人々に思い出してもらうためです」と語る。……
 アクション・エイドのクレア・メラメドさんは、「私たちは(多くの人が参加したことを)本当にうれしく思っています。開発に関わる団体として、私たちは毎日、人々が失業し、子どもを育てられなくなっているという話を聞いています。私たちはG20が私たちの主張に耳を傾けることを望んでいます。金融危機として始まった危機が、人道的危機に転化しつつあります。来週(の首脳会談で)、世界のもっとも貧しい人たちのことを忘れないようにしましょう」。
 元労働党全国執行委員で、テレビ・キャスターのトニー・ロビンソンさんもデモに参加し、ハイドパークでの集会で発言した。彼は「私は、ここに集まっているほとんどの人たちと同じように、英国で、そして全世界で起こっていることに非常に苛立っている」と語り、このデモが金融機関への効果的な規制と気候変動問題の解決のための投資を求める統一した運動の出発点にならなければならないと述べた。

●メキシコ
経済危機への反撃スト、デモが拡大

 米国とメキシコの緊密な経済関係の中で、今や米国からメキシコへの最大の輸入品は経済危機である。メキシコの最大の歳入源は石油の売上、工業製品の輸出、海外からの送金、観光であるが、そのすべてが、国境の北側における危機に直撃されている。  メキシコの北部国境地域、マキラドーラの輸出向け工場は特に大きな打撃を受けている。国境を挟んでエルパソ(テキサス州)と向かい合っているフアレス市(チワワ州)の商工会議所のレポートによると、同市にある330の工場のうち25%がレイオフを実施、4万人の労働者が一時解雇されている。
 たとえば、メキシコに50の工場を擁しているデルフィー(自動車部品メーカー)は今年の第1四半期を通してレイオフを続けてきた。観光産業では昨年下半期に6万5千人の雇用が失われた。これは失われた雇用の総数の16%にあたる。
 バハカリフォルニア州ティファナで労働者を組織している「レッド・マキラドーラ・ネットワーク」によると、米国の消費減退の影響は明白であり、家具やテレビを製造している工場がもっとも大きな打撃を受けている。企業はレイオフや賃金カットのほかに、送迎用バス運行の中止や、健康保険制度から労働者を除外するようになっている。雇用を求める長い列ができる一方で、企業は採用にあたって中等教育や高等教育の修了証明を求めるようになっている。
 政府の統計によると、ティファナでは昨年12月までに2万5千人の雇用が失われた。ティファナで最大の工場の一つであるソニー(従業員数9千人)では週4日の勤務になっている。RCA社では週3日である。市内には、わずかな退職金をはたいて露天商を始めた人たちがあふれている。多くの労働者はメキシコ中部あるいは南部の故郷に帰って、小さな農地で耕作を始めている。
 米国に出稼ぎに行った労働者たちも、建設等の産業の不況のために仕事を失うか、より安い賃金の仕事に就いており、家族への送金が減っている(05年に移住労働者たちの送金は180億ドルで、GDPの2.5%を占めていた)。ただし、ペソの下落のため、送金されるドルのメキシコ国内での価値は2倍になっている。
 この状況の中で労働者の反撃が始まっている。
 2月中旬に全国のトラックやバスの運転手数千人が燃料価格の高騰に抗議してストライキに入った。新聞報道によると全国32州のうち16州で、ストライキ、道路封鎖、料金所の占拠、デモなどで2万5千台の車両が止まった。
 レイノサ(タマウリバス州)ではノキア社の千人の労働者が退職金を要求して労働委員会の前で抗議行動を行った。  2月末には、メキシコ労働組合戦線とメキシコ電気労働組合(SME)の呼びかけで数千人の労働者が社会保障基金の再国有化を求めて国会前で集会を開いた(メキシコでは1997年に国民健康保険・国民年金基金が民営化され、昨年この基金は47億ドルの損失を出した)。
 06年の大統領選挙で実質的に勝利した民主革命党(PRD)のマニュエル・ロペス・オブラドール氏(不正によって右派のフェリペ・カルデロンが勝利した)は、全国で数千人規模の反政府集会に参加して発言している。PRDは独立労働組合を支持しており、多くの労働者の支持を受けている。
 一方、政府は労働法を改定して、請負労働者パートタイム労働への規制を緩和し、労働組合の団交権・ストライキ権を制限しようとしている(「レイバーノーツ」誌ウェブ版4月号より)。

●米国
労働者救済策を要求し各地で集会・デモ

 「ウォールストリートの救済ではなく、労働者の救済を」という要求が広がっている。
 「労働者の緊急経済復興キャンペーン(WERC)」は、次の10項目の要求を掲げている。(1)ウォールストリート救済策の中止、(2)住宅の強制退去の中止、(3)国民皆保険、(4)「従業員自由選択法」(EFCA)の制定、(5)自動車産業のレイオフの中止、ビッグ3の国有化と環境事業への転換、(6)移住労働者の権利の保護、(7)イラク、アフガン戦争の中止、(8)公共サービスの再建のための計画、(9)生活保障、(10)企業と金持ちへの課税。
 1月20日に、この10項目要求を支持する500人余の労働組合や地域コミュニティーのリーダーたちがオバマ大統領に対して公開状を送った。WERCはその後、地域でのティーチ・インやデモなどを組織している。
 労働者たちは反撃を開始している。シカゴのリパブリック・ウィンドウズ&ドアズ社の労働者の闘争(本誌1月1・15日号)に続いて、1月26日にロサンゼルスの教員組合が予算削減に抗議する集会を開催し、1万5千人が集まった。イリノイ州のグラナイト・シティでは、3千人の鉄鋼労働者がレイオフに抗議して闘っている。
 ポートランド州オレゴンで「ジョブ・ウィズ・ジャスティス(公正な雇用を!)」のグループが呼びかけた集会には800人以上が参加し、銀行救済策への激しい憤りを示した。
 WERCのサンフランシスコ委員会は4月18日に、サンフランシスコ中央労働評議会と共催でティーチインを開催する。このティーチインには反戦活動家のシンディー・シーハンさんや緑の党の大統領候補だったシンシア・マッキニーさん、労働党のマーク・ドゥジックさん、ロサンゼルス教員連合の代表等の発言が予定されている。

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