アジア@世界
喜多幡佳秀訳(APWSL日本)
837号

スペイン
3・29ゼネスト、労働組合と「怒れる者たち」が大合流

 3月29日、ラホイ首相(国民党)による「労働制度改革」と超緊縮政策に反対して2大労組UGT(労働者総同盟)とCCOO(労働者委員会)がゼネストに入った。  組合の発表によると、80%以上の労働者がゼネストに参加した。ルノー、セアト、フォルクスワーゲン、フォードなどの自動車工場はほぼ完全に生産がストップした。公共交通は、政府と組合との協定に基づいて、最小限のサービスだけが維持された。バスの発着場や鉄道の駅には組合員がピケットを張った。航空便も国内便は10分の1、ヨーロッパ便は5分の1だけが運行した。アンダルシア、カタロニア、マドリードでテレビの地方局が放送を中止した。
 バルセロナで80万人、マドリードで90万人がデモに参加した。
 昨年11月の総選挙で勝利し、同12月に就任したラホイ首相は、今年2月10日に「労働制度改革」に関する法律(退職金の減額等により企業が労働者を解雇しやすくする)を成立させ、3月30日には財政赤字削減のための新たな政策を発表すると宣言していた。彼は同27日に訪問中のソウルで「就任から100日間でこれだけの改革を行った政府はない」と語っている。
 ラホイ首相の新たな財政赤字削減策は、昨年12月に発表された150億ユーロの支出削減に加えて、さらに400億ドルの支出を削減するという内容である。すでに医療費や教育費が大幅に削減され、公務員の賃金が凍結され、公共サービスの民営化が進められ、全国で毎日40世帯が立ち退きを強制退去されているという状況の下で、ゼネストには労働組合だけでなく、昨年5月以来、広場占拠等のラディカルな行動を拡大してきた「怒れる者たち」がさまざまな形で参加した。
 3月30日付の英国「ガーディアン」紙は次のように報じている。
 「・・・世論調査によると雇用されている成人の30%がストに参加すると答えているが、この数字は『怒れる者たち』運動が『不可視のスト』と呼ぶ今回のストの本当の規模を隠すものだ。先進国の中で最も高い失業率(23%。30歳以下の若者では49・9%)の下で、学生、臨時雇用の労働者、アン・ペイド(賃金が支払われていない人たち)、移住者、その他の広範な、不可視とされている『プレカリアート』たちがゼネストに意味のある形で参加し、ゼネストの政治的可能性を拡大するための方法を求めている。
 彼ら・彼女らこそが、昨年夏に市の中心部の公園に野営し、開かれた直接民主主義を実現しようとして世界的なオキュパイ運動を始めた『怒れる者たち』の当然の支持基盤である。
 これらの人々は、大幅な歳出削減に反対してスペイン全国で展開されている闘争で大きな役割を果たしている。たとえば退職者や若者の祖父母たちのグループは、銀行救済に反対して銀行のロビーを占拠し、バス運賃の値上げに反対してバスを占拠し、医療費削減に反対して保健所を占拠している。
 歳出削減の影響が最も深刻な地域の1つであるバレンシアでは、最近の歳出削減反対のデモに学生や生徒たちも参加した。歳出削減の結果、学校の暖房が切られ、多くの生徒達が毛布にくるまって授業を受けている。デモは警官隊により弾圧され、生徒が連行される映像は全国の『怒れる者たち』からの連帯と抗議の波を呼び起こした。
 このように可視化された行動はごくわずかであり、もっと小さな『決意した人たち』による抵抗の行動が全国で毎日行われている。いくつかの村では救急病院の閉鎖に反対して、毎週、高速道路を封鎖する行動が行われている。
 この状況下で、ゼネストは社会的圧力を行使する新しい方法を探求している『怒れる者たち』にとって創造的な実験場となるだろう。
彼ら・彼女らは伝統的な労働組合に一定の距離を置いているが、斬新な方法で、『99%の人たちのためのスト』への参加を呼びかけている。この日の行動は、多くの地域では、ローンが払えなくて立ち退きを迫られている住居を防衛する行動から始まった。地域の集会では、新しい参加者が討論に参加できるように、公園でのランチが計画された。
 労働組合が短期的に政府からの譲歩を勝ち取ると期待している人は殆どいない。もっと大きな力が作用しているからである。EUは4月にスペインに視察団を派遣する予定である。ラホイ政権がストの影響でEUとの約束を後退させないよう監視するためである。一方、『怒れる者たち』は5月12日のグローバル行動デーに合わせて、新たな動員を準備しつつある。『怒れる者たち』のブログに書かれているように、『防衛的なストでは十分ではない。究極的には、これは99%の人々のための新しい社会契約のための闘争だ』」。

韓国
ソウル市が1054人の非正規職員を正規雇用

 ソウル市は3月22日、同市の1054人の非正規職員を5月1日付で正規雇用すると発表した。同市は現在、2916人の非正規職員を雇用している。
 この政策は、無償の学校給食、大学授業料引き下げと共に、パク・ウォンスン市長の社会福祉関連の3つの主要政策の1つであり、正規雇用化に伴う人件費の増加のために62億ウォンの予算が割り当てられる(1ウォンは約0・07円)。
 パク市長は次のように述べている。「これは正規雇用の職員と同じ仕事をしている非正規雇用の職員が賃金やその他の労働条件の面で差別されないという常識の世界に向けた最初の一歩だ。(今後は)働ける人が、臨時雇用の職員であるというだけの理由で解雇されることはないだろう」。
 正規雇用化の対象となるのは、今後2年以上継続する仕事に従事している職員である。市では今後、そのような仕事に欠員が出ても非正規の職員を採用しない。
 この職員たちは正規雇用という地位を獲得するだけでなく、賃金・手当も引き上げられる。
 市によると、恒常的ではない仕事に従事し、今回は対象から外れる1862人も、今後、正規化の可能性を検討する。
 「非正規雇用労働者の半数が1年以内に仕事を失うと言われている。正規雇用労働者と比べ、同じ仕事をしても給料は半分で、ボーナス、年金、医療保険でも不利な扱いをされている。彼ら・彼女らは常に不安定な仕事上の地位について心配しなければならない。今回の市の措置が民間部門にも拡大することを希望する」とパク市長は言う。(「コリア・タイムズ」3月22日付)

バングラデシュ
ナイキ、アディダス、ピューマの契約工場での人権侵害

 ロンドン・オリンピックを前に、英国の市民団体「ウォー・オン・ウォント(貧困との戦争)」とバングラデシュの研究者は、オリンピックの公式スポンサーであるナイキ、アディダス、ピューマの契約工場での搾取労働の実態調査報告書「底辺に向けた競争」(英語、A4版20頁)を刊行。この報告書は「ガーディアン」紙(3月3日)でも取り上げられている。
 調査はNGWF(全国衣料労働者連盟)等の団体との協力の下で、昨年10月から今年1月にかけて、ナイキ、アディダス、ピューマにスポーツウェアを納入している6つの工場の65人の労働者に対する面接調査を中心に実施された。
 6工場中、5つが法定最低賃金を守っていない。面接した労働者の3分の2が、週60時間以上働いている。
 バングラデシュでは、労働組合の闘いと国際的支援の結果、2010年に衣料産業の最低賃金が80%引き上げられたが、これがその実態である。
 アディダスの工場で働くファズルル・ハクさん(仮名)は、「経営者は卑猥な言葉で罵ります。私は年長の同僚に傷つけられました。工場長やラインの主任は少女たちにひどいことをします」と語っている。
 ピューマの工場では、面接した労働者の3分の2が経営者からの暴力を受けている。身体的暴力のほか、罵倒や、テーブルの上に立たせる、トイレに閉じ込める、衣服を脱がせる等の人権侵害が横行している。
 ナイキの工場で働くジョリア・バグムさん(仮名、35歳)は、「……7歳の息子はいつも、私が学校へ迎えに来てくれないと泣きながら訴えます。しかし私は毎朝4時に起きて洗濯を済ませ、家族の朝食と昼食を用意し、息子に学校へ行く用意をさせ、仕事に出かけます。仕事の始まりは9時ですが、7時前には工場に着かなければならず、9時間働きます。昼食休憩は1時間です。通勤はバスで1時間かかります」と語っている。
 アディダスは英国チームのユニフォームや、7万人のボランティアのユニフォームを提供する一方、オリンピックをテーマにしたスポーツウェアで1億ポンドの売上を期待している。ナイキは米国、中国、ドイツをはじめ25ヵ国のチームのスポンサーとなる。ピューマは今回のオリンピックで最も注目されている選手の一人であるウサイン・ボルト(ジャマイカの短距離走者)のスポンサーである。
 「ウォー・オン・ウォント」のキャンペーン責任者であるグレッグ・ムティットさんは「ナイキ、アディダス、ピューマのような企業は、こうした虐待によって巨額の利益を稼いでおり、自分たちが身にまとっているオリンピックの旗を汚している。企業がオリンピックのスポンサーになることによって利益を得たいのなら、自分たちの工場の労働者の尊厳が守られるように保証しなければならない」と語っている。
 ピューマは1つの工場で違法な時間外労働があったことを認めたが、それ以外には違法行為はないと主張している。ナイキとアディダスは調査を約束した。
 ナイキは45ヵ国、700工場の80万人以上、アディダスは65ヵ国、1200工場の77万5千人以上、ピューマは約30万人の労働者の労働条件にそれぞれ責任を負っている。

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