アジア@世界
776・777号

●米国
「AFL・CIO大会、トゥルムカ会長と新執行部を選出」

代議員に女性と非白人が43%に
 9月13〜17日、ピッツバーグで、AFL・CIOの第26回全国大会が開催された。
 今回の大会では、スウィーニー会長(1995年に就任)が退任し、新しい執行部が選出された。AFL・CIOは、スウィーニー会長の下で組織拡大を目指してきたが、実際には製造業の工場閉鎖・海外移転や、経営者による組合運動への敵対の拡大(とくにブッシュ政権の下で)等により組合組織率は大幅に低下した。さらに、05年にはSEIU(サービス従業員労組)などの有力労組が脱退し、「勝利のための変革」(CtW)連合を結成した。
 AFL・CIOとCtWは、組合結成の手続きを簡素化し、経営者の介入を排除するための「従業員自由選択法(EFCA)」の成立を最大の課題として、昨年の大統領選挙のキャンペーンに全力を投入した。
 大会を取材したカール・フィナモア氏(全米機械工・航空宇宙労組の元委員長)によると、今回の大会の大きな特徴は、代議員の43%が非白人男性だったことである。これは05年の大会の決議に基づいて、女性や非白人の組合員およびリーダーの比重を高めていくための各レベルでの積極的な取り組みの成果である。

労働長官とオバマ大統領が発言
 ヒルダ・ソリス労働長官は、大会2日目に登壇し、大きな喝さいを受けた。彼女は、労働査察官を600人増員し、01年の水準に戻すと発表した。
 3日目(9月15日)には、医療保険制度改革をめぐって右派からの強力な攻撃に直面しているオバマ大統領が、労働組合の支持を訴えた。彼は、政府の緊急の対策によって経済危機が抑制され、オハイオ州のGMの工場では受注が回復し、レイオフされた労働者が復職できたと強調した。しかし、医療保険制度改革についてはトーンダウンし、「パブリック・オプション」(公的医療保険制度の導入)に一度言及しただけだった。多くの組合員は、公的医療保険制度を要求するプラカードを掲げ、Tシャツを着ていた。医療保険制度改革は大会でも多くの議論が行われ、2つの決議が採択された。
 EFCAについては、すでに150万人以上の組合員の署名が議会へ送られた。議会では、法案の骨抜きをはかる保守派との攻防が続いており、大会ではこのキャンペーンを継続することが確認された。

マイケル・ムーアの新作試写会
 マイケル・ムーア監督の新作「資本主義−ある愛の物語」が10月2日に全国の1千の映画館で公開されるが、大会4日目に、会場近くのホールで特別の試写会が開催された。これは当初の予定にはなかったが、カリフォルニア看護師組合や「シングルペイヤー方式(一元的な公的健康保険制度)を要求する労働者キャンペーン」などのイニシアチブによって実現した。大会会場から試写会の会場へは賑やかなデモで移動した。挨拶に立った同監督は、資本家の貪欲を告発し、緑の雇用で米国の製造業を再生しようと呼びかけて大きな喝采を受けた。

新執行部、若者の組織化に重点
 新会長には、スウィーニー前会長の下で財務書記を務めてきたリチャード・トゥルムカ氏が選出された。彼はUMW(全米鉱山労組)の出身で、ウェストバージニア州の炭鉱で4千人の労働者の9ヵ月にわたるストを指導した経験がある。財務書記に選出されたリズ・シュラーさんはIBEW(全米友愛電機労組)の出身で、歴代最年少の財務書記(39歳)となった。執行副委員長に選出されたアーリーン・ホルト・ベーカーさんはAFSCME(アメリカ地方公務員組合)の出身で、アフリカ系米国人。彼女は、リンダ・チャベス・トンプソン元執行副委員長(1995年から07年)のイニシアチブの下で、「多様化」(女性や非白人の比重を増やす)のための改革を推進してきた。女性が三役のうちの2つを占めたのは初めてである。
 新執行部は、若者を労働組合に組織するために、斬新な方法を取り入れる必要があることを強調している。  シュラー財務書記は次のように語っている。「若者たちは、使っている言葉が違います。労働組合は若い労働者に話しかける方法という面で、少し遅れています。『労働者』という言葉自体、若い人たちの受け取り方は違っています。……彼ら・彼女らは労働組合を憎んでいるのでも嫌っているのでもありません。知らないだけです。その状況をこそ変えなければなりません」と語る。
 AFL・CIOの組合員1千150万人のうち34歳未満の労働者は4分の1である。AFL・CIOが最近発表したレポート「青年労働者・失われた10年」によると、青年労働者のうち、家賃や水光熱費を払えると答えた人は31%(1999年には53%)、保険に加入していない人が31%(同、24%)である。将来の経済的見通しについて、希望を持っている人は53%(同、75%)である。

移民問題、イラク戦争、健康保険制度で活発な議論
 フロアから多くの決議案や修正案が提案され、採択された。
 健康保険制度については、執行委員会提案の決議が曖昧であるという観点から、公的健康保険制度拡大の要求を明確にした修正案が、国際港湾倉庫労組(ILWU)、カリフォルニア州看護師組合(CNA)、アラメダ郡労働評議会などの連名で提案され、両案とも可決された。
 移住者の権利を守るために出入国管理システムの抜本的な改革を求める決議や、イラクとアフガンからの兵士や民間会社傭兵の撤退を求める決議も採択された。

UNITE・HEREの復帰宣言
 最終日に、05年にAFL・CIOを脱退してCtWに結集したUNITE・HERE(縫製繊維労組・ホテルレストラン従業員組合)のジョン・ウィルヘルム委員長が登壇し、26万5千人の組合員はAFL・CIOに復帰する」と宣言した。
 CtWでは、主力労組のSEIU内でも、カリフォルニア州の看護師を中心とする支部が今年初めに、スターン委員長の組織拡大至上主義を批判してSEIUを脱退した。
 AFL・CIOとCtWの再統一に向けた動きも伝えられる中で、組織問題(組合員の奪い合いなど)も大会の主要な議論の1つとなった。
新会長がデモに参加
 AFL・CIOは、大会の翌週にピッツバーグで開催されたG20に向けたデモに参加した。また、鉄鋼労組(USW)を中心に、国内の製造業保護のために、中国からのタイヤの輸入規制等の要求を強めている。
 金融規制の強化を要求する行動も各地で展開しており、9月22日にはニューヨークのウォールストリートで「銀行家の強欲」を非難し、メインストリートの救済を訴えるデモを行い、トゥムルカ会長とシュラー財務書記が参加した。(「Zネット」、「レーバーノーツ」、「ニューヨークタイムズ」などの記事より)

●ベルギー
「オペルの工場閉鎖に反対、ドイツとベルギーの労働者が共闘」

 オペルのボーフム工場(ドイツ、ノルトライン・ヴェストファーレン州)の労働者が、ベルギー・アントワープの労働者の工場閉鎖に反対する闘争に合流した
 オペル(本社、ドイツ・ヘッセン州)はゼネラルモーターズ(GM)の100%子会社だったが、今年6月に破産し、カナダのマグナ・インターナショナル社が買収した。
 9月23日、オペルのベルギー唯一の工場の数千人の労働者が、予想される工場閉鎖・解雇に反対してデモを行った。
 マグナ社による再建計画では、ヨーロッパ全体で1万1千人の人員削減が想定されている。GMのフリッツ・ヘンダーソンCEO(最高経営責任者)によると、新会社「ニューオペル」は少なくとも1つの工場を閉鎖せざるを得ないだろう。アントワープはその候補の1つだが、まだ最終決定は行われていない。オペルは全ヨーロッパで約4万9千人を雇用しており、ベルギーでは2千600人が働いている。ボーフム工場も閉鎖される工場の候補の1つになっている。
 23日のデモにはボーフム工場の労働者のほか、スペインと英国の組合役員も参加した。
 欧州金属労連(EMF)のピーター・シェレル書記長は、「私たちはアントワープの仲間に連帯するためにやってきた。もし私たちが闘わなかったら、明日はボーフム、ルートン(英国)、あるいはサラゴナ(スペイン)かも知れない」と述べた。
 欧州GM従業員フォーラムのクラウス・フランツ委員長は、「全ヨーロッパのオペルの労働者は、ドイツ、スペイン、英国、ポーランド、アントワープのどれかの工場を閉鎖するという経営者の計画と闘う」と宣言した。
 ドイツ政府はマグナ社による買収を支援するため、45億ユーロの融資および信用保証を提供している。しかし欧州委員会は同日、そのような支援は雇用確保を条件とするべきではないと警告した。(「ドイチェ・ヴェレ」9月23日付より)

●フランス
「フランステレコム労働者の自殺、19ヵ月に24人」

 9月28日、アヌシーで、フランステレコムの「オレンジ」コールセンターの労働者(51歳)が高速道路の橋から投身自殺した。フランステレコムの労働者の自殺はこの19ヵ月間に24人目である。労働組合は、抑圧的な企業文化に原因があると指摘している。経営側はこれまで、これは一時的な現象だと言ってきたが、同29日に同社の社長が、「私の間違いによって、従業員のストレスを増大させてきた」と認めた。
 自殺した労働者は40代と50代が多く、従来、固定電話網の設置や修理の仕事に携わり、仲間と一緒に作業をしていたが、同社の事業の中心が携帯電話網となり、従来の仕事の多くが必要とされなくなっていた。従来からの労働者は民営化後も公務員としての地位を保証され、容易には解雇できない。そのため、会社側は早期退職を強要するために、さまざまな手段(いじめ、など)を使ってきた。特に、コールセンターでの仕事は、深夜に、一人で、ノルマや隣のブースで応対している同僚との競争の圧力にさらされながら働かなければならない。
 しかし、実際にはフランステレコムの労働者の自殺は02年の29人、03年の22人がピークだったが、当時はほとんど報道されなかった。(「インデペンデント」9月30日付)

●インド
「綿花農場で働く少年の不審死相次ぐ」

 インド西部グジャラート州では、BT綿花(遺伝子組み換えによって害虫への耐性を強化した綿花)の農場で18歳未満の少年・少女15万人が働いている。そのうちの4分の3が14歳未満である。多くは周辺の先住民居住地域の出身である。
 同州のBT綿花農場で働く児童労働者の死亡が相次いでおり、蛇による被害や、病気による死亡とされているケースのほかに、原因不明のケースもある。08年に12人、今年の前半だけで5人の死亡が確認されている。  8月17日夜に、プンジラル・アフリさんは、行方不明になっていた16歳の娘、ハジュ・ベンさんの遺体と対面した。ハジュさんはグジャラートの綿花農場で働いているときに、蛇にかまれたのが原因で死亡したとされている。彼女は友人と買い物に出かけた時に、ブローカーに勧誘されて農場へ連れて行かれたらしい。
 父親のブランジルさんは、死因についての説明に不審を抱いている。この地域の農場では児童に対するレイプや性的犯罪が頻発している。
 毎年、7月下旬に綿花の人工授粉の時期に、ラジャスタン州などから多くの少年・少女が強制的に、または騙されて農場に連れて来られる。
 全国女性委員会と全国子どもの権利保護委員会は調査委員会を設立した。現地のNGOも、警察当局に調査を要求している。(「ザ・タイムズ・オブ・インディア」8月28日付および9月28日付より)

●インドネシア
「PSI、BWI、UNIが「国際連帯税」キャンペーンを開始」

 8月11〜12日、ジャカルタでPSI(国際公務労連)アジア太平洋地域組織、BWI(国際建設林業労連)、UNI(ユニオンネットワーク・インターナショナル)は「国際連帯税」キャンペーンを開始するための会議を開催した。
 国際連帯税は、発展途上国支援のために、国際通貨取引税の導入、脱税との闘い、航空・海上輸送の燃料への課税、航空チケット税などにより500億ドルの追加的な基金を調達するという構想で、フランス政府が中心となって進めてきた。
 OECD・TUAC(労働組合諮問委員会)のピエール・ハバード氏は、ビデオ・メッセージの中で、「このグローバル税の目的は、人々や労働者家族を金融市場の行き過ぎから守るために、金融規制に関わるゲームのルールそのものを変えることだ。」と述べた。ILOのジャカルタ事務所の代表は、アジア太平洋地域の労働市場の課題に対応するためには包括的で創造的な方策が必要だ」と指摘した。

●中国
「学生がコカコーラの派遣労働を調査」

 中国のいくつかの大学の学生たちが昨年、コカコーラの工場で働く派遣労働者の待遇改善支援のために、「学生コカコーラ・キャンペーン・チーム」を設立した。学生たちはコカコーラ社に労働者として就職して、実際の体験に基づいた労働法違反に関する調査報告をまとめ、公表することを計画した。
 コカコーラ社は昨年4月、貴州の工場で、労働契約法に基づいて派遣労働者を正規労働者として採用するのではなく、別会社を設立し、その会社に労働者を雇用させていたことが発覚。労働者の賃金は半分になった。これは「逆派遣」と呼ばれる偽装派遣で、現在、多くの製造業に広がっている。
 昨年の夏休みに、学生たちは浙江省と広東省の5つの瓶詰工場でアルバイトをした。働きながらこれらの工場と、4つの仕入れ先の工場の古くからの労働者から聞き取り調査を行い、その後も週末や放課後に調査を続けた。
 学生たちが調査したコカコーラ社のすべての工場で、派遣労働者は長期間にわたって(10年以上連続雇用の例もある)、基幹的な作業(製造に直接に関わる労働)に従事している。これは違法である。
 同12月には北京で記者会見を行い、「コカコーラ−世界一のブランドが法律と社会的責任を回避している」と題するレポートを発表した(英語、ウェブから入手できる)。大きな反響を呼んだ。
 中国では1990年代に派遣労働が急速に拡大し、04年の統計(不完全な統計だが)によると、全国に2万6千の派遣会社があり、派遣労働者の数は2千500万人以上である。
 90年代以前には、多くの企業は大量の臨時労働者を雇用していたが、95年の労働法で臨時雇用の制度が廃止された。経営者たちは、それに代わるシステムとして派遣労働者を雇用するようになった。
 08年1月に施行された労働契約法は、派遣労働に対していくつかの制約を設けている。雇用期間が6カ月以内であること(6ヵ月を超えた場合は正規雇用にしなければならない)、補助的な作業であるか、または休暇中の労働者の代替であること等である。
 コカコーラ社は、このグループによって指摘されている違法行為を否定し、法律を順守していると主張している。その一方で、世論の圧力によっていくつかの改善を余儀なくされた。ある工場では、従業員食堂で提供される食事の内容が改善され、派遣労働者に住宅手当が支給されるようになった。賃金が引き上げられた。また、地区の労働局が調査を開始した。
 このグループは今年も第二次の追跡調査を開始したが、グループの1人が、退職を通告して未払いの賃金の支払いを求めたとき、派遣会社の2人の管理者による暴行を受けた。
 この学生たちを支援するために、香港のNGO「不正行為に反対する学生・教員」が、コカコーラ社に派遣労働者の待遇改善と、暴力事件の被害者への補償を求める国際キャンペーンを開始した(香港「チャイナ・レイバー・ブレティン」より)。

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