★英 国:マック・ストライキに大きな注目
10月4日、マクドナルド、ウェザースプーン(パブ・チェーン)、デリバルー(料理の宅配サービス)、ウーバーなどの不安定雇用労働者が賃金の10ポンドへの引き上げ(1ポンドは約150円)、「ゼロ時間契約」の廃止などの要求を掲げて、初めての全国一斉ストライキを行った。
この行動は、「ウォー・オン・ウォント(貧困との戦い)」などの市民団体と、ユナイト、製パン・食品合同労組(BFAWU)などの労働組合が呼びかけ、労働組合会議(TUC)と草の根の左派グループ「モメンタム」が全面的に支援した。米国の最賃15ドル運動の活動家も参加し、連帯を表した。
数日前には米国のアマゾン社が米国と英国の労働者の最低賃金を15ドルに引き上げると発表している(適用は11月1日から)。これは不安定雇用労働者の賃金引き上げを求める運動の大きな成果であるが、同社の労働者を組織する全国都市一般労組(GMB)によると、この賃上げは従業員持株制度とインセンティブ制度の廃止によって相殺される。
労働党のジョン・マクドネルは、レスター広場での集会で、「労働党が政権に就いたら、速やかに最低賃金10ポンドを導入することを約束する」と述べ、労働党の国会議員に自分の選挙区でピケットに参加するよう促した。
英国の白人下層労働者の過酷な現実をリアルに描いて話題になった「チャブ」(日本語訳は「海と月社」刊)の著者で「ガーディアン」紙のコラムニストのオーウェン・ジョーンズは同紙10月4日付のコラム「マック・ストライキで若者たちは資本主義の配線を替えようとしている」で、次のように述べている(抄訳)。
マクドナルドの労働者がストライキに入った日は、シェン・バトマズにとって人生最良の一日だった。彼女はその日付を自分の腕にタトゥーで刻み込んでいる。
彼女は、クローリーにあるマクドナルドの店の外でピケット・ラインに立っていた日のことを思い出す。「私は一緒に働き、大好きだった人たちと共にそこに立っていました。私たちは力を合わせ、何かを勝ち取ろうとしていました。それは私がこれまでの人生の中で感じた最も力強いものでした」。こうしてマック・ストライキの運動は始まった。
バトマズはマクドナルドで働き始めて2年、現在は製パン・食品合同労組(BFAWU)の組合役員である。彼女はゼロ時間契約の惨めな経験をしてきたが、これが反抗のきっかけともなった。
組合ではケンブリッジとクレイフォードの支部のメンバーと合同の会議を開き、米国で最賃15ドル運動を進めている労働者の報告を聞き、そこで火が灯った。
「その瞬間、私たちはお互いの顔を見、決意しました。本当にインパクトを与え、何かを変えようとするなら、ストライキを続けるしかないと」。
反撃する際に直面する問題のーつは文化的なものである。超搾取的な小売・接客業においては、労働者は自分が無価値であり、適切な賃金や安定した雇用に値しないと感じるように追い込まれる。「私たちは考えることを始めなければなりません。私たちはもっとよい賃金・労働条件に値するのです」とバトマズは言う。
労働者は簡単に取り替えられるものとして扱われている。経営者たちは、低賃金と軽蔑的な扱いが嫌なら、いつでも代わりはいると言って黙らせる。
ストライキに参加したアレックス・マッキンタイア(19歳、ブライトンのウェザースプーンに勤務)は、「彼らの全ての事業計画は、私たちが使い捨て可能で、いつでも誰かが代わりをできることを前提にしている」と言う。
マック・ストライキは労働組合に関心がなかった若い労働者を鼓舞する起爆装置となった。カティー・サウスワース(22歳、ウェザースプーンに勤務)は、若者にとっての組合の印象を、「部屋には老人たちが座っていて、30年も前の時代遅れの議論をしている」と語る。彼女は若いマクドナルドの労働者が闘っているのを見て、これは教育だと思った。
彼ら・彼女らが掲げる最賃10ポンド、若者への差別賃金の廃止、組合の承認などの要求はそれ自体としては控えめだが、彼ら・彼女らは英国の経済モデルに組み込まれている不安定雇用の根本的な変革を求めている。
保守党の[議会の]過半数支配を打ち破り、政府を危機に追い込んだのは若者だった。その精神が投票箱から職場へと向けられたのだ。
サッチャー主義は集団的な連帯感を破壊しようとした。その教義は、人は自分の努力によってのみ自分の条件を改善でき、失敗した者は自分を責めるしかないということだった。しかし、この教義は急速度で現実の経験と激突するようになっている。
クリス・ヘップル(29歳、ウェザースプーンに勤務)は、「労働者が政府や企業の寛大さに頼ることで生活水準の向上と労働条件の改善を勝ち取ったことはないということは知っていました。しかし、私は実際に経験するまでは、私たちがこんなことができるとは知りませんでした」と語る。
集団の力という感覚が、安定した適切な賃金の仕事と低コストの住宅に恵まれない新しい世代、大学教育を希望すれば莫大な債務という処罰が待っているこの世代の中で復活しようとしている。
サウスワースが言うように、「1人でティーン・マーティン(ウェザースプーンの経営者)のドアをノックしても何も変わりません。みんなが一斉にそれをした時に変化が起こるのです」。
(「ガーディアン」10月4日付より)
★メキシコ:新しい産業組合連合を結成
メキシコでは7月の大統領選挙でのロペス・オブラドールの圧勝によって、労働運動の活性化と民主化への希望が高まっている。
以下は米国AFL・CI0の国際連帯部門であるソリダリティー・センターのジェフ・ハーマンソンのレポートの抜粋である(米国「レイバーノーツ」誌電子版、10月4日付より)
ロペス・オブラドールの国家再生運動(MORENA)が率いる連立政権は大統領だけでなく、議会両院の過半数を獲得した。これまでは制度的革命党(PRI)が数十年間にわたってメキシコの政治を支配してきた。
親資本的組合の連合である労働組合会議(CT)、特にその傘下のメキシコ労働組合連盟(CTM)は歴史的にPRIの大衆基盤のーつだった。組合の最高幹部たちは党の国会議員になっていた。
CTはメキシコ最大の労組であり、全労働者の約10%を占めているが、近年組合員は減少している。CT傘下の組合は1990年代にメキシコの政治・経済エリートによって採択された低賃金の新自由主義経済戦略に積極的に協力し、NAFTAにも賛成した。
組合幹部たちは経営者や政府との腐敗した癒着によって法外の富を蓄えてきた。
97年に電信、社会保障、大学、フォルクスワーゲン工場などの労働組合がこのような親資本的組合と決別して、独立的・民主的組合である全国労働組合連盟(UNT)を設立した。UNTは労働法改革を支持し、秘密投票による組合代表の選出、ストライキや協約締結に関する組合員による投票などを進めてきた。
しかし、UNTは緩やかなグループに留まっており、腐敗したCT傘下組合の支配を脅かすには至っていない。……
ロペス・オブラドールが新政権の労働相に指名したルイサ・マリア・アルカルデは連邦議会議員として、独立的労働運動と密接なつながりがある。彼女は最低賃金引き上げ、労働法を改定など、独立的労働運動が掲げてきた課題に取り組むことを約束している。
メキシコはオバマ政権からの圧力(TPP傘下の条件)の下で、17年に憲法の労働規定の改正を採択した。これにより現在のCTと経営者が支配する政労使三者委員会の廃止と、独立した労働委員会の設立が求められる。
このことを背景に、7月に自動車産業の3つの最も有力な独立労組であるフォルクスワーゲン、アウディ、日産の労働組合が、自動車部品、ゴム、航空宇宙産業の独立組合と合流して新しい産業組合連合を結成することを発表した。自動車3社の組合はそれぞれ数千人の組合員を擁している。
新しい連合は労働法改革に影響を与え、自動車産業における独立した民主的な組合の拡大を促進することを目指している。
これらの産業はメキシコ経済の最大かつ最先端の産業部門のーつであり、自動車組立工場には約8万5千人、部品工場には85万人の労働者がいる。
新たに結成されたグッドイヤー独立労働組合(SINTG)もこの新しい連合に参加している。同労組は4月にサンルイスポトシの新工場で賃金・労働条件の改善を求める1日ストを行った(この工場の労働条件は、工場が操業開始する2年も前に、労働者が知らない所で交わされていた「保護契約」によって決められている)。7月には独立労組結成への報復として50人の労働者が解雇された。
新しい連合に参加している多くの組合が同様の闘争を経験してきた。特に同様の「保護契約」を拒否し、CTMとの十数年に及ぶ闘いを通じて独立労組結成に成功したフォルクスワーゲン労働組合や、自動車部品工場での独立労組結成とボンバルディアの地下鉄車両工場での労働者代表選出に成功したロス・ミネロスの経験は重要である。