アジア@世界
喜多幡 佳秀・訳(APWSL日本)
848号

米国
シカゴ教員組合が学力テストによる教員評価に反対してスト

 シカゴ教員組合(CTU、2万6千人)は9月10日、学級定員の削減、雇用の安定等の要求を掲げてストに入った。
 CTUとエマヌエル市長および彼が任命した教育委員会との協約交渉は9ヵ月間にわたって続けられたが、決裂した。CTUのジェシー・シャーキー副委員長によると、主要な対立点は金銭的な条件ではなく、新しい教員評価制度をめぐる問題だった。
 イリノイ州は2010年に新しい教員評価制度を導入するための法律を制定した。これはオバマ大統領が掲げる「トップに向けた競走」政策(優秀な業績を上げた州に予算上の優遇措置を与える)に対応している。CTUは、この評価制度が一斉学力テストの結果に重点を置きすぎていること、また、公立学校の民営化と結びついていることを批判している(本誌3月15日号に関連記事)。
 交渉を通じて、市側は能力給の導入の撤回、定期昇給の一部復活などの譲歩を示したが、根本的な問題は公教育の構想をめぐる対立である。組合は、学級定員の削減、言語・芸術・音楽・体育のカリキュラムの全生徒への提供、貧困家庭の生徒のための学校内での保育やソーシャルワーク・サービスの提供などを提案している。(「レイバー・ノーツ」誌ウェブ版9月11日付、テレサ・モラン「シカゴ教員ストの背景」)

 以下はCTUの9月9日付の声明である(抄訳)。

 シカゴ教員組合(CTU)とシカゴ公立学校委員会(CPS)は、この25年で初めての教員のストを回避するための数時間にわたる交渉において、合意に至ることができなかった。
 月曜日(9月10日)の午前6時半から、675の学校と教育委員会においてピケットが開始される。  CTUは、学校区委員会が教員の給与や雇用の安定、および生徒のための教育予算をめぐる問題で譲歩を拒否したことに失望を表明する。
 CTUのカレン・ルイス委員長は次のように述べている。
 「……委員会の財政上の窮状の中で、給与をめぐる問題では大きな対立はなかった。しかし、健康保険については対立したままである。もう一つの問題は評価制度である。新しい制度の試験的導入の結果、1年あるいは2年以内に6千人の教員、つまり組合員の約30%が解雇される可能性がある。これは受け入れられない。また、われわれは新しい制度が標準学力テストでの生徒の成績に重点を置きすぎていることを憂慮する。それは教育者の効率性を評価するものではない。生徒の成績は貧困や暴力、住宅問題など、教員の管理の及ばないさまざまな社会的要因の影響を受ける」。
 「われわれは雇用の安定を求める。CPSは新しいカリキュラムや評価制度を提案しているが、教員の研修を増やすことを提案していない(むしろ減らそうとしている)。これはCTSが州内でもっとも先進的な教員の技能研修を実施していることと対照的である。われわれは教室への冷房設備の導入の計画を要求している。華氏98度(摂氏36・7度)の教室は子どもが学ぶ環境ではない。われわれは誠実に交渉を継続しつつ、少人数学級、よりよい学校生活、学校委員会の公選制を提唱している親や宗教者たち、地域組織と連帯して闘う……」。
 「イリノイ州の新しい法律の下で、われわれは解雇された教員の復職や、授業日数の増加に伴う報酬などの問題でストを行うことは禁止されているが、われわれはこれらの要求が受け入れられるまで協約に署名しない」。

 「レイバー・ノーツ」のテレサ・モランさんは同誌ウェブ版9月7日付のレポート(「シカゴの教員がストへ」)で、民主党は企業主導の教育改革の推進のために、自らの支持基盤である労働組合を見捨てたようだと批判している。民主党全国大会に出席したエマヌエル・シカゴ市長は、檀上で、オバマ大統領の「トップに向けた競走」政策を称賛した。
 民主党内では、教育市場への進出を狙うヘッジファンドの経営者を中心とする「教育改革を支持する民主党員」(DFER)グループが教員組合を激しく非難する宣伝を強めている。
 公立学校の廃止、チャータースクール(公立・民営)への改組を進める企業経営者グループは「ペアレント・トリガー法」(生徒の親の半数以上が支持すれば公立学校の改組が可能になる)を推進しており、すでに7つの州で同法が制定されている。全国市長会も、民主党市長の主導の下で、この法律の推進を支持している。「ペアレント・レボリューション」なる団体が、学校の改組のために親たちからの署名を集めている。これに対してフロリダ州では33万人の会員を擁するフロリダPTAを中心として反対運動が起こっている。「ペアレント・トリガー法」は親たちの参加を促進するのではなく、単に学校の民営化を狙っているだけである。
 エマヌエル・シカゴ市長は、十年余にわたる民主党の下での公教育と教員への攻撃を継続し、最近では授業日数の増加を押し付けてきた。米国の教員は、毎日の授業のほかに、授業の準備や、保護者との面談、試験の採点、学習が困難な生徒への一対一の指導などで平均で週53時間働いている。教育予算を削減して、教員の負担を増やすことでは公立学校の問題は何も解決しない。
 モランさんによる(9月11日付レポート)と、CTUは当初は教育改革に対する闘いに積極的でなかったが、08年に公立学校の閉鎖に反対する現場組合員たちを中心に「現場教育者コーカス」が結成され、地域のさまざまな団体と連携して反撃を進めてきた。その成果によって、10年に、このグループが組合の役員選挙で勝利。CTUは昨年11月の協約交渉開始以前から各学校に協約交渉のための行動委員会を組織し、闘いを準備してきた。4月には試験的なスト投票が行われ、その後、組合員全員へのアンケートが実施され、90%がストに賛成することが確認された。改悪された労働法により、75%の賛成が必要となったが、ストは98%の組合員の圧倒的な支持で承認された。

フィリピン
フィリピン航空従業員組合員の39人に逮捕状

 8月15日、マニラ首都圏予審裁判所第44支部は、昨年10月29日の暴力事件に関連して、フィリピン航空従業員組合(PALEA)の組合員39人に対する逮捕状を発行した。
 実際には、昨年10月29日には、解雇に抗議してテントに泊まり込んでいたPALEAの組合員を、会社側によって雇われた暴力集団が襲撃した。会社側はこれを組合員による暴力事件にすり替えて、組合への弾圧を要求した。
 PALEAのゲリー・リベラ委員長は、この弾圧に抗議し、闘いを継続することを宣言し、また、この事件がPALEAとフィリピン航空(PAL)の争議の中で発生したものであり、裁判所が介入する前に労働雇用省または司法省における手続きが必要であると指摘した。
 PALEAはまた、昨年9年27日のマニラ国際空港での抗議行動に対しても、PALによる234人の組合員への告訴(空港業務の妨害)の攻撃とも闘っている。
 発端となったのは昨年9月27日に、PALがアウトソーシング(50%賃下げや労働時間延長を伴う)を拒否した2千600人の労働者をロックアウトし、その後この労働者たちを解雇したことだった。
 同委員長によると、「アウトソーシング(外注化)に対する1年にわたる闘いの中で、労働者に対する公正な扱いがない限り、PALにおける安定的な労使関係はあり得ないことが明らかになった。8月31日のPALの株主総会でのPAL従業員の発言を聞いた後、PALの新しい最高経営責任者(CEO)のラモン・アンでさえ、そのことを理解し、PALEAとの話し合いに応じることを表明した」。
 PALEAは新しいCEOのラモン・アン(サン・ミゲル・グループの出身)に対して、株主総会での発言に沿って、不当な告発を撤回し、争議の解決をはかるよう要求している。
 闘争開始1周年の9月27日には、マニラとセブで大きな集会が計画されている。この日は国際的にも、PALをはじめ、カンタス航空、トルコ航空、エジプト航空等でアウトソーシングと闘っている労働者に連帯する行動が計画されている。(PALEAの9月6日付声明およびオーストラリアAAWLのウェブより)

カンボジア
衣料工場で管理者のセクハラに抗議

 8月上旬にプノンペンのオーシャン・ガーメント社(衣料工場)の6人の女性労働者が管理者によるセクシャルハラスメントに抗議、2千500人の労働者が16日間のストに入った。同11日にはこの工場があるダンコール地区の労働者の半数以上がデモに参加した。この管理者は告発され、現在、プノンペン市裁判所で審理中である。
 同社の労働組合CUMW(労働運動連合)と経営者の間の数度にわたる交渉の結果、会社側は9月8日に、スト中の賃金と手当の半分を支払うことに同意した。CUMWは全額支給を要求したが、最終的に50%で合意。違法とされるストで、このような合意は、組合にとって「稀に見る勝利」だった。
 会社側は、これは賠償ではなく、紛争の拡大を防ぐための贈与であり、セクシャルハラスメントの告発に対する国際的な関心とも無関係であると述べている。(「プノンペンポスト」9月10日付)

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