エジプト:軍の強権的措置と言論規制の強化
☆マンスール暫定大統領の「憲法宣言」への批判
7月3日の軍によるクーデターによって暫定大統領に就任したマンスールは、同8日、新憲法制定の手続きや議会、大統領選挙のプロセスを示した「憲法宣言」を発表した。これに対して、モルシ政権打倒の闘いの主力となった「タマロド(反乱)運動」は「多くの条文がモルシ政権の下で昨年12月に制定された憲法の焼き直しである」と批判する声明を発表した。
7月9日付の「アフラム・オンライン」紙は次のように報じている。
憲法宣言はマンスール暫定大統領に広範な行政・立法権限を付与している。人権弁護士でアラブ人権情報ネットワーク代表ガマル・エイド氏は、首相の権限も明確にして、権力のバランスを取るべきだと指摘している。左派とリベラル派の連合である救国戦線に参加しているエジプト社会民主党のアフメド・ファウジ書記長は、憲法修正のための10人委員会に立法権限を付与する場合でも、議会選挙実施までの間の、ごく限定的な権限とするべきだと指摘している。
タマロド運動を中心に多くの反政府政党や革命派グループが結集している「6月30日戦線」も、憲法宣言の条文の多くを拒否している。同戦線の活動家ヤセル・エルハウェリ氏は、大統領への権力集中を批判、これは同戦線を含む多くの政治勢力の間での合意に反するもので、何の相談もなく一方的に発表されたと指摘している。
また、「憲法宣言」の第19条が市民に対する軍法裁判の廃止を明確にしていないことや(軍事裁判所に独立した権限を付与している)、第1条が「イスラム教を国教とする」、「イスラム教スンニ派のシャリア法の原理に基づく」等の規定を含んでいることにも大きな批判が起きている。これはクーデターにより停止された憲法の条文を継承している。
アラブ独立司法・法律家センターのナセル・アミン氏は「またしても(イスラム教)過激派の思想への迎合である」と非難している。この背景として、イスラム政党のヌール党が大統領に強い圧力をかけたと言われている。
*反モルシ・デモのリーダーが暫定大統領と会談、憲法宣言の修正へ
マンスール暫定大統領は7月9日、ハゼム・エル・ビブラウィ前財務相を暫定首相に、モハメド・エルバラダイ元IAEA(国際原子力機関)事務局長を外務担当の副大統領に任命。エルバラダイは「6月30日戦線」、「4月6日青年運動」、「エジプト人民潮流」などから対政府交渉代表として指名されていた。
同日、タマロド運動と「4月6日青年運動」の代表はマンスール暫定大統領と会談。憲法宣言への留保点を伝え、マンスールは批判意見を反映した補足条項を近日中に発表することを約束した。すでにエルバラダイが補足条項案を暫定大統領に提出している。
「4月6日青年運動」はまた、イスラム教政治潮流への強硬措置を取らず、イスラム教政治潮流が政治プロセスから排除されないことを求めた。
*軍はムバラク後の移行期と同じ誤りを繰り返すのか
以下はエジプト在住の米国「デモクラシー・ナウ」のシャリフ・アブデル・クダス通信員の報告(7月10日放送)の抜粋である。
「ムスリム同胞団は、長年にわたり独裁体制の下で抑圧されてきたが、革命後は、選挙で政権について以降、国家機構の一部を取り込み、軍と政治協定を結び、軍が要求する全ての条件を憲法で保障してきた。しかし、そのような試みは成功せず、経済的条件が悪化する中で大衆運動が拡大した時、軍が介入し、ムスリム同胞団を排除し、自ら国家を掌握した。
サウジアラビアとアラブ首長国連邦はエジプト経済の崩壊を回避するために80億ドルの援助を発表した。これまではムスリム同胞団を支援するカタールが資金援助や天然ガスの供給などで人為的にエジプト経済を支えてきた。サウジアラビアとアラブ首長国連邦は旧体制への復帰を望んでいる。
憲法宣言は、2012年にモルシ政権の下で制定された憲法が停止されたため、現行では最高の法律となる。これは文民政権への移行のプロセスを規定しており、4ヵ月以内に法学者による委員会が2012年の憲法の修正を検討し、その後、議会選挙、次に大統領選挙を実施することが想定されている。
多くの批判者は、これはムバラク打倒後の軍主導の移行期と同じ誤りを繰り返すものだと言っている。つまり、モルシ打倒を呼びかけた主要なグループに何の相談もなく、誰によって構成されているかもわからない委員会によって策定されたプロセスである。
タマロド運動や救国戦線が批判的な声明を発表したことは一歩前進だが、そのような批判がどの程度、軍に影響を及ぼすかに注目する必要がある。
今回の出来事を「クーデター」と呼ぶか、「モルシ打倒の蜂起」と呼ぶかは意見の分かれるところである。それはエジプト国内のさまざまなグループの二極化の一部であり、非常に複雑な状況である。
形式的に言えば、これはもちろんクーデターだった。しかし、軍の介入を促したのは大衆の決起だった。それはさまざまな勢力の結集の頂点だった。
現在は非常に難しい時期である。なぜなら、軍はエジプトの政治で最も破壊的で残忍な勢力だからだ。大きな経済的利権も持っている。そして彼らはモルシに対する大衆の怒りを利用して、あらゆる反対意見を抑圧しようとしている。それが現在、イスラム教グループに対して向けられている。国営のメディアは軍の伝動ベルトとなっている。モルシを支持するメディアへの圧力も強まっている。軍によるモルシ支持者のデモへの弾圧や7月8日の虐殺の報道は厳しく統制されている。「アラブの春」についての報道が注目されていたアルジャジーラも、モルシ寄りとみなされ、攻撃を受けている。
中東・北アフリカの労働者支援の労働組合「MENA連帯ネットワーク」のウェブに掲載されている、エジプト独立労働組合連合(EFITU)の執行委員ファトマ・ラマダン氏のインタビュー(7月10日付)によると、労働者もタマロド運動や6.30デモに参加しているが、現状については組合の中で意見が分かれている。軍介入を支持し、人民の勝利と考える組合員が多数である。
バングラデシュ:工場安全協定が具体化、80企業が労組と協力
以下は製造業の労働組合の国際組織、インダストリオールの7月7日付の声明である。
インダストリオール、UNIをはじめとする広範な労働組合の連合と80の有力衣料ブランドおよび小売企業は本日、歴史的なバングラデシュの工場安全についての協定の実施に向けた次のステップを発表した。
実施計画の主要な内容は次の通りである。
(1)重大な危険や緊急の改修が必要な箇所を特定するための初期的検査(9ヵ月以内に完了する)
(2)既存の検査プロセスや労働者からの報告によって緊急の改修が必要な工場が特定された時に実施される暫定的な手続き
(3)主任安全検査官と執行責任者の募集の開始
(4)企業と労働組合が対等に代表権を持つ運営委員会と、バングラデシュの広範なセクターを代表する顧問委員会を設立し、それを通じた管理体制の確立
協定締結企業のすべての製造工場が協定対象となり、安全検査受け入れと協力を求められ、各受注量に応じ、より厳格な基準を適用される。協定を締結している企業は、安全性に問題がある工場が見つかった場合、必要な安全対策費を確保できるよう保証する。
インダストリオールのジルキ・ライナ書記長は、次のように述べている。
「この歴史的な、拘束力を持つ協定は現実的変化を顕著にもたらし、バングラデシュの衣料産業を安全で持続可能な産業にするだろう。企業の自発的なイニシアチブでは不十分であることは証明されている。この7年間に工場火災やビルの倒壊で1800人の衣料労働者が死亡している。根本的な変化は、労働組合と国際的ブランドと小売店と、バングラデシュ政府関係者と経営者の強力な連携と、職場で結社の自由保障された条件の下での労働者参加によってのみ可能になる」。
UNIのフィリップ・ジェニングス書記長は、次のように述べている。
「これから本当の仕事が始まる。協定の委託事項とルールが明確になった。今や私たちは最高の人材を選び、バングラデシュでこの重要な仕事を進める責任を負うチームを編成できるようになった。興奮をおぼえる瞬間である。世界が私たちに注目している」。
ILOが、協定の実施を確実にするための独立した立場の議長として行動する。NGO団体、「クリーン・クローズ・キャンペーン」および「労働者の権利コンソーシアム」は協定を支援するために重要な役割を果たしてきたし、この協定の今後5年間、引き続きそのような役割を果たすだろう。
この協定は、労働者および労働者代表が中心的役割を果たすということが重要である。もう1つの重要なことは、この協定を締結した企業が、少なくとも協定の最初の2年間はバングラデシュに留まると確約していることである。協定締結企業は、労働組合と協力してバングラデシュにおける自社の生産チェーンをクリーンアップする、真剣で誠実な努力を開始している。これらのすべての企業は、この産業における先駆者として称賛される。