アジア@世界
794号

●スペイン
「6・8公務員が賃金引き下げ反対のスト」

 サパテロ政権は、財政危機を理由とする歳出削減策の一環として、公務員賃金の5%引き下げを提案している。6月8日、これに反対するストライキが行われ、病院、郵便をはじめとする公共サービスが一部を除いて停止した。250万人の公務員の75%がストライキに参加した。
 バルセロナではデモ隊が市の主要道路を1時間にわたって封鎖した。燃料価格の値上がりに抗議するトラック運転手のストライキと重なって、特にフランスとの国境に近い地域では影響が大きかった。バレンシアでは労働者が港湾を封鎖した。マドリードでは経済省の前でデモ隊が太鼓や鍋をたたき、スローガンを叫んだ。  政府が提案した150億ユーロの歳出削減は5月27日に議会でわずか1票の差で可決されたが、労働者たちは財政赤字が政府の経済政策の失敗によるものであり、労働者には責任はないと批判している。  消防士のルイス・ミゲル・エゲアさんは「いつもわれわれが犠牲にされる。景気が良い時は、民間企業はボーナスを支給するが、われわれには恩恵はない。景気が悪くなると、われわれだけが賃下げを求められる」と語っている。
 政府の歳出削減策は、公務員賃金引き下げのほか、年金の支給額をインフレ率に基づいて調整する制度の廃止、出産給付金の廃止、公共投資・開発援助の削減等の措置を含んでいる。
 BBCの欧州総局のゲービン・ヒューイット編集委員は「今回のストライキは、財政赤字削減の強い圧力を受けている政府と、公務員への犠牲の転嫁に抗議する労働組合の間の力試しだった」と指摘している。  政府はまた、労働市場のフレキシブル化を目的とした「労働改革」を掲げ、経営団体および労働団体との交渉を続けてきた。
 スペインでは失業率が19・7%(ユーロ圏の平均の2倍)に達しており、若者の失業率は40%となっている。
 経営団体は、現在のスペインの労働市場では、解雇に対する制約が新規雇用を妨げていると主張してきた。解雇する場合に勤続年数1年につき45日分に相当する解雇手当を支給しなければならない。そのため、多くの企業は新規採用を控え、非正規雇用を増やしてきた(現在では労働者の3分の1に達している)。政府は、雇用の拡大が経済の刺激のために必要であるだけでなく、失業者に対する給付が財政を圧迫していることから、雇用促進策として解雇に対する規制を緩和することを提案してきた。労働組合は、政府との交渉には応じるが、経営者に労働者を自由に解雇できる権利を与えることは認められないと主張している。
 サパテロ首相は5月31日、交渉の期日とされていた同日までに労働組合および経営団体の同意を得られない場合でも「労働改革」を議会に提案すると宣言した。
 政府は6月17日に「労働改革」法案を閣議決定し、同22日に議会に提案することを計画している。  2つの主要労組、CO(労働者委員会)とUGT(労働総同盟)は同15日、「労働改革」法に反対して9月29日にゼネストを行うと発表した。この日は、緊縮財政政策に反対するヨーロッパ「行動デー」にあたる。また、この時期には政府の定年延長(現行の65歳を67歳へ)や、2011年度予算等の政策の詳細が明らかになるだろう。  スペインの労働組合のゼネストは2002年以来である。同年のゼネストは、当時の中道右派政権による「労働改革」に反対するためであった。

●南アフリカ
「ワールドカップの警備員が不当搾取に抗議してスト」

 6月13日、サッカー・ワールドカップのオーストラリア・ドイツ戦が開催されたダーバンのモーゼス・マヒダ・スタジアムで、試合後に、会場の警備を請け負った警備会社の労働者数百人が不当な低賃金に抗議してデモを行い、警官隊が催涙ガス、ゴム弾を発射して弾圧した。
 ある労働者によると、警備会社は同日の賃金として150ランドを支払ったが、これは契約した額の3分の1である(1ランドは約12円)。
 「私たちは期待していた賃金を貰えなかったので平和的に抗議行動をしていただけです。警官たちが私たちを攻撃してきたので驚きました」とシドニー・ヌゾリさんは言う。
 別の労働者は「FIFAからは1日1500ランドだと言われていたのに、190ランドしかもらっていない。12時から今まで働いていたのに」と言う。試合が終わった後、帰宅のための交通手段が提供されないために4時間かかって歩いて帰らなければならないと訴える労働者もいた。
 ゴム弾によって少なくとも1人の労働者(女性)が負傷し、2人が逮捕された。
 同14日付「アルジャジーラ」は次のように報じている。「この事件は、アフリカで最初のワールドカップから何の恩恵も受けていないと感じている貧困層の苛立ちを際立たせた。南アフリカは世界で最も貧富の格差が大きい国の1つである。一部の労働組合は、要求が認められなければワールドカップ開催期間中にストライキを行うと警告している」。
 同14日にはイタリア・パラグアイ戦が開催されるケープタウンのグリーンポイント・スタジアムでも労働者が賃金の支払いを求めてストライキに入り、スタジアムの警備のために警察官が動員された。労働者たちはキックオフの約2時間半前にストライキを決定した。
 COSATU(南アフリカ労働組合会議)は、「警備会社の強欲がワールドカップ会場での衝突を引き起こしている」と非難し、労働者に公正な待遇を保証し、ワールドカップを混乱させないよう要求した。COSATUによると労働者たちは派遣労働者であり、COSATUの組合員ではなく、同じ仕事をしていても派遣先によって賃金に大きな差がある。
 同日、オランダ・デンマーク戦が開催されたヨハネスブルグでは、高速バスの運転手たちが、事前の通告なしにシフトを変更されたことに抗議して、試合終了後にストライキに入った(「アルジャジーラ」。「ガーディアン」等より)。

●イラン
「テヘラン・バス労組のリーダーの逮捕を許すな、即時釈放を」

 以下は英国TUC(労働組合会議)のアピールである。  イランの労働組合活動家は常に政府、革命防衛隊、雇用主による嫌がらせ、逮捕、暴力の恐怖にさらされている。英国の労働組合はイランの自由労働組合に連帯する運動の最先端に立ってきた。今、新たに2人の勇敢な組合リーダーがわれわれの支援を必要としている。
 マンソール・オサンロー氏(本誌09年7月15日号を参照)やイブラヒム・マダディ氏と同じテヘラン・バス労働組合のリーダーであるサイード・トラビアン氏とレザ・シャハビ氏が逮捕され、拘留されている(どこに拘留されているかは不明)。
 彼らの逮捕は、昨年の反政府運動の発端となった6月12日の大統領選挙の1周年と関連している可能性がある。彼らには拷問やその他の虐待の危険がある。
 アムネスティー・インターナショナルとグローバル労働組合は、緊急の救援キャンペーンを開始した。  サイード・トラビアン氏(組合の広報担当)は6月9日に自宅で逮捕され、コンピューターや携帯電話が押収された。レザ・シャハビ氏(組合の会計担当)は、6月12日に出勤した時にバス会社の本社に呼び出され、そこで逮捕された。家宅捜査でコンピューターが押収された。
 テヘラン・バス労働組合は、1979年の革命のあと解散を命じられ、04年に再結成され、法律上の承認を得ていないが、組合としての活動を再開した。05年12月22日に12人のリーダーが逮捕され(うち4人はすぐに釈放された)、同25日に逮捕者の釈放を要求するストライキを行った。このストライキの後にも組合員が逮捕された。トラビアン氏はこのときにも逮捕され、1カ月間拘留された。
 06年1月にもストライキを行い、その中で数百人が逮捕された。
 オサンロー氏(組合の代表)は平和的な組合活動に対して禁固5年を宣告され、現在テヘラン近郊の刑務所に劣悪な条件の下で拘留されている。マダディ氏(組合の副代表)は07年に禁固3年を宣告され、現在テヘランのエビン刑務所に拘留されている。両氏ともアムネスティー・インターナショナルが「良心の囚人」として釈放を訴えている。
 トラビアン氏とシャハビ氏は05年のストライキの後、約4年にわたって停職処分を受けたのち、行政裁判所の決定により復職した。
 イラン政府は選挙1周年を前後して反政府デモが再現するのを阻止するため、徹底的な弾圧を行い、デモの計画に関連して少なくとも91人が逮捕されている。

●タイ
「ソムヨット氏が釈放される」

 非常事態宣言に違反して反政府集会を呼びかけたとして5月24日に逮捕されたソムヨット・プルクサカセムスク氏(本誌前号を参照)が6月13日に釈放された。
 「バンコク・ポスト」6月12日付によると、CRES(非常事態解決センター)はさらに1週間の拘留延長を請求したが、ソムヨット氏の弁護人は「すでに赤シャツの抗議行動に関連する暴力は収拾されており、拘留の理由はない」と主張、裁判所も弁護側の主張を支持した。
 ソムヨット氏は、同紙6月15日付に掲載されたインタビューで次のように述べている。
 「私の罪状は非常事態宣言違反ですが、まず逮捕があって、罪状は後からこじつけたものです。非常事態宣言は5人以上の政治的集会を禁止していますが、私たちは『6月24日民主主義グループ』を代表して3人で記者会見しただけです。
 6月24日に集会を計画していましたが、危険が多いので中止しました。しかし、『タクシンの声』と『レッド・ニュース』の発行は続けます。隔週発行で、発行部数はそれぞれ2万部と3万部です。タクシンからは援助を受けていません。また、私は彼が首相だった時、彼を批判してきました。
 政府は和解の努力をすると言っていますが、血の臭いを消すことはできません。  赤シャツが武器を持っていたとか、略奪や放火があったと言われていますが、73年10月の民主革命の時もそのようなことはありました。しかし、関係者は赦免されました。今回もそうするべきです。略奪や放火はほとんどが中心的なリーダーが投降した後に起こったものです。軍はもっとプロフェッショナルに行動し、予想された混乱に備えているべきでした。実際には、軍は傍観しているだけでした。  赤シャツは『テロリスト』だと言われていますが、軍によって殺された90人のほとんどは労働者であり、行商人、運転手、看護師、エンジニア、医療労働者、それに農民です。  政府は真相究明・和解委員会を設けると言っていますが、私たちは外国の友人たちと協力して、市民による真相究明の活動を進めます」。

●ネパール
「インフォーマル・セクター労働者の組織化が進む」

 ネパールの2つのITUC(国際労働組合総連合)加盟組合がインフォーマルセクター労働者の組織化を進めている。
 NTUC−I(独立ネパール労働組合会議)は、組合員35万人のうち10万人がインフォーマル・セクターの労働者である。理髪労働者の組合は19年前に設立され、現在では7千人を組織している。多くの組合員は自営か、理髪店で請負契約で働いており、組合は料金や報酬の基準の設定などで成果を上げてきた。女性の美容師の組合もあり、同様の成果を上げている。家内労働者の組合(3500人)は、職業訓練を提供し、ベルギーの連帯組織の支援によりこれまでに150人の組合員が自分で新規事業を始めて安定的な収入を得られるようになった。
 GEFONT(ネパール労働組合総連合)傘下の行商人の組合(1万5千人)は、「違法出店」の取り締まりや立ち退き命令に対して行商人たちを守ってきた。バス・トラックの運転手の組合(8万人)は社会保障や事故処理などで運転手を支援してきた(ITUC発行『ユニオン・ビュー』誌3月号より)。

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