アジア@世界
訳:喜多幡 佳秀/稲垣 豊・訳(APWSL日本)
828号

韓国
「韓進重工業のキム・ジンスクさんが309日の座り込み闘争に勝利」

 韓進重工業の解雇撤回闘争(本誌8月1日号を参照)で造船所のクレーンを占拠していたキム・ジンスクさんが11月10日、309日ぶりに、仲間に迎えられて地上に降りた。釜山警察は同12日にキムさんほか3人の組合員に対して不法侵入などの容疑で逮捕状を申請す る暴挙を行ったが、釜山地裁がこの申請を却下した。
 以下は「ハンギョレ」(英語版)11月11日付のキム・クァンス記者のレポートの抄訳である。
 大量解雇に抗議して釜山の影島造船所の第85クレーンに上り、309日間にわたって闘ってきた民主労総釜山支部執行委員のキム・ジンスクさん(51歳)は、10日午後、韓進重工業労組が暫定合意を承認した後、クレーンの梯子を降りた。
 彼女の行動は単独行動として、組合のリーダーたちとの事前討論なしに行われ、不必要な危険を伴うものであると批判された。一部評論家は、彼女の無謀な行動は労使交渉を妨げるだろうと言っていた。
 彼女の抗議行動が長引く中で、人々は彼女のことを忘れ始めた。労使交渉は膠着状態だった。困難に耐えかねて組合員たちは一人ずつ、会社側の説得や圧力に屈し、闘争を離れていった。
 キムさんは携帯電話で外の世界との接触を保ったが、電池がなくなったためにそれも断たれた。彼女は恐怖に取りつかれた。彼女の友達は、クレーンの上から見える35メートル下の道路を行き交う通行人と自動車だけだった。道路の明かりが消えた後は、いつ警察官や警備員が操縦室のドアを破って彼女を引きずり下ろすかわからないので眠れなかった。孤独が深まったとき、極限的な行為への誘惑に駆られた。129日目には首を吊ることさえ考えた。
 「いちばん苦しかったのは、私が解雇撤回を要求していることを苦々しく思っている組合員たちの怒りが感じられた時だった」と彼女は言う。
 闘争が100日を超え、彼女が身体的にも精神的にも衰弱しているのを感じていたとき、一筋の光が射した。「希望のバス」である。ツイッターで連絡を取り合いながら、市民たちが全国から彼女に会うために造船所への一泊二日の旅に参加した。これを見てキムさんは勇気が何倍にも増すのを感じた。…
 「希望のバス」は毎月やってきた。そのたびに彼女は思いもかけない人たちが、遠くから来るのを見て、感謝の涙を流した。特に、「希望のバス」を呼びかけてくれた詩人のソン・キュン・ドンさんやその他の人たちに逮捕状が発行されたという知らせや、デモに参加した人たちが警官隊によって連行されたという知らせに心を痛めた。
 夏から秋へ季節が移ろうとしていたとき、彼女は1本の電話に凍りついた。「労働者の永遠の母」イ・ソソンさん(チョン・テイルさんの母)が亡くなったという知らせだった。
 彼女は、地上から伝えられる労使交渉の成り行きも心配だった。11月9日に労使間の暫定合意が成立した後、彼女は組合員投票での被解雇者や組合員の自由な意思決定に影響を及ぼすのを避けるため、沈黙を保った。暫定合意には94人を1年以内に再雇用すること、解雇前の勤続期間を継続的雇用期間に含めること、被解雇者の生活費として2千万ウォンを支払うこと(1ウォンは約0.07円)、すべての民事・刑事告訴を撤回することが含まれる。
 同10日午後4時に、造船所の本社ビルの前で祝勝集会が開かれ、キムさんは「私は生きて帰れるだろうと思っていた。私はあなた方やすべての組合員に対する信頼を一瞬も失うことはなかった。あなた方が私の命を救ってくれた。ありがとう」と語った。

米国
「オハイオ州の住民投票で反労働組合的な州法の撤回へ」

 オハイオ州では3月に、ジョン・ケーシック知事(共和党)が提案した反労働組合的法案(「上院第5号法案」)が可決された。この法案は、賃上げを勤続年数ではなく成果(管理者による評価)を基準とする、健康保険の労働者側の負担率の引き上げ、組合承認取り消し制の導入(組合員の30%の署名があれば、組合承認投票を実施できる)、学校区の財政が非常事態である場合に労働協約を無効にできる等の規定を含んでいる。
 この法案に対して、労働組合だけでなく、教会、地域団体などが広範な反対運動を展開  、コロンバス(州都)で数万人規模のデモが繰り返された。
法案に反対する労働者組合と市民は6月末までに23万1千人の有効な署名を集めれば法案の執行を停止し、11月の州民投票にかけることができるという州法の規定を活用して、130万人の署名を集め、住民投票を実現し、11月8日に実施された州民投票で61%対39%の大差でこの法案を否決した。
 以下は「レイバーノーツ」誌ウェブ版に掲載されたダン・ラ・ボッツ氏のレポート(11月9日付)の抄訳である。
 …オハイオ州における労働組合の成功は、ケーシック知事が一期限りの知事になるかも知れないこと、来年には共和党による州議会の支配が覆される可能性があること、そしてオハイオ州のケーシックやウィスコンシン州のスコット・ウォーカーなどの右翼的・反労働組合的な知事が「絶滅種」であり、有権者がその絶滅を望んでいることを示している。  上院第5号法案はケーシック知事が1月に就任した直後に上程され、約40万人の公務員に影響を及ぼすものであった。
 オハイオ州の労働組合は、「ウイ・アー・オハイオ(私たちはオハイオ人だ)」連合は住民投票のキャンペーンに労働組合等からの3千万ドルの資金を投じた。AFSCME(全米州郡市従業員連合)、教員組合、消防士などの公共部門労働者のほか、民間企業の労働組合も戸別訪問や電話での投票依頼に参加した。…
 オハイオにおける成功は、最近における労働者の上昇軌道の一部を形成している。それは2〜3月のウィスコンシン州における闘争、ウォールストリートに始まり全国に広がった占拠運動と労働運動の連携、先週オークランドの港を封鎖した「オークランドを占拠せよ」デモ、そして今回。それぞれの闘争が輝かしい勝利を収めたわけではないが、温度は上がりつつある。
 労働組合運動は30年にわたる後退を経て、街頭デモや政治闘争の中で自らの力を試しつつある。民主党は労働組合運動と「占拠」運動の両方の新しいエネルギーを2012年の選挙の勝利へと流し込もうとしている。
 しかし、同日に実施された健康保険制度についての連邦や州の権限を制限する内容の住民投票も賛成多数だった。このギャップ、また、組合運動と「占拠」運動の違いを考えると、民主党とAFL・CIOのブロックが主導権を握れるかどうかは、そう単純なことではない。
 オハイオでは州内のすべての「占拠」運動が労働組合と共に上院第5号法案に反対する運動に参加したが、労働組合の側では、シンシナチなど一部の地区で、中間層の票を失うことを恐れて、ラディカルな運動に距離を置いた。

エジプト
「前政権の不正な債務の帳消しを求めるキャンペーンがスタート」

 10月31日にジャーナリスト組合のホールで「エジプトの債務帳消しのための大衆キャンペーン」が設立された。
 このキャンペーンは今年1月以降、エジプト革命に参加している左派の活動家を中心にフェースブックなどで呼びかけられ、準備されてきたが、6月にIMFが新たな借款の供与を提案したことによって運動が急激に広がった。
 呼びかけ人の1人で、金融ジャーナリストのワエル・ガマルさんは次のように発言した。「債務の支払いだけで毎年30億ドルが必要となる。これはIMFが提案している食糧価格補助の総額を上回る。また、この国の保健・医療費より多い。私たちは外国の銀行に350億ドルの債務を負っているが、その大部分はムバラク体制の下での借金であり、人民のためには全く使われてはいない」。
 ガマルさんによると、このキャンペーンはすべての債務の帳消しを要求しているのではなく、1つ1つの債務を監査し、貸付の条件や使途、国民の意志に沿ったもので国民の役に立ったかどうか等を基準に「不正な」債務の支払いを拒否することを目的としている。  この考え方は国際的に受け入れられており、03年に米国政府は(こっそりとだが)イラクの債務を帳消しにし、エクアドルのコレア政権は09年に、市民参加の監査委員会の報告に基づいて部分的に実施した。
 しかし、エジプトの暫定政権はこれを「国際的に不名誉なことだ」という理由で拒否している。ハゼム・アル・バブラウィ金融相は今週もIMFの使節団を歓迎した。彼は革命を守るという使命を帯びた閣僚としてではなく、ムバラク時代の閣僚のように行動している。
 チュニジアでも同様の趣旨の運動が始まっており、この運動の代表のファティ・シャムキーさんは、チュニジアでは独立時にフランス植民者が奪った土地を買い戻すためにフランスから融資を受けたが、この債務がベン・アリ独裁政権の下で爆発的に増大したのである。
 チュニジアの最初の民主的選挙で、債務見直しを主張する「共和国のための会議」が30議席を獲得した。
 国際的な債務帳消し運動を進めてきた英国の活動家は、英国におけるアラブの春への共感と債務帳消しへの関心の高まりについて報告した。独立労働組合の代表のカマル・アッバスさんもパネリストとして出席し、債務に対する闘いを激烈に訴えた(「Zネット」11月6日付のエリック・ウォルバーグ氏のレポートより抜粋)

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