労働情報No.857


アジア@世界
喜多幡 佳秀・訳(APWSL日本)
857号

アルジェリア 労働者を危険にさらすエネルギー企業の利潤追求

 アルジェリアのインアメナスで起こった人質事件は、アルジェリア軍の強硬策によって多数の犠牲者が出た。事件の経緯や背景、関係各国政府の対応等については調査に基づく検証が必要だが、今回の事件は、この地域の紛争やその背景にある石油等の資源の支配をめぐる各国政府の思惑の中で、石油労働者が置かれている極度に危険な状況を浮き彫りにしている。
 「ブルームバーグ・ビジネスウイーク」1月23日付によると、2011年には全世界で週3件の割合で石油労働者や石油施設に対する攻撃が行われている(パイプラインに対する攻撃を含む)。石油施設が政治・経済権力の象徴とみなされているためである。
 07年にはエチオピアで分離独立グループが中国石油化工の施設を襲撃し72人が犠牲になった。ナイジェリアでは、石油収入の公平な分配を要求するグループが数年にわたって誘拐や施設の破壊を繰り返している。イエメンやコロンビアでも頻繁に攻撃が行われている。
 国家や企業は警備を強化している。たとえば、サウジアラビアは石油施設防衛のために3万5千人の軍隊を配置している。企業も警備会社や警備コンサルタント会社を使って安全確保を図っている。
 同22日付「AFP」は、「石油・ガス労働者にとって、この仕事はどっちを取るかという問題だ。給料はよいが労働時間は長いし、人里離れているし、アルジェリアの人質事件で示されたように、危険が多い」と報じている。
 アルジェリア、シベリア、北海の油田で働いてきたフランス人技師のジェルミー・ペロー氏は、「油田での仕事自体が危険がいっぱいだった。アルジェリアは長い間、安全なところだったし、(インアメナスの)労働者も安心していたと思う」と語っている。彼は、月8千ユーロの給料を得ており、「危険を冒す価値がある」と言っている。
 同22日付「ニューヨークタイムズ」によると、「攻撃を受けた施設は、全世界の多くの油田、ガス田と同様に、その国の他の地域からは隔絶された世界であり、貧困からの脱出をはかっている国にとって、比較的豊かなオアシスである。安全保障は常に大きな関心事であり、アルジェリア軍は常に、施設に出入りする労働者を警護してきた」。今回の事件の後、エネルギー企業は数百人の外国人技術者・労働者を一時的に国外撤退させ、安全対策の強化を検討している。
 しかし、ブリティッシュ・ペトロリアム(BP)をはじめとするエネルギー企業は、アルジェリアでの事業継続を明言している。「ブルームバーグ・ビジネスウイーク」(同22日付)によると、アルジェリアの元石油相のチャキブ・ケリル氏は、「企業はそれでもハイリスクの場所に魅かれる。利益率が高いからである。彼らは警備のどこに問題があったかを検討し、警備を強化するだろう。できることはそれだけである」と指摘している。

中国 上海の日本企業でスト、不当な就業規則を撤回させる

 上海市(びんこう)区にある日本企業、神明電機公司の労働者千人余が、不当な就業規則に抗議して1月18日からストに入り、工場入口を封鎖して管理者18人(うち10人が日本人)を閉じ込めた。同社は1988年に創業(当初は日中合資、2010年に全株式を日本側に譲渡)、主に小型スイッチ、操作スイッチ、ソノレイドなどの電子部品を生産し、ソニー、シャープ、ノキアなどの大手企業に供給している。
 「中国ジャスミン革命」(ブログ)に掲載された同19日付のレポートによると、ストに参加している労働者たちは、「会社が新たに提示した49項目の就業規則では、あらゆる違反に対して罰金や解雇の処分が課される」と言っている。たとえば遅刻一回50元、二回で100元の罰金が課され、一日の賃金が吹っ飛んでしまう。現在、残業が減っていることから労働者の給料の手取りは2千元にも満たないという。
 同19日深夜に、警官隊が工場に突入し、管理者を救出した。
 20日付の緊急支援要請は、次のように訴えている。
 「上海神明電機有限公司は日系企業でしたが、資産譲渡の経過の中でいろいろな政策が一方的に提示されてきました。労働者たちは、会社から提示される一方的で苛酷な規則(トイレは2分を超えてはならない、違反二回で解雇、宿舎補助なし、賃金は約2千元など)の受け入れを迫られたのに対し、断固とした闘争を継続し、ストを持続しています。
 しかし、信じがたいことに19日の深夜12時頃、警棒、ヘルメット、盾で武装した数百人の警官が闇夜にまぎれて工場敷地内に侵入し、管理者の救出を理由に身に寸鉄を帯びない労働者(ほとんどが女性)に対し血の鎮圧が行われました。3人の女性労働者が重傷を負い、4人が逮捕され、携帯電話を没収され写メなどの資料は削除されてしまいました。20日、労働者はメディアに助けを求めましたが無駄でした。…<略>…
 私たち全労働者はインターネットを通じて全国の人民に対して、上海神明電機有限公司の多くの労働者階級の正義のストを支援していただくことを呼びかけ、また期待するものです」。
 その後、「中国日報」(英語版)同23日付によると、経営側は同22日に労働者の要求を基本的に受け入れて、問題の就業規則を破棄し、賃上げを約束。また、同23日からの操業再開を通告、出勤した従業員には報奨金100元を払うと発表した。
 従業員へのアンケートでは、休日労働の強要、工場内の監視カメラ、労働組合の機能不全、管理者と現場の意思疎通のなさ等の不満が上がっている。従業員への暴力や面罵も報告されている。
 22日に長時間の交渉が行われ、100人以上の労働者が参加した。社長は「私は何度も謝罪した。労働者にも、警察にも、労働局にもだ。過ちは誰にでもある」と述べた。

ギリシャ 公務員給与引き下げに反対の地下鉄ストに警官隊導入

 緊縮財政政策に伴う一連の公務員給与引き下げ攻撃に反対して、アテネの地下鉄労働者が1月17日からストに入った。
 ストが1週間を超え、影響が深刻化する中で、政府は同24日に非常事態法(スト中止命令に従わない者を逮捕し、3ヵ月〜5年の刑に処すことが可能)を発動し、25日早朝に数十人が占拠する車庫に100人の警官隊を導入。3人が逮捕されたが、まもなく釈放された。その後、警察は車庫の周辺地区を立ち入り禁止にした。
 政府は地下鉄労働者の現行の労働協約を破棄し、新たな賃金体系導入を意図している。それは25%という大幅な賃下げを意味する。
 非常事態法発動と警官隊導入に抗議して、バスなどの公共交通機関の労働者もストに入り、市内の交通は終日マヒした。非常事態法は07年に「平和時の非常事態」に対応するために改定され、この2年間に三回発動されている。
 SYRIZA(急進左派連合)のディミトリス・ストラトリス国会議員は「非常事態法の発動は憲法に反する新たなクーデターで地下鉄労働者の闘争を軍隊的方法で破壊しようとしている」と非難した。
 バス、市電などのストは裁判所の禁止命令にもかかわらず、28日も継続された。
 闘争は他の分野にも拡大している。28日にはギリシャ中部のテッサリアの農民たちが、軽減税を廃止する新しい法律に抗議し、政府交渉を要求しアテネとテッサロキニを結ぶ高速道路に多数のトラクターを止めた。電力労働組合は31日に地下鉄労働者に連帯する24時間ストに入り、海員組合も近距離航路の縮小・再編計画に抗議して31日から48時間ストに入る。国立病院の医師・看護師は、医療・保健関連の省庁再編(多くの部局が廃止されている)に反対して31日に24時間ストに入る。公務員労組も医療・保健「改革」に反対して同日、正午から4時間のストに入る(「AP」1月25日付、「イ・カシメリニ」紙英語版、同28日付等より)。

タイ ソムヨットさんに「不敬罪」で禁固11年の判決

 タイの労働運動のリーダーで、反独裁民主戦線(「赤シャツ」)の運動に参加し、2011年4月に、刑法112条違反(不敬罪)容疑で逮捕されていたソムヨット・プルクサカセムスクさん(経過と背景は、本誌2010年6月15日号、11年6月1日号などを参照されたい)に対して、刑事裁判所は1月23日、二つの容疑に対して各5年、さらに前に執行猶予となっていた一件(刑期は1年)を取り消し、合計11年の禁固を宣告した。
 通常は不敬罪は3年程度の判決であり、このような長期刑にソムヨットさんや家族、知人たちは驚いている。
 法廷は支持者や人権団体、メディア関係者、約200人で埋まった。
判決は、ソムヨットさんが2010年の2月と3月にペンネームで発表した論文について、検察側証人の証言をもとに、「これらの論文を読んだ者は容易に、批判されているのが国王であることを理解できる」と断定した。
 国際人権団体のヒューマンライツ・ウォッチはこの判決がタイにおける言論の自由を一層脅かすと非難した。タイの衣料労働者を支援しているクリーン・クローズ・キャンペーンや、タイ・レイバー・キャンペーンなどの団体も、ソムヨットさんは「良心の囚人」であり、彼の言論の自由は擁護されるべきだと判決を非難した(「バンコク・ポスト」1月23日付)。
 EU、国連人権高等弁務官事務所、アムネスティー・インターナショナル、インダストリオール(製造業の労働組合の国際組織)も、23日の判決を非難する声明を発表している(インダストリオールのウェブより)。

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