アジア@世界
訳:喜多幡佳秀(APWSL日本)
820号

●マレーシア
「選挙法改正を要求し、集会禁止に抗し5万人が結集」

 7月9日、クアラルンプールで、不正選挙を糾弾し選挙制度改革要求のデモに約5万人(主催者発表)が参加した。このデモは「民主主義のためのウォーク」と銘打ち、62のNGO団体から成る「ベルシー2.0」(ベルシーはマレー語で「クリーン」の意味)が呼びかけた。
 活動家たちは、不正の一掃と、選挙運動期間の延長、有権者登録の簡略化、政府が支配しているメディアへの平等なアクセスなどを要求している。
 ナジブ・ラザク首相(国民戦線)はベルシーを非合法団体だと宣告し、シンボルカラーの黄色いTシャツを着用した者は拘留すると恫喝した。6月24日以降、集会の組織化を行っていた150人以上の活動家が拘束された。このうち30人は「国家と国王に対する反逆」、「共産主義思想の流布」の容疑(最高刑は無期懲役)でまだ拘留されている。
 警察はベルシーの集会を許可せず(5人以上の集会は警察の許可が必要)、軍と協力して阻止すると宣言。軍は「解散しないと撃つぞ」と書かれたバナーを掲げデモ鎮圧演習を行った。警察は前夜から市中心部に警戒線を張り、主要道路を封鎖し、公共交通を停止させた。
 同8日の「ガーディアン」は「マレーシアは9日、『アラブの春』のような緊張に包まれようとしており、政府は運動を芽のうちに摘み取ろうと強権的な措置を取っているが、『汚い政治』に憤る活動家たちはクアラルンプールで集会を開く予定である」と報じている。
 当日、警察は警戒線をかいくぐり集まった参加者に警棒、催涙弾で襲いかかり約1千650人を逮捕。市内の主なバス停の近くに集まっていた人たちにも放水を浴びせて解散させた。野党・人民正義党のリーダーのアンワル・イブラヒム氏も負傷し、病院へ運ばれた。
 政府はベルシーが「国の安全を脅かしている」と非難しているが、べルシーの代表のアンビガ・スレーネバサンさんは「私たちはエジプトやリビアのような街頭デモではなく、自由で公正な選挙によって選ばれた政府を求めているのです」と語っている。
 マレーシアでは07年にも同じようなデモが行われ、翌年の総選挙で国民戦線の議席が激減した。
 6月15日には、労働者の人権擁護団体など約100のNGO団体の活動家が国会前で集会を開き、「全国賃金諮問法」に反対し、全労働者に対する最低賃金制度の早期導入を求める要望書を首相府、野党のリーダー、人的資源相等に提出した。PSM(マレーシア社会党)の国会議員も参加した。PSMのシバラジャン財政担当書記は「政府は最低賃金の導入を約束していたが、実際には権限のない諮問機関を設けるという法律を提案しただけだ」と指摘している。
 マレーシア労働組合会議(MTUC)のモフド・ロゼリ・マジド副委員長(民間部門担当)は、「NGO間で、最低賃金の額への意見は異なるが、最低賃金の導入のために共同で闘ってきた」と語っている。  MTUCの前委員長サイード・シャフリール・サイード・モハマド氏によると、政府は経営者寄りの姿勢を示しており、労働者は公共料金やガソリン代などの値上げ、物品サービス税の導入などによって困窮している。人的資源省の調査によると、マレーシアの約1千300万人の労働者のうち約34%が月700リンギット(1リンギットは約26円)以下の賃金で働いている。貧困ラインは720リンギットである。

●韓 国
「韓進重工業の解雇撤回闘争に連帯する「希望のバス」」

 以下は「ハンギョレ」(英語版)7月11日付のパク・ヒュンジュン記者のレポートの抄訳である。
 「希望のバス」は労働者や労働者階級の生活を脅かしている雇用不安に対する抵抗のアイコン(偶像)になりつつある。
 「希望のバス」キャンペーンは闘争中の民主労総釜山支部の組合員と執行委員のキム・ジンスクさん(52歳)支援を目的として支持者たちによって呼びかけられた。
 キムさんが韓進重工業のレイオフ計画撤回を求め、釜山の同社影島造船所第85クレーンの上で抗議闘争を始めてから186日目である。「希望のバス」は「レイオフも非正規雇用もない世界」を目指す。
 土曜日(7月9日)の午後、激しい雨の中、約150台のバスと50台の小型トラックに分乗したキャラバンが、キムさんと、彼女を守るためにクレーンに自分の体を縛り付けた6人の組合員が抗議行動を続けている造船所へ向かう。第1回の「希望のバス」には700人が乗っていたが、今回の第2回には全国から約5千人がバスに乗った。
 参加者も多様だ。どの団体にも属していない市民、政党の代表、労働運動活動家、大学生、医療専門家、宗教家、法律家のほか、障がい者、セクシャル・マイノリティー、強制立ち退きに反対している人たち、移住労働者、若者など、社会的に弱い立場に置かれている層の人々が広範に参加した。……
 「希望のバス」の発案者の一人である詩人のソン・キュンドンさんは次のように述べている。「非正規雇用とレイオフの増加に伴って、私たちは不安定な社会で生活するようになっている。人々はそれについて語らないが、当然の怒りがあり、ここから連帯が生まれた」。
 車椅子で参加したCP(脳性マヒ)者のムン・エリンさん(31歳)は、「韓進重工業の問題と障がい者の問題は表面的には無関係と思われるかも知れないが、現実の問題として、障がい者の労働条件は劣悪である。韓進の労働者の経験は私が経験していること」と語る。
 東国(トングツ)大学の学生評議会委員長のクォン・ジホンさん(23歳)は授業料の50%引き上げ反対の闘いにも参加していたが、「私たちは卒業したら労働者になる。現実が変わらなければ、韓進の組合員に対して起こったことが私たちにも起こるかも知れない」と述べている。……
 事務労働者のパク・ジョンフィさん(27歳)は、「キム・ジンスクさんは演説で『私は人々に背を向けることはできない、たとえ人々が私に背を向けても』と言った。彼女が韓進の組合員だけでなく、力も支持もなく、いつでも解雇されうる私たちのことを言ったのだと感じた。重要なことは、韓進の問題が不当な利益追求への規制のあり方を考える機会を提供していることである」と語った。……
 現代自動車で正規雇用化を要求したことで解雇された30人の社内請負労働者も蔚山から「希望のバイク」に乗ってやってきた。パク・ヨンヒョンさんは、「『希望のバス』が象徴する市民の連帯を見て、私たちも闘争を再開することを考えている」と述べた。……
 しかし、参加者たちはキム・ジンスクさんたちと合流できなかった。警察の阻止線に素手でぶつかったが、放水や催涙ガスや警棒の前には無力だった。約3千人の労働者は、警察の弾圧と大量逮捕に抗議して、翌朝まで蓬莱交差点前で8車線の高速道路を占拠した。野党4党の代表が釜山警察長官にすべての逮捕者の釈放を要求した。

●ベトナム
「アディダスの下請け工場で9万人がストライキ」

 ホーチミン市のポ・ユエン社(台湾資本の靴メーカー、アディダスの下請け)の働者9万人が賃上げを要求して6月21日〜28日までストライキに入った。同28日に経営側が要求の一部を受け入れた。
 ヨーロッパ、米国、オーストラリアで活動しているCPVW(ベトナム労働者支援委員会)によると、このストライキの後、数十人の労働者が逮捕されている。このストライキについてベトナムのメディアでは報道されていない。
 CPVWは香港のアディダスの地域本部に介入を要請した。アディダスは下請け企業の労働者が組合を結成する権利を尊重していると回答しているが、ポ・ユエン社は政府系のベトナム労働総連合(VGCL)だけを承認している。

●エジプト
「革命継続を掲げてタハリール広場を再占拠」

 7月8日にムバラク体制下の弾圧犠牲者への補償と文民政府への早期移行を求める集会が全国主要都市で開かれ、数十万人が参加。カイロのタハリール広場では「革命は続く」と書かれた横断幕が掲げられ、集会の後、約2万人が広場を再占拠した。同10日、広場を占拠中の2つのグループがそれぞれ声明を発表した。
 革命的青年連合、エジプト社会民主党、革命的社会主義者党などグループの声明は、弾圧に関わったすべての責任者の公開裁判、ムバラク一族および腐敗に関わった者の公開裁判、軍事法廷による民間人に対する判決の撤回と民間人に対する軍事裁判の廃止、スト・デモを禁止している法律の廃止、軍最高評議会の権限の縮小と政府の権限の強化、新しい国家予算の撤回と貧困層を支援する新予算の策定と公開での論争などの要求を掲げている。また、シャラフ政府との交渉を拒否し、同12日に百万人デモを行うことを呼びかけている。
 独立労働組合連合などのグループは、同様の要求のほか、海外および国内に不正に持ち出された国家の資金の回収、内務省の再編、前政権と癒着してきたエジプト労働組合総連合の解体、最低賃金と賃金の上限の設定、メディア・銀行等の粛清、旧与党の次回および次々回選挙への立候補の禁止などの要求を掲げている。これらの要求は、広場に集まっている人々の共通の要求である。シャラフ首相は同9日夜にテレビで要求受け入れを約束したが、人々は改革が遅いこと、軍最高評議会が依然として強い権限を持ち改革に抵抗していることに不満を増大させている。
 スエズ運河地域でも労働者の賃上げ要求ストが続発。また、ムバラク体制による弾圧犠牲者家族を先頭とする闘いにより、主要道路が封鎖されている。(「アーラム・オンライン」、「ガーディアン」等より)

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