アジア@世界
喜多幡 佳秀 ・訳(APWSL日本)
875号

インドネシア:最低賃金50%引上げ求め2日間のゼネスト

 インドネシアの多くの労働組合が10月31日から11月1日にかけて、(1)最低賃金の50%引き上げ (2)アウトソーシング(外注化)の禁止 (3)全従業員への健康保険・社会保険の適用を求めてゼネストに入る。

 10月28日から各地でストライキに向けた大規模な決起集会が開催され、警備のために大量の警官隊が動員されている。


 同日付のジャカルタ・ポスト紙は次のように報じている。


 「誇らしげに赤や青のバンダナを巻き、旗を高く掲げ、声をそろえて歌いながらジャカルタの中心部を行進する労働者たちは、パレードのリハーサルのような雰囲気だ。
 リーダーがデモに並行するトラックの荷台に立ってスローガンを叫んでいる。
 これはインドネシアの労働者の戦闘性の高まりを表現している。若いカリスマ的リーダーに率いられ、数万人の支持者が後に続く。


 この数年間、経済状態は上向きになっている。だから東南アジアで最大の労働組合が賃金の引き上げ、福祉の向上、アウトソーシング廃止のために、力を集中しようとしている。
 インドネシアの労働者は1億2500万人、うち正規雇用は3500万人で、そのうち400万人が労働組合に組織されている。
 組合は最近まで多くの組織に分裂していたが、KSPI(インドネシア労働組合連盟、80万人)のサイド・イクバル委員長(44歳)やKSPSI(全インドネシア労働組合連盟)のアンディ・ガニ委員長(37歳)などの若手リーダーが大きな労働組合を率いて、共通の目標に向けて統一した闘いを呼びかけてきた」。


 同紙によると、アンディ・ガニは10月17日にジャカルタの中心部で3万人のデモを成功させた。サイド・イクバルが昨年1月に組織した大規模なデモは3千以上の工場の操業を中止させ、主要道路を完全に麻痺させた。
 労働者の要求の背景と組合の共闘の経緯は、本誌840号・850号を参照されたい。
 経営団体は、最低賃金の引き上げがインドネシア経済に悪影響をもたらすと警告しているが、14年の選挙を前に、野党は労働者の要求に同情的な態度を示し、政府・与党も要求を部分的には受け入れざるを得ない。


 10月30日付のジャカルタ・ポスト紙は社説の中で次のように指摘している。


 「……ストライキによる混乱や一時的な無秩序の背景にある現実は、労働者が、たとえ最低賃金が『まともな生活の基準』と言われていようと、実際には貧困状態にあるということである。

 ジャカルタ北部の工業地区の労働組合のリーダーのジュミシウ氏は先週、次のように語っている。『ゴミゴミした環境の中で、換気設備もない小さな部屋(9平方メートル)を数人で借りて住むというのは、まともな生活ではない』。ジャカルタの最低賃金は昨年44%引き上げられ、約200万ルピアになった(1円=約115ルピア)。
 しかし労働者たちによると、毎月の家賃だけで50万ルピアかかり、食費や交通費にはわずかしか残らない。多くの労働者は病気になれば収入が減り、親への仕送りや子どもの養育費を送金できなくなる。
 当局は少なくとも工場への監視を強化するべきで、政府は保険適用範囲の拡大を急ぐべきである。経営者たちは労働生産性の低さに不満を述べているが、超勤手当なしの12時間シフトが横行している。正規雇用労働者を臨時雇用や、より低賃金の労働者に置き換えるやり方もそうである。G20加盟国として、インドネシアは労働者にもっと責任を負うべきだ」。


 10月30日のアルジャジーラによると、ユドヨノ大統領はストライキ突入を前に、ラジオ放送で次のように述べた。
 「大幅賃上げは、世界に対してインドネシアを安い労働力の供給源と見なす時代が終わったことを知らせるだろう。私もその希望は素晴らしいと思う。しかし、現実にはインドネシアはまだそこに到達していない」。

 

韓国:教員組合の非合法化に抗議

 朴槿恵(パク・クネ)政権は10月23日、韓国教職員労働組合(KTU)の承認取り消しを決定した(詳細は18頁)。
 教育インターナショナル(EI、教育関連労組の国際的な連盟)はこの決定に抗議して、同24日付で以下の声明を発表した。


 「KTUの規約は、解雇された労働者が組合に留まることを認めている。前政権の下で22人の組合員が、政府の教育政策に反対する意見を表明した、あるいは進歩的政党に献金したことを理由に解雇されている。このうち9人は(解雇そのものが国際法の観点から問題があるのだが)今でも、この規約に基づいてKTUの組合員とみなされている。」


 退職者や被解雇者の組合員資格や組合リーダーに留まる資格を認めることは国際的に受け入れられていることであり、ILO結社の自由委員会は彼ら彼女らを排除することに対して繰り返し批判してきた。
 ILO委員会は2012年3月の報告書で「(韓国)政府に対して、被解雇者や退職者の組合所属を禁止し、非組合員であることを理由に組合役員に立候補する権利を奪うような規定を廃止するよう促した。……残念なことに韓国政府がそのような規定を廃止していないことに留意し、委員会は再び韓国政府に対してこのことを促す」と述べている。


 また、3年前に韓国全国人権委員会(NHRCK)は、雇用労働省に対して労働組合および労働関係調整法の第2条4d項を改定することを勧告した。なぜなら、この条項が被解雇者の組合員資格剥奪に関連して不当に解釈される可能性があるからである。NHRCKはこの勧告が国連やILOの社会権に関連する条約・規約に基づいていると説明している。


 韓国政府は1996年にOECDに加盟する際に、教員および公務員に結社の自由と組合活動の自由を保障することを約束。99年のKTUの合法化は、OECDの要求に基づく国際公約に沿うものだった。
 すでに2013年1月に教育科学技術省は、KTUが規約を改定しない限りただちに組合承認を取り消すと脅していた。


 今回の承認取り消しは重大な後退である。KTUのキム・ジョングン委員長は「これは韓国の民主主義と教育の死だ」と述べている。
 KTUは政府の決定に抗議し、ソウル地裁にこの決定の差し止めを請求した。KTUはまた、組合承認を再獲得するまで政府に対して闘い続けると宣言。キム委員長は「われわれは合法的組合であろうが、法的枠組み外の組合であろうが、韓国の教育制度改善のための努力を継続する」と語っている。


 EIは、韓国政府によるKTUへの最後通牒を知った直後から、ITUC(国際労働組合連盟)、PSI(国際公務労連)などの国際的労働組合と協力して、「レイバースタート」のWeb上でKTUとその組合員支持のオンライン・キャンペーンを展開してきた。8800通以上のメッセージが朴槿恵大統領に送られた。EIの20以上の加盟労組が公式の抗議文を送付した。
 国際労働運動からのこの巨大な連帯はKTUとその組合員に歓迎された。「あなた方、兄弟姉妹たちに心からの感謝を表したい。連帯と支援をありがとう」とキム委員長は語っている。

スペイン:教育予算削減に反対し学生と教員がデモ

 10月24日、スペイン全国で、大学の授業料やその他の費用の値上げと教育制度の改変に反対して、多くの学生、教員、親たちがデモに参加した。
 大学やいくつかの学校では、教員と学生がストライキに入り、授業を放棄した。


 マドリードの弁護士、エミリオ・ドゥランさん(51歳)は、「政府は良質の公教育をなくそうとしている。それは私たちを30年も後戻りさせるものだ。彼らは金持ちと権力者の子どもたちにだけ教育を与えようとしている」と語る。彼は娘が小学校、息子が中学校に通っている。


 財政危機にある政府は公共支出を一律に削減してきた。

 今年初めにホセ・イグナシオ・ウェルト教育相がロイター記者に語ったところによると、教育省はこの2年間に支出を7%削減。また、教育の水準を引き上げるためと称して、いくつかの改革を導入した。たとえば大学生は毎年期末に試験を受け、再登録しなければならなくなる。
 政府は若者―その半数が失業している―をもっと雇いやすくする、学校の自由裁量を拡大する、外国語教育を改善する等を提唱している。しかし、教室でのスペイン語の使用が強調されていることに、他の言語を使用する地域で反発が起こっている。また、大学の奨学金の要件が厳しくなることに学生たちの不満が高まっている。


 スペインは第3四半期に0.1%の経済成長にこぎつけ、2年に及ぶマイナス成長が止まった。しかし公共部門の改革は長期にわたって影響を残すだろうし、緊縮政策にうんざりしている人々は、公共支出が近い将来に拡大されることはないと思っている。

 マドリード近郊フエンラブラダの小学校教員のホセ・ビセンテ・メンディオラさん(30歳)は、「私がデモに参加した理由は、教育予算の削減のために、1クラスの生徒数が増え、公立学校から私立学校へ生徒が移動し、授業料が上がっているからだ」と語る。


 労働組合の発表では、この日、学生の90%以上、教育労働者の83%がストライキに入った。教育省はストライキに参加した教員は21%で、ストライキは失敗だったと発表している。


(ロイター、10月24日付)

 

 

 

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