アジア@世界
808号

●チュニジア
「失業に抗議する闘いで独裁体制を打倒」

 チュニジアで昨年12月から続いた反政府デモ、ストライキの中で、1月14日、ベンアリ大統領が国外へ退去、政権が崩壊した。
 「インタープレス」は同日付のレポートに「ピープルズパワーが欧米の支持なしで勝利した」という見出しを掲げている。
 同紙は「何千人もの若者が銃撃に果敢に立ち向かい、独裁者を追い出した。これはまさに欧米諸国がイランで起きることを期待していた光景である。しかし、ここは北アフリカのチュニジアであり、大衆の蜂起が欧米諸国によって支持された独裁者を追い出したのだ」と報じている。
 ベンアリの事実上の後見人であるフランス政府は、ベンアリが国外退去する1時間前まで、ベンアリ政権に暗黙の支持を与えていた。
 反政府デモの発端となったのは、昨年12月17日に、中部の町シディブジドでモハンメド・ブアジジさん(26歳)が失業と政権の腐敗に抗議して焼身自死したことだった。彼は大学卒業後、仕事がなく、無許可で野菜・果物の行商をしていたが摘発され、商品を押収された。
 一連の運動についてブログで発信しているリナ・ベン・メニさん(大学の助手)によると、この日、「一人の若者が自分の体に火をつけ、人々はそれに反応した。いたるところでデモが組織され、全国に広がった」。デモ参加者たちはタイヤを燃やし、仕事を要求するスローガンを叫んだ(「アルジャジーラ」、12月26日)。  同22日には、もう一人の若者が送電塔に上り、電線で感電死した。
 非合法のナフダ運動(旧イスラム潮流運動)のメンバーであるサイド・フェルジャニさん(ロンドン在住)は、失業は新しい問題ではなく、以前から深刻であり、政府の経済運営と腐敗の問題であると指摘している。
 政府の統計によると、失業率は14%で、15〜24歳の若者の失業率はその2倍、地域によっては50%に近い。主な雇用先である観光産業と輸出加工区の衣料工場(ヨーロッパ向け)や農業で賃金は低い水準である。
 政府は反政府派が警察と若者の衝突に介入して、利用しようとしていると非難した。野党の民主進歩党は政府に対して弾圧をやめて、対話と雇用創出に努力を集中するよう要求した。
 チュニジア労働総連合(UGTT)はシディブジドのデモに連帯し、大学卒業生のための雇用を提供することを要求してデモを組織した。第2の都市スファックスでは、労働組合がストライキを呼びかけた。
 12月下旬から1月にかけての一連のデモと警察の弾圧の中で、百人以上が死亡し、数百人が負傷した。とくに、若者の失業率が最も高い地区の1つであるカセリーヌでは、1月8〜10日の3日間で、警官隊の弾圧によって50人が殺害された。
 1月13日夜、ベンアリはテレビで国民に「理解」を求め、警察に発砲を中止するよう命じることを約束した。しかし、運動の勢いを止めることはできず、同14日午後、独裁支配の象徴である内務省に向けたデモに数千人が参加し、大統領の辞任を要求した。

●メキシコ
「ホンダが独立労組リーダーを不当解雇」

 メキシコのホンダ工場の労働者たちは長年にわたって敵対的な経営者、腐敗した労働組合、それを追認する政府に対して闘ってきた。
 この工場はハリスコ州エルサルトにあり、CRVトラックを製造している。2千100人の労働者が2交替制で、月に5千台のトラックを生産している。そのほとんどは米国に輸出される。
 ホンダの経営者は一貫して労働者の権利を無視し、結社の自由を認めず、御用組合であるCTM(メキシコ労働組合連盟)だけを認めてきた。
 CTMは、経営者が労働者に低賃金を押し付けるための手段となっており、その結果、ホンダの労働者の賃金は1日10〜12・3ドルに抑えられている。それに対して、独立労組が存在するプエブラ州のフォルクスワーゲンの工場では賃金は1日29ドルである。
 労働者の権利を擁護する組合がないため、経営者は過重なノルマを課しており、その結果、労災事故が激増している。工場内では職制による労働者の尊厳への敵意と侮蔑が常態化している。その一方で、ホンダのロゴには「パワー・オブ・ドリーム(夢の力)」と書かれている。
 労働者たちは09年以降、経営者に対してノルマを減らし、労働者に対する態度を改めることを要求して抵抗を組織し、職場放棄を繰り返してきた。そのたびに会社側は締め付けを強化し、リーダーとみなした労働者を解雇してきた。
 2010年に労働者たちは、自分たちの権利を守るために真の労働組合の組織化を開始した。労働者たちはメキシコ・ホンダ統一労働組合を結成し、執行委員会を選出した。しかし、地方および中央労働委員会は、ホンダからの圧力によって、あらゆる口実を使って組合の承認を拒否してきた。
 労働者たちは闘争を拡大することを決定した。彼ら・彼女らは12月9日にメキシコシティー、同13日にグァダラハラ(州都)で記者会見を行った。記者会見では、フォルクスワーゲンの労働組合をはじめとする組合も連帯を表明した。労働者たちは会社側の報復を避けるために、紙袋をかぶって記者会見に臨んだが、会社側は同20日に、組合の書記長のホセ・ルイス・ソロリオさんを解雇した。
 米国のUAW(自動車労組)のボブ・キング委員長は、組合への連帯メッセージの中で次のように書いている。「長年にわたって自動車産業の経営者たちは人種、国境、言語、政治的立場によって私たちを分断し、私たちの賃金、福利、労働条件が切り下げられる中で、自分たちの利益を増やしてきた。今こそ、私たちを弱体化させる分断の政策に、『もうたくさんだ』と叫ぶ時だ」。これはUAWの国際政策の転換を意味している(「レイバーノーツ」ウェブ版より抄訳)。

●バングラデシュ
「衣料工場の火災で28人が死亡」

 12月14日、アシュリア(ダッカ近郊)の11階建ての衣料工場の9階と10階で火災が発生し、28人の労働者が死亡した。
 この工場を所有するハミム・グループは、労働者の権利を侵害して繰り返し告発されてきた。同グループの取引先にはウォルマート、H&Mをはじめ多くの世界的なブランドや小売店が含まれる。
 14日の火災の目撃者の証言によると、工場の6つの出口のうち少なくとも2つはカギがかかっていた。このビルでは、それは日常的なことだった。「労働者の権利コンソーシアム」のスコット・ナバさんによると、労働者の権利を擁護する団体は数年前から米国とヨーロッパの衣料ブランドに対して、製造元の工場における安全、とくに防火の改善を強く要求してきたが、衣料ブランドは積極的な行動を取らなかった。そのために、恐ろしい火災が繰り返された(CCCのウェブより)。
 火災の原因については調査中であり、電気のショートの可能性が指摘されているが、工場の経営者は火災発生直後から「放火によるもの」と主張している。
 「ガーディアン」紙12月19日付でジャーナリストのルーシー・シーグルさんは、「激安衣料品への執着が人命を奪っている、もうこんなことはたくさんだ」と訴えている。彼女は14日の火災と、同11日にチッタゴンとアシュリアの衣料工場で起こった暴動(警察の発砲で3人が殺害された)が、バングラデシュで年間15億着の衣料品を製造する25万の工場の4千万人の衣料労働者の絶望的状態を示していると指摘している。ファッション産業のニーズに合わせた短納期・大量発注のシステムが、危険な労働条件の大きな要因の1つである(納期に間に合わせるため、労働者を缶詰め状態にする)。大手ブランドがガイドラインに従って行っている工場への立ち入り検査も、実際には事前に通知されるために違反状態が見過ごされている。

●米国
「カリフォルニア州で公共予算削減反対の運動が〈茶会〉を圧倒」

 昨年11月の中間選挙でティーパーティー旋風が起こったが、カリフォルニア州では知事選挙と上院議員選挙で、ティーパーティーに支持された候補が敗北した。また、州予算可決の要件を単純過半数に戻す(現行は3分の2の賛成が必要)ことが住民投票によって可決された。この間、州議会の少数派である共和党は、「3分の2」条項を利用して、法人税率を引き下げるまで予算の成立を阻止することができた。この結果、州の歳入が不足し、財政危機が悪化した。
 住民投票での勝利を主導したのは教員組合(CFT)を中心とした「カリフォルニアの未来のための闘い」キャンペーンだった。
 CFTは09年に教育予算大幅削減(前年の70億ドル削減に続き、45億ドルの削減)が可決された後に、州予算を単純過半数にするための住民投票と、公共サービス予算確保のための企業・富裕層への増税を要求するキャンペーンを開始した。このキャンペーンは州財政の危機が教育や医療や消防のせいではなく、石油会社やシリコンバレーの企業経営者への減税のためであることを、さまざまな手段を使って粘り強く訴えた。3月から4月にかけて、州を縦断する48日間の行進を組織した。AFSCUM(州郡市職員組合)、SEIUなどの労働組合がキャンペーンに積極的に参加した。集会への動員はティーパーティーの2倍以上だった(「レイバーノーツ」のウェブより)。

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