917+8号
◎東電元会長ら3人、強制起訴へ 市民の正義が事故隠ぺい策を打破
東京第5検察審査会は福島原発事故について東京電力の勝俣恒久元会長(75)と武藤栄(65)、武黒一郎(69)の両元副社長に対する業務上過失致死傷容疑にもとづいて起訴議決を行った。
告訴団の武藤類子代表は、会見で「今後、開かれる刑事裁判の中で、事故の真実が明らかにされ、正当な裁きが下されると信じています」とコメントした。
高度な注意義務
今回の議決は、「原子力発電に関わる責任ある地位にある者であれば,一般的には、万が一にも重大で過酷な原発事故を発生させてはならず、本件事故当時においても、重大事故を発生させる可能性のある津波が『万が一』にも、『まれではあるが』発生する場合があるということまで考慮して、備えておかなければならない高度な注意義務を負っていた」とし、高い注意義務を課した。
事件の最大の争点は政府の地震調査研究推進本部の長期評価にもとづいて津波対策を講ずるべきであったかどうかであるが、「推本の長期評価は権威ある国の機関によって公表されたものであり、科学的根拠に基づくものであることは否定できない」「大規模地震の発生について推本の長期評価は一定程度の可能性を示していることは極めて重く、決して無視することができないと考える」とした。
原発事故は、放射性物質を大量に排出させ、その周辺地域を広範囲に汚染し、長い期間そこには何人も出入りすることができなくなってしまう。加えて、放射能が人体に及ぼす多大なる悪影響は、人類の種の保存にも危険を及ぼすと事故の重大性を明確にした。
そして、伊方最高裁判決と新耐震設計審査指針を引用し、また、東京電力1991年10月30日の福島第一原発海水の漏えい事故、07年7月に発生した新潟県中越沖地震時の、柏崎刈羽原発1号機の建屋内への浸水事故、99年12月の仏ルブレイエ原発の浸水事故、04年12月のスマトラ島沖地震の津波によるマドラス原発2号機の非常用海水ポンプ水没事故等も踏まえ、非常用電源設備や各種非常用冷却設備が水没して機能喪失し、全電源喪失に至る危険性があることが明らかとなっていたと認定した。
そして、議決は、勝俣、武藤、武黒の三氏について具体的な予見可能性を肯定した。
津波対応は御前会議で
とりわけ、長期評価と東電のシミュレーションを知らなかったとしていた勝俣氏についても、地震対応打合せは、被疑者勝俣への説明を行う「御前会議」とも言われていたこと、津波対策は数百億円以上の規模の費用がかかる可能性があり、最高責任者である被疑者勝俣に説明しないことは考えられないこと、09年6月開催の株主総会の資料には、「巨大津波に関する新知見」が記載されていたこと等を根拠に強制起訴の結論を導いている。
福島原発事故に関してはたくさんの事柄が隠されてきた。この議決の根拠となった津波対策の怠慢に関する情報の多くは11年夏には検察庁と政府事故調の手にあったはずである。しかし、これらの情報は徹底的に隠された。
裁判ささえる体制を
この隠蔽を打ち破ったのが、今回の検察審査会の強制起訴の議決である。市民の正義が検察による東電の刑事責任の隠ぺいを打ち破ったのである。
今後開かれる公開の法廷において、福島原発事故に関して隠されてきた事実を明らかにする作業が可能となった。
強制起訴は弁護士会の推薦を受けて、裁判所が任命した検察官役の弁護士が行う。長期の裁判を遂行するための体制を市民が物心両面で支えるネットワークを作り、裁判の過程を時々刻々と市民に知らせていく体制も作りたい。
海渡 雄一(福島原発告訴団弁護団)
◎派遣で働く当事者がフォーラム結成 安定雇用求めロビー活動も
派遣労働のあり方を根本から変えかねない労働者派遣法改悪案の参議院での審議が始まる中、8月1日、派遣労働の当事者らが「派遣向上フォーラム」を結成し、「希望すれば正社員になれる社会」の実現とともに「派遣労働者の人権擁護と権利向上」を目的としたネットワーク作りを呼びかけた。
派遣ユニオンなど派遣労働者の労組もすでにあるが、当事者が集まり会を結成するのはおそらく初めてのこと。声なき声≠ナいることを拒否する労働者たちが、「私たちの声を聞け」と立ち上がった。
会を作るきっかけとなったのは、日本労働弁護団や非正規労働者の権利実現全国会議などが取りくんだ派遣法改悪反対行動への参加。両団体が電話相談やネットアンケートで派遣労働者の実態を聞き、派遣労働者たちの生の声を中心に反対運動を展開した。
これまで当事者が表立って実態を訴える運動が少なかったこともあり、運動は大きな反響を呼んだ。改悪案の衆院通過は阻止できなかったが、当事者が交流し発言することの重要性が浮かび、弁護士や派遣当事者同士が呼びかけ会結成へ向けた準備会が開かれた。
女性ユニオンにも加入している女性は「派遣当事者として10年近く発言を続けてきたが、その声は届かなかった。仲間が集まり声を上げることが重要だ」と会の結成を歓迎した。
50代の女性は「危機的な状況だが、危機(ピンチ)は好機(チャンス)でもある。みんなで声を上げ、労働法改悪ドミノをここで食い止めたい」と力を込めた。40代の女性は「私はこれまで傍観者だった。だが、ひどいことがやられるのになぜ当事者が声を上げないのかと思い今回初めて声を上げた」と参加の動機を語った。
活動を支援してきた棗一郎弁護士は「今回、当事者の切実な声を聞き、私たちも当事者の声を聞く努力が欠けていたと実感した。厚労省の役人が『初めて実態を聞いた』と言っていてあきれたが、これが現実だ。みんなの声を届けよう」と話している。
フォーラムでは、連絡を取り合うことや学習会の企画、国会へのロビー活動に取りくむことなどが確認された。
東海林 智(team rodojoho )
◎府労委、AETの“解雇”で審理開始 豪トゥーンバ市当局とスカイプ団交も
オーストラリア・トゥーンバ市は、高槻市との姉妹都市協定に基づき20年来、英語講師【AET (Assis-tant English Teacher)】を派遣し、小学校で就労させてきた。だが、労基法や社会保険などの適用はなく、高槻市教委幹部所有の危険かつ暴利の住宅に入居を強制された。耐えかねた7名の講師が転居したところ、両市は「派遣制度の停止―全AETの契約解除」を強行し、全小学校が大混乱し、新聞・テレビでも、批判の的となった。
高槻市はゼネラルユニオンとの団交で「派遣であるが、派遣法は関係ない。労働者性もなく、国際ボランティアだ。雇用契約書は間違って作成した」と言い始めた。しかし、労組の「加入確認請求」を受けた職安・労基は、市の主張を退け、各保険加入手続きを職権で完了した。
市は混乱を恐れ、「組合員の卒業式出席拒否」を強行したが、市議会でその理由を「抗議ビラ全戸配布・市役所前の労組集会・府労委申立・マスコミ報道」と、列挙してしまい、ゼネラルユニオンは、市議会議事録を書証として、府労委への追加申し立ても行なった。
15春闘時、両市を、不当解雇などの不当労働行為で、大阪府労委に申し立てていた事件は、海外の自治体であるトゥーンバ市を被申立人にしていたため、府労委も慎重な検討を続けていたが、7月になって、オーストラリアの同市宛の送達−喚問を決定し通知した。
一方、トゥーンバ市は「府労委喚問には異議。ゼネラルユニオンからの団交要求は受諾する。でも日本行き費用を税金で出すのは困難なので、テレビ電話にて応諾したい」との回答書を送付してきた。
来る8月28日、前代未聞の「海外市長室と労組事務所をスカイプでつなぐ国際団交」が決定し、注目されている。
山原 克二(ゼネラルユニオン)
◎企画業務型裁量労働拡大は危険! 労弁が過労死予備群ホットライン
日本労働弁護団は、7月20日、「営業職・管理職500万人」過労死予備群ホットラインを実施した。
相談件数は、全部で43件、うち男性29名、女性14名であった。特徴的だったのは、本人28名、家族15名と家族からの相談が多かったことである。
労基法改悪の拡大対象である「提案型営業」に従事している労働者からの相談もあった(2名)。業務量・業務内容の裁量はなく、月間80〜100時間、あるいは月間180時間のすさまじい長時間残業を行っていた。
成果業績をあげる労働者に対しては、ますます業務が集中する傾向がある。いずれも病気を発症しており(うつ病、不整脈)、業務上災害の可能性が高い。業務量を減らして欲しいと訴えたところ解雇された者もおり、本人同意要件が歯止めとなるとは考え難い。労働組合が十分に経営側に対抗できていないとも指摘している。
事業場外みなし(3名)や専門業務型裁量労働(1名)の悪用により、長時間労働に対する抑制が働いていない事例もあった。
管理職については、多くの者が(13名)「名ばかり管理監督者」として、無限定な時間外労働に従事していた。この中には月間200時間の残業をし、うつ病を発症し、これまで3度、休職と復職とを繰り返している。
家族からは、健康が心配だ、家族との会話が持てない等の深刻な声が寄せられた。「朝5〜6時から日付が変わるまで働いている。寝るためだけに家に帰ってくる。同居しているが父とは声を交わさない。父とは会話がない。休みは月に1〜2日しかない」(息子からの相談)等々。
このような状況下で時間規制の緩和をすれば、本人やその家族にますます深刻な事態をもたらすと考えられる。
企画業務型裁量労働の拡大はきわめて危険である。
菅 俊治(日本労働弁護団事務局長)
日日刻刻 要介護要支援608万人 (7.8〜28)