首切り自由に向けた“PIP”という名のアリ地獄
「新型解雇をうちやぶれ!PIPという名のアリ地獄−新型リストラ手法を徹底究明」という集会案内を見て、PIPと言えばエレキバン程度しか連想できない私は集会に参加してそのPIPなるものの正体を知り、愕然とした。
11月16日の夜に開催されたこの集会は、新聞労連(日本新聞労働組合連合)とJMIU(全日本金属情報機器労組)が主催したもので、リーマンショック以降、日本の外資系企業で大流行しているのがPIPであり、実際にその攻撃を体験した2名の組合員の報告をベースにしながら警告と対策を共有し合う場となった。
PIPとは「Performance Improvement PLan」の略称で、日本語に訳すと「成績改善計画」。
建前上は成績不振の社員に課題を与えて能力を向上させる制度ということのようだが、本音は社員をリストラする手段として用いられているようだ。
その手法は、会社が辞めさせたい社員(病人、組合役員など)を対象に、あたかも本人の能力向上を装いながらその実、達成不可能な課題を業務命令として押しつけ、できない(能力がない)のだからと社員証を取り上げ強引に退職を強要する。「まるでアリ地獄のようだ」、報告者はこう表現した。
こうした新型リストラの背景には、制度変更による「解雇自由」が社会的に認知されない状況下で、解雇権乱用法理の客観的に合理的な理由の@にあたる、「労働者の労務提供の不能や労働能力または的確性の欠如・喪失」を悪用したものと、白井教授(青山学院大学)と今泉弁護士(東京法律事務所)が指摘した。
また、対策としては執拗な退職強要が労働者の人格権の侵害に当たる場合や、業務命令権の有効性などとして争う為にも証拠化の必要性が強調されたが、何よりもきちんとした労働組合に加入して団結して闘うことが一番と確認し合った。
……岩崎 松男(本誌副編集長)
東横インでの性的暴行事件で団交申し入れ
大手ビジネスホテルチェーン「東横イン」(本社・東京都大田区)の女性フロント従業員が宿泊客の男性から性的暴行を受ける事件が発生したことを受けて、女性が事件後に加入した全国一般東京東部労組は11月8日、東横インの澤田宗久社長に対して団体交渉を申し入れた。
団交申入書を郵送した後、被害女性と母親、東部労組スタッフらはただちに厚生労働省で記者会見を開いた。事件は会社による防犯体制の不備など安全配慮義務を怠った結果招いたものである。組合と被害女性は今後、謝罪や損害賠償、再発防止策などを会社に求めていく。
被害にあったのは今年4月に入社した20代前半の女性。愛知県内のホテルにフロント業として配属されていた。事件があったのは今年9月14日未明。女性従業員は男性宿泊客から派遣型風俗業者とのトラブルに絡んで客室に呼びつけられた。そこで「あなたも東横インも訴える」などと脅迫されたうえ、着衣のボタンをはずされたり下半身を触られたりするなどの性的暴行を受けた。10月10日、女性は所轄の警察署に被害届を出し受理された。事件後、女性は神経症・不眠症で休職している
東横インのフロント従業員は25時間勤務で、多くの店舗では深夜も女性1人の勤務態勢だ。仮眠室やベッドはなく、仮眠や休憩も十分に取れない。深夜でも入口の自動ドアは手で開けることができる。宿泊客に対応するために事務所も施錠できない。24時間対応の従業員向け相談窓口もない。防犯ベルの貸与等もなかった。
厚生労働省では「深夜業に従事する女性労働者の就業環境等の整備に関する指針」を告示し、防犯上の観点から深夜業に従事する女性労働者が1人で作業をすることを避けるなどの安全確保を求めている。また、今年6月には従業員らで東横イン労働組合が結成され、少人数勤務をなくすよう会社は要求されていた。
記者会見で被害女性は「自分が我慢すればいいのかとも思った。しかし、自分が声を上げることで第二、第三の被害者を防ぎ、女性が安全に働ける環境づくりの意識を東横インに持ってもらいたいと思って勇気を出した」と話した。女性の母親は「25時間連続勤務という人間らしくない働き方、深夜に女性1人で働かせるという安全配慮の欠如が娘の事件を招いた」と怒りを表した。
……須田 光照(全国一般東京東部労組書記長)