977号
宮古新報労組 > 「会社清算」に抗し新聞を自主発行
1月10日、突然の解雇を告げられた。年末には「新聞事業は永久に継続する」という社長声明が出ていたのに――。こんなこと、許せるわけがない。
沖縄県・宮古島市にある宮古新報社は1968年の創刊。解雇を宣告した座喜味弘二社長が立ち上げた新聞社であり、一時は宮古島で最大発行部数を誇った地方紙だ。
半世紀以上続く新聞社の中で起こった突然の解雇通告だった。会社も清算するという。
きっかけは30年以上勤めてきた編集長の退社だった。座喜味社長とぶつかり、半ば解雇されるような形で社を去った。これを機に、従業員が奮起した。
社員が怒ったのは、それだけではない。社長による長年にわたるパワハラ、セクハラに強い不満を募らせていた。特にセクハラの数々は、ここでは言い表せないほどひどいものだった。
「これ以上は社長の下で働けない」。怒りの形は労組に結集することだった。それまで4人だった組合にほぼ全員が加入。17人の労働組合の要求として、社長退任を求めた。
座喜味社長は逆上し、全社員を解雇するという報復に出た。
2018年の単年度決算で赤字が出たからだというが、前期までは黒字経営の会社だ。根っこにパワハラやセクハラを告発した労働組合敵視の考えがあることは明らかだった。
労働組合は、こんな理不尽な解雇を認めなかった。解雇通告を受けても10人が会社に出勤し、取材して記事を書き、クライアントを回って広告を取った。そうして集めた素材で紙面を作り、印刷をして、配達を続けている。誰一人として、まったく諦めていない。
「あすの新聞はあるのか」という市民やクライアントからの問い合わせ、折り込みチラシなど取引業者からの電話や応援メッセージへの返答、島内外からひっきりなしに入る取材依頼などもしかり。日常業務の全部を残った組合員だけで対応している。
今まで体験したことのないような忙しい毎日なのに、誰も休めない。1人でも欠けると新聞が発行できないから。身も心もぽろぽろだけど、深夜まで新聞制作に没頭し、眠るだけの家に帰って夜が明けるとまた会社に戻ってくる。
賃金はない。出口も見えないのに黙々と新聞をつくる日々。新聞人としての意地、使命が彼らをそうさせているのだろうか。
昼食を取る時間だってない。入社間もない女性記者は、車中で食べかけのサンドイッチを持ったまま眠りに落ちていた。「大丈夫か?」の問いかけに、「うん」と答える声のトーンがどんどん小さくなっていく。本当にぎりぎりのところで闘っている。見ていて、苦しくなる。
だが、宮古新報労組の志は、労働組合という枠を飛び越え、広く市民の間で共感を得ている。皆が新聞発行の継続を渇望している。反響の大きさから、地元2紙による多角的な視点の報道を切望していると感じざるを得ない。
宮古新報労組の闘いは、斜陽産業と言われる「新聞」の行く末を占うものだ。マスメディアに働く者すべてに、ジャーナリズムの原点を問うている。
どうかこの闘いに注目してほしい。そして、できる範囲での支援と協力を、心の底からお願いしたい。
山下 誠(宮古毎日労組書記長)
ヒゲ裁判 > 維新の横暴また断罪 背景に異様な評価制度
1月16日、ヒゲを剃らなかったことを理由に、不当に低い人事評価を受けたとして、大阪市営地下鉄(当時)の運転士2人が、市に対して慰謝料などの賠償を求めた訴訟において、大阪地裁(内藤裕之裁判長)は計44万円の支払いを命じた。
事件の発端は、橋下徹前大阪市長が市交通局の民営化をめざして2012年4月1日、大阪市の地下鉄・バス事業を運営する交通局長に、京福電気鉄道(京都市)の藤本昌信副社長を任期4年で就任させたことに遡る(藤本氏は、業者との不適切な契約が問題となり、16年に再任されることはなかった)。
2012年には橋下徹前大阪市長が主導して、市職員に対して服務規律を強化するととも
に、5%の職員が必ず5段階の最下位とされる相対評価制度が導入され、最下位が2年連続の場合は「分限処分」を前提とする「職員基本条例」が制定された。
そして同年に藤本交通局長(当時)は、ヒゲを剃ることを求め、女性のノー・メイクも認めない、「職員の身だしなみ基準」の制定を押し進めた。
しかし、大阪弁護士会や法務局に人権侵害の救済申し立てをして認められてきた2人はヒゲを剃らなかったため、そのことを理由に13年度及び14年度の人事で、低評価を受けた。
14年度に原告の内1人は、「分限免職」もあり得る対象になった。
16年3月に本件訴訟を提訴したが、判決では人事考課での不利益認定が認められた。労働者の側の完全な勝利だ。
判決後、吉村洋文大阪市長と橋下徹前大阪市長は、事実にもとづかない論理を展開して控訴を主張しているが、私たちは原告とともに大阪市に対して、非を認めて判決に従い、控訴しないことを要求している。
そして、相対評価制度の廃止と「職員基本条例」の見直しを求めていく。
松尾 暢浩(なかまユニオン・大阪市職員支部)
IT業界 > 多重請負の下の無法 労委申し立てで闘う
博多駅近くの、ITF合同会社でシステムエンジニアとして勤務してきたAさんは、2016年の入社以来、西部ガスやゼンリンの仕事を行ってきた。
昨年4月からは、シスメックスCNA社で医療システムの仕事をすることとなった。CNAには、ITFから7名の社員がチームとして入っており、その一員として迎えられた。
6月、会社から提案された「みなし残業を含めた賃金制度」を拒否したところ、社長から賞与の不支給や脅迫めいた言葉を言われ、組合で交渉することとなった。
Aさんの問題を取り組む中で明らかになったのは、IT業界の多重下請け構造だ。
Aさんは、CNAの現場に行くまで何ヵ所かの現場で働いたが、いずれも4次、5次といった下請けであり、また自社であるITFは派遣の資格を持っていないため、「偽装請負」の状態に置かれていた。
最先端の技術が必要とされる業界ですが、そこでの労働者の働き方は、極めて前近代的なものだった。その歪な構造ゆえに、長時間勤務や賃金未払い、サービス残業等の矛盾が労働者に押し付けられ、末端に行けば行くほど劣悪な労働条件に置かれている。また、そのような中で起業した経営者たちは、そのような構造が当たり前のような感覚になっている。
会社は、団交が継続しているにもかかわらず、9月末でAさんをCNAのチームから外し自宅待機を命じた。また、夏期賞与も80%の大幅カットとなった。
これらの攻撃に対し組合は、業務からの排除と夏季賞与の大幅減額について不当労働行為であるとして、労働委員会へ救済の申立てを行った。
Aさんは、3ヵ月の自宅待機後、1月7日から、新たな勤務先であるD社で勤務を再開し
た。しかし会社は、これまでの差別と排除について謝罪する気はまったくなく、開き直った姿勢を続けているため、労働委員会での係争は継続している。
会社に、不当な扱いに対する謝罪と補償をさせ、まともな労働条件を勝ち取るため、勝利をめざして闘う。
末永 弘美(ユニオン北九州)
福島原発 > 長時間労働で過労死 会見拒否の東電に抗議
遺族が昨年10月に労災認定をかちとったあと、全国一般全国協といわき自由労組は連名で、故猪狩忠昭さんを酷使し続けた雇用者いわきオールに団交の申し入れを行った。
また、廃炉現場の安全衛生管理体制に第一義的な責任を負う東京電力と忠昭さんを偽装請負の下で働かせていた元請け宇徳に会見を申し入れた。
東電は、「会見を辞退する」と言って、拒否を通知してきた。
東電の言い分を列挙すると、
(1)東電は廃炉工事の発注者の立場だから、請負会社の労働時間に対し見解を述べる立場にない。
(2)労災認定があったと聞いているが、東電は猪狩さんの雇用者でもなく調査を受けたわけでもないので労災認定を論評する立場にない。
(3)忠昭さんの死亡当日記者会見で行った(労災・過労死ではないという)発言は、宇徳等の関係者等から聞いたものだ。
(4)労災認定は記者会見の(8ヵ月)後のことだ。
――というものである。
要するに東電は「忠昭さんの過労死に関係ない立場なので遺族と組合の会見要求に応じる必要がないし、他から聞いたことを言っただけだと」と言うのであろう。
しかし遺族と組合は東電に対し見解や論評を求めたのではなく会見を求めたのだ。この労災隠しの記者会見は東電が設定したものであり、伝聞だから免責されるということではない。
さらに、記者会見の後から労災認定の事実を知ったのであれば、訂正して遺族に謝罪するのが筋だろう。
一方宇徳も文書で、「偽装請負に当たらない。適法な就業である」と釈明するのみで会見に応じようとしない。
しかし雇用者いわきオールの管理者・指揮者が整備工場に赴いていなかったこと、労働時間管理を宇徳がしていたこと、忠昭さんは宇徳が用立てした機器・工具・自動車部品・材料を用いて自動車整備をしていたことなど、あらゆる角度から見て宇徳も使用者の位置にあり、いわきオールと同様労災責任を免れることはできない。
組合は昨年12月25日、東電と宇徳に直接出向き抗議するとともに、遺族との会見に応じるよう強く申し入れた。
私たちは忠昭さんの無念を晴らすために、福島原発でこれ以上犠牲者を出させないために遺族とともに闘い抜く。
星野 憲太郎(東北全労協幹事)
山陽新聞 > 中労委が不当命令 2月8日に支援集会
「労使で協議し合意したとしても正式な団体交渉ではないなら、その内容を基にした組合の主張は認められない。会社は発言に責任を持たなくてよい」
中央労働委員会がこんな命令を出した。岡山県の地元紙、山陽新聞労働組合が申し立てた不当労働行為事件の再審査に対する命令である。
山陽労組は2009年、会社から約15%の賃下げと定年延長の提案を受け、第2組合と合同での労使協議を経て合意した。
労使協議の場で会社が「一定程度儲かったら一時金で穴埋めする」と明言したためだった。
だがそれはたちまち反故にされた。山陽新聞は賃下げと人減らしによって高い利益を上げ、山陽労組は一時金交渉のたびに労使協議での約束を履行するように求めているが、会社は「そんなことは言っていない」と言い張って応じようとしない。会社側が開示した議事録にも記録があるにもかかわらず、だ。
中労委は「労使協議は団交とは形式も内容も違う」という会社の主張を追認した。
山陽新聞には山陽労組と会社が作らせた第2組合がある。会社は1960年代から一貫して山陽労組への攻撃を続け、山陽労組は奮闘しているが組合員3人になっている。
会社が山陽労組のまっとうな
主張を聞こうともしないのは、それ自体が不当な組合攻撃である。中労委は現場の事情を踏まえない判断で、極めて罪深い。
山陽労組と会社の労使協定では、スト権を行使するためには県労委にあっせんを申し立て不調に終わることが条件となっている。
山陽労組は2011年にスト権を確立しあっせんを申し立てたが会社はあっせんを拒否したため組合はスト権を行使できず、不当労働行為として救済を申し立てていた。
しかし中労委は、会社側があっせんに応じることまで義務づけたわけではない、組合の訴えを退けた。どこまでも会社の都合を優先した不当な決定である。
労働委員会の設置を規定する労働組合法には「中央労働委員会は労働者の団結を擁護し、労使関係の公正な調整を図ることを任務とする」と書かれている。
担当の委員は読んだことがあるのだろうか。
山陽労組を支援する集会「これでいいの?山陽新聞」が2月8日午後6時半から、岡山市の岡山市勤労福祉センターで開かれる。「加計問題」で安倍内閣によって「行政が歪められた」と告発した元文部科学次官の前川喜平さんが講演する。無料。
岡山県に本部がある加計学園についての山陽新聞の報道は「腰が引けている」と指摘されている。山陽新聞の経営と学園幹部の結びつきが背景にあるともされ「強いもの」に遠慮がちな報道姿勢と、少数組合には遠慮なく嫌がらせを続ける姿勢には、通底するものがあるといっていいだろう。
日比野 敏陽(team rodojoho)