たたかいの現場から

913号

◎解雇規制緩和“先取り” ブルームバーグを司法が断罪

  解雇撤回裁判で勝訴した労働者を復職させず、会社側が再び解雇するというブルームバーグ通信社との第二次解雇裁判で、5月28日、労働者側が勝訴した。


 この裁判は、会社が53歳の男性記者に対して業績改善プラン(PIP)を実行した末に、能力不足だとして解雇したことからはじまった。

 解雇撤回裁判は、一審、二審と労働者側が勝訴。記者は復職するはずだったが、会社が原職ではなく給料が半減する倉庫業務への復職を提案してきたため、記者職以外で勤務する意思はないことを伝えた。会社はこれを「業務命令拒否」として、二審判決前に記者を再び解雇した。そのあと、労働者との雇用関係は存在しないとして「雇用関係不存在」の確認を求める裁判を東京地裁に提訴。労働者が2度解雇され、被告として訴えられる異例の裁判となった。


 判決後の記者会見で、労働側の今泉善竜弁護士は「私の知る限り前代未聞の裁判。悪質で一般的に見れば不当」だと話した。また、会社側の岡田和樹弁護士は、産業競争力会議で解雇の金銭解決制度を推進する意見を述べていると指摘。
 違法に解雇しておきながら金銭で解決しようとする手法で、今までの労働法から見るとありえないと、今泉弁護士は批判する。


 4年以上にわたる裁判闘争を終えた当該の男性は、入社数年の若い労働者と違い、中高年代で退職すると再就職が難しく、生活は破綻すると述べた。
 「会社側がむりやり考え出した裁判だった。日本の労働法制度では簡単に解雇できないことを知ってもらい、謝罪して仕事に戻してほしい」と復職への強い意思を語った。


 PIPを発端に、能力不足を口実として労働者を解雇する手法は外資系企業で多く見られるが、そのほとんどが解雇権濫用法理に違反している。それを追認するための法改悪ではなく、今の労働市場に求められているのはさらなる規制強化だ、と当該男性記者が加入する新聞労連は声明で訴えている。


松元 千枝(新聞通信合同ユニオン委員長)

 

 

◎「派遣法改悪で『みなし』骨抜き」採決許さぬ 日弁連集会でエール

 国会審議中の派遣法改悪案が成立すると、「直接雇用申込みみなし制度」で救済される派遣労働者が大きく減る――。6月4日、日弁連が国会内で開いた集会で、日弁連貧困問題対策本部の塩見卓也弁護士が明らかにした。


 派遣法の2012年改正で導入され10月1日から施行される「雇用みなし制度」は違法派遣や偽装請負で人を働かせた派遣先が、違法をした時点で労働者に直接雇用を申し込んだとみなすことで、違法に使われた労働者を救済するしくみだ。
 塩見弁護士が派遣・請負に関する最近の裁判例を分析したところ、敗訴した21例のうち14例(3分の2)で「みなし」が適用されるが、審議中の改悪案が成立すると、救済は10例に減り50%を割る。

 塩見弁護士は「いつまでも派遣が使えるようになれば、勝てる事案はさらに減るだろう」。今回の改悪案が、10月実施を前に、これを無効にするためのものであることが、改めて浮き彫りになった。


 集会では、「労働者の声を社会的な力に」と呼びかけた西谷敏・大阪市立大学名誉教授の基調報告と当事者3人の訴えを受け、野党議員や労働団体が次々発言。
 年金記録漏洩(ろうえい)問題を追及中の国会から駆けつけた西村智奈美衆議院議員(民主)は「野党力を合わせ、派遣、労働時間、解雇金銭解決という悪の3点セットを止める」。連合 の伊藤 彰久雇用法制対策局長、全労連の井上久事務局長、全労協の中岡基昭事務局長が悪法を止める決意を語った。

 

北 健一(team rodojoho )

 

◎幅広い活動で法に実効性を過労死防止学会が設立大会

 過労死等防止対策推進法(過労死防止法)制定の中心的役割を担った、過労死家族の会や過労死弁護団、研究者などが5月23日、東京都内で「過労死防止学会」を設立、記念大会を開いた。大会は主催者の予想を大きく上回る160人が参加した。会場には「過労死防止法を実効あるものに」との熱意があふれた。


 過労死防止法は、過労死はあってはならないとし、国の責任で過労死の実態を調査し、対策を進めることになっている。学会は、民間の立場から過労死の調査・研究に取り組み効果的な対策を提言することを目指している。


 大会の討論では、ノース・スコット大阪大教授が、政府が導入を進めようとしているホワイトカラー・エグゼンプション(残業代ゼロ制度)を米国の例をあげながら「不純な働かせ方。労働者の自由な時間を奪い、過労死の拡大につながる」と批判した。

 また西谷敏・大阪市大名誉教授は「防止法には、過労死防止でもっとも大切な労働時間規制への言及がない」と問題点を指摘。その上で「法律の不十分さをいかに埋めるかが重要だ」と学会の活動への期待を表明した。
 また、講演した熊沢誠・甲南大名誉教授)は、過労死が相次ぐ背景の一つが「労働組合の力の弱まり」だとし、「防止法をいかすも形骸化させるも結局は労働者」と話した。労組も含めた働く側の自立した取り組みの重要性を強調した。


 過労死防止法は、現行制度を前提とし、新たな法的措置を伴う提案はしない立て付けになっている。そのため、法が義務づけた同法の大綱に、長時間労働防止に実効性があると期待された労働時間の絶対上限規制や勤務間のインターバル規制は盛り込まれなかった。そうした部分を運動で補うためにも、同学会の活動が注目されそうだ。

 

東海林 智(team rodojoho)

 

 

日日刻刻  「建設労働、人手不足 (5.13〜26)」

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